八、司る者
太陽が東の山から顔を出し始めた。
ふあぁ〜ん
ハヤテは大きな欠伸をした。
昨日は一睡もできなかった。
先程までずっとベンジャミンさんと話をしていた、というわけではない。
ベンジャミンさんとの話は十分ほどで終わった。
では、なぜ眠れなかったのか。
その理由は単純だ。
昨日、ベンジャミンさんと話をした後、焚き火をしていた場所に戻ったのだが、もう既に水無瀬さんは寝ていた。
起こさないように、静かに木の枝とかを踏まないように、と気をつけながら焚き火の近くに移動したのだが、そこでハヤテは気づいてしまったのだ。
意中の人と一晩同じ屋根の下(屋根はありません)で自分が寝ようとしていることに……
だから眠れなかった。一睡も……
もちろん、ベンジャミンさんは熟睡していた。
今から眠るわけにはいかないため、木の枝で地面にラクガキをして時間を潰す。
日が昇ってから一時間ほどだろうか。
二人が起き始めた。
水無瀬さんの寝起きが可愛かったというのは………言わなくてもわかるだろう。
朝御飯は昨日の夜と同じで、ベンジャミンさんが用意してくれた。
朝御飯を食べたら、ベンジャミンさんの後をついて歩く。なんでも、近くの都市まで三日はかかるらしい。
「日没までに、しっかりと考えておけよ。」
出発前にベンジャミンさんにそう言われた。
「はい。わかっています。」
歩きながら、考えなければならない。
昨日の話を踏まえて……
世界のこと。
自分のこと。
そして、これからのことを……
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雲一つない快晴のなか、広い草原に一人の頭に角を生やした爽やかイケメンが突然現れた。
「すみません、遅れました。」
そう言いながら、爽やかイケメンは椅子に座る。すると対面に座っている水色の髪をした男が答える。
「大丈夫だ。」
爽やかイケメンの前にはテーブルがあり、その上には二組の紅茶とショートケーキが置いてある。
いわゆるお茶会だ。見た目だけだが……
「これが来月分の指示書です。」
爽やかイケメンが、対面の男に書類を渡す。
「ご苦労さん。」
「いつから自分は配達員になったんですかね。」
爽やかイケメンが愚痴る。
「まあ、お前の能力は配達に向いているからな。仕方ないよ。」
「あ、そういえば、ベンジャミンが隠居するみたいです。」
「ベンジャミン?嘘だろ……あいつはまだまだ現役だって……」
水色の髪の男が少し焦って言う。
「なんでも、剣聖候補がいたとか……」
爽やかイケメンが少し申し訳無さそうに言う。
「そうか……餞別としてこれを渡しておいてくれ。」
そう言うと、水色の髪の男は何かが入っている黒い袋を爽やかイケメンに渡す。
爽やかイケメンは黒い袋を受け取ると、立ち上がり、別れの挨拶をする。
「ではまた、一ヶ月後にここで会いましょう、死神さん。」
水色の髪の男ーーー死神は少し顔を顰める。だが、そのことを気にせずに、爽やかイケメンは一瞬で消えた。
次の投稿は今日の夜十時ぐらいです(たぶん)