七、ミナセ
水無瀬日和……
頭が良く、スポーツもそつなくこなす。
手先が器用でおとなしい性格。
残念なことに、同じクラスなったことはないが、陰キャのハヤテにまで噂が広がるぐらいに学校では人気だ。
今、思えば一目惚れだったのだろう。
中学校の入学式の日、目を奪われた。
おそらく、その後の周りの態度から考えると、目を奪われたのは自分だけではないのだろう。
そのぐらい、美しかった。
数少ない友達から話しを聞いたり、実際に見たりしていくうちに、自分が恋に落ちたということを理解した。
腰まで伸ばしている黒い髪、いつも輝いているように見える黒い目。
ずっと見ていても飽きなかった。
それがなぜかアップグレードされている。
少女ーーー水無瀬日和の髪は絹のように白くなっており、光沢が眩しい。
ベンジャミンさんと来たときからフードを被っていたから、しっかりと顔を見ていなかったが、染み一つない奇麗な肌はより一層白くなっている。
ベンジャミンさんの方を向いていたエメラルド色の目がこちらを見る。
「何か顔に付いていますか?」
「いえ!何もついていないです。ただ、その、顔立ちはそのままなのに、髪の色も、目の色も、身長ですら俺の知る水無瀬さんと違くて……」
髪は染めたのだろうか?カラーコンタクトを付ければ目の色は変わる。
でも、中学生が六歳ぐらいまで若返るなんて、聞いたことがない。
「それはですね……」
曰く、目が覚めたらこの姿だったのだとか。
曰く、俺と同じように実験体として牢屋とオーパーツ部屋を行き来していたのだとか。
曰く、ベンジャミンさんに助けてもらったのだとか。
クッ!
天は二物を与えないんじゃないのか?
なんで美人はさらに美しくなって、
ブ男はブ男のままなんだよ!
いつか、この完璧少女の隣に立てる日が来るのだろうか……
「そろそろ寝ませんか?」
水無瀬さんがそう言う。
嫌だ、嫌だ!まだ水無瀬たんとお喋りしたい!だって声もかわいいだもん!
だが、世界はいつだって理不尽だ。
「そうだな。そろそろ寝よう。」
ベンジャミンが同意する。
『さん』付けはって?
付けねーよ!
「でも、寝る前にハヤテはこっち来い。ちょと話がある。」
なぜか俺だけと、別の場所で話をしたいらしい。
ヤバい、もしかして心の声が聞こえてた?
殴り合……ではなくて、話し合いになったらたぶん負ける。素直に謝ろう。
心の中で密かに決心して、ハヤテはベンジャミンさんの後を追うのだった。