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資金力を活かして魔王を倒す③

 カーミアは単独で魔王の部屋に直接繋がっている鉄格子のもとに向かった。彼女には鞄を一つ持たせている。中にはこっそり妖精のアノを忍ばせた。


 アノの特殊能力。「リモートテレパス」により少し離れていても会話内容等を聞くことができる。要は受信専用の電話のようなものだ。


 アノは『危険なことやらせんじゃねー!』と上位妖精とは思えないほどの口の悪さで罵ってきたが、報酬としてこっそり宝玉を横流しすることを伝えるとなにも言わなくなった。


「まったく、か弱いボクにこんな危険なミッションなんてケータくんも酷いよなぁ」


 一方、カーミアの方はぼそぼぞと愚痴を言いつつも、鉄格子にたどり着いていた。


「あのー、こんちわー! 誰かいますかぁ?」


 カーミアが鉄格子の内側に向かって声をかけると、


「ダレダ?」


 とくぐもったような声が聞こえてきた。

 短い単語なのにたどたどしい感じ。

 なんとかコミュニケーションは取れるものの、上級魔物のセレスと比べると若干脳みそのスペックは低いみたいだ。


「ボ……ワタシの名前はカーミアだよ! よろしくお願いしまーす!」


「ナンノヨウジダ?」


「うふふ、魔王様の夜伽の相手にきましたぁ」


「マオウサマ、ヤクソクシテルカ?」


「と、飛び入り参加ですぅー!」


 猫撫で声のカーミア。ノースリーブのシャツに、スカートの丈はさらに短くして褐色の生脚が見える、露出の激しい格好だ。


「ムネ……ナイ!」


「なんだよ! 失礼な魔物だね!」


「マオウサマ、ムネスキ。ムネナイヤツ。キライ」


「ま、魔王さまも。たまには胸がない娘を嗜みたくなると思いますよ……。胸がない分、豊富なテクニックで魅了します♪」


 口調こそ明るいが、カーミアの声が怒りに震えているのがわかる。なんとか気持ちを抑えて、魔物を説得し、鉄格子を開けて貰いたいものだが……。


「あなたも、ワタシの身体をじーっくりと見てもらえれば分かると思いますよぉ。どうですかぁ?」


 シャツのボタンを一つ二つ外して、鉄格子の内側にいる魔物ににじり寄る。スカートもめくりあげている。確かノーパンだったはずだ。

 おそらく位置的にかなり際どいところが露出しそうな感じになっているだろう。


「タシカメル……モットチカクニ」


「はぁい。どうぞぉ。……ん、あれ。なんかボクも興奮してきちゃったな……」


 そして、離れた俺たちに鉄格子が開いた音が聞こえてきた。どうやら魔物が中からカーミアを招き入れたみたいだ。よしこれで魔王への近道の扉が開いた。あとは彼女からの合図を待って一斉に飛び込むとしよう。


『ガッ! ガガッ!!』


 そのとき、ガサガサという音がしたと思うと、妖精アノを通して聞こえていた声が途切れてしまった。


「おい!? 音が途切れたぞ。どういうことだ?」


「カーミアちゃん。なにかあったの?」


そばで聞いていた、ヴィオラも焦っている。


「ま、魔物に襲われてるかもしれないわ」


 戦闘要員でないカーミアとはいえ、下級魔物にやられることはないと思うが。突然通信が途切れたのは心配だ。ヴィオラとセレスに合図をして、急いで向かうことにした。


「カーミア! 大丈夫か!?」


 鉄格子は開けられたままだった。そのまま中に入ると信じられないものを見てしまった。


「こ……これは!?」


 そこには細かく痙攣しながら大の字になって倒れている、大柄な人型のゴブリンのような魔物がいたのだ。

 恍惚な表情で顔を赤らめている。上半身には多数のキスマークがつけられていて、下半身の近くには下着のようなものが転がっているが、局部には白い布のようなものが被せられていた。


「ち、ちょっと。やだ!」


 ヴィオラはその光景を見ないよう、手で目を覆っていた。しかし若干の興味を隠しきれないのか指の隙間から覗いているようだった。セレスは死んだ目でその光景を見つめている。


「なんだこれ……」


 辺りを見回してみると、なんとアノが隅の方で体育座りをしていたのに気がついた。


「アノ……お前。なにやってんだ? 通信が途中で途切れたようだが。カーミアは?」


『放送事故になりそうだったから、中止したんだよ……』


「ほ、放送事故?」


『カーミア、完全に暴走してるかも……まさかこのきっっったないゴブリンと、いきなり「一戦」交えはじめるなんて!』


「一戦って……セッ◯スのことか?」


『みなまで言うな!』


「そんな指示してないけど……」


 なんだか知らないがカーミアは完全に暴走しているようだった。食欲よりも性欲を優先するというサキュバスの彼女を何日も我慢させてきたのが、ここで爆発してしまったとでもいうのだろうか?


「カーミアはすでに魔王の部屋に向かってしまったようだな……あいつ。なに考えてんだ?」


「色々と受け入れがたいけど……追うしかないわね」


 魔王の部屋へと繋がる道は暗く続いている。俺はその光景を見てゴクリと喉を鳴らした。


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