坂木の罠1
「ありがとう、本当に助かるよ」
「まあ、仕事ですから」
言いながら勇吾は食事を再開する。
「いつも頑張ってくれている勇吾君には、数量限定、激レアユニットをプレゼントしちゃおうかな」
「あ、それは普通に嬉しいですね」
勇吾とてテストバイトに参加するくらいにはゲーム好きだ。限定とかレアとかそんな言葉にはめっぽう弱い。
働き過ぎて心が荒み気味ではあるものの、ゲーム自体は面白い。完成度は高く、ゲームシステムも秀逸、世界観はよく練り込まれ、お気に入りの敵キャラだっている。だからこそ続けられる。本番稼働後も絶対にプレイしようと思うくらいに素晴らしい出来なのだ。
そんなお気に入りのゲームで、レア機体をもらえるというのだから、奮い立たないはずがなかった。
「ちなみに、どんなユニットですか?」
「詳しくは言えないけど、ただ君の負担を減らしてくれるタイプ、とだけ伝えておこうかな」
「支援系……もしくは指揮系? <メタルボア>的な?」
「あんなもんじゃ――おっと、これ以上はおじさんの口からはとてもとても」
「うわ、ずるい! めっちゃ気になるじゃないですか!」
「ふふふ、最終調整があるから引き渡しは明日になるけどいいかな?」
「了解です、待ってます」
「ところでさ、開発の参考にしたいから、アンケート的なことしてもいい?」
「あ、はい、もちろん」
その後、二人で<妖精殺しメビウス>について盛り上がった。坂木は、戦闘ユニットについて気になるらしく、プレイヤー視点から見た各ユニットの使い勝手について詳しく尋ねられた。
年の離れた友人という関係性も手伝って、いつの間にかアンケートというより、ただのゲーム談義になってしまう。
「あと、そうだな……勇吾君ってどんな女の子が好み?」
「それはさすがに、ゲームには全然関係なくないですか」
「重要だよ、ほら、萌えってやつだよ。年頃の男の子を奮い立たせるには、やっぱり可愛い女の子の存在が必要不可欠じゃない? ボーイミーツガールってやつ」
「いちいち単語が古い!」
言いながらも最後は女の子の話で盛り上がった。知らぬ間に色々聞き出されてしまった気がするが、今更、気にしても仕方がない。
勇吾はただただ坂木との会話を楽しむのだった。
*
「レアユニットね……どんな感じかな……」
人とは現金なもので、目の前にニンジンをぶらさげられると頑張ってしまうものらしい。
勇吾は、お気に入りのソファーに寝ころびながら――VRゴーグルとコントローラさえあればどんな姿勢でもゲームプレイが可能なのだ――数あるミッションの中で不人気ナンバーワンを誇る輸送系ミッションをこなしていた。
今回は比較的、小規模で短時間に終わるものを選別しており、一ミッション辺りの拘束時間は二時間ほど。サクサクと終わらせて、次のミッションの部隊編成に入る。
「自動的に部隊を動かしてくれるようなユニットがあると楽なんだけど……」
一人ごちる。<妖精殺しのメビウス>では、十二種類の戦闘ユニットが存在するものの、プレイヤーに代わって部隊を指揮してくれるようなユニットは存在しなかった。
戦闘ユニットはAIが貧弱なので、プレイヤー不在の状態で襲撃を受けると多大な被害を受けてしまう。この辺をどうにかしてくれるとかなり楽になるのだが。
ちなみに、<妖精殺しのメビウス>で登場する各戦闘ユニットにはそれぞれ特徴があり、戦場や作戦によって使い分ける必要があった。
まずは勇吾がもっとも頼りにしているのが、猟犬こと<ヘルハウンド>だ。すらりとした四足歩行の陸戦ユニットで、首部分に5.56ミリ自動小銃を装備している。陸戦ユニットの攻撃力として低めだ。
しかしその分だけ機動力が高く、各種センサーも充実している。集音器や臭気計、サーモカメラまで搭載しており、ゴブリンが使う<隠蔽>に対抗できる数少ないユニットとして活躍してくれるのだ。
購入コストも低めなので数を揃えられ、部隊の耳目となって働いてくれる貴重な偵察ユニットだった。また武装が固定されているためか、射撃適正が高く、狙撃手としての運用も可能となっている。
そんな<ヘルハウンド>を大型化した陸戦ユニットが<ウォータイガー>だ。頭部に三つのライフルをマウントでき、機動力、耐久性共に高い、万能型の戦闘ユニットだ。水中にもぐることも可能という万能戦士である。ユニットコストが高いのと消費電力が大きい――継戦能力が低い――ため、勇吾はあまり使っていない。
逆に打撃面の強化では、<グレイトブル>を使用することが多い。重火器――12.7ミリ重機関銃や40ミリ自動投てき銃――がマウントできるため、面制圧に向いているのだ。火力だけならトップクラスのユニットだが、装甲は薄く、耐久性も低めに設定されている。キャタピラ移動なので機動力も低い、使いどころの難しいユニットといえよう。なお、見た目は小型の戦車みたいで実にカッコいい。
他の陸戦ユニットでは<ヘッジホッグ>が挙げられる。その名の通りハリネズミっぽい見た目のずんぐりとした機体で、短い四つの足でちょこちょこと移動する癒し系ユニットだ。
背中を覆う複合装甲とトゲトゲしい反応装甲――衝撃を受けると爆発してダメージを緩和する――のおかげで、ゴブリンシャーマンが使う魔法攻撃にも余裕で耐えうる耐久性を誇っている。
武装は尻尾部分に括りつけられた5.56ミリ自動小銃一択だが、スライドレールにグレネードランチャーの装着も可能なので攻撃力は中程度といえる。
背中を丸め、転がりながら敵陣地に突っ込み、反応装甲を爆発させる特殊攻撃もある。おかげで瞬間火力はかなり高くなっている。
また戦闘ユニットには空戦・海戦を意図したユニットも存在する。
勇吾がよく使用している空戦ユニットは<オウルナイト>だ。静穏性の高いドローンを改良したもののようで、各種センサーが充実している偵察特化タイプだ。小型機なので銃火器は装備できず、催涙性のある煙幕をばらまいて敵から逃げる。
逆に大型空戦ユニットである<レッドドラゴンフライ>は、まんま小さなプロペラ機である。胴体に5.56ミリ自動小銃が埋め込んであり、銃身だけ頭を出した状態で飛行する。主翼の付け根部分に小型爆弾をセットすることが可能で、爆撃機みたいな使い方も可能である。
渡河など水上での戦闘では<シープゴート>を使う。胴体に水中ライフルを埋め込んだホバータイプのユニットで、高圧電流を放出することが可能。そのため水中の敵には無類の強さを発揮する。また機体の周囲をゴムボートのように膨らんでいるため、他ユニットを乗せて渡河を助けることも可能だった。
支援ユニットも一通りそろっている。
衛生兵代わりの<ヒーラビット>は、耳のないウサギみたいなユニットだ。二本のロボットアームを使って他ユニットを修理してくれるメカニック担当である。ぴょんぴょんと地面を飛び跳ねながら移動するため、機動力こそ高いが隠密行動には向かない。
次に、輸送系ミッションでは大活躍の<ミミックドンキー>も支援ユニットといえるだろう。こちらは四つ足の生えた大きな宝箱と思えばいい。機動力こそ低いが、輸送力が高く、地形踏破性も低い。ボートのような形状をしているため荷物を載せたまま水に浮くことができる。戦闘ユニットを乗せて渡河することも可能だった。
この二体のユニットについては、9ミリパラベラム弾を使用する短機関銃しか装備できない。そのため陸戦ユニットに比べて戦闘能力では大きく劣る存在だった。
また今回の作戦では使わないが、支援ユニットには工兵代わりの<ライノボア>が存在する。分厚い四足歩行のユニットで、機体先端に特殊な回転機構がある。ドリルを付ければ穴が掘れ、ミキサー車のようにセメントをかき混ぜて土木工事に従事させることも可能だ。チェーンソーに付け替えれば草木の伐採もお手の物。使用用途もあってかなり頑丈に作られており、バックアタックを受けた場合には、戦闘ユニットが到着するまでの時間稼ぎとして前面に立たせたりもする。
他にも部隊の兵站を担う<メタルボア>がある。こちらのボアは蛇のほう。縦長の平べったいユニットで、サイドテールからソーラーパネルを開いて電力を作ることができる。この電力を他ユニットに分け与えることで、ユニット当たりの継戦能力を飛躍的に高めることが可能なのだ。
長時間の作戦となりがちな輸送系ミッションでは欠かすことの出来ない存在で、各ユニットから上がる情報を吸い上げる、指揮通信機としての役割も担う。
しかし、全ユニット中もっとも機動力が低く、耐久性もなく、低装甲、武装もなし。このユニットをいかに守り抜くかで作戦の成否が決まるといっても過言ではない。
最後は指揮官専用ユニット<サンジュリー>だ。二足歩行の人型陸戦ユニットで、プレイヤーが専用コントローラを駆使して直接操作する特殊ユニットとなっていた。
戦闘指揮しかできない他ユニットとは異なり、〈サンジェリー〉は姿勢一つ、指一本に至るまで操作可能となっている。どちらかというとロボットゲームに登場すべき機体である。
要するに指揮官ではなく、一兵士として参戦するためのユニットと考えればいいだろう。センサー類から出力、耐久性に至るまで全てが高水準という高性能機だ。使いこなせれば一機で数十匹というゴブリンを圧倒できる最強の戦闘ユニットになり得る存在だった。
「よくよく考えてみたら、坂木さんネーミングセンスなさすぎだろ……」
ユニットの名前に結構な頻度でしょーもないダジャレが入っている。
坂木の圧倒的なセンスに頭を抱えながら、勇吾は部隊編成を終えるのだった。
ユニットについては、都度、特性を書きますんで覚えなくていいです。
子=ハリネズミ系タンク
丑=高火力のやわらか戦車
寅=万能アタッカー
卯=衛生兵
辰=トンボ型の戦闘機
巳=WiFi完備の充電スポット
午=ミミックの足はロバの足
未=もこもこのゴムボート。電気攻撃。
申=憑依型モビルスーツ
酉=夜目の利くドローン
戌=鼻の利くスカウト
亥=ドリル(ロマン)