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ある日の侵略戦争

 勇吾は、偵察部隊の足を止めさせると、深い森の奥、ヘッドマウントディスプレイが表示するコマ割り映像に目を凝らした。

 敵は賢く、そう易々と現在位置を教えてはくれない。


 ただ、ゲーム画面に目を凝らしていると、あるいはノイズキャンセリング付きのVRゴーグルから流れる環境音に耳を澄ませていると、何かが近づいてくるのが分かるから不思議だった。


 なので、集中さえ切らさなければ――来る――その瞬間を捉えられることもある。


#猟犬6、7、8に攻撃を指示。


 瞬間、茂みから三〇匹ほどのゴブリンが飛び出してくる。笹の葉のような長い耳と、抜けるような白い肌、切れ長の瞳を持つ、酷く醜悪な妖精である。右手には山刀マチェットに似た刃物を持ち、左腕には円形の盾を持っている。


 先んじて命令を下されていた猟犬<ヘルハウンド>たち――正確には四足歩行の小型陸戦ユニットである――は、遅滞なく頭部にマウントされた5.56ミリ小銃で迎撃する。


 銃弾がゴブリンのダダダダダダ頭部を破壊するダダダダダッ


 その後、数匹のゴブリンが脱落するも、この程度の犠牲で奴らは諦めたりはしない。


 #猟犬6、7、8に地点A3/DSへの後退を指示


 即座に撤退命令を下す。予想通り、会敵時以降、弾丸はかすりもしない。絡み合う三本の火線はしかしゴブリンたちのけん制程度の効果しかない。


「安定の鬼畜ぷりっだな、畜生!」

 ランダムに放たれる音速の銃弾を、本来は複雑怪奇にして不可避なはずのそれを、ゴブリンたちは易々と回避し、接近してくる。


 普通のゲームなら雑魚扱いのゴブリンだが、勇吾がプレイする<妖精殺しのメビウス>では、大きく異なる。奴らは弓矢と剣を得意とする快足の戦士であり、仲間同士で連携しながら、着実に味方ユニットを追い詰める無慈悲で冷酷なハンターだった。


 唯一、普通のRPGゲームと共通しているのは、ゴブリンは数が多く、集団行動するところくらいだろうか。最低でも一〇匹単位で行動する。平気で一〇〇を超える大軍で襲い掛かってくる。


 あれは雑魚だから許される設定であって、一人一人が高い知性と勇猛さを兼ね備えた立派な戦士だったら最悪である。しかも、ハンドサインとかを駆使して平気で連携してくるので、攻略難易度はいつだってヘルモードだ。


 特に最近ではゴブリンたちが銃火器の特性――射線が銃身の延長線上にあること――を理解したらしく、射線を読むようになってからは本当に当たらない。


 ゴブリンの動きは俊敏そのもの。遮蔽物の多い森の中は奴らが最も得意とするエリア。木々の隙間を縫うように、時に張り出した木の枝に飛び移りながらショートカット。深い森の木々を盾にしながら曲芸じみた移動術を駆使して追跡を続ける。


 ゴブリンが部隊を三つに分けた。こうすると三機しかいない<ヘルハウンド>では対処が出来なくなる。どこかに攻撃を集中すればその間に別チームに接近されてしまう。本当にけん制程度の攻撃しかできないのだ。


 #猟犬6、被弾。戦闘不能。


 単純なおいかけっこでは分が悪い。部隊では一番足の速い猟犬でさえ、五〇メートルの距離を三〇秒でゼロにされてしまう。


#猟犬7、8、地点A2/DRに到着。


 だから、こちらも策を使う。


#猛牛1、2に攻撃を指示。

#猛牛3、4は待機。


 目標地点から近くの茂みに隠していた伏兵<グレイトブル>に攻撃を指示する。

<グレイトブル>は機動力と耐久性を代償に、重火器をマウント可能にした火力特化の陸戦ユニットだ。一号と二号には12.7ミリ重機銃を、三号四号には40ミリ自動てき弾銃――いわゆるグレネードランチャー――を装備させている。


 一号二号によるダララララララララ十字砲火ダララララララララ


 二門で合計一二〇〇発/分という猛烈な銃撃が、ゴブリンたちに襲い掛かる。12.7ミリ弾の威力はすさまじく、レザーアーマーを易々と貫き、頭部や手足を千切り飛ばしていく。


「うぷ、気持ち悪い」

 吹き出す鮮血、飛び出す内臓、吹き飛んだ手足からは骨が覗き、砕けた頭部から大きな目玉がごろりと飛び出す。


 長時間プレイでグロ耐性を作ってきた勇吾だったが、流石にこのグロ映像を見続けるのは辛い。いくらリアルを売りにしているといって、こんなところにまでこだわる必要はないじゃないかと思う。


『ルードッ、ステファン!?』

『くそ、全員、伏せろ! 左右から待ち伏せされている!』

『あああっ、痛ぇ!』

『腕があああぁぁぁ――ッ! ちきしょう、殺してやるっ!』


――ついでに、この翻訳機能も、止めてくれないかなぁ。


 ゴブリンのくせに仲間を思いだとか、恨み言聞かされるとか、本当に何のプレイだろうかと思ってしまう。せめて固定のメッセージなら聞き流せるのに、毎回毎回名前やら台詞やらシチュエーションやらバリエーションが豊か過ぎる。自動生成のはずの悲鳴も真に迫り過ぎていて、毎回モチベーションが削られてしまう。


 先頭を走っていたゴブリン数匹が犠牲になったところで、ゴブリンたちはその場に伏せて銃撃を回避した。そのまま草木に紛れると同時、<隠蔽>を始める。


「だよな、そう来ると思ったよ」

 現代兵器でファンタジー世界を蹂躙しようがテーマの<妖精殺しのメビウス>では、どんな敵でも何らかのスキルや魔法を持っている。ゴブリンの場合、<隠蔽>や<索敵>のようなスカウト系スキルを保持していることが多かった。


 どちらも反則級に厄介なスキルで、<索敵>だと範囲内にいる戦闘ユニットが全て発見されてしまうし、<隠蔽>を使われるとカメラに映らなくなり、敵を捕捉できなくなってしまう。


 #猛牛3、4に地点A2/DR - A4/DTへの攻撃を指示


 もちろん、対抗策はある。勇吾は更に後方に隠しておいた〈グレイトブル〉の三号と四号に攻撃命令を下した。


 マウントされたグレネードランチャーが次々に――分速三〇〇発の速度で――グレネード弾を射出する。


 面制圧。爆撃音が森の中にこだまする。鉄の破片が周囲一帯にばら撒かれる。木々が倒壊し、地面は掘り返され、その中に隠れたゴブリンたちを確実に破壊していく。


 グレネード弾なら銃弾のように正確な照準を必要しない。居そうな場所に手当たり次第に爆弾を打ち込めば確実に倒すことが出来る。<隠蔽>持ちのゴブリン相手には必須装備といえた。


 ゴブリンは強い。射線を読みながら素早く前進し、数の優位で陸戦ユニットを圧倒してくる。見通しが悪く、遮蔽物の多い森の中ではまさに悪夢のような存在といえた。


 まともにやってもまず勝てない。中には〈魔法〉と呼ばれる強力な遠距離範囲攻撃まで行う強個体までいるのだ。正面切っての戦いは分が悪い。


 だからこそ、こちらも工夫する。

 索敵を重視し、いち早く敵位置を把握する。

 罠を仕掛け、策略によって足を止めさせる。

 そこに致命的な一撃を叩きこむ。


 弾切れとなったところで、部隊を待機させる。


 もちろん、警戒は解かない。〈ヘルハウンド〉を近づける。猟犬の名を冠するこのユニットは、高精度のマイクや臭気計、サーモカメラといった複数のセンサーを持っている。高い機動力と索敵能力を持つ偵察ユニットだから、大抵の<隠蔽>を看破することが可能だった。


 猟犬に搭載されたセンサー類を信じるなら、敵影はなし。ちなみにスキルにはレベルがあるようで、必ず見抜けるわけでもないというのが肝である。


 煙が晴れる。

 そこには赤い肉片と化した何か残されていた。

 正確な戦果の数は分からないが、作戦本部にあるコンピュータがカウントしてくれている。作戦終了時に報告を上げてくれるだろう。


 勇吾は大きく息を吐くと、VRゴーグルの画像を三二コマに分割して――それぞれ〈ヘルハウンド〉を始めとする偵察部隊に繋がっている――全方位への警戒を続けていく。


 それから四時間、三度の襲撃を防ぎ切ったところで輸送部隊が前線基地へと到着する。

 勇吾は見事、ミッションをクリアするのだった。



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 #前線を立て直せ

   輸送量120トン

   到着率100%

  戦果

   ゴブリン153匹殺害

   ゴブリンシャーマン5匹殺害

  被害

   猟犬2機大破

   猟犬10機中破

   梟5機大破

   猛牛2機中破


  最終評価 A

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