依頼1
今さらながらとんてもないところに来てしまった。rebirthでは自分の知る常識が、信じる法が通用しないなんて。
(なぜ獅子吼総監は……)
――世界が正しくあるために、君はそこに行かなくてはいけない
これは直属の上官にあたる者の言葉。派遣命令に納得いかない犬飼が、彼の元へと抗議しに出向いた際にそう言われた。
(正しいとは……? この島の在り方を正せということなのだろうか…)
犬飼とて警察官のはしくれ、目の前で行われている犯罪行為を容認するわけにはいかない。ルールを無視しした虎之助や島の住人たちの考えが、正しいとは思わない。
「失礼します」
「はい、どうぞー」
静かな部屋に透き通った声が響いた。もう一度聞たかったその音色に犬飼の意識は浮上する。
「……茶木から聞いた。何か用?」
(あ……昨夜の、)
正直昨日のことは曖昧にしか覚えていない。けれども目の前にいる女性のことは、鮮明に思い出せる。
「あ、あの……!」
犬飼は思わず声をかける。
「昨日は……」
「すまなかった」
「……あ、いえ! こちらこそ!」
謝るつもりが先に言われてしまった。狼子は犬飼を一別すると、父親である虎之助の前に腰を下ろした。
「仕事の依頼だよ。狼子ちゃんには人探しをしてもらいたいんだ」
――犬飼と一緒に
虎之助がそう話した途端、狼子の表情には渋いものが。また突然指名された犬飼は、驚きに満ちていた。
「あの男も……一緒に?」
なぜ…狼子は理由を尋ねる。
「だって犬飼くん警察官でしょ?」
失踪者を探さずして何をするのか、虎之助の答えはもっともらしい。
「それに働かざる者食うべからずだよ。本国みたいな仕事はrebirthにはないだろうから、うちの手伝いをしてもらうよ」
もちろん手伝える範囲で。その線引きは犬飼がすればいい。
「これから先のことは決まってないんでしょ?」
「……はい、正直どうすればいいか、何から手を着けたらいいか分かりません」
分かっているのは、警察官は必要ないということだけ。
「それを探してみるといいよ」
この依頼を終える頃には答えは出ているだろう。
「狼子もそれでいいね?」
「かまわない」
納得はしないけど。彼女の背中がそう語っていた。