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リバース─犯罪者隔離更正施設─  作者: 修多羅 なおみ
第1章 犬と狼
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welcome to rebirth 3

「驚かせちゃったね。彼は猿磨(えんま) 右近(うこん)。僕のお世話兼ボディーガードなんだ」


「よろしく」


 武骨な手が差し出される。


「あ……こちらこそお願いします」


 握った手から伝わってくる力強さと、瞳の奥に残された鋭さは、まだ完全に犬飼を信用していない証拠。


「……大丈夫だよ。右近はボクの命令がない限り、犬飼くんに手は出さないから」


 それは虎之助(あるじ)の機嫌を損ねさせないように気をつけろという警告か。


「まぁ、そういうことになるかな」


――これでもボクは怒ると怖いんだからね


 嘘か本音かあるいはその両方か。いまだ手の内がみえない虎之助に、犬飼はある違和感を覚える。


(そういえば……さっきからこの人……、)


 言葉にしなくても何故か伝わっている。まるで心を読まれているかのように。犬飼は虎之助を見た。


「……気づいちゃった? やっぱり犬飼くんは賢いね~。そう、ボクは心が読めるんだよ」


 それが自分に与えられた能力だから。


「もちろんそれだけじゃないけどね。ま、いろいろあるのさ。雅家(ぼくたち)には」


 口にはしないが虎之助をみれば明らかだった。この話題を深く追究するのは許さない、そんな態度を見せていた。












「犬飼くんは来たばかりだから、rebirth(ここ)について簡単な説明をしておくね」


 懐から一枚の紙を取り出し広げると、大まかに島の図を描いていく。


「ここは四つの区で構成されてて、それとは別に島のここ……丸で囲んだ中央にボクたちは住んでる」


 次に東の位置をペンで指し示した。


「昨夜、犬飼くんが入ってきた正門があったでしょ? そこからビルやホテルが見えたと思うけど、あそこらへんはボクの息のかかった者がたくさんいるから、安全面は心配しなくていいよ」


 それから…と、南区にペンを向けた。


「ここは区の全体が歓楽街になっていて、何十もの遊女屋が集まった遊廓があるんだ」


 遊廓を仕切る楼主の美意識が高いため、そこで働く遊女たちも美女ばかりだそうだ。


「一度遊びに行ってみるといいよ」


「あ、いえ……僕は……」


「あれ? 女の人はダメな方? それなら陰間茶屋もあるから。そっちも負けず劣らずでいい子がそろってるよ」


 異性愛だろうが同性愛だろうが気にする者は誰もいない。


「……なんならボクはどう? 犬飼くん可愛いし」


 色気を含ませた手で、優しく頬を撫でられた。いきなりの展開に目が右往左往する。別に女が駄目なわけではない。ただ恋愛沙汰にめっぽう真面目なだけ。愛するのはただ一人。その女性(ひと)を生涯愛し抜く、現代ではめずらしい生きた化石のような男なのだ。


「あまりからかってやるな」


 返答に迷う犬飼に、右近が助け船を出してくれる。


「困ってる顔が面白くて……つい」


 脱線した話を元に戻し、今度は西区について話しはじめる。


「一言でいうとマフィアの巣窟。群雄割拠で飽きもせず毎日抗争に勤しんでるよ。西区には近寄らないほうがいいね」


 資源が豊富なこの島は、銃器の材料となる鉄はもちろんチタンが採掘できる。西区の主な生業として武器製造と販売は欠かせないのだ。


「最後に北区だけど、ここには色んな人種が混在しててね、漁業と農業で生計を立てて暮らしいるんだ。あと本国ではお目にかかれない半獣も少なからず生活してるよ」


 彼らは争いを望まないが、縄張り意識はどの区よりも強い。平穏を脅かす者には容赦ない。


「地下には穴ぐらといって本国でいうスラム街みたいな場所もある。……rebirth(ここ)には法律なんて存在しない。自分自身がルールであり、何をするにも自己責任。この島の住人になるなら覚えておいてね」


「あの、失礼ですが……雅家(ここ)はどうやって生計を?」


「うちかい? うちは何でも屋みたいなもんさ。要人警護から暗殺まで、裏の仕事はなんでもござれかな」


「暗殺……って」


「ここじゃ普通だよ?」


――異端なのは犬飼(キミ)の方さ


 殺るか殺られるか、その二択しかない。


「それがrebirth、ようこそ……犬飼くん」

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