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リバース─犯罪者隔離更正施設─  作者: 修多羅 なおみ
プロローグ
3/40

はじまりと始まり 2

「オマエタチ、チカラガホシイカ……?」


 明日の支度を終え、寝床へ入ろうとする三兄弟に語りかける声が。揃って辺りを見回す彼らの前に突然、白く輝く光が現れた。


「オマエタチノ『ネガイ』カナエテヤロウ 」


「なんだ、これは――!! ひ、かり……が喋っているぞ!?」


 得たいの知れない白い光。普通は恐怖心を抱くところだが、不思議と彼らに怖いという感情は湧かなかった。ゆらゆらと輝く光。長兄がそれに向かってゆっくりと手を伸ばした。


「おまえ……いや、あなたは何者だ? どうして我らが兄弟の前に現れたのだ?」


「ワタシハ、ナニモノデモナイ。タダ オマエタチノ『ネガイ』ヲ、カナエルタメニキタ」


「我ら兄弟の『願い』を知っているのか?」


「シッテイルトモ。オマエタチハ、チカラガ ホシイノダロウ?」


 何者にも負けない強い力が。そう光が問う。


「そうだ。我らはこの国を救う力が欲しい。この国に住まう全ての民を虐げ、蔑み、哀れみを一切持たぬ王から守り抜く力が……。それをあなたは与えてくれるのか?」


 兄弟には分かっていた。このまま王と戦ってもただ犬死にするということは。それでも何もしないよりはマシだった。たとえ凶弾に倒れようとも後に続く者さえ出てくれば。自分たちが両親の後に続いたように。


「ワタシノチカラヲ、オマエタチニカシテヤル。トテモオオキナ、チカラダ」


 たかが王など簡単に消え去るだろうよ、そう光は囁いた。その言葉に兄弟たちの目が見開く。光が嘘を言っているようには思えなかった。どうすればその力を手に出来るか、今度は兄弟たちが問う。


「カンタンナコトダ。メヲトジテ、ココロデ『ネガエ』」


 その言葉通りに従う。すると目を閉じているにもかかわらず、閃光弾のような目映い光が、瞼の奥を突き抜け通りすぎていった。


「コレデ、オマエタチノ『ネガイ』ハ、カナウダロウ」


 兄弟たちが目を開けると、そこに光の姿はなかった。そして、光の言うとおり力を得た彼らは、王都にて悪を倒し、無事に国と民を救うのだった。


 それからしばらくして兄弟の前に再び光が現れた。一回の村人だった彼らも、今や英雄と囃され贅沢な暮らしを満喫していた。兄弟たちは光が現れたことに大いに喜んだ。あなたのお陰で無事に王を倒すことが出来たと。


「ソウカ。ナラバ モウ チカラハイラナイカ?」


 目的は果たした。 それならばその力は必要ないのでは……、そう兄弟に問う。それを聞いた兄弟たちは焦った。今自分たちがこの地位にいるのは力のおかげ。それを無くせばまた、一回の村人に戻ってしまう。


「も、もう少しだけ、……そう! まだ国は完全には元に戻っていないのだ!」


「ソウカ。ナラバ、チカラハ ソノママニ」


「おぉ……! ありがとう、(とも)よ――!!」


 但し、大いなる力には大いなる代償が。光が囁いた言葉は、歓喜する兄弟たちの耳には届かなかった。

 兄弟たちは気づかなかった。透き通るほど白く輝いていた光に、ほんの少しの黒い渦が混じり初めていたことに。


 そして物語ははじまり、現代へと。




























 分厚い扉の先に見えた景色は、犬飼が想像していたモノとは違った。てっきり殺風景な古びた建物ばかりが並んでいると思っていたが、視界に入ってきたのは近未来的なビルや複合施設、そして高級ホテルがゲートの遥か向こうに立ち並んでいた。


「外はあんなに暗かったのに……」


 まるで違う。きらびやかな灯りが街全体に広がっていた。本国の都市部と変わらないほどに。これが負の遺産と呼ばれた場所なのか、犬飼は、しばしその光景を眺めていた。


「綺麗だろ? 刑務所にしちゃ」


 ふと後ろから声が聞こえた。低く少し掠れた声。気配を全く感じさせず背後を取られたことに驚き、振り向き様に飛び退いた。


「あんた本国からおいでなすったおまわりだろ?」


「……あなたは?」


 犬飼は警戒心を露にしながら男を見た。全身黒のスーツに身をまとった頬に傷がある男を。


「俺の名は茶木。茶木(ちゃき) 鹿尾(しかお)。当主殿の命令で、お嬢と一緒にあんたを迎えにきた」


「お嬢……?」


 それは一体誰のことか尋ねようとした時、犬飼と茶木の間を割くように、ドサリと音を立て空から何かが堕ちてきた。


(ひ……と? い、ま空から――!?)


 うつ伏せに地面へと激突したままピクリとも動かない。犬飼は慌ててそこへ駆け寄る。


「大丈夫か、キミ!? い、いま救急車を……」

「痛ってーな!? このゴリラ女ッ!! 意識が一瞬飛んだじゃねぇかッ!!」

「……とりあえずは大丈夫みたいだね」


 犬飼の心配をよそに、倒れていた男は勢いよくその場から起き上がる。出血で半分が血に染まっている顔をよく見ると、まだ幼さが抜けきれていない少年だった。怒り心頭に空に向かって吠える彼に、犬飼も釣られるように(うえ)を見上げた。


(あれ、なんだろ……? ――獣、か?)


 ヒラリと長い銀色の尻尾が、風に舞ったと思えば、勢いよく近づいてくる。


(違う……獣じゃない! ――あれも人だ!!)


 こちらに向かってまっすぐ降りてくる者を人だと認識した。そして、その者が手にしている刀を、ためらいなく少年へと振り下ろそうとしているのにも気付いた。

 とっさに体が動いた。犬飼は少年を庇うようにして立ちはだかると、自分たちに向けられた刀を掴んだ。


「うっ、ぐっ……!!」


 幸い鞘は抜かれていない。ただズシリとあり得ない重さが体を貫く。ただの刀だと思っていたモノは、本当に刀なのかと疑いたくなる。言うならば何百キロもある鉄のハンマーを振り下ろされたような衝撃。支えきれないのかミシミシと足の骨がなる。綺麗に整備されたコンクリートは、沼地かのようにめり込んでいた。

 ググッと圧される力に限界を迎えようとした時、犬飼の耳に声が届いた。


「お前、何者だ?」


 とても透き通った美しい声。思わず下を向いていた顔は自然と前へ。


「何で、この黒朝(こくちょう)を受け止められるんだ?」


 空から地上へと降り立った琥珀の瞳を持つ者は、気がつけば犬飼の鼻先にいた。


(きれいだ……、何て綺麗な……)


 心を奪われる。その力強い瞳に。銀糸のような長い髪に。そして何より彼女が纏う気高いオーラに。犬飼は自然と手を伸ばしていた。ゆらゆらと輝く髪に。茶木と後ろにいる少年が必死に何かを伝えてくるが、まるで聞こえない。それくらいに心を奪われているのだ、目の前の彼女に。

 ゆっくり触れようとした瞬間、犬飼の意識は遠退いていく。


「あたしの髪に触るな――」


 刀にばかり気を取られ、彼女の膝が自分の腹にめり込んだと気づいた時には遅かった。スローモーションのように崩れ落ちる体、犬飼の意識がなくなる前に見えたのは、言わんこっちゃないと額に手を当て天を仰ぐ茶木の顔だった。


 彼女こと、(みやび) 狼子(ろうこ)との出逢いが、犬飼の運命を大きく変えていく。

 これはその始まり。


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