表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リバース─犯罪者隔離更正施設─  作者: 修多羅 なおみ
第2章 呪われし者
25/40

Stray kitten

「約束の時間まで4時間ちょっとか……」


 ハチドリと別れ東区へと戻って来たが、ホテルへ向かうには時間が早すぎる。


「一度、事務所に帰ろうか……」


 事務所があるビルからホテルまでの距離はそう遠くない。そうと決まればと歩きだした時、横道から走ってきた一人の少女とぶつかった。


「うわっ!?」


 とっさに腕を掴んで引き寄せたので、転倒は避けられた。犬飼は少女に大丈夫かと尋ねる。


「……ゴメンナサイ。よそ見してて気づかなかったの」


 長い髪に青いリボンをつけ水色のワンピースと、その装いは実に女の子らしい。こぼれ落ちそうなほど大きいモスグリーンの瞳が見上げてくる。


「そんなに急いでどうしたんだい?」


 年齢は10才くらいだろうか、こんな人気のない場所に一人でいるなんて。狼子と同じ銀色の髪を指に巻きながら、少女はこう答えた。


「パパを探してるの」


 少女の話しによると、父親に用事が入りどこかへ行ってしまったらしい。その際、車で待つようにと指示されたが、なかなか帰って来ない父親にしびれを切らし探すため、運転手の制止を振り切って飛び出してきた。


「そっか……迷子か」


 犬飼は辺りを見回した。ここいらの路地裏は複雑迷路のようで、まだ彼自身も道に慣れていない。


「どこから来たか分かるかい?」


「う~ん……分かんない」


 少女が首を横に振る。これは困った。


「お父さん、今ごろ探してるよな……」


 しかし下手に動けば、かえって状況を複雑にしかけない。


(どうしよう……)


 悩む犬飼とは対照的に、少女の方はやけに落ち着いている。


「君、名前は?」


子猫(キティ)!」


「年はいくつだい?」


「9才!」


(狼子さんの子どもの頃って、こんな感じなのかな……)


 綺麗に切り揃えられた前髪と色のせいだろうか、顔のパーツはさほど似ていないのに、なぜだが目の前の少女が、狼子(かのじょ)と被って見えた。


(ここで悩んでても仕方ないか……とりあえず、)


「キティちゃん、一緒にパパを探そうか」


「うん!」


 少女の前に手を差し出す。すると彼女の小さな手が繋がれた。


「とりあえず、向こうに行ってみよう」


 迷子の子猫ちゃんと、元犬のおまわりさんは歩きだす。父親を探して。




















「──で、(ここ)へ来たと?」


「はい……。かれこれ一時間探したんですけど、人っこ一人見当たらなくて」


 このままじゃ犬飼(じぶん)が迷子になると、キティを連れハイエナの元にやってきた。


「うちは託児所じゃねーぞ? てか、あんたのとこ連れてきゃいいじゃねーかよ」


 (ここ)の下の階に事務所があるのだからと、歩き疲れてソファーで眠っているキティに目をやる。


「いやそれが、あちこちに書き置きを残して来たんだよね」


 にっちもさっちもいかなくなり途中でペンと紙を購入した犬飼は、『ハイエナの巣で娘と待つ』そう書き記して至るところに貼ってきた。もしかしたら、キティの父親が見つけてくれるかもしれないと期待を込めて。


「はぁ!? だから何で俺の店なんだよ!!」


「実を言うと……あと2時間ちょっとしたら仕事に行かなきゃならなくて」


 事務所に少女一人残しては行けない。


「でも(ここ)なら、安心して任せられると思って!」


 ならば同じビルのよしみで、信頼できるハイエナに頼もうと連れて来た。


「なら仕方ねーな……って、なるかボケェ!! あんた、俺に恨みでもあんのか!?」


「えぇ~! ダメなの~?」


 まさか断られるとは……ショックを受ける犬飼。


「ダメ! 絶対に!!」


 そもそも自分が引き受ける前提な思考回路に、ハイエナもまた衝撃を受ける。


「てかホントに迷子なのか? ただ捨てられただけじゃねーの?」


「そんな酷いこと!」


「だってよー、普通だったら娘がいなくなりゃ必死こいて探し回るだろ? いくらソイツが車から飛び出したって運転手に捕まるだろ? 9才の足の早さに、大人が負けるわけねーんだから?」


 一理ある。もしかしたら……そんな不安が頭を過った。


「どどどど、どうしよう!? け、警察! 警察に連絡した方がいいのかな!?」


「落ち着け、てか警察はあんた」


 元だけど。慌てる犬飼を宥めながら、ハイエナは助言する。


「たぶんソイツは本国から来たと思うから、ゴリラ女の親父に頼んで送り帰してもらえ」


「……なんでこの子が本国の子って分かるの?」


「そりゃソイツの服を見れば分かんだろ?そんな高級な(いい)服着てるやつ、rebirth(ここ)にいるわけねーじゃん」


 どこかの政治家か資産家の隠し子だろう。配偶者や世間に子どもの存在がバレそうになり、抹消するため連れて来られたのだとハイエナは推測した。


「IDなりDNAなり調べりゃ分かるから、何とかしてもらえよ?」


 政府の仕事を受ける代わりに、雅家の当主の頼みを政府も断ることは出来ない。両者は、持ちつ持たれつの関係なのだから。


「そういえば、前にハイエナくん言ってたよね?」


──もともと雅家(あいつら)の為に造られたんだよ。rebirth(ここ)はな


「あれって……どういう意味?」


 聞きそびれた言葉の真意を問う。


「そういや話してなかったっけ……。ま、いいや教えてやるよ。何百年も前に移民(おれ)たちが施設へ送られた本当の理由」


 ハイエナは語りだした。真の歴史を。


──それは、雅家(やつら)()()するためだ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ