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リバース─犯罪者隔離更正施設─  作者: 修多羅 なおみ
第1章 犬と狼
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ハイエナの巣 2

「何しに来やがった! このゴリラ女ッ──!!」


 狼子の姿を見た途端、カウンターを蹴って飛び出しす。


「てめえにやられた頭の責任取りやがれェ──!!」


 そのままの勢いで一蹴りを喰らわせようと足を振り下ろした。


──ヒョイ、


「お前が勝手に突っかかってきたんだろ?」


 頭に巻かれた包帯が何とも痛々しい。だがそんなこと気にも留めない。


「……避けてんじゃねぇよ!!」


「避けなきゃ当たるだろ?」


 着地した少年は、しゃがんだ体勢からボディを狙おうと小さく縦に振り上げたが、


──バシッ!


その重い拳を平然とした顔で受け止められた。


「な、離せ! くそ女ッ!!」


「避けるなって言ったり離せって言ったり……うるさい男だな?」


「いたたたたた! 痛い痛い痛い……って!!」


 掴まれた拳に力を込められ少年が喚く。あの繊細そうな手のどこからそんな力が湧くのか。


「…いッッ、てぇな、チクショーー!!」


 痛みに耐え拳を勢いよく引き寄せる。そのことで狼子の体勢が一瞬だけ崩れた。ここぞとばかりに空いていた左手に力を込めると、彼女の横っ面めがけてパンチを繰り出したが、


「く、たばれ……ご──!?」


拳は空を切った。少年の右拳から手を離しすぐさま体を反転させ腕を持ち直すと、襟首を掴み引き付け体ごと巻き込むように彼を投げ飛ばした。


──ガッシャーァン!!!!


 投げ出された体は宝石類が飾られたガラスケースに激しく衝突する。飛び散った破片が辺りに散乱し、頭から地面に崩れ落ちた。その間わずか十秒足らず。二人の戦闘を唖然として見ていた犬飼は我に返り、慌てて止めに入った。


「な、なにやってるんですか!? 相手はまだ子どもですよ!!」


「そいつが先に手を出してきたんだ」


 自分は悪くない。腰に手を当て動かない少年を見下ろす。


「……大丈夫かい?」


「……うっせぇ……」


 寝転がる姿になんだか既視感を覚える。衣服に刺さったガラスの破片を一つ一つ抜きながら、彼に話しかけた。


「君もダメだよ? か弱い女性にいきなり襲いかかるなんて?」


「……『か弱い』? ……なんだか幻聴が聞こえたけど、おっさん今あのゴリラ女のこと『か弱い』って言わなかったか?」


 ガバッと起き上がった少年が、勢いよく犬飼の襟首を掴む。


「それだけ動けたら大丈夫だね。」


 昨夜といい今といい、けっこう打たれ強い少年に感心した。


「なにニッコリ笑ってんだよ! ──いやいや、それよりもあのゴリラがか弱いってなんだよ!! さては目ん玉腐ってんのか!?」


「こら! あんな綺麗な女性(ひと)に向かってゴリラなんて失礼でしょ?」


「ゴリラにゴリラって言って何が悪い!! ……見て俺を!ズタボロのこの姿を!! そして見て狼子(あいつ)を! 一つも怪我してないよね!?」


 そう叫ばれ犬飼は二人を交互に見る。そして、


「……女性が顔や体に怪我なんてしたら大変だもんね」


何故か顔を赤らめた。


(こいつ……やべーわ)


 いろんな意味で。少年にとって犬飼との出逢いは未知との遭遇だった。
























「……で、用件は?」


 どっと疲れた。犬飼(あいつ)のおかげで。ガラスの破片を集めている犬飼を横目に、少年こと店主であるハイエナが狼子に尋ねた。


「こいつを探してる」


 マリアの写真を見せた。もしかしたら彼女のブローチがここへ流れているかもしれないと。


「……知らねぇな。まだうちには来てないぜ」


 それを手に取りじっくり見るが、覚えがないと首を横に振る。


「本当に!? ──狼子さん!!」


 それは彼女が生存している確率がまだ残っているということ。最悪の事態を覚悟していた犬飼にとっては何よりの朗報。


「ハイエナ、もしこれが流れてきたら連絡をくれないか?」


 番号を記した紙を手渡す。


「別にいいけどよ……その前に何かあんだろ?」


「なんだ? 報酬か?」


 キョトンとした表情の狼子が首をかしげる。


「いやいやいや、違うから! ……いや違わないけど。報酬はもらうけど、それよりもアレどうすんだよ!!」


 無惨に散らばった宝石類の数々と粉々のショーケース。


「ちゃんと弁償しろよな!」


「なんで? お前が突っ込んで行ったんだろ?」


「お前が投げたからだろうが!?」


 ぎゃあぎゃあと喚くハイエナ。放っておいたら一生喚きそうだと、うんざりした様子の狼子は仕方なく折れる。


「わかったわかった……雅家(うち)に請求しろ。だからブローチの件必ず連絡しろよ?」


 店主に念押しすると、犬飼に向かって『行くぞ』と声をかける。


「あ、はい! えっと……それじゃ、またね!」


 箒と塵取りを手渡し彼女の後を追った。受け取った道具と全然片付いていない部屋を眺めて一言。


「──ぜってーいつか殺すからな!!」


 怒りに燃えるハイエナの叫びは二人には届かず、むなしく響くだけだった。



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