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タウン七不思議

タウン七不思議。逆さ雨

作者: はるのの

タウンで囁かれる七不思議。ちゃんと、知ってますか?知らなかったら回避できませんよ。

今日は朝から「花守公園」のゴミ拾いをしなくてはならない。このタウンに越してからもう30年になるだろうか、地区の班長も何回目だろう。何度もやっていると、平日仕事のサラリーマンでも顔見知りが出来る。

玄関を出たところで、声をかけられた。

「やぁ。相良さんこれからですか?」

「おはようございます。ええ、今からボチボチ歩いて行こうかと思いまして。もしよかったら、ご一緒に行きませんか?」

「ええ、是非」と、田中さんはタオルを首に巻いた。

「今年も班長なんですか?」

「そうなんですよ。これが、部長に当たっちゃってねぇ。」ニコニコ笑っている田中さんの顔色は、笑顔に反して悪かった。


「花守公園」は、タウンの一番東にある小さなグランドもある少し大きめの公園だ。遊具は、滑り台ブランコ鉄棒ぐらいでハイカラな感じはしない。未就学児とママさん達の憩いの場になっている大切な場所だ。

綺麗にすることは、防犯にも役に立つのだ。私の子供達もこの公園が大好きだった。


「天気持ちますかね」不安げな声で空を見上げていたら

「傘持ってきました」と、手持ちの袋から折り畳みを見せてくれた。その笑顔が、あまりにたどたどしくて思わず聞く。

「体調どうですか?」

「えっ。あーボチボチです。最近パッとはしませんがもう、この歳ですし。」

「私もあと少しで定年です。子供達も結婚して好き勝手してますしね。田中さんのお子さんは、学生さんでしたか?」

「ええ、まだまだお金掛かります。いいですね、相良さんとこは。肩の荷が降りたってところですか?」

「えー。一応ね、心配事は沢山ありますけど」

「それはそれでねぇ」と、2人で笑った。


公園ではたくさんの人が、既に集まっていた。

「こりゃ、いけない。お先に」田中さんは走ってテントに向かって行った。ペコペコ下げる薄い頭と背中に をみていると、なんだか腹が立ってきたのでツイと目をそらした。


草取りに集中していると、すっかり辺りは暗くなっていた。気がついたのは雨粒が、私の手にポツリと大きな水滴を落とした時だった。ふと、空を見上げ。

「まずいな。中止か。」振替日にもう一度集合になるんだろうかと、眉をしかめた時、スピーカーがなった。

「皆様今日はご苦労様です。どうやら、雷雲接近中で警報が出そうですので、本日はこれまでとさせていただきます。

振替は致しません。

本日はありがとうございました。気をつけてお帰りください」

ホッとした空気が公園を満たし、掃除に来ていた大人も子供も駆け足で家に帰っていく。

「田中さん」私は、一緒に公園に来た流れで、声をかける。「先に帰りますね」残り仕事も沢山あるだろうと思ったし、傘も持っていたし。

「いいところに。チョットテントの足持ってもらえませんか?」

思いがけない言葉だったが断ることはできず手伝う。

長引くのは面倒くさいから、サッサと上手く逃げないとと及び腰になっていると。

「役員の皆様ありがとうございます。私達も早く帰りましょう」と、田中さんの声掛けがあった。

雨のつぶつぶが肌に感じるほどになったせいか、田中さんは駆け足で近づいて来て、そのまま私を追い越してはしりぬける。

「早く!」ぼぅとしていた私を振り返り、以外に強い口調で声を放つ。

「傘お持ちでしょう?私の事は気になさらずゆっくりお帰りください」ゼェゼェと息を吐いている田中さんに声をかける。

「相楽さん、余裕ですねぇ。羨ましいで……す」

「田中さんは、病み上がりだからですよ。無理しないでください」

「はぁ…それは…そ…うなんです…が」

言い終わらないうちに、空は黒い雲を突き破るような光が満ちて。

「く……」その後の田中さんの声は、地球をひっくり返したようなカミナリの音でかき消された。

「近いですね。早く」と言い掛けて振り向いた田中さんの前には、変な物体がクルクル回っていた。

あーそぅだこれは、トトロだな。と変に納得してふと雨を体に感じない事に気がつく。

一歩踏み出そうとしている田中さんの腕を掴む。

「何してるんですか!!」

「ああ。相楽さんですか」

「逃げないと」と、腕を引っ張る私の手を握って

「これからは、逃げれないのです。」

「これは、なんなんです?」

案外冷静な田中さんは、私の顔を見た。

「これは、逆さ雨です。タウンの都市伝説ですね。」

「とし…伝説?」

「雨が逆さに降ってるでしょう」

トトロらしき黒い物体につい気を取られていたが、たしかに浮かんだ物体のしたから雨が降っていた。いや下から雨が吹き付けていた。片足をあげると靴底に雨が降ってくる。

顔を上げるとトトロのように見えたのは黒い闇で、奥に続いているようだった。

「天国に連れて行ってくれるそうですよ」田中さんが笑顔で言う。

「なんで、そんな事分かるんですか!帰ってきた人いないでしょう!」叫ぶ私に「都市伝説ですから」と笑う彼に無性に腹が立った。

「笑ってる場合じゃない!!」と叫ぶ私に

「あなたでしょう。これを引き付けたのは!」

「な。なんで?」

「私は前にもコレに会っているのです。二度目は無いはずなのに。なんで!?」田中さんは座り込んでしまう。

私は、彼の肩をゆすった。

「二度目?二度目なんですか?前はどうやって、コレから逃げたんです?ねぇ!教えてください!」

ズルズルと重たいものを、引きずる音がする。浮いているはずなのに。少しずつそれは、前進していた。そして、その暗闇の奥からは、ゼロゼロと息を鳴らす音が聞こえてくる。

「逃げることは、出来ないのですよ、相楽さん」冷たい目をした田中さんが振り向いた。

「ただ、生きたいと思ってください。でも、この暗闇の向こうは本当に天国です。」

ニヤリと笑って掴まれた手は、生暖かかった。

「本当に天国ですよ。何の不安も無い安らかな世界です。

あなたは、もうやるべき事はやったんじゃ無いんですか?今、あなたは必要とされてますか?そこそこ満足してる人生だったじゃないですか。老後は悲惨なものですよ。認知になってオムツして歩けず。未来なんてひどいものです。」

「いや、そのとうりなんですが」という自分の声が暗闇に響く。

「でも、相楽さん。私は生きる事に決めたのですよ。癌の手術を受け。後遺症と戦い。会社を首になって、家族の迷惑になる事を承知で生きる事に決めたのです」


「田中さん……私には無理だ。記憶に霞がかかり家族から哀れみの目を向けられる生活は、もう嫌だ。私は立派な父であり、男だ。できるならそのままでいたい!」胸が張り裂けるほど叫んで、黒い物体に飲み込まれた。

足の下で雨音が聞こえる。


頭上で声がする。「あなたは、弱い人間だ。なにが立派だ、笑えるよ」

パッと顔をあげると、雨粒が降り注ぐ。


「お父さん!」走ってくる妻の顔が豪雨に霞んで見えない。「救急車を!」

「大丈夫だよ。滑っただけだ」

妻の手は震えていて、私の手も震えていた。

「帰ろう。随分探したのか?」

「ええ、朝から姿が見えなくなって。どこに行くつもりだったの?」

「公園の掃除に行ってきたんだ、そしたら雨が降ってきて」

「そうなのね。お父さん」

私にはわかっていた、公園の掃除なんてなかった事が。

「お母さん、私を施設に入れてくれ。」

妻の差し掛けた傘の音だけが聞こえる。

「今、頭が晴れてるんだ。

多分今だけだろうから、言っておく。

お母さんありがとう。

和ちゃんには幸せに過ごしてほしいと願っている。

そして、楽しかった頃の私の事を覚えていてほしいんだ」


妻は黙って頷く。

震える妻の肩を抱いて、雨の中歩く。きっとこの雨の中だけ、頭が晴れているんだろう。


「なぁ、和ちゃん。田中さんが、助けてくれてんだ」

「田中さん?お向かいの?」

「ご主人がね……」

「10年前、お亡くなりになった方?」

「うん。変だろ?でも、助けてくれたんだ」

「いいえ。そうなんですかぁ。

ありがたいですよ!久しぶりに、こうやって正雄さんとちゃんと喋れるの。とても嬉しいですから」

「変な話ついでに。もひとついいか?」

「いいですよ」

「都市伝説、かな?逆さ雨って聞いたことあるか?」

「タウン伝説ですね。知ってますよ。あったんですか?!」驚いた妻の顔は、結婚当時と同じ顔をしていた。こんな話、こいつ好きだったよなぁ。

「そうなんだよ」私は、何故か笑いが止まらなかった。

「不平不満を大きな声で叫ぶと、去って行くって話ですよね!」

「えっ?そうなんだ」

「不平不満叫んだんですか?」

「うん。知らなかったけど」

「良かったですねぇ。言わないと、食べられちゃうらしいですよ。食べられちゃっても、天国らしいですけど。

いい人だからってこと?かな?」

「なんで、食べられた人の事が分かるんだよ」

「あら、都市伝説ですから」

雨に打たれながら、妻と私は大笑いしながら家に向かった。


あと、すこし。

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