終末の鐘は100回鳴って
みなさん、こんにちは。本日はどうお過ごしですか? 今日も一日、頑張っていきましょう。
恐怖を隠した少し震えた明るい声がラジオから聞こえてきて、僕は目を覚ました。
朝の八時。いつもの時間。少し前ならもうちょっと寝ていようかと考えることもあったけれど、今日はそんな気分にはとてもならない。
今日が終わるその日まで、みなさん、一日頑張っていきましょう。
ラジオの声を聞きながら、欠伸を一つ。今、この国で唯一やっている国営ラジオだ。こんな日だというのに、いつもの調子で放送を続けていられるのは、素直に凄いと思う。
世界が動きを止めて今日で百日目。今日が多分最期の日だ。働いている人もいれば、働かない人もいる。百日前に彗星が堕ちると知らされてから、人々は悔いのないように生きてきた。
もっとも、そんな生き方を選べない人もいるわけで、どうしようもないものに関して、人の反応は分かれてしまう。
悲しむ人。
怒る人。
自棄になる人。
暴れる人。
忘れる人。
受け入れる人。
現実感がなかったから、僕はそれを受け入れた。彼女もそれを受け入れた。
どうしようもないなら仕方ない。どうしようもないなら、せめてその時まで楽しく生きよう。そう、二人で決めた。
僕と彼女の両親は、この結末を受け入れられずに自殺した。当時は悲しかったけれど、今ではまあ、仕方ないと思っている。
僕も両親も、どちらも諦めてしまったということは変わらないから。僕と両親で違うことといえば、死ぬ時期を早くするか、遅くするかくらいだ。
どちらかと言えば、死ぬ時期を遅くしたほうが僕としては有意義だと思っている。人生最後の百日間。せめて楽しく、悔いなく生きようとするのは悪いことではないと思う。
そう思えるのは、きっと彼女が隣にいてくれるからだ。
百日前に彼女に告白したその日、彗星が堕ちることを知った。彗星が堕ちることを知って尚、彼女は僕の告白を受け入れてくれた。
どうせだったら、最期は好きな人と一緒に生きたい。そう言って笑った彼女は、見惚れるほどに綺麗だった。
そして始まる素敵な日々。学校にも行かないで、僕たちは色々な場所を巡って、色々なことを経験した。
たったの短い百日間。それでも長い百日間。一日たりとも無駄にしないように、精一杯僕たちは生き抜いた。
そんな目まぐるしくも輝かしい日々はあっという間に過ぎ去って、気がつけば終末の鐘は99回鳴っていた。
100回目の鐘が鳴った時。それは世界が終わる時。
もうすぐ鐘が鳴る頃だ。世界が終わるのもすぐそこだ。
おはよう、と彼女が僕の部屋にやってきて。
おはよう、と僕は寝ぼけ眼で彼女に返す。
もうすぐ鐘が鳴る頃だ。世界が終わるのもすぐそこだ。
僕と彼女は抱き合って、最期に好きだと言い合って。
カラン、と。
終末の鐘が儚く鳴って。
星が僕たちを呑み込んだ。