第1話「冒険者ギルド」
物語の始まりです。これから宜しくお願い致します。
「う...うおぉ...」
たくさんの色の光に囲まれながら仮想現実に入っていく。五感が全て別世界に移り行く、感じたことのない不思議な感覚がどんどん流れていき...ついに、光が割れた。
「う...うおぉ...」
先ほどと同じうめき声を上げて目の前の光景を眺める。目の前に広がるのは一面の草原だ。穏やかな風に短めの草が揺れている。
一樹は、今すぐにでもこの草原を走り回りたいという衝動に駆られ、足を踏み出そうとして、気付く。
「あれ...?動かない...てか、動けない...」
何かトラブルでも起きたのかと一樹が思ったその時、目の前に人型の光が浮かぶ。それは、自分のアバターの土台となるオブジェクトだ。
「おわあ!?なんだこいつ!...って、キャラメイクオブジェクトか。肝心なこと忘れてたわ。」
初めてVRの世界に足を踏み入れた感動で、そんなことは頭からすっかり抜けてしまっていた。しかし、これからこのゲームの中でずっと付き合っていく、言うなれば相棒だ。意識はしていないが思わず慎重に作業を進めていた。
「まずは、髪型と髪色の設定か。んー、どうしよっかなー。ファンタジーなんだから何色でもいいんだけど...よし、茶色だ。茶髪にしよう。髪型はそのままで。次は、あれ、もうプレイヤーネームか。顔は現実通りになるんだな。名前は...えー...一樹の一をとって、『ワン』とかだったらダサいし...うん、『モノ』にしよう。これで...完了!」
空中に浮かんだキャラメイク完了ボタンを押す。すると、今作ったばかりのキャラメイクオブジェクトが自分めがけて突進してきた。
「え!?うわっ...ちょっ...」
動けない。即ち避けられないので、為す術なく突進を全身で喰らうー
「...お?」
突進をもろに喰らったはずなのに、痛いどころか何かが当たった感触もなく、気になって目を開ける。すると...
「うわあ...自分がキャラ通りになってる!すっげー!」
普通のゲームなら何の不思議もないことでも、VRではそうはいかない。自分の見た目がキャラクターになっているだけなのに、感動して涙が出そうになっていた。
「ほんとに...すごいよ...VR...あー、最っ高!」
心からの賛辞の言葉を口にしていると、一瞬で視界が白く染まった。
「うっ...」
謎の光に包まれ、思わず目を瞑る。何が起きたのか理解できないまま、少しの時が流れ、光が収まった。目を開けるとー
「...っ!」
目の前には、見事な石畳に石造りの建物が並んだ、大きな街があった。そこには、多くの人々が行き交い、色々な店が並んで、見ていて気持ちがいいような賑やかさを出していた。
「いやー、もう言葉にならねえよ...完全に本物の街と人間じゃないか...」
一樹、改めモノは、素晴らしいグラフィックで精巧に造られたその街を、呆然と眺めていた。
「よし、とにかく行動しないことにはゲームが進まねえ!早く色々やってみたいなー!」
と、新しい世界への期待と高揚を言葉にしたところで、
【プレイヤーネーム『モノ』様、Magic saverの世界へようこそ。】
「機械音声...?」
【私は、モノ様にお仕えする案内用NPCの、アドでございます。プレイヤーの方々一人ひとりに一体の案内用NPCが運営より支給されます。これから宜しくお願い致します。】
NPCとは、ノンプレイヤーキャラクターの略で、意識を持たずシステムに則って動くだけのユニットのことである。
「お、おお!宜しく、アド!」
【このゲームを始めたばかりのモノ様は、まず冒険者ギルドへ向かって下さい。そこで自分の職業、魔法の系統、初期装備を選んで頂きます。】
「あえっ?冒険者ギルド?ど、どこにあるんだ...」
この広い街の中、たった一つの建物を探さなければならないのか、と思い素っ頓狂な声を上げてしまう。
【冒険者ギルドへ向かうために、まずはマップを開いてみましょう。メインメニューからマップへアクセス出来ます。メインメニューは『メイン·コール』と言って頂くと開きます。】
「よ、よーし!『メイン·コール』!」
ギュン!と音を立てて、手の近くに薄く透ける光の板が出現した。その板には、Magic、Skill、Equip、Status、Quest、Map、Systemと、七つの項目が並び、その中のMapとSystem以外は暗転して機能が封印されていた。
「はー...何もないところにメニューが...って、そうだ。マップで冒険者ギルドへの道を探そう。」
タッチパネル式で自由に動かせるマップの、どこかにあるはずの冒険者ギルドを探す。
「あ!このマークがギルドかな?ここに行けば良いのか...でも複雑に入り組んでるから迷いそうだな...」
【マップ上に目的地を設定すればアドが光でモノ様を導くことが出来ます。冒険者ギルドを目的地として設定しますか?】
「目的地機能もあるんだな、凄く便利だ...うん。設定します!」
【承知しました。それでは案内を開始します。】
アドの光が先へ進み始めたのを見て、モノはあわててそのあとを追った。
【目的地周辺です。案内を終了します。】
「こ...ここが、冒険者ギルド...!」
そこは、大きく立派な赤い旗が掲げられた、周りと比べ一際豪華な造りをした建物で、冒険者とおぼしき人々が次々と出入りしていた。
「うしっ!俺の戦いの...開戦だ!」
モノはそう言って、重く分厚い鉄の扉を押し開けた。
1話を読んで下さりありがとうございました。感想、ダメ出しなど、遠慮せずどんどん書き込んで下さい。それで学習していきますので。