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第六章☆進一に彼女ができた
「でさ、進ちゃんが宇宙に興味があるから、民間の宇宙開発の会社設立して、ロケット開発しようかと思ってる」
一馬は長年の夢を実行しようとしていた。
いつも一緒にいてくれる進一と同じ夢を追いかけようと、一馬は想っていた。
「あのさ、一馬」
「なに?」
「俺、彼女ができたんだ」
「えっ」
「恵美ちゃんっていうんだけど、将来結婚も考えてる」
一馬はおろおろした。
「家庭を持つのか?」
「そのつもり」
「それは・・・」
それは、俺との付き合いをやめるってことなのか?と一馬は心の中で叫んだ。
「もう遅いから今日は家に帰るよ」
「ああ」
進一を見送った後、一馬は脱力してソファに身を投げ出した。
「一馬様、緊急事態です」
執事が来て早口で告げた。
「ああ」
「ああじゃありません。複数の侵入者です」
「えっ⁉」
「おそらく、一馬様の研究を狙って侵入しようとしています」
「わかった。発明室は3重の扉で封印する。お前は先に逃げてくれ。俺もすぐ秘密の通路で逃げるから。しばらく時間を置いて、安全が確認できたら戻る」
「了解しました。・・・一馬様」
「なんだ?」
「冷蔵庫に羊羮が大量に冷えています」
「なんのこっちゃ」
「では、お先に」
「ああ。気を付けて」
執事を見送ると、一馬は簡易モニターで侵入者たちの様子を見ながら発明室を厳重に閉じて、洋館に備えてある脱出ルートを通って外へ逃げ出した。
高橋山の中腹にある稲荷神社の境内に出口が続いていて、夜の闇の中で一馬は山を降りた。
「どこへ身を隠そうか?」
ふっと、一馬を何かが誘った。
無意識のうちに、一馬は種子島目指して急いでいた。
「進ちゃんが行ってしまう。俺はまた独りになってしまう」
胸がひしひしと傷んだ。
「じゃあ、私たちと来るかい?」
何かが一馬に語りかけた。
無意識で一馬はその何かと会話した。
「一馬の発明の頭脳はとても魅力的なんだ」
「俺は、進ちゃんに影響されたんだ。地球が温暖化したり、気候的に不安定になってきてる。人類は宇宙へ進出するべきだ。万にひとつの可能性でも良い。生き残る人の割合を増やすんだ」
「それなら、手伝ってやろうか?」
「・・・」
一馬にはよくわからなかった。
「俺をどこへ連れていくんだ?」
「もっと良いところへ」
足が勝手に歩いていった。
断崖絶壁に一馬は吸い寄せられていった。
「俺は死ぬのか?」
「いいや、迎えが来る」
オレンジ色のまばゆい光が見えた。
「あれが迎え?」
「そう」
ふらふらしている一馬はぼんやりと進一のことを考えていた。
オレンジの光が一馬を吸い込もうとしたその瞬間、一馬はきびすを返して何かからの呪縛を振りほどいた。
「どうして?一馬」
「家に羊羮が残ってる。食わないと」
何か、はあっけにとられて一馬を見送ると、オレンジの光と共に、するん、と空間に消失してしまった。
「カーモリ、か」
一馬は笑った。気を付けないと心の隙間を狙った誘惑がこんな形で現れる。くわばらくわばら。