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第四章☆一馬、正太郎に会う
一馬たちは高校生になった。一馬は北西高校、進一は東高校に進学した。
相変わらず時間が許す限り、進一は一馬のそばにいてくれた。
「科学者連盟に横田正太郎という発明家と会って倫理観を見習えって言われてるんだけど」
「じゃあ、夏休みにでも洋館に招待したら?俺も興味ある」
一馬は早速招待状を正太郎に送る手筈をととのえた。
「俺らよりちょっと年上で、なんか、ロボットのすごいのを開発したそうだ」
「すげえな」
二人の中で、正太郎という人物はものすごい人になってしまった。
「返事が来たんだけど、面倒見てる小さい子どもも連れてきて良いかって」
「いいんじゃない?」
進一はのほほんと言った。
実際に正太郎と会ってみると、ごく普通の青年だった。かわいらしい女の子を連れて、山道を汗だくで登ってきた。後ろから、キャタピラーで動く、オモチャみたいなロボットもオマケについてきた。
一馬は自分たちの予想より正太郎が平凡すぎてなにも言えなかった。
「事実は小説よりも奇なり?」
進一がそう言った。
夕方から広間でプロジェクターを使って、今一馬が開発中の飛行物体の紹介をした。
亜紅ちゃんという名前の女の子はちんぷんかんぷんだった。
一馬が苦笑していると、解説君という名前のロボットが前へ出てきて、亜紅に向かって、たった一度だけ見聞した発明について、設計の目的や構造についてとうとうと解説を始めた。
さすがに一馬も感心してしまって、ロボットをまじまじと見てしまった。
「これはAI搭載のロボットかい?」
「いいえ」
「じゃあ、何を使ってるの?」
「ゴニョゴニョ」
「?」
企業秘密というよりは、本当は正太郎自身がわかっていないような感じがした。
ハア?と進一は聞き返していた。
後日、科学者連盟に一馬は新しい発明の報告に出掛けた。
いつものスーツ姿の男性は来客中で、少し待たされた。
「入っていいよ。ちょっとこの人も同席するけど良いかい?」
一馬はくたびれた年輩の男性を見た。初対面だった。
「高橋一馬です」
「こちら、江入博士だよ」
「よろしく」
お辞儀して、スーツ姿の男性に発明の報告をした。
「一応、飛行する際は、日本の航空関連の施設にその都度報告してくれよ。空の安全を守って飛行するように」
「はい。・・・それから、先日、正太郎さんに会いました」
「話してみてどうだった?」
「ごく普通の青年で、だけど発明は最高でした」
「ふん!」
江入博士が小馬鹿にしたように鼻を鳴らした。一馬はムッとした。
「なんですか?」
「わしもまだ、負けん」
さっきまで力なくうなだれていた江入博士の豹変ぶりに、スーツ姿の男性も困惑気味だった。
「江入博士、引退する話は?」
「まだまだじゃ!これからわしはやってやる‼」
息巻いて江入博士は部屋を出ていった。
一馬とスーツ姿の男性はあっけにとられて見送った。
「まあ、なんだな。発明家魂に火がついたかな?」
「はあ・・・」
「いろんな人がいるよ。君はもっといろんな人に会うと良い」
「はい」
一馬は微笑んだ。