第6話聞きたいこと
「ごちそうさまでした。…あの、美味しかったです、ありがとうございます。」
両手を合わせて御礼を言う。
マリーさんの作ってくれたシチューはやはりとても美味しくて、一気に平らげてしまった。
「いいえ、お口に合ったようで何よりよ。」
マリーさんは嬉しそうにそう言い、食器を片付け、それから俺のいるベットの前の椅子に座って話しはじめた。
「さて、お腹も満たされたことでしょうし、ちゃんとお話をしないとね。ええ、どこから話せば良いかしら。」
そうだ、シチューのあまりの美味しさについ夢中になってしまっていたが、マリーさんに聞きたいことが山ほどあるのだった。
「すみません、まず聞きたいことがあるんですけど、ここはどこなんでしょうか。」
まず、起きてからずっと気になっていたことを質問する。するとマリーさんは、あらいやだ、というような顔をして言った。
「そうね、大事なことを言ってなかったわね。ここは私の住んでいるところよ、安心して、危険なものは置いてないわ。」
どうやらマリーさんは、わざわざ自分の家まで運んでくれたらしい。では、このベットもマリーさんの普段寝ているところで、今は俺が占領してしまっているのだろうか。そう思うと、とたんに申し訳なくなってきた。
「す、すみません、お邪魔してしまって…」
「いいのよ、こっちが好きでしていることだもの。それに、前回もこうしてあちらの人をお世話したのよ。」
前回、今、マリーさんはそう言った。そういえば、先程も『今回は』などと言っていたが、これはどう言うことなのだろうか。人がこちらの世界へ、定期的に、しかもまとめて迷い込んでくる、とでも言うのだろうか。一体なぜ。
そう疑問に思ったことを俺が聞くと、マリーさんは少し考えたあとこう言った。
「そうね、それを説明するために、まずはこの世界のことから話しましょう。良いかしら?」
俺がうなずくと、マリーさんは続きを話しはじめた。
「今、私達がいる世界はね、貴方がいた世界から生まれたものなの。そちらの世界には、人間が作り上げた不思議な存在ってあるでしょう。伝説や伝承、お伽噺の中の奇妙な動物たち。大変な力を持った、数々の宝物。そして魔法や、それに関わる呪文やおまじない。きっと幾つかは貴方も良く知ってるわよね。例えば私、妖精とかね。ここまでは大丈夫よね。」
大丈夫です、と俺が言い続きを促す。
「そういった『あちらの世界の人が空想、想像した不思議なもの』たちは、本来は存在しないものよね。勿論、伝説の元になった物、儀式、動物や現象は実際にあるかもしれない。けれど、杖を振って呪文を唱えれば自由に炎を出せたり、怪我が一瞬で治ったりすることはない。羽の生えた妖精もいない。そうよね?」
そうだ。現実に、そんなファンタジーなものはないし、だからこそファンタジーとして本に描かれていたのだ。けれど、
「こちらの世界には、それらが本当に存在するんですね。」
そう、例えば、マリーさんのように。
「ええ。この世界に不思議なものたちが存在する、というよりは、不思議なものたちがこの世界を作った、といった方が良いかしら。人々が創造した概念が降り積もり、だんだんと大きくなり、やがて形をとるようになった…それがこの世界、人からは『幻想世界』と呼ばれている世界よ。」