マリガンダンジョンへ行こう(1)
とりあえず向かったのはダンジョンではない。
冒険者ギルドだ。
イザベラとレムの冒険者カードを作る必要があったからだ。
ちなみに、レムの職業は『狩人』に決めた。
と言うのも、レムにはその資格があったからだ。
正直、レムのレベルは2。俺たちのレベルとは離れ過ぎている。
かく言う俺も、アンリエッタたちは遠く及ばないのだが…。
話がズレたが、これから入るダンジョンの推奨レベルは50なのだ。
とてもじゃないが、レベル2のレムを前衛職に付けることはできない。
そこで、『狩人』と言うわけだ。
「シオンさん。あの…この2人のギルドカードを作りたいのですが…」
「また、女の方なんですね…」
「え、ええ…」
「…お名前と職業をどうぞ」
「イザベラ、魔法使いよ」
「レム。狩人…」
「イザベラさんにレムさんですね。では、お1人銀貨1枚になります」
「お願いします」
銀貨2枚を渡す。
シオンさんの笑顔が怖かった。
あの…これだけは信じてください。
女たらしじゃないですよ。
…って言っても、無理でしょうね。
1週間も経たないうちにパーティメンバー5人がみんな女の子じゃ…。
説得力無いよな。
「こちらがギルドカードになります」
「ありがとうございます」
礼を言って、俺はギルドを急いで出た。
居心地が悪かったからだ。
なんだろう…。女性たちの視線が痛かった。
まるで、ゴミでも見ているみたいに感じた…。
男共の視線は無視したが…。
「まあ、知らない人から見たら女好きの鬼畜に見えたかも…」
「あー…うん。そうかもね」
納得したくないけど、納得できてしまった。
これだけの『絶世の美女』を引き連れて歩いてるのが、見た目年端もいかない少年なら『何かしらの不正』をしていると考えられてもおかしくないわけで…。
でもさ…イザベラの一言は正直なところ胸に響いたよ。
「とにかく、ダンジョンに行こう」
平静を装って言う。
歩く足は何故か重く感じた。
ダンジョンまでの道のりでモンスターを狩りつつレムのレベル上げをしていく。
ゴブリンの集団とオークを倒しつつダンジョンへと向かう。
本来、経験値は倒した本人にしか与えられない。
だけど…アンリエッタの持つ特殊能力の1つに『経験共有』という能力があり、その能力でパーティ全体に経験値が分け与えられていると言うのだ。
この能力によりレムに経験値が入り、ダンジョンに着くまでにレベルは10まで上げることができた。
「6人でお願いします」
「金貨6枚になります」
「はい。金貨6枚です」
「…では、お通りください」
このやり取り、いるのだろうか?
まあ、仕様なんだろうけどさあ…。
ダンジョンに入るとゲーム時と同じで洞窟が広がっていた。
…確か、この階層に出るモンスターは『グリーンスライム』と『ロックボア』のはず…。
「スライムは厄介なんだよなー…。早いとこ、2階層に行くか…」
「ロックボアが出たらどうするの?」
「ロックボアなら積極的に倒す方向で…」
「了解したわ」
1階層の洞窟はそれほど大きくも複雑でもない。
それでも、2階層に下りる階段にたどり着くには15分ほどかかる。
それも、敵に一切会わなければの話しだ。
「とりあえず、進むよ」
「主よ…。前方に『いる』ぞ」
「あー…。スライムだ」
俺は心底イヤそうな顔になる。
よくあるゲーム出てくるスライムは『雑魚キャラ』としての扱いが多い。
しかし、この『ドラゴン・ファンタジー』の世界でのスライムは違った。
ゼリー状ではあるが触れるものを酸で溶かす軟体生物。核しか急所がなく、色によっては特殊な追加能力を持つと言う。
グリーンスライムは『毒持ち』であり、自由に酸と毒の攻撃を使い分ける厄介なモンスターなのだ。
と言っても、攻撃さえ当たらければ倒すのは簡単だったりするが…。
「グリーンスライム3体か…。イザベラ―――」
「ノープロブレムよ」
「じゃあ、一気に行くよ。『火矢』!」
「じゃあ、こっちも…『火矢』!」
矢の形をした火がグリーンスライムを捕らえる。
グリーンスライム2体はそのまま焼き尽くされる。
そう…スライムの最大の弱点は『魔法』である。
当たれば100%ダメージを与えることができるのだが、スライムは意外と素早かったり亀裂の様な隙間を通ることもできるので、今回のように真正面から現れない限り当てにくいと言うのが一般的である。
「主よ。最後の1体は私が殺ろう」
そう言うと同時にアンリエッタは地面を蹴って一気にグリーンスライムに迫る。
「ハアァッ!」
一閃。
剣先がグリーンスライムの核を貫く。
グリーンスライムは液状化して、地面に溶けていった。
「ありがとう、アンリエッタ。さすがだね」
「いえ…。この程度、褒めていただくほどのことではありません」
確かに彼女たちのレベルからすれば造作もないことだろう。
なにせ、全員がレベル250越えなんだから…。
ちなみに俺はレベル47だったりする。
「みんな、凄いの…」
「まあ、俺は彼女たちほどじゃないけどね」
歩きながらレムとの会話。
「どうやら…楽に2階層へは行かせてもらえないようね」
「あれは…ロックボア」
「ここはウチに任せてもらおうかのう。よう見とくのじゃ、レム」
どう見ても岩の塊にしか見えない『イノシシの魔物』、それがロックボアの正体である。
表面は固いが、倒して得られるロックボアの肉はかなり美味しいのだ。
「ハァッ」
息を吐き、肘打ち、前蹴り、掌底の流れるような攻撃で3体のロックボアを瞬殺する。
通常、こんな普通の攻撃でロックボアは倒せない。
名前の通り、全身が石でできているロックボアは武器での攻撃なら一撃死と言うのもあるが、打撃系での一撃死と言うのはまずない。
それはどんな生き物でもそうだが、急所か弱点でも突くかよっぽど当たり所が悪くないとダメージを与えるだけにすぎないからだ。
では、シーラはどのようにしてロックボアを倒したのか?
彼女は『浸透系』の打撃が撃てるのだ。『浸透系』とは、打撃のダメージを身体の内部にまであたえることができるのだ。要するに内部破壊の打撃と言うわけだ。
このことはシーラ本人から聞いたのだが、正直なところ彼女の言っているのは中国武術の1つである『発勁』のことじゃないだろうか?
俺もあまり詳しくないが、確か体の『伸筋の力』、『張る力』、『重心移動の力』を三位一体としたものだったような…。
よく『気の力』とかって言ってるけど、あれはあくまでも『そうであってほしい』と言う幻想だ。
まあ、この世界…いや、シーラなら本当に『気の力』を使えるのかもしれないが……。
「まあ、こんなもんやな」
「わあ、凄く強いの」
「多分…いや、間違いなくこのメンバーの中じゃあ1番強いのはシーラだからな」
「見た目は幼いけど、1番ババアだしね」
「1番のババアはお前さんじゃろう、イザベラ」
「あら?そうだったかしら」
バチバチと2人の間で火花が散る。
この2人、本当に仲が悪いなぁ…。
「2人とも、睨み合っているとせっかくの美人が台無しだよ」
「…なんやて?」
「美人?」
「え?そうだよ。こう言うのも失礼かもしれないけど…全員ともタイプは違うけど絶世の美女だし…」
「あ、主…」
「旦那様~」
「ほ、褒めても何もでんねんえ」
「まあ…悪い気はしないわねぇ」
「お、お兄ちゃん……」
あ、あれ?俺…何かやらかしたか?
みんなの顔が赤らんでいるような…。
「と、とにかく…2階層へ急ごうか」
「はい」
「はいです~」
「よかろう」
「行きましょう」
「行くの」
俺の言葉に機嫌の良い返事を返す5人。
まあ、シーラとイザベラの機嫌が直ったならいいか。
あまり深く考えるのはよそう…。
メンバーそれぞれの話しの最後でのレベルを掲載します。
ルーク、LV.47
アンリエッタ、LV.278
エリザベート、LV.250
シーラ、LV.299
イザベラ、LV.273
レム、LV.12