ダンジョンと猫獣人・レム
これからは、短めになります。
サクサクUP目指します。
「う~ん…どうするかなぁ」
正直、俺は困っている。
召喚カードが残り49枚と言う事実は、のんびりカード集めをしようとしていた俺の計画を180度変えるモノだと言えたからだ。
と言っても、3ヶ月は契約上この町を離れることはできない。
「拠点を離れ過ぎずにレベルを上げる方法は…『アレ』しかないかぁ…」
通常ならエリアを変えなければこれ以上のレベル上げはできない。
しかし、ある方法…『指定ダンジョン』に入る…と言うものでそれを解消できるのだ。
『指定ダンジョン』
放置されたダンジョンと違い、国によって管理されたダンジョンのことを言う。
ダンジョンは階層ごとにエリア分けされている。
なので、1層ごとにレベル上げが10可能になる。
しかし、それ以上に指定ダンジョンには利点があり、一度出て入りなおすと更新され、新たに1階層目からレベル上げができるのだ。
ただし、この方法はゲームを知っている者しか知らない。
そして、当然だがリスクもある。
まず、指定ダンジョンに入るには管理者にお金を払う必要がある。
1人金貨枚と高額なうえに、ダンジョンに潜った場合1階層でも攻略しないで出るとペナルティとして1ヶ月はダンジョンに入ることは許されない。
階層攻略の有無は、階層ボスを倒すことでパーティ名と個人名が管理者に知らされるようになっているのだ。
そのうえ、ダンジョンに入るには最低でもレベルが30~50以上あることと4人以上のパーティにであることが前提となっている。
「ダンジョンですか?」
「ああ…うん。レベル上げと職種増やしを同時に進めるにはこれしかないと思うんだ」
「それって…ワタシたちも含まれているのかい?」
「もちろん。レベル上げよりも職業やスキル集めがメインになると思うけどね」
正直に言って、彼女たちのレベルは伝説級だ。
ギルドカードにはステータスは表示されないのが唯一の救いで、あくまでも冒険者ギルドのランクで表示されるので実力がバレる心配はないが…職種は表示されるので気をつけなくてはいけない。
なぜなら、職種変更は規定の場所でしかできず…また、中級職や上級職などはただでさえ取得が難しいとされていて、上級職の中には通常では手に入れない物も多い。
というのは…この世界での話し。
ゲームの時のことを知っている俺には『裏技』があるので職種集めもすんなりできてしまうのだ。
そして、上級職を超える『伝説職』がある。
それを取得するには、決められた上級職をマスターして初めて得られるのだ。
彼女たちが元から持っているのは上級職に過ぎないので、伝説職を取得するために初級職から覚える必要があるのだ。
「魔女であるワタシが魔法使いからやり直すことになるとはな…」
「ウチは『伝説職』やったのに、今は拳士やね」
「確かに『覇王』は伝説職の1つだけど…『破滅』をもたらす職種の1つでもあるんだ」
伝説職の中にはあまりにも強すぎるがゆえに自分の身を亡ぼすとまで言われる『破滅職』も存在する。
その1つが、『覇王』である。
絶対的な破壊力を生み出す職業であり、戦う中で強くなる『無限増強』の能力を持つのだが、この能力こそが曲者なのだ。
無限に強くなるということは、力の強さにのみ込まれる危険性があるのだ。
つまり、普通車にF-1のエンジンを積むようなモノを意味するわけで…。
有り余る力は身を滅ぼすということを意味しているのだ。
「危険と分かっていて使わせたくないんだよ…たとえ、シーラに『耐性』があったとしても…」
「主のそういうさりげない言葉は琴線にくるのう~…。惚れ直してんね」
「…前から思ってたんだけど…シーラの方言って独特だね?関西弁と京都弁が混じったような…」
「よう知らんわ。昔からやしね」
「まあ…通じるから良いんだけどね」
だが、何となく違和感が感じられるのは否めない。
まあ、そのうち慣れるだろうけど…。
「とにかく、この近くだと…王国が管理している『マリガンダンジョン』か『リショウの塔』だよな」
「どちらでも構わないけど、あえてと言うならマリガンが良いかもね」
「ドロップアイテム狙いだね。でも、あそこはそこそこモンスター強いからなぁ…」
「私たちならマリガンでも大丈夫でしょう」
「じゃあ、無理はしないってことで…マリガンダンジョンにするか」
『マリガンダンジョン』
王国が管理している7つのダンジョンのうちの1つで、ブレアドとグレディアの中間部辺りにある洞窟型のダンジョンだ。
マリガンダンジョンの由来は、冒険者マリガンが見つけたことから名付けられたと言われている。
入るのに1人金貨1枚がかかる。
しかし、中級冒険者には人気のダンジョンである。それと言うのも、モンスターの落とすドロップアイテムの換金率が良いのと、たまに手に入るレアドロップアイテムがまた魅力的なのだ。
ただし、推奨レベルは50以上と高め。
ゲームの時は12層まであった。1層~5層までは通常の洞窟のエリア、6層が草原エリア、7層が砂漠エリア、8層が沼エリア、9層がジャングルエリア、10層が雪原エリア、11層が火山エリア、12層が遺跡エリアと言う作りだった。
「とりあえず、昼食を済ませてしまおう」
「食事の用意できましたよ~…」
「ナイスタイミングだよ、エリリン」
「旦那様に褒めていただきました~…」
「じゃあ、食事を取ったらマリガンダンジョンに行こう」
昼食は、庭のテラスで食べることにする。
サンドイッチにコーンスープに厚切りベーコンとバランスの取れた食事だ。
ワイワイガヤガヤと食事を取っていると、また視線を感じた。
「…誰かいるな」
視線の感じる場所に『当たり』をつける。
一瞬だった。
シーラが草むらから捕まえたのは…。
「離せ―――っ」
「お…女の子?」
「ふむ。獣人やね」
暴れる獣人の女の子。
…どうやら、猫の獣人らしい。
ボロボロの服に泥だらけに汚れていたので臭いがキツイ。
まずは、お風呂かな。
「とりあえず、お風呂に入れよう」
「…お腹、空いた……」
「メシが先か……」
スゴイ食いっぷりだった。
皿に盛られた料理があっという間に空になった。
「…風呂から出たら、また食わせてやるから」
「…本当?」
「約束だ」
「じゃあ、ワタシが入れてやるよ」
そう言って、イザベラは獣人の女の子を風呂場に連れていく。
「エリリン。食事を作ってあげて」
「はいです~」
「シーラとアリエッタはあの娘に合いそうな服を買ってきてくれるかい」
「ウチにお任せじゃ」
「主よ。任せてくれ」
それぞれ俺の指示に従って迅速に動く。
俺は、テラスでゆっくり食後のコーヒーを嗜むのだった。
「あー…コーヒーうめ―――」
1時間後、何故か冒険者の着るレザー系装備に身を包んだ獣人の少女がイザベラに連れてテラスに来た。
少女の到着を見計らったように、エリリンが食事を持ってくる。
「ゴハン!」
飛びつくように食べ物にかぶりつく少女。
落ち着くまで話は聞けそうにもないな。
「…落ち着いたか?」
「みたいやね」
「それにしても…食べたな……」
お腹をさすっている少女を見て満足したのだと分かる。
アンリエッタも感心していたが、本当によく食べたものだ…。
「君、名前はあるのかい?」
「…レム」
「レムか。親御さんはいるのかな?」
「トトとカカ、殺された…」
「……そうか」
『殺された』ってことは、盗賊にでも襲われたのかもしれないな。
身寄りがない以上、どうしたもんか…?
「主よ。どうする?」
「どうする…か」
「主が決めるがよい。ウチはそれに従うえ」
「放ったら、間違いなく『奴隷落ち』になるだろうけどねぇ…」
「旦那様~…」
救うことは簡単だけど、それはなんか違う気がする。
ただ養うんじゃ、彼女のためにならないんじゃないだろうか?
それに、俺たちは所詮は冒険者。1つの場所に留まれるような生き方はできない。
特に俺には世界中を周る理由があり、しかも仕事によっては何日も家を空けることも多くなる。
どう見ても家事ができるようには見えないし、買い物に行って無事に帰ってこられる保証もない。
…だからか?シーラとアンリエッタが冒険者の着る服を買ってきたのは。
まったく、出来過ぎる仲間たち…いや、家族か。この素晴らしき家族の思いに応えられないようじゃ男失格だよな。
「レム。悪いが君を救うことはできない」
「……」
俺の言葉にレムが無言で頷く。
落胆ではなく、分かっていたという諦めの表情だ。
「でも…」
「え?」
「君を『仲間』…いや、『家族』として迎えることならできる」
「か…家族?」
「そう。家族だよ。家族とはどんな時も離れることなく一緒に行動するもの…。つまり、俺たちの家族になるってことは、冒険者になる必要がある。そして自分の身は自分で守れるようにもならなくちゃいけない。『守られる者』じゃなく、『守り、守れる者』になる覚悟はあるかい?」
「強くなれって…こと?」
「平たく言えば、そう言うことかな。でも、選ぶのは君だけどね」
これが俺が出した結論。
ただ『生きている』と言うのではいけない。
生きるために必要なのは、どんなに辛くて立ち止まる時があっても、自分の足で立つことを…歩き続けることを止めない覚悟なのだと。
それは強制して出来ることではない。自分で答えを出さなくちゃいけないことだから…。
「…アタシ、強くなりたい。みんなと家族になりたい…」
「…そっか。ようこそ、レム。俺の名前はルークだ」
「これからよろしく頼むぞ、レム。私の名はアンリエッタだ」
「シーラじゃ。よろしゅうな」
「エリリンです~。頑張りましょう~」
「イザベラよ。仲良くやりましょう」
「レムは、レムなのです。よろしく…なのです」
新し家族が2人も増えた。
これからも増えるだろうが、今はただ喜ぼう。
出会いは運命。大切な絆の繋がりなのだから…。