第1章・グロウヴァル大陸編①『大商人・アルドリアとの出会い』
ロイレンの村を旅立って1ヶ月が経った。
ブレアドの町・・東の外れに一軒家を持ち、『パーティ仲間』とともに暮らしている。
もちろん、『パーティ仲間』は元々は全員『召喚カード』だった3人である。
と言っても、暮らすようになったのはほんの3日前のこと。
究極極大破邪魔法『エクスヴァーン』の習得に『悪霊系モンスター』の討伐数1000体というクエストを達成できたのはまさに幸運であった。
しかも、その間に2枚の召喚カードも見つけたのは幸運というにはあまりにも出来過ぎていた。
まあ、1枚はダンジョンの奥深くでもう1枚は壊れた遺跡の内部から見つけたのだった。
まあ、どちらも『ゲーム時』に曰くつきのあった場所であった。
ダンジョンには『秘密の通路』が、壊れた遺跡には『隠された地下通路』があるというものであった。
実のところこの2つは『2つ』ではなく幾つか存在し『本物』に行きつくのは0.01%と言われている超難関クエストだったのだ。
これを突破した者にのみ『宝』が手に入る・・という噂は本当だったということだ。
それでも、見つけるのに1週間かかりハズレては『悪霊退治』を繰り返し気づけば1000体を超えていた・・と言うなんとも『出来過ぎた』ものであった。
それでも、冒険者ギルドではすでに『有名人』と化した俺の行動など誰も不思議とは思っていないのである。
まあ・・やり過ぎた自分にも責任はあるのだが・・・。
そう言えば、色々やらかしたよなー・・。
ゴブリン狩りに行って『オーク退治』をして驚かせ、
薬草を採取しに行って採取難易度Aの『人食い薬草』を殺さずに生えている『薬草』部分だけを採取することで手に入る『高薬草』を取ってきて驚かせ、
迷子探索で、『ジャガの森』の奥深くにいた『ネクロマンシー』を退治して多くの子供たちを助けたり・・とこちらが意図していないところで目立ってしまい、あっという間に名が売れたというわけだ。
まあ・・名前だけでなく冒険者ギルドではもはやトップクラスの稼ぎ頭となっているため『やっかみ』やら『妬み』やら・・その上、絶世の美女を3人も侍らしている・・など男冒険者の中で『悪名』が轟いている・・らしい。
なかでも、象獣人族の冒険者『ダダン』には普通に命を狙われていたりする・・。
男の嫉妬は直線的なので分かりやすいのが救いだが・・。
・・さて、あらかたこの1ヶ月の事情を話せたところで現在の話しに戻るとしよう・・。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「主あるじよ・・。今日の予定はどのようになっています?」
「とりあえず、必要な物は揃ったし久しぶりにクエストでも受けようかと・・」
俺に話しかけてきたのは紅蓮の瞳と髪が特徴的な『聖騎士・アンリエッタ』だ。
質実剛健を地でいく性格で、普段は凛々しく可憐と言った感じだが、実は可愛いモノが大好きな一面を持つ。
今は武装してないので余計に髪の色などが目立つ。
「ほう・・。なれば、『ウチ』の能力ちからをみせてやろうぞ」
「あまり『派手』なことはしないでね」
物騒ともとれる言葉を吐くのは『覇王・シーラ』。
140センチと小柄な体格だが年齢は100歳を超える『不老不死』の『最強種』で、お尻まで伸びた黒髪が艶やかな『和装美人』。
しかしけっして『大和撫子』ではない。『唯我独尊』的に我が道を行く・・と言う性格の持ち主。
「は~い。朝食出来ましたぁ~」
「ありがとう、エリリン」
「旦那様に喜んでもらえてエリリン幸せですぅ~」
舌足らずな口調の戦うコックさんこと『至高のシェフ・エリザベート』。
普段はおっとり温和な性格だが、食材(モンスターや獲物)を前にすると狂喜のごとく捌いていく。
エメラルド・グリーンの髪と右目が赤・左目が青のオッドアイの持ち主。
自分のことをエリリンと呼び、周りにも呼ばせている。(強制)
「じゃあ、朝食をいただこう。・・いただきます」
「「「いただきます」」」
4人揃っての食事は賑やかくも騒がし過ぎない心地よい空間。
別に急ぐこともないのでゆっくりと食事を済ませて食後の香茶を嗜み、冒険者の装備を武装する。
俺はレザー系のアーマーを着込みローブに近いマントを羽織る。
腰には鋼のロングソード、懐には伸縮自在のマジックロッドを持っている。
俺の戦闘スタイルは中距離ミドルレンジでの臨機応変タイプ。
アンリエッタは召喚カードの時と同じ白いプレートアーマー(全身鎧)に宝飾が施されたロングソード『宝剣・クレッセント』を持ち、後装備として鋼の大盾を持たせている。
近接守備が主体の戦闘スタイルにさせている。
シーラはめっちゃ軽装で武道着に近い服装である。あえて素手で戦うのはダメージ浸透の加減をするためである。(普通に戦うと塵化してしまうので)
戦闘スタイルは近接戦闘オンリーである。
エリリンは俺と同じレザー系アーマーを着込み、投げナイフを常に50本・両腰の脇に下げた入れ物にに仕込んでいる。
元々は急所をひと突きで獲物を狩ることを目的にしたもので、戦闘では後方支援を主体としている。
「さあ、出かけよう」
「主は私が守り抜こう」
「いやいや、守る間もなくウチが全部倒すんよ」
「獲物はエリリンが全部捌くですぅ~」
「ハ、ハハハ・・・」
気合の入れ方は3者3要で、でもその中心にいるのは『俺』なんだよね。
やっぱり、ゲーム時同様で召喚術士を愛するようになっているのかもしれない。
「あ、あのさあ・・ここはゲームとは違うわけだから『設定』を守る必要性はないんだよ?」
「確かに、その通りです。しかし・・」
「好きになるのもウチらの勝手やんなぁ」
「そうですぅ~。救ってもらえたから好きになったんじゃないですぅ~。好みの男の子だったから好きになったですぅ~」
「あ、ありがとう・・」
それはそれで恥ずかしいが・・。
見た目は14歳だが中身は40歳のおっさん思考だからなぁ・・。
なんか、騙しているようで・・素直に喜べないんだよなぁ。
「と、とりあえず冒険者ギルドに行こうか・・」
家からギルドまでは1時間はかかる距離があるため、移動の魔法陣を使っている。
移動場所は冒険者ギルドの裏路地。
以外もこういう場所の方が見つからないようだ。
「今日は穏便なクエストを選ぶか・・・」
「いつも穏便なのを選んでいるのになぜか大ごとになっておるのう・・」
「それを言わないでよ。不可抗力で巻き込まれるだけなんだからさー・・」
4人でクエストを受けるようになって3回・・・実力を見るためにバルバロックを10頭狩ってくると言うクエストを受ければバルバロックの群れが農場を襲うのに出くわし掃討することになり、遺跡荒らしの調査に出れば大盗掘団・ハゲタカと鉢合わせしてしまい討伐することに・・。
極め付けが大商人・トバールの護衛をして何故か裏取引の現場を取り押さえることになり、謀反を事前に防いだとして王国から勲章を貰ったのだ。
その時、恩賞として金貨1000枚を褒美に貰い家を買ったというわけだ。
「よぉ!ルーク、朝から死んでみるか?」
「・・ダダン。朝から殺意満々だな?」
ギルドの入り口の前で、象獣人のダダンがハンマーを振るってくる。
俺は慌てることなくかわすと、ハンマーは勢いのまま地面を抉った。
「不埒者っ!」
「――ハグッ!」
アンリエッタの膝がダダンの股間にヒットし悶絶する。
この一連の流れも当たり前になりつつある。
「・・パーティ『アーク』の皆さん、おはようございます」
「おはようございます、シオンさん」
「今日はどのようなクエストを受けられますか?」
「できれば俺たちだけでノンビリできるのがあれば良いなー・・と」
「そうですね。でしたら・・『物資の搬送』のクエストがありますね」
ギルドの受付嬢の1人であるシオンは、ダークブラウン色の髪にオレンジかかった瞳が特徴的な女性である。
俺がこの町で冒険者登録した時からの仲である。
俺がこれまで起こしたことに対して処理をしてもらった経緯があり、何かと面倒をかけている。
だからだろうか?俺の願い事を極力叶えてくれようとしてくれる。
まあ、問題を起こしてほしくないという本音もあるだろうけど・・。
「14日以内に隣町に小麦粉を10樽分を運ぶ・・か。結構、余裕があるな。受けてみるか・・」
ブレアドの町から隣町の『グレディアの町』まで10日もあれば余裕で着く。
しかも、一度行ったことのある町だから魔法陣も設置してある。
これなら何事もなくクエストをクリアできるだろう。
「じゃあ、このクエストでお願いします」
「では、この書状を持ってアルド商会に行ってください」
「はい。確かに受け取りました。じゃあ、行ってきます」
アルド商会は、ブレアドの町では『2番目』に大きな商人のお店であった。
・・が、それまで1番だったトバール商会が謀反に手を貸したとして死罪になったので、今やブレアド1の商会に伸し上がったのだ。
ある意味、棚ぼたとはいえルークのおかげでもあるのだが、アルド商会が知るはずもない。
「アルド商会って、どんな奴がやってるん?」
「知らないな。商人はトバールで懲りていたし・・」
「あー・・王国に謀反を起こそうとしてたあの豚オヤジやなぁ・・」
「あの下品な男ですね。死刑になって当然です」
そう言えば、トバールは3人を舐めまわすように見てたよなぁ・・。
気持ちは分からなくもないけど・・あからさま過ぎてこっちが引くほどだった。
トバールには3人の子供がいたが、長男と次男はトバールと同罪とみなされ死刑になり、長女のメリーアはトアインの町の貴族・ティル家に嫁いでいたので難を逃れた。
ティル家は貴族ではあるが忠誠心高い騎士上がりだったので謀反には関わっていなかったのが幸いしたのだ。
もっとも、トバールはティル家から王国の内部事情を聴きだそうと画策していたみたいだが・・死刑となった今となっては意味もないことである。
トバールたちにとっての誤算は、ルークたちをただの冒険者風情と舐めていたことだろう。
バレたとしても多勢に無勢でルークたちを始末するつもりだったのだが、一騎当千たる彼らに適うはずもなく敗れたのである。
「ここがアルド商会か・・」
「・・こじんまりしてやんなぁ・・」
「ですけどぉ~・・お店は人だかりで一杯ですぅ~」
「繁盛してますね」
店自体はコンビニくらいのサイズしかなく、客も30人も入れば店員3人では捌ききれない賑わいになるほどだ。
多分だが、トバール商会が無くなったことで思った以上に繁盛しているのだろう。
「裏口から入ろう・・」
店の裏に回ると、これでもかと言うほど荷物が置いてあった。
「あの、冒険者ギルドから来ました」
「おう。ご苦労さん。ちょっと待ってくれるか?親方を呼んでくっからよ」
「分かりました」
荷物を片付けていたゴッツイおっさんに言われ、俺は『親方』を待つことにする。
店の裏手の倉庫に入りきらないほどの荷物に圧倒されていると、さっきのゴッツイおっさんが戻ってくる。
後ろにいたのは『女性』だった。
「アタシがこの商会を仕切ってる『アルドリア』だ」
「冒険者ギルドのクエストを受けてきましたルークです。こちらにいるのは俺のパーティの仲間です」
「アンリエッタと申します」
「シーラじゃ。よろしゅう」
「エリザベートですぅ。よろしくお願いしますぅ」
「ほぅ・・。キレイどころを3人も連れているとは周りから恨まれてるんじゃないかい?」
「ハハ・・・まあ、慣れました」
「・・ふーん。なかなか良い男じゃないか。そんじゃ、仕事の話に移るか・・こっちだ」
アルドリアに言われるままについていく。
倉庫の中には大樽が山のように積んであった。
「この麦樽を10個、グレディアの町のアルド商会の支店に運んでほしいんだ」
「14日以内ってことだけど、何か理由でも?」
「いや、余裕を見てって意味さ。早く運んでもらえるならそれに越したことはないよ」
「そうでしたか・・。ふむ」
まあ、問題なく運べそうで安心した。
「馬車の手配もしなくちゃならないし、いつ運んでくれるんだい?」
「明日にでも運べますが・・」
「仕事が早くて助かるよ。報酬だが、金貨10枚でどうだい?」
「多過ぎじゃないか?」
「もちろん、追加の仕事を頼みたいんだけど・・断らないわよね?」
「・・一応、聞いてからで良いですか?」
ニヤリと笑うアルドリアにちょっと引き気味の俺。
ふと、視線を上げると壁に『あるモノ』を見つけた。
「あ、あれは・・・」
それは壁に飾られた『召喚カード』だった。
「ん?なんだい。うちの守り神をジッと見て」
「ま、守り神?」
「ああ・・。アタシのオヤジが残してくれた店の守り神さ。コレを見つけてからお店が繁盛するようになったんだ」
「そ、そうなんだ・・・」
召喚カードにそんな効果はない。
多分、アルドリアさんのオヤジさんの気のせい?・・いや、願掛けみたいなもんなんだろうな。
そうなると『くれ』と言うのは難しいなぁ。
「欲しそうな面だな。気に入ったのか?」
「え・・っと、まあ・・そうですね」
嘘を言ってもしょうがないので答える。
そうすると、アルドリアが考えるような仕草を見せる。
「アンタらの働きいかんではくれてやってもいいんだが・・・」
「ほ、本当ですか?」
「見ての通り、今アルド商会は忙しくてな。本店もままならない状況にある。とにかく人員が足りず、その上支店のも同じ状況になりつつあってな。嬉しい悲鳴ではあるが、このままでは信用問題にもかかわる事態になるだろう。そこで、物資の搬送が一番の問題と言うわけさ・・」
「なるほど・・。倉庫に荷物が溜まっているのもそれが原因の1つってわけか・・」
「主・・」
「ん?」
アルドリアと話していると、アンリエッタから横やりが入る。
俺は、一度振り返りアンリエッタたちの下にいく。
「どうしたの?」
「先ほどから話を聞いておったが・・ここはおもいきって『契約』を結んでみてはどうやろうなぁ」
「・・『契約』・・?」
「どうせなら、倉庫の置くと支店の倉庫の奥に『移動の魔法陣』を設置してみては?ということです」
「・・・・・」
なるほど・・。
移動の魔法陣はこの世界ではポピュラーな魔法だ。
しかし、使えるのは『魔法使い』と魔法使い系統の職業のみ。
だからこそ、この魔法の価値は高く『専属』になってお金稼ぎができるというわけだ。
「条件次第では悪くないかもな・・」
「召喚カードだけじゃ不満なん?」
「いや、取引の条件じゃなくて仕事内容の条件次第って意味さ。俺たちにも目的はあるし、ひっきりなしに仕事を受けるわけにもいかないだろう?」
「確かに・・毎日搬送の仕事・・と言うわけにはいきませんね」
「そういうこと」
話しを終え、アルドリアに向き合う。
「そちらの条件をお聞きしても良いですか?」
「そうだねぇ・・。3ヶ月間、こちらの仕事を優先してもらえれば・・・もちろん、頼んだその日に・・と言うようなことはしないさ」
「こちらにも、どうしても譲れない日があるとしたら・・」
「事前に分かっているなら言っといてもらえればいいさ。こっちも予定は早めに立てたいしね」
「そういうことでしたら、その条件お受けしたいと思います」
「良いのかい?」
「はい。そこで1つお願いしたいことがあるんですが・・」
「なんだい?報酬に色でもつけてほしいのかい?」
「いえ・・倉庫の端でいいので『移動の魔法陣』を設置させてもらいたいと・・」
「・・アンタっ!魔法使いだったのかい?・・ったく、条件を承諾してから言うとか・・商人相手にやるじゃない」
怒る様子もなく、どこか嬉しそうな笑みさえ浮かべるアルドリア。
交渉事ってのは手の内を明かし切らないのが定石だしね。
「とりあえず、荷馬車が通れるくらいの広さは確保してもらいたいんだけど・・。あと、グレディアの町のアルド商会の倉庫にも魔法陣を設置したいから誰か話せる人と行きたいんで・・」
「アタシが一緒に行くよ。おい、ローデン。荷車に小麦を10箱積んでおきな」
「了解です、姉御。おい、お前ら急いで荷車を用意しろい!」
「「アイサ―!」」
慌ただしくなったところで、倉庫の一角に通される。
角奥のため広さも目立ちにくさも十分である。
床面に手を置き、俺は『呪文』を唱える。
「・・空間を飛び越えし、古の印をここに描かん!『マジックサークル』!!」
言葉とともに光が円を描き魔法陣の文様を造る。
魔法陣の大きさは作る者が決められるので、俺は荷馬車が入れるほどの大きさで作る。
その時に心の中で『アルド商会・倉庫1』と記録する。
「それじゃあ、向こうに行こうか」
グレディアの町の少し外れ、木々が生い茂る場所に俺たちは移動した。
「通行手形はあるのかい?」
「ええ。ちゃんとあります」
「ほう・・。結構儲けているようだな」
「まあ・・それなりにですが・・」
通行手形は通行証と違い1年間クロウヴァル大陸内の都市や町の入出に有効な王国印が付いた札である。
通行証が『切符』みたいなものだとすれば、手形は『定期券』みたいなものだ。
しかも1つの大陸の全ての通行が可能と言うことは値段もそれだけのモノと言うことだ。
大概は大商人や貴族、領主や町長などある程度の地位のある者にしか持てないほど高額なものなのだ。
まあ、俺の場合は国王から直々に貰った『パーティ兼用手形』であり期限も無期限と言うものなのだが・・。
「じゃあ、グレディア支部の倉庫に行くぞ」
ある意味、本編の始まりです。
女商人・アルドリアとの出会いがどのような運命を運んでくるのかご期待ください。