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おっさん、旅立つ

弟と妹が生まれてから10年の歳月が経った。

弟の名前は『エルク』、妹の名前は『エリン』だ。

2人とも、兄貴である俺の『英才教育(と言う言葉のチート)』であらゆる意味で俺以上の『神童』に育った。

いやー、子供の好奇心って侮れんわ。

まあ、素直な良い子に育ったので『悪目立ち』はしていないのが救いだが・・・。

両親はそういう意味ではとっくに諦めた様子で、俺たち3人を良い意味で放置してくれている。


エルクは9歳で狩人としてデビューし、初めての獲物で『ロックボワ』と呼ばれるRレア指定の怪鳥で村人を驚かせた。

エリンは、同じく9歳の時に村の飼育する『ベルヤギ』を襲うモンスターのゴブリン5体を魔法であっさり倒しこちらも村人を驚かせた。

もっとも、俺は7歳で村襲撃イベントでモンスターを一掃したことがあったので、2人が俺の弟たちと知ると『ルークの弟たちなら・・・』みたいな感覚で終わることが多かった。

正直なところ俺自体は必要に迫られない限り目立つことはしていなかったのだが、その『必要に迫られた時』と言うのが逆に目立ったのかもしれない・・。


まあ、すでに村人たちも感覚がマヒし始めているのか俺たちのことフツーに受け入れている。

そうなった要因は、俺が職業獲得のためにあらゆる仕事をいろいろ手伝ったことがあるだろう。

農業や家畜の飼育、木の切り出し、炭作り、薬草採取や鉱石採取など生活のために仕事しているところへ、喜んで手伝いをするのだから嫌われる要素はなかったのだ。

それは、弟たちも同じだったのでありがたがられても嫌われるようなことはなかった。


ちなみに、俺や弟、妹はレベル上げもしていた。

無論バレないように森に行って薬草採取や鉱石採取の合間にである。

そんなんで、エルクはLv.5まで上がっていて職業は『剣士』だったので剣士スキルを2つ覚えている。

エリンは同じくLv.5で職業は『魔法使い』。6属性の初級魔法以外に火と土のLv.2の呪文も使えるようになった。

俺は、Lv.10で職業は『魔法使い』、サブ職業1は『剣士』、サブ職業2は『狩人』に設定してある。

魔法使いのLv.2呪文は全部覚え、剣士スキルは3つ、狩人スキルは3つまで覚えている。

もっとも、いくつかの職業のスキルも覚えたりもしたが・・。


「兄ちゃん。そろそろ『サブ職業』付けてもいい?」

「ワタシも、ワタシも~」

「それは10歳になってからって約束だろう?」


面倒を見てきたことで2人には俺の持つ『能力』のことを感づかれてしまい、まあいいか・・とばかりに色々と教えたのだ。

もちろん、隠すところは隠して。


「そう言えば、兄ちゃんあと3日で14歳の誕生日だ」

「お祝いしないと~」

「そっか・・もうそんな時期か・・・」


なんだかんだで10年が経ち、気づけば14歳。

そろそろ・・かもな。


「ルーク、エルク、エリン」

「「父さん(パパ)」」


帰ってきたブレン。

ルークたちを見つけて声をかけたのだ。


「「おかえりなさい」」


エルクとエリンはブレンに抱きつく。

こういうところはまだまだ子供だ。


「今日の獲物は、バルバロックか。相変わらずの腕前だな、ルーク」

「まあね。でも、誕生日には食べられそうもないよ」

「そうだな。1週間は置かないと旨味が出ないしな」


ロックボワは体長2メートルの黒羽の怪鳥で、大きくなると体長5メートルにまでなると言われている。

バルバロックは『水牛』のような風体の4本角の牛で、気性が荒く自分のテリトリーに入ったモノを全力で襲うほど。皮は高級品として扱わられ、中身も余すところなくすべて食べられる。


「でも、早いとこ捌いて臓物は今日中に食べたほうが良いな」

「骨はスープの出汁にするのが1番だよね~」

「じゃあ、さっそく母さんに捌いてもらおうよ」

「おい。慌てて転ぶなよ」

「大丈夫だよ、兄ちゃん」


100キロはあるバルバロックをエルクとエリンが運んでいく。

――ったく、本当に規格外の2人だ。


「・・ルーク」

「どうしたの、父さん?」

「エルクとエリンを寝かしつけたら話がある」

「・・分かった」


親父の真剣な表情に、俺は頷いて応えた。


夕食を終え、しばらく3人で勉強をしてお風呂に入ってから2人を寝かしつける。

まだまだ子供なので風呂上りにはもう瞼が落ちかけていたので寝かすのは簡単だ。

かくいう俺も体子供なので少々眠気を感じていたが・・。


「来たか、ルーク」

「うん。母さんも一緒?」

「ええ。ちゃんと話をしないといけないと思ってね」


・・どうやら『両親』は気づいているみたいだな。

まあ、明後日には話そうかと思っていたし別にいいか・・。


「お前、今度の誕生日を迎えたらココを出ていくつもりなんじゃないか?」

「・・うん。正確には誕生日の次の日の朝にだけどね」

「と言うことは言っていくつもりだったのね?」

「誕生日の前の日に話そうって考えてたんだけどね。このアルディナガルの世界を見て周りたいって思ったんだ」


せっかく神様がゲームの世界を『リアルな世界』として創ったのだ。

冒険したいと思うのもムリないだろう?

しかも、今の『俺』は『ゲームの頃のこの世界』を『熟知』しているしな。


「世界を周ると言うことは、『冒険者』になるつもりか?」

「うん。それが、1番手っ取り早いしね。別にこの村が嫌になったわけじゃないから頻繁に帰ってくるつもりだし・・とりあえず3ヶ月後のエリクとエリンの誕生日には帰ってくるからね」


もちろん、両親の誕生日や村でのお祭りの時期にも帰ってくるけどね。

こうも簡単に言えるのは『魔法使い』の熟練度を上げると覚えられる『場所移動』の魔法があるからだ。


『場所移動』の魔法は、一定の場所から場所に移動できる魔法で、使い方は簡単。

『移動の魔法陣』を設置することで、魔法陣内を好きに移動できるようになるのだ。

また『移動の魔法陣』は設置した者にしか起動できないため、他者が使う場合は設置者と一緒に入る必要がある。

魔法陣は普段設置者以外には見えないため邪魔にはならないのが利点だが、自由にどこにでも行けるわけではなく、魔法陣の設置した場所内での移動しかできない。

リスクがあるとすれば魔法陣設置時のMP消費量だろう。魔法陣設置にはMPを24ポイント必要なのだ。

そのうえ、1回の移動に使うMP消費量は12ポイントも使うので一般的ではないと言うわけだ。。


「・・どうやら、その場しのぎの嘘と言うわけでもないみたいだな」

「嘘を吐く意味がないしね。一通り見て周ったら村に落ち着こうと思ってるから」


正直、退屈ではあるだろうがスリルが欲しくて冒険者になりたいわけじゃない。この村の気候も好きだし、村人たちの人柄も好きだ。

まあ、言ってみれば好奇心というヤツである。

ゲームの世界を投影した世界とはいえ、ここに住む人々にとってはリアルな世界なわけで・・。

単純にどこまで『ゲーム要素』があるのか興味があったのだ。


Lvに関しても、今の俺のレベル10と言うのは、ゲーム時では初心者の最初の難関的レベルで、ここからレベルを上げるには『ある条件』が必要となる。

別エリアに指定された場所でモンスターを倒すことだ。

このアルディナガルの世界には『エリア設定』がされている。エリア範囲は細かく設定されていて、『人が1日で歩ける距離』がエリアはごとなっている。

また、エリアの中心は村や町、都市や遺跡に名所などが大まかなエリアの分布に指定されていて、その他の部分は『距離』的な意味でエリアごとに認識されているのだ。


とは言っても、この2つの理由は実のところ村から出なくても達成するにはそれほど難しくはないモノだ。

場所移動の魔法があれば時間さえかければ世界を周ることは村にいてもできなくもないし、レベル上げも魔法陣が作れた時点で別エリアに行けるわけで・・。

では、どうしてそうしないのか?

実はこれから話す『理由』こそが『本当の理由』というヤツだ。

それは、森で見つけた『あるモノ』が関係している。

それこそ、ゲームの頃に多くのユーザーを虜にした『ある職業』に『必要』な『モノ』であった。

その職業になりたいというのもあるが、森で見つけた『モノ』を集めるために世界中を周りたいというのが本音であった。


「じゃあ、とりあえず『ブレアドの町』を目指すのが良いだろう。あそこは冒険者ギルドもちゃんとあるからな」

「そうね。ここ、ロイレンの村からも近いし、最初の拠点にするにはいいわね」

「うん。そうするよ」


ある程度は了承してくれたのだろう。

アドバイスを与えてくれる両親。

正直離れるのはツライものがある。

それほどこの家も、家族も村にも愛着があるのだから・・。


話を終えて、部屋に戻ると明かりを消す。

部屋は月明かりだけが灯っている。

ベッドに寝そべり俺は『ソレ』を手に持って眺めていた。

『ソレ』とは森で見つけた『あるモノ』・・・『召喚カード』であった。


『召喚カード』・・・『人型のカード』で、英雄や勇者などをモチーフにした絵柄で、ある特殊な職業にしか扱えないものである。

しかも、その『特殊な職業』になるためにまずは『召喚カード』を見つけることが『第1条件』になる。

次の条件が、『レベルを20以上』にする必要がある。

その次の条件が『魔法使い』と『治癒術士』の熟練度を700以上にする必要がある。

最後に、『魔法使い』で覚えられる魔法の1つ・・・究極極大破邪魔法『エクスヴァーン』を覚える必要があるのだ。

そこまでしてやっと得られる職業・・・『幻の職業』の1つ『召喚術士』なのである。


この『召喚術士』は術士系の上級職にある『召喚士』とは異なる。

『召喚士』は『召喚獣』と呼ばれる『幻獣』と契約を結ぶことでなれる職業だが、『召喚カード』を召喚することはできない。逆に『召喚術士』は『召喚獣』を呼び出すことはできないのだ。


では、どうして『召喚術士』は『幻の職業』と呼ばれるのか?

それは、『召喚カード』を『実体化』することができる能力があり、また見つけた者の性別と反対の性別のカードしか手に入らず、いずれも絶世の美女(美男〉揃いで召喚した者の『お嫁さん(お婿さん)』になるようになっているのである。

『召喚カード』は13枚+特別なカードが1枚の計14枚が世界中のどこかにあるのだ。

もっともそのうちの1枚は俺の手の中にある・・。


「・・『聖騎士・アンリエッタ』かぁ」


真っ赤に燃えるような紅蓮の髪と瞳が印象的な凛々しい立ち姿のカード。

逆に真っ白な鎧と宝剣が眩しい。

お嫁云々はともかく・・カードになっている彼女たちを開放できるのは俺だけだろうから・・。

なんで神様がこのカードまで創造したのか分からないけど・・な。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



誕生日当日。

何故か家族でこじんまりと思っていたのに村総出で祝われることに・・。

どうやら両親が俺が明日旅立つことを村長に言ったことでこうなったらしい・・。


「諸君。わが村の神童・ルークが明日、この村を旅立つことになった」


村長の言葉に、周りの村人たちがザワつき始める。


「みんなの気持ちは分かる。しかし、ここは彼の旅立ちを快く見送ろうではないか。ルークの才能を世界に轟かせることこそわしらの使命ではないだろうか?」


うわー・・。

村長、スゴイ熱の入れようだな。

みんな、感心して聞いてるよ・・。


「んだんだ。ルークの才能は世界でも役立つさー」

「だね~。ばあも前から思うとったんよ・・。ルークは世界に出て世の中お役に立つ御子だと・・」

「村だけで恩恵を得るには、ルークには小さ過ぎるな・・」

「ここはルークの成長のためにも、喜んで送りだそう!」


以外にも村人の反応は上々で、俺の旅立ちは好感触になっていた。

無論、寂しがる者や悲しむ者もいたが概ね俺が村を出ることには肯定的だった。


「みな、賛同してもらって礼を言う・・。では、ルークの誕生日を祝う前にルーク本人から言葉を貰おう」

「固い挨拶は抜きにして・・・突然のことでみんなを驚かせたことを謝らせてほしい。本当に俺の身勝手な行動を許してもらえて感謝します。両親とも話しましたが、祝い事や村の行事期には必ず戻ってくるので安心してほしい」


俺の言葉を聞き、安心する面々が増えていく。

嘘は1つも言ってないので、そういう雰囲気が伝わったのだろう。


「では、ルークの14歳の誕生日を祝って乾杯!!」

「「乾杯~!!」」


持っていたグラスを掲げ、近しい者とグラスを重ねあう面々。

収穫祭以上の盛り上がりを見せたのには『立食パーティー』と言うのが大きいだろう。

好きな食べ物を皿に盛って食べるというのは思いのほか好評だったらしく、またバリエーションのある品数が女性陣の心を鷲摑みにしていた・・(料理の半数以上は俺が作ったものだが・・)。


「悪かったな。思った以上に大事になっちまった」

「別に父さんのせいじゃないよ。それに、俺のためにみんなが集まってくれたことが嬉しいんだ」

「そう言ってもらえると助かるよ。母さんなんか、慣れないことで四苦八苦しているからな」

「しょうがないよ。母さん、普段は家周りに家事仕事が中心だし・・。井戸端会議くらいでしかみんなと話さないしさ」


仲が悪いとかそういうのではなく、この村の主婦はそんなもんである。

仕事好きと言うか働き好きと言うか無駄話よりも仕事を優先する。

流石は『開拓組』だけのことはあると言えよう。


「日も落ちてきたし、そろそろお開きの時間だな・・。では、ルークに誕生日プレゼントを贈ろう!」

「え?いや・・そんな、悪いよ・・」


俺の言葉も空しくプレゼントが積み上げられていく。

つーか、各家1個ずつだとしても50個近くあるぞ・・。

プレゼントと言ってもここは開拓の村。

プレゼントにバリエーションがあるわけじゃない。

中身の想像はついていた。

それでも嬉しいものは嬉しいのだ。


最後に特大のケーキ(俺作)を食べてお開きとなった。

家に戻ると家族からプレゼントを貰い村人からもらったプレゼントと一緒に開いていく。


村人のプレゼントの半分以上が『本』だった。

と言ってもこの村で本は貴重品に位置付けられる。

しかも、ダブってる本が1つもないのがスゴイ。

まあ・・全部同人誌並みに10ページくらいしかないのが不満ではあるが、持ち運びは楽ではある。

本の種類も『童話』に『神話』、『伝承』などバラエティに富んでいて退屈しなさそうだ。

他には・・武器系・防具系の装備品に加え、薬草や毒消し草などがあった。

両親からは支度金を・・これは地味に嬉しい。

エルクとエリンからは『マナストーン』と呼ばれるMP回復をしてくれる鉱石アイテムだった。

しかも1個で使用回数3回というのがお得感があっていい。

でも、この鉱石はそう簡単には見つからないレアアイテム。

二人の思いをズッシリと感じる。


この日は遅くまで3人で語らうのだった・・。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



旅立ちの朝―――。


俺はプレゼントで貰った装備品を身に付け、リュックには本やアイテムをギッシリと詰め込み、大事なお金は革袋に入れて胸にしまい込んである。

準備は整った。


「さあて、行くか・・」


自分の部屋を出て玄関に向かう。


なんだかんだで14年。

俺はこの最高の村で好きに生きてきた。

こんな自由はきっとこの先にはないだろう・・。


俺は知っている・・『自由』というのは『好きな場所で生きられる』ということだと・・。

しがらみを捨てて、安穏とした場所を離れれば一見『自由』に見えてそれは本当の『自由』じゃない。

旅立ちの先にあるのは『責任』だ。

生きて帰ってくるという『責任』・・。

逞しく成長してくるという『責任』・・。

旅立つ理由があるのなら、成し遂げるという『責任』・・。

そこに『自由』など無いのだ。

だから俺は思う。

『自由』を履き違えてはいけない。

『不自由』だと感じる『日常』にこそ『自由』があり、『自由』だと思えた『非日常』こそ『不自由』なのだと・・。


「行ってきます!」

「「行ってらっしゃい」」

「叶えてこいよ。一歩ずつでいいから」

「うん。頑張ってくるよ」


みんなに見送られて俺は村を出る。

森に入ったところで道なりに進まずに脇道に入る。

俺たちの兄弟の秘密の場所に向かうためだ。


「村を出るのに普通に1日かかるからなー・・。時間短縮のために魔法陣を使わせてもらうか・・」


ちょっとズルだけど・・この際、目を瞑るとしよう。


「よし!『村の出口』へ!!」


魔法陣が光り、俺を包むと次の瞬間には俺の視界には草原が広がっていた。


「ここからが本番だな。ブレアドの町まで歩いて1週間。張り切っていくぞ」


晴天の空の下、俺の旅が始まる。

―ルーク― 男・14歳・職業:魔法使い サブ職業1:狩人 サブ職業2:剣士 

Lv.10 HP:127/127 MP:153/153 SP:106/106

攻撃力:67 防御力:89 瞬発力:56 根性力:62 魔法力:97 命中率:71 生産力:65

― 6属性魔法(Lv.2) 治癒術(Lv.2) 剣術(Lv.1) 狩猟術(Lv.2) -

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