表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/20

おっさん、転生する

1歳の誕生日を迎えた朝、今まであった『違和感』の『正体』が明らかになった。

なんとなく感じていた両親に対する達観にも似た感覚、子供ながらに妙な『大人な対応』・・。

こっちは言葉を上手く発生できないが『大人の会話』を理解していた。

何よりも、自分の体を自由に動かせないことに対する不満が止まらないことだ。

特に、オネショが恥ずかしくてしょうがなかったのだ。


「どうなってるんだ?確か地球の記憶は削除したはずじゃ・・」


と言うよりも天界での記憶も残っているのが驚きだった。


「って、俺フツーに喋ってるし・・」


安心したのは使っている言葉は『日本語』ではなく、この世界の言葉だったことだ。


「・・お、何とか立てる。歩くのは――・・無理かぁ」


初めてだしなぁ。これは毎日練習だな。

喋るのは、最初は様子見で親父は『トー』で母親は『マー』でいってみるか。

反応を見ながら慎重に行こう。


「よっ。ほっ」


何度も立っては少しずつ足を動かす。

身体を支えて歩く分にはそれほど難しくなくできる。

だが直立から歩くのは練習が必要だ。


10分もやり続けると体力に限界が来る。

今日はここまでにするか・・。

疲れて寝ていると、母親が起こしに来た。

もう少し寝たいが、変がられても嫌なので起きることにする。

そうだ。試してみるか・・。


「・・・マー」

「えっ?うそ?ルークが私のこと『マー』って・・ブレン。ブレン!」


母親が予想以上に嬉しそうだった。

まあ、これくらいなら『サービス』としていいだろう。


「どうしたんだい?シエリー」

「ブレン。ルークが私のことを『マー』って呼んだのよ」

「何だってぇ!俺は?俺は?」


親父がアップで近づいてくる。

正直ちょっと怖かったが、しっかりとオヤジを見て、


「トー・・」


と言った瞬間、親父の喜びようは絶叫に近かった。


「シエリー!俺たちの息子は天才だーっ!」


ヤベェ・・。

これ以上のリップサービスは止めておこう。

俺は心に固く誓うのだった。


「「1歳の誕生日おめでとう、ルーク」」


1歳の誕生日とは思えないほど気合の入ったお祝い具合に正直引く。

おいおい・。フツーの1歳児にこのお祝いの仕方はないんじゃないだろうか?


家中を装飾され、2段の誕生日ケーキに大量の料理。

やっと離乳食を食べ始めた自分に出す料理ではない。

ケーキもクリームは大丈夫だろうがスポンジは食べにくそうだ。

・・つまり、これらの料理のほとんどは両親が食べるということだ。

早く大きくなりたい・・。


「ルーク。俺からのプレゼントはこれだ!」


そう言って親父がくれたのは『短剣』だった。

1歳の赤ちゃんにくれるプレゼントではない。

使えないし・・。


「ブレン。赤ちゃんに上げるプレゼントじゃないわよ・・」

「そうか?身を守るモノは大事だと思ったんだが・・」


ズレてる・・。

この親父、やっぱどこかズレてる。


「私のプレゼントはコレ。初級魔法書よ」

「・・いや、字はまだ読めないだろう?」

「良いのよ。これから教えていくんだから・・」


この二人、似た者同士らしい・・。

でも、フツーの赤ちゃんならこのプレゼントは確かに無用の長物だが、俺にとっては最高のプレゼントだ。

今から剣術も魔法も学んでいけば『幅が広がる』だろう・・。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


その日の夜、俺の『夢』の中に知っている人物が現れた。


「やあ、ごきげんよう、ルーク君」

「あ、神王・アノン様」

「やっぱり、覚えているようですね」

「はい・・。『全部』覚えてます」

「転生の影響がこういう形で出るとは予想外でしたよ」


なんで笑顔なんだろう?

もしかして・・?


「記憶、消せるんですか?」


そう言うことなんだろうか・・。

と思ったのだが・・。


「無理ですよ。君の記憶は一度削除しました。・・そうですね。分かりやすく言うと『データをごみ箱に捨てた』と言う感じだったんです」

「それって・・実は完全に消去されてないって言っているような・・」

「まあ、簡単に言うとそう言うことになります。魂に刷り込まれた情報を完全に消去するということは『存在』自体の消去を意味しますから・・。そうしたら魂が消えるわけで・・」

「なるほど。だから、『記憶を無かった』と言う風にするしかなかったんですね」


事実として、『記憶の削除』と言う『暗示』をかけて『情報を封印』した。

しかし、別世界への転生と言う今までに事例のないことをしたことで魂に影響が現れ、それが『記憶の封印を解く』と言うことに繋がったのだろう。


「まあ、これも『良い事例』ということでしょう。今後のための参考とさせていただきます」

「それで、俺はどうなるんでしょうか?」

「どうなる・・とは?」

「今のままでいいのかな・・と?」

「良いも何も君は今生きているわけですからね。私はただ見守るだけです。ただ、君が不安になるといけないので会いに来たんですよ。まあ、確認も取っておきたかったというのもありましたが・・」


つまり、最初で最後の確認作業と言うところだろうか?


「君のこれから人生、楽しんで見させてもらいます。自由に生きてください」

「じゃあ、存分に楽しみたいと思います」


俺の言葉にニッコリと微笑む神王・アノン様。

いつまで生きられるかわからないが、自分が納得できるように生きたい。

言ってみれば今回の人生はサービス回のようなものだろう。

だったら、やれること、やりたいことを思う存分楽しもう。


「では、今度会うときは君が死んだときになるでしょうから・・」

「はい・・、では、その時また・・」


変なお別れ方だが、全てを知っているの身としてはこんなものかも・・。

俺は深い眠りに落ちていくのだった・・。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


次の朝から、俺は『行動』にでた。

大人に見つからないようにまず体作りからと立ち歩きのマスターに取り掛かる。

母親から言葉を教わることで、日に日に喋れるようになる・・と演出していく。

2歳の誕生日を迎えるまでには『天才児』と言われるほどになっていた。

まあ、魔法を使ったのはマズかったかもしれない。

が、両親は思いのほか喜んでくれたので良しとしよう。

ただし、他の人の間で使うのは止めておこうと思うのだった。


2歳の誕生日を迎えた朝、新たな能力が身に着いた。

自分だけでなく、他人の『ステータス』が見えるようになったのだ。

それも、ゲーム時と同じようにだ。

まあ、常に見えるわけでなく確認したいと思うと見えるので邪魔にはならない。

それどころか、とても役立つモノだった。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ここで、『ドラゴン・ファンタジー』というゲームについて語ろう。


今でこそ、VRMMO(仮想現実)ゲームが主流となっているが俺が20代のころはYVゲームが主流だった。その中でも『D・Fシリーズ』はRPGでは鉄板ゲームで、世界観だけは変わることなく世代ごとに生まれる『魔王』を倒すという一風変わったゲームだったが、サブイベントの多さに職種の多ささやこだわりのスキルや魔法などで多くのユーザーの心掴んだ。

変わった職種として『生産系』の職業が異常に多く、また普通には絶対に覚えられない職業などやシークレット職種などが人気を支えた。


また、モンスターの種類も豊富で倒すと得られるドロップアイテムの種類も多かった。

これは、生産系職種があるからこそのモノだった。

でも、そのこだわりが逆に多くのユーザーの支持を得られたのだと思う。


特にユーザー泣かせと言われた職業があり、攻略本を使っても0.1%しか獲得できないという幻の職業が多くのユーザーを熱狂させた。

自慢じゃないが、俺はその幻の職業を獲得した一人でもある。


その他にも『熟練度システム』があり、これも職業を獲得するのに必要なシステムである。

通常の熟練度はモンスターを倒した数と、使った武器や魔法などで熟練度が上がっていくのが普通なのだが、このドラゴン・ファンタジーでは、素振りや魔法の空撃ちでも熟練度が上がるのだ。

まあ、モンスターを倒すよりも少ないのは言うまでもない。

この辺のリアル感がさらにユーザーの心を掴んだとも言われている。


そこにきてNPCとの恋愛や結婚、夫婦生活などもできたりしてTVゲームの中では『異色のRPG』としても有名だった。

また、カーソルを特定のキャラに合わせると簡略だがステータスも確認できたのだ。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ここで気になったのは、本人が成りたい職業とステータスの職業が一致していないことが多いということだった。

なりたいと思ってなれる職業などあるはずもなく、なりたければ熟練度を上げるしかない。

熟練度が足りなければどうあがいても望む職業にはなれない。

しかし、普通は熟練度を確認できるわけもないしもちろん職業を知るすべもないので自分に合っていない職業を選んでしまうのだ。


「狩人になりたいの?」

「そうなんだども、上手く獲物をかれねぇだよ」

「ふーん・・じゃあ、的に矢をあと10本当ててみるといいよ」

「的に・・だか?」

「うん」


軽い気持ちでのアドバイスだった。

まあ、ステータスが見えるのだからできる助言なのだが・・。

その後、見事に的に10本の矢を当てられた『木こり』のおじさんは『狩人』になれたのでした。

めでたし、めでたし。


・・と、終わるはずもなかった。

この行動により、俺にアドバイスを求める村人が増え、その度に対応できるのだから『神童』と言われるようになるまでそれほど時間はかからなかった。


3歳の誕生日。

6属性の初級魔法をマスターして「魔法使い」の職業を得、木剣の素振りを1000回したことで『戦士』の職業を10000回の素振りで『剣士』の職業を覚えることができた。

他の職業も覚えたかったがあまりやり過ぎてしまうのも問題なので基礎体力作りを集中的に行うことにした。

今年からは色々と挑戦するつもりだ。

・・と言うのも、


「母さん。家の手伝いは任せてください」

「ありがとうね、ルーク」

「いえ、当たり前のことを言っただけですよ」


母さんが妊娠した。

これは、あらゆる意味で嬉しい出来事だった。

親父は村の警護で忙しいので必然と俺が家事の手伝いをすることとなる。

これは大きなチャンスだった。

家事は3つの職業の熟練度上げに効果的なモノばかりなのだ。


薪割り・・・100本。

これは、『木こり』の職業を獲得するための条件である。


雑巾がけ・・・1000回。

これは、『家政婦』の職業を獲得するために必要な条件の1つ。


料理の下処理・・・100回。

これは、『料理人』と『家政婦』の職業を獲得するための条件の1つ。


洗濯・・・100回。

これは、『家政婦』の職業を獲得するための条件の1つである。


あとは、『料理を作る』という行為ができれば『料理人』と『家政婦』の職業を獲得できるんだけどなぁ。

さすがにそれは母さんが許してくれなかった。

しょうがないので狩人になったおじさんから古くなった弓を貰い、矢を作って的当てをする。


的当て・・・100本。

これで、『狩人』の職業を獲得できる。


そして、巻き藁わらに正拳突きを100本打ち込むことで『拳士』の職業を獲得した。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ここで軽くステータスと職業について触れておこう。


まず分かりやすくステータスを表示してみよう。


―ルーク― 男・3歳・職業:魔法使い サブ職業:狩人〔料理人:80/100〕〔家政婦:80/100〕

Lv.1 HP:12/12 MP:32/32 SP:16/16

攻撃力:7 防御力:9 瞬発力:6 根性力:12 魔法力:17 命中率:10 生産力:5

― 6属性魔法 -


名前や性別、年齢に関しては今更説明する必要はないだろう。


『職業』は、覚えた数だけ自由に付け替えられる。また、レベルが上がると職業の付けられる数が増える。

増えた職業は『サブ職業』に位置付けられ、メインの『職業』がステータスに大きな影響を与える。

例えば『魔法使い』だと、『MP』と『魔法力』が通常より高い数値が加算される。

サブ職業はメインの職業に比べて得られる影響は小さいが、その代り職業の持つ『スキル』を使うことはできるのである。

また、『職業』を獲得するとき決められた種類の『熟練度』を上げることで覚えられる。

〔料理人:80/100〕でも分かる様に熟練度100%に対して80%まで習得したことを意味している。


Lvは、その人間の『成長』を意味する。『成長』の高さで職業の使用数が増える。


HPは、『生命力』を意味しこのHPが0になると『死亡』を意味する。ただし、HPが1あれば回復魔法や回復アイテムで治すことがこの世界では可能である。


MPは、『魔力量』を意味していてこのMPが0になると『魔法』は使えなくなる。魔法には使う呪文に対し決められたポイントがあるため、MPのポイントに対し消費するポイントが足りていないと使うことはできない。


SPは、『技力量』を意味していてこのSPが0になると『攻撃技』や『技能』を使えなくなる。SPのポイントに対し消費するポイントが足りていないと使うことはできない。


攻撃力は、通常は素手での攻撃を数値として表している。ただし、武器を装備することでその数値を上げることができる。だが、職業に当てはまらない武器を装備すると数値が下がる。


防御力は、通常は肉体の持つ本来の防御数値を表している。防具を装備することでその数値を上げることができる。だが、防具にある重量Lvが本人のLvよりも高い場合は装備することができない。


瞬発力は、瞬間的な反射神経やダッシュ力を数値化したものである。防具を装備すると数値は下がることが多い。しかし、瞬発力を上げる防具やアクセサリーなどで数値を上げることができる。


根性力は、ここぞという時の諦めない不屈の精神を数値化したものである。この数値が高いと命の危険が迫った時に『閃き』や『踏ん張り』など絶体絶命の場面をチャンスに変えることもある。


魔法力は、魔法の効力や威力を上げてくれる。数値が高いほど通常の魔法に追加効果を与える。


命中率は、この数値が高いと攻撃の当たり判定が高くなるのだ。通常なら避けらるような攻撃も数値が高いと『当たり判定』も上がるため割合的に攻撃が当たる。


生産力は、この数値が高いと物を作るときに『完成度』が上がったり『生産量』も上がる。


これらがステータスと職業の説明となる。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「村に活気が戻って助かったよ、ブレン」

「そ、そうっスか」


村長に声をかけられ、ブレンは少しばかり焦った。

息子のルークの天才ぶりに浮かれたのは最初のうちだけで、この頃は『神童』ともてはやされて鼻が高いような恐ろしいような・・妙な感覚に戸惑っていた。


ブレンの一家が住んでいるのは『ロイレンの村』。

アルディナガルには大きく7つの大陸があり、南西部の大陸である『クロウヴァル大陸』には2つの都市と7つの町・・そして3つの村がある。その中でブレン一家が住んでいるのはいわゆる『開拓村』というヤツである。

村が潤い、発展することはこの上なく喜ばしいことなのだ。

喜ばしいはずなのだが・・・。


「複雑だ・・」

「どうしたの?ブレン」

「いや・・村の人たちから感謝されるのは嬉しいんだが・・・」

「・・ルークのことね」

「ああ・・。時々思うんだ。本当に俺たちの息子なのかって?」

「確かに、普通の子じゃないわ。でも、分かるの。ルークはとても優しい子よ」

「それは分かるんだが・・・」

「もしかしたら『神に愛された子』なのかも・・・」

「神にか・・・そうかもしれんなぁ・・」


ルークの正体を知らない両親にとってみれば、ルーク自体が何かを起こしたのではなくあくまでも彼の言った言葉が当たった・・つまり、『神託』の様に思えたのだ。

他の人間にはステータスは見えないのだから、そう思うのも無理はないだろう。

魔法も、『火の初級魔法』を1回見せただけなのでまさか6属性全部使えるとは夢にも思ってないだろう。

木剣の素振りや的当て、巻き藁うちも遊びの延長程度にしか思ってないのだから・・・。


結局、双子の兄妹が産まれる頃には料理の手伝いもし、『料理人』と『家政婦』の職業を獲得することになる。

弟と妹が生まれてからは2人の面倒も甲斐甲斐しく見るようになり、『神童』としての姿はそれほど目立たなくなる。

と言うよりも、なりを潜めたという感じに落ち着いた。


そして・・・10年が経った。

次回は一気に10年たって、ルーク、14歳になります。

10年分の回想話がメインになると思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ