アルド商会を救え!⑤目論見
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「包囲は済んでいるな?」
「はい。配置は完了しています」
「これから城内にいる使用人たちを秘密裏に場外に待機させよ。気づかれるなよ?」
「慎重かつ、早急に任務を実行します」
「頼む。信頼しているぞ」
「ハッ」
本作戦の救出隊は鎧を脱ぎ、軽装で音をなるべく立てずに城内に入っていく。
それを見届けると、アルベルトは別動隊に向きを変える。
「我々はこれより隠し通路を使い謁見の間の包囲に入る。気取られぬよう慎重に行動せよ」
「「ハッ」」
10人ほどの騎士兵が隠し通路へと入っていく。
最後はアルベルト侯爵だったが、そこで『シーラ』に目を向ける。
「シーラ殿はどうする?」
「うちも行く。アンリエッタと合流し『もしも』に備えんとならんえの」
「では、参ろう…」
「うむ」
急ぎたいが気配を悟られてはマズい。
競歩のように速やかでありながら静かに城内を進んでいく。
謁見の間はすぐそこだが、まずは退路の確保と各階への通りに騎士を配置していく。
途中、シーラはアンリエッタとの合流のため侯爵の執務室のある階へと降りていく。
「それにしても…二重人格者か…」
「しかも、本人は『もう1人』の存在を知らないとか?」
「だが、そうであれば今回の件、納得もいくと言うモノだ」
アルベルトは前回のトバールの件以降、調査隊を組織し独自に調べていた。
しかし、相手の尻尾を掴むどころか影すら見つけられなかったのだ。
噂程度に『何者か』とトバールが繋がっているような話があったが、トバール本人の話しではマスクを被った男が仲介役だったと言うだけだった。
「そのマスクの男こそが黒幕だったとは…」
「しかし、どうするのです?侯爵を取り押さえるのですか?」
「いや…刺激せずに包囲するにとどめ、相手の出方を見守るしかあるまい…」
シーラ殿の話しではルーク殿曰く、『秘策』があるので時間稼ぎを頼む…とのことだった。
「信じるのですか?一介の冒険者を?」
「…今回、国王に事の顛末を教えに来たのはルーク殿だ。彼の行動が無ければどうなっていたか…」
「確かにアルド商会の件は明るみに出ず、王国の大事になっていたかと…」
「そうだ。だが、そうはならなかった。これは好機だ」
「そう…ですね」
「シーラ殿たちと合流後、速やかに謁見の間に入る。心しておけ」
「「ハッ」」
アルベルトの言葉に気を引き締める部下の騎士たち。
シーラたちが合流したのはそれから10分後のことだった。
「ルーク殿は?」
「30分ほどで来られるとのことです。それまで時間を稼いでほしいと…」
「では…参ろうか」
「うむ。決着の時じゃ」
そして、謁見の間の扉が開かれた。
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「おお、アルベルト侯爵」
「報告は聞いておる。よくぞ、この短時間で事件の首謀者を特定したな」
「そのことでありますが、追加報告がございます」
「うむ。聞こう…」
「ルッソ商会の捕縛により、幾人かの商人と下級、中級貴族の繋がりが発覚、直ちに捕縛した次第でございます」
「なんと!?」
「そのような大ごとになっていたとは…」
「これは、侯爵の中に黒幕がいると言うのも信憑性が出てきたな」
「ですが…問題はどう特定するかですね?」
「それですが…ただいま、鑑定士の派遣を要請したところです」
「どのくらいで来られようか?」
「二刻…というところでしょうか?」
「二刻か…」
二刻は地球時間で1時間を表す。
これも、ルークからの指示だった。
時間的余裕を『相手に与え』て時間を稼ぐと言うモノだった。
シャドウはしたたかな者であることは間違いない。
ここでいきなり正体を現すリスクを冒すことは思えない。
だが、このままこの場に留まるとも思えない。
これは、『シャドウ』が軽はずみな行動に出ずらくするための策だった。
「…なあ、そこの2人だが…『アーク』のメンバーじゃねえか?」
「確かに…なぜ彼女らここに?」
「今回、アルド商会から急遽ですが臨時護衛を頼まれて合流するはずだったのだが、ルッソ商会の陰謀を知り尾行をしていたところ我々と出会い、お手伝いを願いました。この場にいるのは、ルッソ商会の動向を詳しく話していただくためです」
「では、アークのリーダーであるルーク殿がいないのはどういうわけか?」
「主は、ギルドに寄って今回の件を報告してから来るとのことです」
「冒険者としての務めじゃから、了承してほしいんやわ」
無理のない噓の報告。
これも、ルークの指示によるものだ。
まあ、これはルッソ商会で別れる際にシーラに急遽として出した指示なのだが…。
アルベルトは関心と共に戦慄も覚えた。
ルークと言う冒険者は相手の2手…いや、3手先まで読んで行動している。
その上でさらに奥の手を隠し持つしたたかさ…まさに、今回の黒幕同等の知略を持っている。
いや…事の大胆さではルークの方が断然上であった。
彼は黒幕を捕まえるために国王さえも騙した。
その上で、黒幕である『シャドウ個人』だけを捕まえる算段があると言う。
アルベルトがルークを信じたのは、彼の中にある絶対的な正義。
平和を脅かす者は許さない…という正論の持ち主であり、自分の利益のために他人を殺すような者には鉄槌を下す冷徹な決断力も併せ持つ。
それが、ルークと言う男だ…と。
まかり間違えば王国にとっても脅威となるであろうモノだが、今回に限って言えば心強い味方となった。
だからこそ、アルベルトはルークに対して恐怖の念があった。
彼は、その正義のためなら国王をも平気で弾圧するだろう。
そしてそれだけの知略と戦力があるのだ。
だからこそ、国王はルークを友として迎え入れた。
何かあった時に助言を得られるように…。
「…あと、一刻か」
「しかし、本当にいるのか?裏切り者が…」
「あと一刻もすれば正体がバレると言うのに、誰1人騒ぎ立てる様子もないと言うのは…」
「アルベルト侯爵。何か黒幕の正体に関する情報はないのか?」
「マスクを被っていると言う以外には…」
「く…それでは何も分からぬと一緒ではないか?」
「声はどうなのだ?ルッソならば我ら侯爵とは面識もある」
「誰1人、似た声ではなかったと…」
「どういうことだ?」
「それでは、我々の中に黒幕などいないのでは?」
「マスクの男が黒幕とは限りますまい。マスクの男は黒幕の手下と言うことも…」
「では、鑑定士が来るのを待つ以外には無いと?」
「身の潔白を証明するにはそれしかないでしょう」
正体を知っているとはいえ、動く気配を一向に見せないダグスマン侯爵の中にいる『シャドウ』にアルベルトは言いようもない恐怖を抱きつつあった。
「…先ほどから皆の様子を見ておりましたが…冷汗の1つも見せないと言うのは考えにくいのではないでしょうか?国王」
「ん…それは……」
「今回の一件、黒幕はアルベルト侯爵のご推察通り『マスクの男』と見るのが妥当でしょう。そうなれば、ルッソが正体に気づかないと言う点から我ら侯爵の中には黒幕はいないのでは?」
「だが、ダグスマン侯爵。これほどの規模の反逆者を纏めうるのが何の権力も持たない者と言うのは無理があるのではないか?」
「そこです。正体を全く知られないと言うのは何らかの『魔法』使われたとみるべきでしょう。そうなると考えられるのは『魅了魔法』ではないかと?」
「う…うむ。その可能性もあるか…」
「なれば、まずはルッソたち鑑定を使い、どのような相手であったかを確定する方が良いのではないかと…」
そう言いながら、ダグスマン侯爵は国王の下に歩き出す。
その自然な行動に誰も違和感を感じずにいた。
「……」
一歩一歩、国王に近づくダグスマン侯爵。
あとわずか10メートルと近づいていた。
「そこまでにしてもらおうか?シャドウ」
声と同時に謁見の間の扉が開く。
そこにはルークが立っていた。




