アルド商会を救え!③謁見の間
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ウィルベスタ王国から戻るとすでに馬車が用意してあり、盗賊たちも商人の服を着て待っていた。
「シーラ、首尾はどうだい?」
「尋問で分かったのは依頼者がルッソだと言うことだけじゃ。番頭の方も同じじゃった。念の入ったことじゃのう」
「まあ、『だろう』とは思っていたしね。じゃあ、早速だけど王国に向かう。時間との勝負だからね」
「分かったのじゃ」
「移動の魔法陣…『王国入り口』へ」
王国の裏門に出ると、番頭を先頭にして王国の城下町へと入る。
そのタイミングで俺はアンリエッタを城へと転移させた。
「さあ、案内してもらおうか?」
「……(コクッ)」
番頭はただ頷き、俺たちを『ルッソ』がいるであろう場所に連れていく。
魔法で言うことを聞く様になっているが、別に『傀儡』となっているわけではない。
『嘘を吐けば死ぬ呪い』をかけているので、極力喋らないだけなのだ。
それは他の盗賊たちも同じである。ただ、ここまでビビっているのは、下っ端の盗賊が数人嘘を吐いたり逃げ出したりした瞬間に目の前で死んだからだ。
さすが『魔女・イザベラ』の能力である。えげつない呪術をこれでもかと持っている。
「…やっぱり、普通に『ルッソ商会』に行くわけじゃなかったか…」
普通に歩いたのは門を通って城下町に入るまでだ。そこからは、裏通りへと入りスラム街を歩いていく。
何人か威勢よく絡んでくる者もいたが、商人の格好をした頭目に睨まれてすごすごと引き下がっていく。
「今頃は国王もひと暴れしている頃…かな?もしも、俺の通常の予測を上回る様なら…『本当の奥の手』を使わなくちゃいけないかもな」
そう言うと俺は、どこかワクワクしてほくそ笑むのであった。
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ルークたちが門を抜けたころ、城内…王の謁見の間では。
「緊急の用とはいえ集まってくれたこと礼を言うぞ、皆の者」
「いえ、王の命とあらば馳せ参じるの当然のコト…」
「しかも、緊急を用するとなれば来ぬわけにいかぬからのう」
「謀反人の件もある。王の身を案じれば必然…」
「ルドルフ侯爵、ベッケン侯爵、アルミネイル侯爵…痛み入る」
「宰相・ナッシュ卿、この騒ぎはどのような事態が?」
「しかも、ウィルベスタ聖騎隊の軍神・アルベルト侯爵の姿が見えぬようですが…?」
「…それほどの緊急事態が起きたと言うことでしょうな、ディヒト侯爵、エイブラハム侯爵」
「…ダグスマン侯爵」
「皆の者に集まってもらったのには他でもない。アルド商会のことだ」
国王の言葉で、侯爵たちの表情が変わる。
『商人』と言うことで、大商人・トバールの謀反(未遂)を思い出したのだろう。
「実は…皆には黙っておったのだが、アルド商会に監視を潜り込ませておったのだ」
「なんと!?しかし…相手は田舎の商人ですぞ?そこまでする必要が…?」
「その程度の認識では困りまするぞ、ディヒト侯爵」
「それはどういう意味ですかな?ダグスマン侯爵」
「単に監視を潜り込ませたと言うだけでこのような騒ぎになるはずもない…ということです。監視からの定期連絡が来なくなり消息も確認できなくなった…と言うところではないでしょうか?国王」
「さすがの慧眼よ、ダグスマン侯爵。その通りだ…監視からの連絡が途絶えた。時間にして1時間前にだ。何らかの問題に阻まれたとしても、1時間もの間に連絡を入れるチャンスが無いとは考えにくい。そうなると、答えは1つしかない。正体がバレたことで葬られたと言うことだろう…」
「しかし…田舎商人がそのような大それたことを…?」
「そうだ。田舎の商人に国の監視を殺すだけの度胸はあるまい…。となると…だ」
「ふむ。大物の黒幕がいると言うことだろうのう」
「ただの大物ではない。この城内にいるとみるべきでしょうな」
「ダグスマン侯爵…それは飛躍し過ぎでは?」
「田舎商人が大胆にも監視を殺したとなれば、国王に弓引くことも可能な実力者と手を組んでいると考えるのが妥当と言うモノ…」
「ルドルフ侯爵の言う通り、そうなると、我ら…侯爵クラスの中に黒幕がいるということになるな」
「それこそ、ありえん!」
「落ち着きなされよ、エイブラハム侯爵。今回のアルド商会の件を考えれば必然とその様な答えは出ましょう」
国王と宰相は侯爵たちの反応を見ていた。
挙動がおかしいのはディヒト侯爵とエイブラハム侯爵ではあるが、この2人は黒幕ではない。
今回の件に関わるような黒幕は狡猾で自分からは手を下すような者ではない。
ならば、ここでもうひと押しすべきであろう。
「しかし、安心するがよい。実は荷物の幾つかに『感知魔法』を仕掛け置いた。今、アルベルト侯爵が率いる聖騎隊が証拠を押さえに向かっている」
「良い知らせが届くのも時間の問題かと…」
「さすがは、国王と宰相殿。しかしそうなると、どうやって黒幕を明らかにするか…ですな」
「だが…会話を交わして居るが、この中にいるようには思えんが?」
「それはどうであろうな?ベッケン侯爵。トバールの件もルークたちがいなけばどうなっていたか…」
「そう考えると、今回のアルド商会の件のことも踏まえれば、黒幕は何重にも謀反の計画を立てているとみるべきでしょう」
「まさに影の策士…と言ったところか?」
「そうなると、そうとは気づかずに使われている者たちも少なくないかもしれん」
…国王はルークの正しさを実感していた。
今回の件を目論んだであろう黒幕のやり口…。
その巧妙さは、ルークたちが気づかなければ『成功』していた可能性が高い。
ただ1つ気がかりなのは国王が内部犯説を口にする前にその話が出たことだ。
「判断材料となるかは分からぬが…すべての侯爵家の家宅捜索をし、この場にいる者は身の潔白が証明されるまでその場を離れることを禁じさせてもらいます」
「それがよかろう」
「身の潔白はせんとな」
「ルドルフ侯爵、ベッケン侯爵…」
「疑いある以上、止むを得ないでしょうなエイブラハム侯爵」
「さよう。疚しいことなど無いのであれば何の問題も無い」
「ダグスマン侯爵、アルミネイル侯爵まで…」
「だが、まずはアルベルト侯爵からの報告を待つとしよう…」
「それがよろしいでしょう、国王」
国王は悩んでいた。ルドルフ侯爵とベッケン侯爵に関しては疑っていない。なぜなら、ルドルフ侯爵は先々代から国王家に仕え、儀に厚く忠誠心は侯爵一、ベッケン侯爵は少数精鋭の戦騎馬隊を率いる特攻部隊の長…闘神・ベッケンと言われるほど戦いを好む裏表のない性格の持ち主。
そうなると…ダグスマン侯爵かアルミネイル侯爵のいずれかと言うことになる。
しかし、ここで問題となるのは自分を殺したとして国王の座に着けるか?と言うことだ。
アルミネイル侯爵は『智将』と名高い男ではあるが、商人への信頼性を真っ向から疑い、『商工会』を造るように国王に進言していた。大きい商会にばかり優遇するのは問題だと言って…。
ダグスマン侯爵は1番怪しいが、この中では1番若い侯爵なので、自分が死んでも国王の座に付けるわけもない。今のところ子供や兄弟のいない国王が死んだ場合『新国王』の座に着けるのはルドルフ侯爵であろう。
つまり、目的が自分の命であるならば容疑者がいなくなってしまうのだ。
「…黒幕の目的は本当に私の命なのか…?」
「確かに…なにやらきな臭くなってまいりましたな…」
国王と宰相がひそひそと話している中、謁見の間の扉が開く。
「国王様、ただ今アルベルト侯爵から報告が届きました」
それは…『側近』から連絡であり、『ルーク』からのGOサインでもあった。




