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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十四章 魔の地帯なう
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335話 僥倖なう

前回までのあらすじ!

京助「ついに強敵を倒した!」

冬子「やったな京助!」

 どさっ。

 エンチャントを解いた俺は、そのまま地面に倒れこんでいた。そして同時に、自分が尋常じゃなく疲れていることを自覚する。

 まぁ、あんな奴とやり合ったんだから当たり前だけど。


「……粉々だなぁ」


 フレイルディノヴィスが爆発したところは……山の一部がえぐり取られてしまっていた。一応討伐部位(だと思われる)フレイルは落ちているものの、魔魂石は跡形もない。

 やれやれ、魔魂石が取れないなんて……。


「魔石狩りの名が廃るね」


 ふぅ……と息を吐き、俺はアイテムボックスから取り出した活力煙を口に咥える。しゅぼっと火をつけて、思いっきり煙を吸い込んだ。

 その途端、甘ったるい香りが体内を巡る。どうして戦いを終えた後の一服は、こんなにも美味いんだろうか。


「――あれ、キアラ。セブンとエースは?」


「あ奴らも同じように寝っ転がっておる。後で合流せい」


 ふっ、と空中から現れたのはキアラとアイネ。アイネは倒れている俺に駆け寄り……側に屈んで、ジッと俺の顔を覗き込んできた。


「キョースケ、かっこよかった」


「そう? それは良かった」


「ただ、最後の技名はあんまりかっこよくなかった」


「え」


 ダメかな、『超魔導爆裂疾風槍』。

 キアラの方をちらっと見ると、彼女もこくんと頷いた。


「……残念。まぁ、後で読み仮名も考えよう」


 俺が苦笑しつつ、上体を起こそうとすると……何故か、アイネが俺の頭を持ち上げて膝枕してきた。ただまだ子供で細身のせいか、皆と比べてだいぶ堅い。


「……えーっと、どうしたの?」


「さっきキアラが『キョースケが勝ったら膝枕をしてやれば喜ぶ』って。あいつは脚フェチだからって。……脚フェチって何?」


「キアラ! 子どもに余計なことを教えるな!」


 ジロッとキアラの方を睨むと、彼女は煙管を吹かしながらやれやれと首を振った。


「事実を事実として教えて何が悪いんぢゃ?」


「流石に皆ならともかく、子どもに膝枕されても嬉しくない」


 キッパリと答えると、次の瞬間――アイネの体がにゅっと大きくなる。俺達と出会った時と同じ、大人サイズに。

一気に太ももの分厚さが増して、ふにゃっと柔らかくなった。そして頭に、リャン以上シュリー未満の胸部がのしかかってくる。


「これで良い? 嬉しい?」


「待って、待ってアイネ。あのね、俺は保護者として君の情操教育に悪いという話をしていて……」


「トーコと比べてどう? 足、綺麗?」


 なんで冬子と比べるのさ。


「冬子の方が良いかなぁ。彼女が一番、脚が綺麗だよ」


「むぅ」


 そこは素直に言ってみると、アイネは少し拗ねたように唇を尖らせながら俺の頭をプスプスと指でつついてくる。

 別に痛くないので放っておくと、今度は前に来たキアラが下駄を脱ぎ……スラっとした綺麗な足でそっと俺のへそ下辺りを踏みつけてきた。


「ぐえっ……キアラ、何するのさ」


「お主の魔力を測っておるんぢゃよ。いくら妾とて、直接触れぬと正確に診断出来ぬからのぅ」


「……じゃあ普通に手で触ればいいじゃん」


 俺が文句をつけると、キアラはいつも通り自信満々の挑発的な笑みで見下ろしてくる。


「何を言う。お主が、脚が好きだと言うからこうしてやっておるんでは無いか。ほれどうぢゃ? 妾の脚も綺麗ぢゃろう?」


 だから俺が脚フェチであるという前提で話すのをやめて欲しい。そして冬子が一番って言ったからって、なんで対抗意識を燃やしてくるのさ。


(ソリャオマエ、キアラは自分が一番美人ダト思ってるカラナァ)


 それは知ってる。

 キアラは暫く俺を踏んだり、足の指でつねったりして遊び、満足したのか下駄をはき直してから俺の頭を撫でてきた。今度はちゃんと、優しい笑みだ。


「魔力は安定しておる。体の崩壊も無ければ、出力によるガタも来ておらん。筋肉痛や魔力の消耗による倦怠感などはあるぢゃろうが、健康体ぢゃ。……よくやったのぅ、キョースケ。完勝ぢゃ」


 そしてそこまで褒めた後――「ぢゃが」と、デコピンしてきた。


「しいて言うなら二度も『エクストリームエンチャント』を使ったのはいただけんのぅ。二度とも短期間に抑えたから問題なかったが、出来れば一日一度にするべきぢゃ」


「……ごめんね」


 終扉解放状態(ロック・オープン)に比べれば格段に負担が少ないとはいえ、それでもだいぶ体に無理をさせる魔法だ。彼女の言う通り、なるべく一日一度に収めたいね。

 キアラはふにゅっと俺の鼻をつまんでから、隣に座る。 アイネは俺の頭を撫でると、ジッと目を覗き込んできた。


「キョースケ、よく死ななかった」


「……そうだね」


 ふぅ、と活力煙の煙を吐き出すとともにため息をつく。

実際、フレイルディノヴィスの攻撃は俺達の耐久力をはるかに凌駕していた。エースもセブンも肉体を抉られていたわけで――アレが急所に当たっていたら即死していただろう。

キアラがいなければ、そういった攻撃の積み重ねでやられていたかもしれない。ほんと、我ながらよく生き残ったものだ。


「俺も、まだまだだね」


 そう呟いて、ぐっと手を握る。フレイルディノヴィスは間違いなく、この世の最強格の一体だった。ただそれでも……倒した今は、もう少しやり方があったんじゃないかと思う。


「取り合えず課題は、『エクストリームエンチャント』が大雑把すぎるところかな。あの状態で二人と連携を取れていたら、もう少し展開が楽になってた」


 あれを使うと、攻撃がどうしても大振りになる。細やかな大技が出来ないと言うか、通常攻撃以外は加減が効かない。

移動スピードも段違いに上がるし……ルグレとやり合った時みたいに通常攻撃の応酬なら問題ないんだけど、今回みたいに大技を連発しながらの戦いには向いていない。

 でもそれらって……。


「結局基礎だよね」


 エンチャントの体への負担もそうだし、細かい調整も全部基礎。強くなればなるほど、基礎の重要性が身に染みて分かってくる。

 強くなる近道はそうそう無いってことか。


「お主はだいぶ近道して来ておるがのぅ。……む、それにしても魔魂石はどうしたんぢゃ? もう回収したのかのぅ?」


 キョロキョロとあたりを見回すキアラ。俺は苦笑しつつ、活力煙の煙を立ち昇らせてから首を振った。


「消滅したよ。『魔石狩り』としたことが、ちょっと残念」


「む……おかしいのぅ。いかなお主の攻撃でも、アレだけの質量の魔魂石を余波だけで消し飛ばしてしまったかのぅ」


「頭にあったんじゃない?」


 魔魂石は頭か心臓にある。心臓にあったなら、角度的に余波しか当たらなかったかもしれないけど、頭なら直撃だ。残っているはずもない。

 

「というか今回ばっかりは、魔魂石を取る余裕は無かったかな」


「そうか。……まぁ、他ならぬお主がそう言うのならそうなんぢゃろう」


 キアラは腑に落ちない様子だけど、ため息をついて強引に自分を納得させたようだ。そりゃ俺も魔魂石が取れなくて残念だけど……何か引っかかることでもあるんだろうか。


「ねぇ、キアラ。一体何が引っかかって――」


「――おーい! 京助! 良かった、倒したんだな!」


 アイネの膝枕から上体を起こし、キアラに尋ねようとしたところで……遠くから、高速でポニーテールの女の子が突進してきた。

 そしてアイネに膝枕されている俺を見て――ずっこけてしまい、ヘッドスライディングみたいにずしゃーっと滑る。


「な、なにやってるんだ京助!」


「トーコ、胸が平たいからよく滑るね」


「よし、喧嘩なら買った!」


 冬子はアイネの背後に回り込み、彼女を地面から引っこ抜いた。おかげで膝の上で寝ていた俺は落とされてしまう。

 頭をさすりつつ上体を起こすと、冬子が抱え上げたアイネをくすぐっているところだった。……彼女の実年齢を考えたらくすぐりって普通のお仕置きかもしれないけど、傍目に見ると女子高生が女子高生を抱え上げてくすぐっているようにしか見えない。


「なんかそういうフェチ系の動画ありそうだよね、京助君」


「美沙、いきなり現れて最初のセリフがそれでいいの……?」


「うん、今日は疲れちゃったから」


 若干噛み合わない会話で、美沙は俺に抱き着いてくる。

 やれやれといつも通り頭を撫でようとして――体がゾッとするように冷たいことに気づいた。抱き着く腕も弱々しく、しかも顔が真っ青だ。


「ちょっ、美沙。大丈夫?」


「あー……まぁ、平気っちゃ平気。ただ京助君の顔見て気ぃ抜けちゃって……こんなんなってるだけ」


 そう言いながら、完全に体重を預けてくる美沙。外傷などはなさそうだが……。


「ヨホホ、腕一本凍らされたのに普通に戦闘していたデスからね。疲れて動けなくなるのも当たり前デス」


「そっちよりも、ベルライズの二体出しの方かなぁ。思ったよりも後からきちゃったんだよね」


 へばりつつ説明する美沙。なるほど、あの巨大化するベルゲルミルを二体も出したのか。そりゃ消耗も激しくなる。


「寝ておれば大丈夫そうぢゃな。一応、回復はかけておこう」


「ありがとうございますー」


「ダーリン、そういえばこちらを」


 キアラが回復を美沙にかけていると、リャンが書類のような物を渡してきた。たった一枚だけど、どうやら……魔術か何かでプロテクトがかかっているようだ。


「これは?」


「実はかくかくしかじかで。それで最後に敵から奪った書類のようなものです。見せられた時は分厚い紙束だったのですが……奪うと同時にこうして紙一枚になってしまいました」


「なるほど。一枚になっちゃったのは……たぶん、かかってるプロテクトのせいだろうね」


 つまり今回、戦闘自体は敵と引き分けだったんだね。そして相手の研究成果をキッチリ渡してもらったと。

 かかっている魔術のプロテクトも大したものじゃない。これなら俺でも開けられる。


「向こうが交渉材料になると思って出してきた情報だ。割と凄いことが書いてあるのかもしれんぞ」


 アイネを元の子どもの姿に戻るほどくすぐった冬子が言う。確かに俺達が倫理的にも研究出来なさそうな分野の先行研究のデータだなんて、人によっちゃ喉から手が出るほど欲しいよねぇ。

 俺はそれをアイテムボックスにしまい、活力煙の煙を大きく吸い込んだ。


「よし、じゃあセブンとエースと合流しよう。この山に来た、本来の目的を果たさないとね」


 それにしても、セブンとエースも人の子だね。疲れて寝っ転がって、俺達と合流出来ないなんてさ。





「おう、遅かったな」


「キャンプを張ったでおじゃるよ、休むならここで休んだ方がいいでおじゃる」


 俺達が彼らの所へ戻ると、そこには小さいテントが二つと、立派なテントが一つ、計三つもテントが立っていてさらに火まで焚かれていた。そして二人してゴザの上で、のんびりお酒を飲んで寛いでいる。

 ……寝っ転がってるとは、なんだったのか。


「ほう、良い酒ぢゃの」


「おっ、分かるのか姉ちゃん。イケる口だな」


 流れるように隣に座り、マイ杯を出して一献いくキアラ。本当にお酒好きだね……。

 というかあの戦いの後にすぐキャンプ張って、お酒飲んでたの? タフ過ぎない?


「そらお前、オレらがいくら強くなっても……疲れた所を他のSランク魔物に狙われてみろ。ひとたまりもないぞ」


「ならさっさとキャンプを張って休息にあてるのがプロってもんでおじゃるよ」


「言ってることは正しいけど、だからってよくもこんな……っていうかテントなんてどこに持ってたのさ」


 俺が尋ねると、セブンがスッと免許証くらいの大きさのカードを取り出す。金色に光るそれを見て……ハタ、とリャン達とダンジョンで出た戦利品を整理していた時のことを思い出す。

 アレ、容量に限界があるアイテムボックスか。


「お前も似たようなの使ってるだろ」


「まぁそうだけど……それにしても、なんでテント三つ?」


「一つはオレ用、もう一つはエース用、んで最後のデカいテントは酒用だ」


「俺達のは!?」


 思わずツッコミを入れると、セブンは豪快に笑い飛ばす。


「冗談だ! 普通に最後の一個を使え。ここで一晩明かすわけじゃねえから、多少狭くても大丈夫だろ」


 真顔で冗談を言わないで欲しい。

 俺は気が抜けて苦笑しつつ、三つ目のテントの中を見てみる。本当に普通のテントで、特に布団とかを敷いてくれているわけでは無いらしい。

 取り合えず皆が――というか美沙が休めるように布団を敷いておき、俺は皆に声をかける。


「皆、中で休んでて。俺はちょっとセブンたちに話があるから……それが終わったら、『ソウローズ』を取りに行こう」


「分かった。ほら美沙、中で横になれ」


「ん~……ありがと、京助君」


 ぞろぞろと女性陣が入っていったのを見て――俺は酒をかっ喰らってるセブンたちの方へ。キアラの横に座り、俺も自分のグラスを取り出した。

 ……そういえば、昔は極力アイテムボックスも人前で使わないようにしてたなぁ。今はだいぶなぁなぁになっちゃったけど。


「一杯、良い?」


「おう、勿論。ほらよ」


 とくとくと注がれるお酒。俺はそれを口に含み、鼻から息を吐く。良いウイスキーだ、香りが立ち昇る。


「いいお酒だね」


「ぽやぽやぽや、安物でおじゃるがね」


 こいつらSランカーだから安物って言っても相当高いの飲んでそうだ。

 なんて思いながら、俺はグイッとグラスを傾ける。


「ふぅ。……クエストの途中に飲むなんて初めてかもね」


「そうか? オレなんか若い頃は飲みながらクエストとかしょっちゅうだったが」


「そのせいで何軒壊したか分からないでおじゃるよ」


 嘆息するエース。いやセブンの能力は一歩間違えれば大災害なのに、よくそんな飲みながらクエストに行ったりできるね……。

 俺は若干引きつつも、少しだけ真剣な表情を作る。この戦いが始まった時から、どうしても二人に聞きたいことがあったから。


「ねぇ、ちょっと聞いていい?」


「なんだ?」


「なんでおじゃる?」


「……リベンジマッチなのに、俺がいてよかったの?」


 自分たちが勝てなかった強敵にリベンジする……っていうのは、ある種贅沢だ。

 昔の自分たちからどれだけ成長したかを測れるし、高い壁を超える達成感も味わえる。でも条件がそろう方が稀で、やろうと思ってもその機会に恵まれない。

 まず自分たちが負けても生き残る必要があるし、何より相手がその後もずっと強くなくちゃいけない。

 たぶん俺が思うよりも……自分の人生で『リベンジ』の機会が回ってくることってずっと少ないと思う。


「そりゃ二人でやりたかったけどよ、でも今はオメーらがいたろ」


「ぽやぽやぽや、その時に出せる全力っていうのは仲間も含めてのものでおじゃる。キョースケどの達がいて、向こうも指名してるのに締め出すのは……舐めプと言われて仕方ないでおじゃる。それじゃ勝っても負けても心残りが出来るでおじゃる」


 なるほど、心残りか。

 勝った時は『なんだこんなもんだったのか』と。負けた時は『皆で戦っていれば』と。

 俺が頷いていると、キアラがグラスに酒を注いでくれた。そして、俺の額にデコピンする。


「お主はタイマンに拘りそうぢゃのぅ」


「……そんなこと、無いよ」


「わっはっはっは! タイマンに拘るのも一つの選択肢だ! 要するに自分たちが納得出来りゃいいんだからよ、リベンジなんざ」


 そう言いながら、ぐびぐびと酒を飲むセブン。体がデカい分、まさにザルって感じにお酒が入っていくね。


「キョースケどののリベンジの相手は……覇王でおじゃったか?」


 エースもまた、お酒を飲みながらそう問うてくる。彼もそこそこ飲んでいるだろうに、全然酔ってる感じがしないね。

 俺はこくんと頷いて、新しい活力煙を咥えた。


「うん、そうだよ。だいぶ高い壁だ」


 世界最強。

 文字通り、世界で一番強い奴。それが俺の、リベンジの相手であり……超えるべき目標、ある意味ライバル。

 アイツを倒すまで、俺は力を磨きたい。


「覇王か、オレも戦ってみてぇな。どんな戦い方するんだろうな」


「凄くシンプルな殴る蹴るだよ。武術がベースに、野性的で直感的な戦い方だった」


 とはいっても、正直どの辺が武術だったのかは分からない。あの時は必死だったし、俺は素手の武術を修めてないからね。

もしかするとジャックが見たらその術理が分かったのかもしれない。


「ぽやぽやぽや、キョースケどのなら勝てるでおじゃるよ……と気休めも言えない相手でおじゃるが、一つ言えることはあるでおじゃる」


「え、一体何?」


「リベンジのチャンスは逃さないようにすべき、ってことでおじゃるな。キョースケどのが言っていたように、リベンジ出来る機会なんて稀でおじゃる。某たちも、フレイルディノヴィス以外にも撤退を余儀なくされた魔物、人物はいたでおじゃるが……」


「そういうのって若い頃だからな。殆どオレらがもう一回会う前に死んじまったり弱っちまったりしてるんだよ。本当に今回のフレイルディノヴィスは、ラッキーだっただけだ」


「だからキョースケどのも、世界最強に挑むときは最短ルートで挑むでおじゃるよ」


 最短ルート……ね。

 言われてみれば「どうやって挑むのか」を考えてなかったな。

 ただ強くなることだけだった。


「ま、そういうのは後で考えりゃ良い。――まだそんなに遅い時間でもねぇ、先に見張やっとくからキョースケも休めよ」


 セブンはそう言うと、もう一本新しいお酒を取り出した。俺はそれを見て苦笑しつつ、キアラと一緒に立ち上がる。


「ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて。一時間くらいしたら交代するよ」


「ぽやぽやぽや、頼むでおじゃるよ」


 二人はお酒を飲みながらひらひらと手を振ったので、俺達はテントへ。二人のテントよりも大きかったけど、中はぎゅうぎゅうだった。まぁ、七人で入るような大きさじゃ無いもんねぇ……詰めればギリ入れるかな。

 隙間があるのがリャンとシュリーの間だけなので、そこに座って少しだけ気を抜く。ダブルケモ耳をちょっと触っていると、キアラは俺の上に乗ってきた。重い。


「それにしても、本当によく飲むねぇあの二人は。あれくらいじゃ酔わないからなんだろうけど……」


「吹雪が止んだとはいえ、この山は寒い。酔って判断力が鈍くなるよりも、休んでいる最中に体が冷えることを危惧したんぢゃろう」


「……なるほど」


 冷静に言われて納得する。それで俺にも飲ませたんだろう、休憩中に体が冷えないように――と。

 まぁ、このすし詰め状態のテントじゃ冷えるもへったくれもなさそうだけど。

 そんなことを思いながら、俺は目を閉じた。

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