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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十四章 魔の地帯なう
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326話 この手で……なう

「皆いる?」


 一瞬とはいえ猛吹雪を喰らってしまったせいで、活力煙の火が消えた。舌打ちしながらそれを地面に捨てて、踵で踏み潰す。


「なんとかな」


「大丈夫です」


「ヨホホ! ワタシ達の索敵外から一瞬デスか。凄まじいデスね!」


 シュリーの言う通り、俺達が気付くと殆ど同時に飲み込まれた。ブリーダから聞いていた『固有魔術』とかいうヤツだろうけど……土地を既に取られているのがちょっとキツいね。


「ふーむ、これは凄いのぅ」


「この吹雪、魔術だけじゃなくて本物の雪も混ざってるよ。うわー、押し返せなかったのが悔しいなぁ」


 頬を膨らませ、悔しそうに地団駄を踏む美沙。やっぱり魔法師としては、自分と似た属性に足元をすくわれると腹立つよね。

 取り敢えず風と火の混合属性で作った結界を張っているから暫くは大丈夫だろうけど……動きづらい。


「一先ず、周囲を警戒。土地を取った上で奇襲してこないなら……じわじわ攻めてくるつもりだろうし、闇魔術には再警戒で」


 コレで誰か操られたら目も当てられない。ブリーダが言っていたが、闇魔術とは『効果が薄い方が気づけない』ことがあるんだそうだ。洗脳だけじゃなくて、認識をズラすとかにも気を付けないと。

 俺は結界をさらに強力な物に張り直し、敵の攻撃に備える。吹雪の冷気どころか吹き荒れる魔力をシャットアウトしたところで……いったん落ち着き、俺は活力煙を咥え直した。


「京助君、私にもちょうだい」


「ん」


 美沙の口に一本咥えさせ、二人の分に火をつけたところで――クイクイと袖を引っ張られた。


「キョースケ、あの二人は?」


 今日は戦闘があるかもしれないということで、大人状態になっているアイネだ。俺がエネルギーを供給しておけば(魔法を使わない限りは)、リスクも無いのでこうしている。


「あの二人って……ああ、セブンとエース?」


「うん。彼らだけ、結界内にいない。……いいの?」


「いいよ」


 煙を吸い込み、大きく吐き出す。煙が俺の結界で換気されていく中……ほんの少しだけ忌々しく思いながら、結界の外を見る。


「あいつらは、俺と同等以上の実力者。つまり、ルグレと同じくらい強い」


「……だから?」


 彼女の知り得る限り、最強の男の名を出したが……逆効果だったか、ムッとした顔をされてしまった。

 俺は肩をすくめ、ため息をつく。


「掠り傷一つ負って無いよ」


「おうキョースケ、外で待ってたんだが襲って来やがらねぇ。あいつら、まだもうちょい上の方っぽいな」


 結界を素通り(・・・・・・)してきたのは、セブン。俺の結界は味方だから出入り自由――なんて設定していない。普通に内外からの出入りを遮断する結界だ。

 だってのにこいつは、業火と暴風に阻まれて尚……一切気にせず中に入って来た。どんな耐久してるんだコイツ。

 そして結界の一部が揺らぎ、たわみ……エースまで入ってくる。


「ぽやぽやぽや。キョースケどの、魔法の腕もあげたでおじゃるなぁ! こんなに凄い結界を一瞬で張るなんて」


「それを意に介さず抜けて来た奴に言われても、嫌味にしか感じないんだけど」


「ぽやぽやぽや! 某はこの道三十年、Sランクになって二十年のベテランでおじゃるよ。こんな素直な作りの結界じゃあ、阻めないでおじゃる」


 素直か……二属性混合なんだけど。

 彼らが猛吹雪の中、掠り傷すら負ってないどころか平然と結界の中に入って来たのを見て……アイネはドン引きした様子で俺の後ろに隠れた。


「キョースケ、この人族怖い。人族はこんなのばっかりいるの?」


「安心して。こいつらが化け物なだけだから」


「誰が化け物だ誰が。テメーも似たようなモンだろ――っておお!? そんな嬢ちゃんいたか!?」


 ふん、と鼻を鳴らしたセブンは、アイネを見ていきなり驚いた声を出す。いきなり大声を浴びせられたせいで、アイネがびくっと肩を震わせた。


「昨日からいたでしょ。アイネだよ」


「あ、アイネ……? そら昨日お前が紹介してくれた、新しい子の名前だろ!? あの子は十歳かそこらだっただろうが! こいつはどう見ても十六か十七くらいだぞ! なぁ、エース!」


 相棒の名を呼ぶセブン。エースはちらっとアイネを見ると、いつも通り大きい腹を揺すって笑い出した。


「ぽやぽやぽや。確かに見た目は大層な美人でおじゃるが、感じる魔力は同じでおじゃるな」


「魔力が同じ? おいおい、亜人族に魔力なんざ――いやまぁ、そういうこともあるか。ってことはこの嬢ちゃんがアイネ嬢ちゃんか。おいおい、そんな好き勝手大きくなったり小さくなったり出来んのかよ」


 お前が言うな。

 全員が心の中で全く同じツッコミを入れただろうが、当のセブンはひょいと山の方を見て――眉に皺を寄せた。


「まぁ、そいつは良い。しかしあれだな、五体くらいかと思ってたが……」


「え? アイネが?」


「ちげぇよ! 何だその嬢ちゃん、おっきなったりするだけじゃなくて増えたり減ったりするのかよ!」


「そんなわけ無いじゃん。何言ってんの?」


「ぶっ飛ばすぞキョースケ!」


 何故か血管を額に浮かばせながらキレるセブン。やれやれ、これだから冗談が通じない大人は。


「あー……ったく。そっちの嬢ちゃんじゃねぇ、今回の敵だよ。十体くらいいてもおかしかぁねぇな」


「ぽやぽやぽや。セブンがそう言うなら、それくらいいるんでおじゃるかな」


 二人で何やら分かり合っているようだけど、こっちは吹雪のせいで魔力が探知しづらい。どうやって数を感知してるんだろうか。


「分かるの? セブン」


「勘」


 清々しいほど、野生だなセブン……。でも長く隣で見ているであろうエースが、彼の『勘』という発言に何も言わないところを見るに、そういう感覚が発達しているのだろう。

 俺は活力煙をくゆらせながら、結界の外を探る。


(……俺が見通せないレベルか。ブリーダの言ってた魔族の『固有魔術』か、もしくはそれを元にした魔道具って可能性があるな)


 相手の魔術や魔法の魔力をそのまま自分の魔法に変えられる『ヨハネス魔法(マジック)』ならこの吹雪を押し返せないことも無いけれど、あれはあんまり使わないようにってキアラに言われてるしね。

 俺は少しだけ思案していると――セブン、リャン、シュリーの三人が同時に同じ方向を見た。


「「「何かいる(ます)(デス)」」」


 一歩遅れてアイネも何かいる様子に気づき、それに数瞬遅れて冬子も何かに気づいた様にそちらを見た。


「確かに微かだが……何かの気配があるな」


「……気配か」


 気配なんて俺には感じ取れないが……五感が発達している獣人族である三人や、原始人みたいな勘を持つセブン、そして武人として気配を探るのに長けている冬子が言うのなら何かいるのだろう。


「いやおいキョースケ、ゲンシジンってなんだ?」


「優れた五感を持つ、超人って意味さ」


「絶対そんなニュアンスじゃなかったよな!?」


 やっぱり原始人は勘がいいね。

 ……なんて思っていたら、冬子が少し苦しそうな表情で俺の前に出た。


「京助……結界を、開けてくれないか?」


「危ないから駄目」


 反射的にそう答えてから彼女の顔を見ると……何故か、今にも泣きそうなほど悲しげな表情をしていた。思わず俺がギョッとすると、彼女は何も言わずに結界の外へ出ようと歩き出す。


「冬子、ちょっと待って。……理由を言って」


「それは……その……とにかく、外に出ないといけないんだ。頼む」


 どうして……と言いかけて、俺は口を噤む。彼女の顔が、今にも泣き出しそうだったそれから……決意を固めたような表情になったからだ。


「この場にいる人の中で、唯一……私がやるべきだと思うからだ。頼む」


 それで、その言い方で……やっと察する。俺は外の気配が何なのかを。

 俺は活力煙の煙を吸い込み、外を見る。


「ちょっと外出てくるね」


「おいおい、外はけっこう寒いぞ」


 セブンが注意してくるけど……んなもん見たら分かる。

 冬子が外に出たいと言い出した――その理由が察せないほど俺も馬鹿じゃない。キアラの方を見ると、彼女は肩をすくめた。


「お主らがそうしたいのなら、するが良い。ただ警戒を怠るで無いぞ」


 煙管の火をくゆらせながら言うキアラ。俺は頷いて、冬子と手をつなぐ。


「きょ、京助?」


「……い、今更、手をつないだくらいでそんな声出さないでよ。俺も恥ずかしくなっちゃう」


「何をイチャイチャしとるんぢゃ。はよ行かんか」


 キアラに蹴とばされる。俺は結界を一部だけ開くと、外に踏み出した。即座に消える、活力煙の火。

 俺は冬子と俺にだけ薄い火と風の結界を張ると――ザクッ、ザクッと足音が聞こえてくる。山の上の方から、くだる足音が。

 薄っすら見える、黒い影。それは徐々に大きく、近くなり……そして、猛吹雪の中だというのに声がこちらに届いてきた。


「たす、かった……へへ、粘るモンだなぁおい」


「……オルバク」


 ゆっくりと近づいてくる、黒い影。それは猛吹雪の中でも、ハッキリと姿が確認できるようになる。Aランクチーム『鬼の頭髪』のリーダー、オルバクだ。

 彼は安堵からかその場に倒れこみそうになり、それを冬子が支える。


「へへ、悪い。吹雪の中、ずっと歩いてたからよ」


「いや……こちらこそ、すまない。このクエストを出したのは私たちだ」


 オルバクの鎧はボロボロであり、彼が常々自慢していた……『群晶の回廊』で入手した剣は見当たらない。敗北……どころかもはや惨敗という言葉が相応しい格好。

 そんな彼は、ふらふらになりながらも希望に満ちた声を出す。


「情けねえぜ、あんな啖呵切ったってのに」


「……いや、相手が悪かった。お前では勝てないのも無理はない」


「はは、言いやがるぜ。もうちょっと心配ってか、信じてくれててもいいんじゃねえのかよ」


 口調はハッキリしており、心底ほっとしているのが伝わってくる。九死に一生を得たのだから、それは当然だろうけど。

 彼は顔を上げると、山の上の方を指さした。


「ここまで来たら、恥を忍んで頼む。……実はまだ、オレの仲間たちは上の方にいるんだ。なんとか逃げて魔物をまいたはいいんだが、動けなくなっちまってな。それで比較的元気だったオレだけ、降りてきてたんだ」


「……オルバク」


「分かってる、こんな危険な中を戻るなんて普通はあり得ねえ。だけど頼む、あいつらはオレの仲間なんだ! まだ生きてる、でも今見捨てたら死んじまう! だから頼む! もう少し登って――」


「――オルバク!」


 オルバクの言葉を、大きな声で遮る冬子。猛吹雪の中だというのに、彼女の声はどこまでも悲痛にこだまする。

 そんな冬子の姿を見て、オルバクは信じられないとでも言いたげに首を振った。


「ど、どうしたんだよ。確かに無茶だが、Sランクチームのお前らなら……」


「違う」


「……じゃ、じゃあ、依頼だ! 依頼ってことにしてもいい! 依頼料は、オレの全財産だ! だから――」


「違う」


「ぜ、全財産じゃ足らねえか? それなら、今後のクエストを――」


「違う」


「ぐ……わ、分かった。それならせめ……」


「違う、違うんだオルバク。……違うんだよ」


 今にも泣きそうな声で呟く冬子。彼女はオルバクの肩を掴み、彼の目を見た。

 血も涙も流れない――それどころか、何も入っていない彼の眼窩を。


「お前は、私よりも弱い。そしてお前の仲間は……私の仲間よりも弱い。だからあり得ないんだよ、この吹雪の中で生きているなんて」


「な……何言ってんだ、冬子。オレはこうして……」


「……じゃあ私の姿が見えているのか? 今こうして会話していて――記憶の欠如とか、不自然さは無いのか?」


「だ、だが……オレは……オレはこうして……」


 両手で自分の顔を触り、そして首を振るオルバク。彼は必死に、縋るように冬子の肩を掴む。


「おい、おいどういうことだよ! オレは生きてる……生きてるんだよ! なんで、生きてる! おいトーコ、トーコ頼む! オレの仲間を、オレの仲間を――」


 彼の腕は物凄い力で冬子の肩を掴んでいる。そして冬子の動きが止まると同時、待ってましたとばかりにオルバクの背中から虫の腕のようなものが出現した――


「トーコ、トーコおおおおおおおおおおおお!!!!!」



 斬!!!



 ――オルバクだったモノ(・・)が腕を振り下ろすよりも速く、冬子の剣は抜き放たれた。流麗で、ともすれば舞踊のようにすら見える動き。しかしてその刃は、しっかりとオルバクだったモノの首を胴と泣き別れにした。

 黒い靄が散り――一拍の間の後、冬子は剣を収める。そしてすぐその場に膝をつくと、その斬り落とした首の瞼をそっと閉じさせた。


「……冬子、大丈夫?」


 今の攻防で緊張したからか、肩が少し重くなる。やれやれ、キアラから疲労回復の魔法でもかけて貰おうかな。

 そう思いながら声をかけると、冬子は長く息を吐いてから立ち上がった。


「……ふう。大丈夫だ」


 冬子は俺の方を振り向くと……先ほどまでの激情は鳴り潜め、背筋を凛と伸ばした。

 その姿はまるで一枚絵のようで……息を呑むほど、美しい。


「やっぱり、私がやるべきだっただろう? ……介錯、だからな」


「……うん」


 オルバクと繋がりがあり、その遺体を真に悼むことが出来るのは彼女だけだ。であれば、彼女が介錯するしかなかっただろう。


(でも)


 俺は……さっきのオルバクを、遺体と認識していた。何故なら、この猛吹雪の中でも隠せないほどにあからさまな魔力の色だったから。

 真っ黒でどす黒い、魔族特有の色。

 だがそれが無くても、俺はあれを遺体だと判断しただろう。それくらい、さっきのシチュエーションは不可思議で矛盾だらけだった。

 しかし、冬子はどうか。……彼女の性格からして、あれは紛れも無くオルバクだったと認識しただろう。

 それを斬ったのだ。躊躇なく、自らの剣で。


(冬子は強い、けど……)


 それでも、初めて人を殺した時は心に来る物だ。俺はそうでも無かったけれど、他のAGから話を聞くと皆そう言っている。

 冬子なら必ず立ち直れると確信しているが……そこまでの期間がどれくらいかかるか。

 俺がそう思いながら彼女の様子を確認すると……俺の思っていた以上に、顔色が良かった。


「劇的な物だと、思っていた。……しかしそう思うには、私は実戦をこなしすぎたかな」


 彼女は目を伏せると、寂しそうに笑う。そしてオルバクの遺体を指さすと、小首を傾け俺にお願いしてきた。


「すまないな、京助。……火葬をお願い出来るか?」


「うん」


 何と声をかけるべきか分からず、俺は頷く。

 猛吹雪の中、火を放つとオルバクの遺体が燃え出した。身を切るような風が吹き荒れるが、火は消えない。パチパチと煙が空へと昇っていく。

 冬子はその煙を追って視線を上げた。途中何故か俺の背後をじっと見たけどすぐに視線を外す。結界の方が気になったのかな。

 数秒黙ってから……冬子は口を開いた。


「京助は、なんで人を殺せる?」


 なんだか随分前にも同じことを聞かれたような気がする。そんなことを思いながら、俺はいつも通り口を開く。


「必要だから」


「……そうだな、お前はそう言っていた。だからこそ、あの時……それが本当に必要かどうかを一度考えて欲しいと頼んだ」


 彼女の言うあの時というのは、再会してすぐの時か。無抵抗の人間を殺すことの是非について話した時。

 あの時彼女に言われたから、俺は広い選択肢を持てるようになったと思う。


「そうだね。あの時すぐは切り替え切れなかったけど、今は感謝しているよ。殺す一辺倒じゃ幅が狭まるから」


「そうか。それなら良かった。……実は私なりに、色んな人に聞いていたんだ。人を殺す理由を。どれもしっくりこなかったが……今、私の手に馴染む理由が一つ見つかった」


 答えを得た――というには、苦虫を噛み潰すような顔になる冬子。嫌悪している様子でも無い、ただただ……複雑そうな表情。

 例えていうなら、選択肢に四回連続で「ウ」と書いてしまった時のような……でも全部の回答に確信が持ててしまう時のような。そんな顔。

 彼女はその表情のまま、俺の手をさらに強く握る。


「独り善がりで、あまりに不細工な理由だ。……だが、聞いて欲しい。それで……その、うん。抱きしめて欲しい」


「いいよ、おいで」


 えらく弱々しいセリフを吐く冬子を抱きしめる。彼女は一度俺の背に手を回そうとして、胸に手を置いた。すっぽりと腕の中に納まった彼女が、どうにも愛おしい。


「……陳腐で、自分本位で独り善がりだ。それは分かっている、でも私は……思ってしまう。敵も味方も関係なく、終わりは尊厳を保っていて欲しいと」


 彼女の言いたいことは……なるほど、独り善がりだ。全員に笑顔でいて欲しい、みたいな理想論と近い物がある。

 だがそれが、何故殺すことに繋がるのか――と考えたところで、俺は気づいた。


「だから、せめて――って?」


「ああ。そう思ったら、自然と剣が出た」


 なるほど、と思いながら彼女の頭を撫でた。


「敵には無理そうだね」


「そうかもな。だが……『今、引導を渡してやらねば』と思ったら斬れるだろうと思う。答えは出たが、酷すぎて自分でも笑ってしまうよ」


 彼女の出した答えを、俺は良い悪いではなく肯定したい。そして……さっきあんなことを思った自分を恥じたい。

 彼女は強い、だが立ち直るのに時間がかかる……だって?

 立ち直るも何も――例え独善的で陳腐な理由だったとしても、冬子は命を奪う意味に対して、答えを出している。

 立ち直るも何もない、彼女は折れない。折れるはずが無い。


「俺は笑わないし、誰も軽蔑しないよ。……それが独善的だって分かっているだけで、きっと意味は変わってくる」


「……そうだろうか」


「うん」


 彼女は俺の胸に顔をうずめる。そのせいで表情は分からないが……もっと鎧とか着ていない時に抱きしめるべきだったかな。

 数秒、そうしていると――フッ、と俺の出していた炎が消えた。さてすぐに戻らないと、魔族が襲ってくるかもしれない。

 俺は彼女を離し、目を合わせる。


「――冬子、結界に戻ろう。すぐに敵が来るよ」


「そうだな」


 彼女とやり取りをしている間も、周囲への警戒を怠ったわけじゃない。結界も崩されていないし……何かあれば、結界内のエースやキアラが気づくはず。まだ魔族は攻めてきていないだろう。

 俺が結界を一部解除して中に入ると同時に――


『捕まえた』


 ――ぬるりと俺の首を掴む、異形の腕。

 その瞬間、闇魔術が解けた。認識をズラすだけの……簡単で効果の薄い闇魔術が。

 何で気づけなかった、なんで忘れていた。

 オルバクを操っていた魔族がいるはずだろう――ッ!


「何奴! キョースケから離れよ!」


 キアラが指を鳴らすと、異形の腕はぶるぶる震えて肩から体が生えて来た。俺が腕を燃やそうとすると、異形の魔族は弾かれるように距離を取った。


「一瞬の隙で良いのです。この形にさえなれば良かった――『ロック』」


 魔族が呟く。すると次の瞬間――俺達の目の前に、巨大な口が現れた。牙の生えそろった口だけが、俺を覆う。


「なっ……!」


 驚く間も無く、口が閉じる。

 俺の視界は真っ黒に染まった。

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