319話 『契約魔法』なう
前回までのあらすじ!
京助「話は何とか纏まったよ」
冬子「とはいえ、こいつらと協力できるのか」
リャン「そのための魔法……なんでしょう」
シュリー「ヨホホ、それにしても。よく思い出せたデス、ワタシも」
マリル「私も知りませんでしたからねー。本当に昔なんでしょうねー」
美沙「私は結構恨みもあるし、実はちょっと複雑」
キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」
「ギッギッギ、話は纏まったかよ――っと、全員集合かァ」
俺達が中に戻ると、ブリーダとホップリィⅡは指を搦めてイチャイチャしていた。こいつら余裕あるな……。
「京助君! 私たちも負けてられないね! じゃあ服脱いで!」
「対抗心を燃やすまでは分からんでもないが、脱ぐ必要がどこにある!」
スパァン! と冬子の張り手が美沙の後頭部に直撃した。前につんのめった美沙の胸がブルンと揺れ、それを見た冬子が更に怒りのボルテージを加速させる。
「この邪魔な脂肪を取れ!」
「邪魔じゃないですぅー! 京助君これ大好きだもん! よく揉んでくれるもん! 顔をうずめて『……なるほど、これがパフパフ』って毎回言ってるもん!」
美沙、なんで余計なことを言う? あと毎回は言ってないからね!?
「冬子ちゃんこそ! ちょっとは胸に脂肪つけたら? 立て板に水おっぱいじゃ京助君も嫌でしょ!?」
なんか新しいようで古臭い貧乳の表現だな。
「私のこれは最速の機能美だ! それに……あの、あ、アレの時は京助と密着度が上がるんだ! ぴったりくっつけるんだぞ!? それに足がアイツは好きだから――」
「――そろそろ二人ともやめて!?」
なんで俺の性生活を暴露されなきゃならないのか。
俺は二人に風の結界をかけて強引に黙らせ、ふぅと一息つく。
「まったく、二人とも……。後でお説教だからね」
身内だけならまだしも、何で魔族のいるこの空間で……。
っていうか、今回の二人の口論で一番ダメージ喰らったのは俺では?
……という悲しい事実に気づきながらも、コホンと咳払いして空気をリセットする。
「というわけで、ブリーダ、ホップリィⅡ。お前らには契約魔法ってのをかけることになる」
「へぇ~え、パフパフしてンのか。いい趣味してんながッ! ひ、ひははんははへーは!」
無言でアッパーを繰り出すと、思いっきり舌を噛んだのかベロを出して痛がるブリーダ。そんな彼の姿をスルーして、俺は再度咳払いした。
「というわけで、ブリーダ、ホップリィⅡ。お前らには契約魔法ってのをかけることになる」
「おいあの空気を無かったことに出来ると思ってンのか? って、分かったから拳骨を降ろせキョースケ。……にしても、契約魔法か。ギッギッギ、随分な骨董品を持ち出してくンだなァ」
「強制契約なんて野蛮ねぇ。まぁ、奴隷の首輪よりマシかしら」
それが魔族風に言う契約魔法なんだろうか。
なんであれ、俺もよく分かっていないのでキアラに説明を譲る。
「とはいえ、名前から感じる印象通りの魔法ぢゃ。他者と契約を交わし、互いにそれを遵守させる」
互いに。
そういえば奴隷魔法との違いは双方向性って言ってたっけ。
「うむ。まず……旧い用語にはなるが、契約魔法を使う者をマスター、契約を受ける側をプレジャーと呼ぶ」
用語か。……そっちの方が分かりにくくなりそうな気がする。
「手順は非常に簡単ぢゃ。マスターは『命令』と『期間』、『罰』が書かれた『契約書』を用意する。そしてプレジャーはそれに魔力を混ぜた血判を行って完了ぢゃ」
そこまでは、普通の契約書とかとあんまり変わらないね。違いと言えば、ハンコの代わりに血判を使うくらいだ。
「プレジャーは『命令』に反した場合、『契約書』に書かれた『罰』が契約魔法の力によって強制される。この『罰』は奴隷魔法と比べて様々ぢゃ。単純な怪我や一時的な戦闘能力の喪失から、死まで幅も広い」
そこだけ聞くと、単純に痛みで押さえつける奴隷魔法よりも便利に聞こえるけどね。
しかし俺の思考を読んだか、キアラはニヤッと笑った。
「さっきも言った通り、この契約魔法は双方向性ぢゃ。つまり……マスター側にも『罰』がある」
「ギッギッギ、使う側にも罰があるだなンて。人族は行儀がいいンだなァ! 人を呪わば穴二つってか? オレらの強制契約にンなモンねーぜ?」
愉快そうに嗤うブリーダ。そんな彼に対して、キアラはニヒルな笑みを返した。
「プレジャーはマスターに対して『条件』を付けられる。これを破った場合に、『罰』が課されるわけぢゃが……これは契約魔法によって強制的に徴収される」
少し話が入り組んできた。
「……つまり、どういうことだってばよ?」
「美沙、分からんのなら茶々を入れるな」
「サ〇ケはテメーのおもちゃのチャチャチャ!」
「私と京助にしか分からんネタをぶち込むな!」
美沙が懐かしのネタを持ってくる。話に飽きて来たのかな。っていうか、本当に懐かしいな……。
彼女のネタを拾えた冬子が口を塞いでくれているので、俺はキアラに続きを促す。
「ごめん、話の腰を折ったね」
「よい。まぁつまり、ぢゃ。例えば――『死ぬまで私に服従しろ。逆らったならば、死よりも恐ろしい痛みが貴様を襲う。その代わり、貴様の命だけは守る』というような服従の『命令』と、死ぬまでという『期間』、そして命よりも恐ろしい痛みという『罰』。その対価として相手を守るという『条件』を付ける……ということも出来る」
後半の『条件』を除けば、奴隷魔法でも出来そうなものだね。
しかしキアラは首を振った。
「それ以外でも、例えば――『私の敵を殲滅しろ。ただし、対価として私の魔力を譲渡する』ということも出来た。そして後半の条件は魔法によって強制的に徴収される」
「……魔力の譲渡、デスか? そんなこと普通は……あ」
シュリーがおうむ返しに言って――俺はハッとその真意に気づく。
「ってことはつまり、『契約魔法』で……味方の強化とか出来たってこと?」
「魔力だけでは無いぞ。体力や精神力などの見えない力も、もしくはマリルに『目の前の岩を壊す』という条件をかけることも可能ぢゃ」
そう、後半の『条件』は強制ということはつまり。
「本来、これは相手を縛るためじゃなくて……強化したり、逆にマスター側が奇跡を起こしたり。そういう用途の魔法?」
こくんと頷くキアラ。
なるほど、根本的に設計思想が違うっていうのはそういうことか。
「『契約魔法』は相手を縛るものでは無い。本来であれば、『契約』によって互いに恩恵を受けるためのものぢゃった。しかし奴隷を縛るために使われてゆき、罰も簡易化していった」
長く支配し続けるつもりなら、破ったら死ぬんじゃなくて破ったら苦痛の方がいいものね。
「そういうわけで……いつしか『強制的に相手に動きを強いる』という機能のみを抽出した『奴隷魔法』、及びそれを魔道具に落とし込んだ奴隷の首輪が出来たわけぢゃ」
なるほど。
俺達が納得していると、ブリーダが腕を組んだ。
「ギッギッギ。つまりそいつを使えば、テメェらに条件も付けれるってことだよなァ」
「そうだね。アルシファーナを解放するまでの期間、俺はお前に過度な攻撃を加えない。お前たちは人族に危害を加えない。『罰』は死でいいんじゃない?」
実際はもう少し細かく決める必要があるだろうけど。
ブリーダは肩をすくめると、首を振った。
「そーかい、ギッギッギ。まァ、細けェ条件はそっちで決めてくれ。あんま無茶な条件を呑ませようとしたら、自爆するがなァ」
こいつらに『トラゴエディア・バレー』を案内させたい……という話からスタートしている。自爆されたら困る。
「……『冥穴』だっけ?」
「お、よく知ってんなァ。魔族の切札なんだが……ギッギッギ、テメェと戦ってアレを使う暇があるとは思えねえんだが」
「まだ俺がBランクAGだったころにね」
ヨダーンが最後に使ってた魔術だ。というか、ヨダーンもそうだけど……某ゲームの緑の匠じゃないんだから、気軽に自爆しないで欲しい。
後始末が大変なんだ。
「ホップリィⅡ、お前もそれでいい?」
「ええ、いいわよ。じゃあ、今からそれをするの?」
彼女の問いに、俺ではなくキアラが首を振る。
「契約魔法が使われなくなった理由の一つが、多少面倒なアイテムがいくつか必要なんぢゃ。昔は魔法師ギルドにあったものぢゃが……今はどうぢゃろうな」
シュリーがAランク魔法師だから、基本的にギルドにあるものであればちゃんと使わせて貰えるだろうけど……。
もしも無いなら面倒だな。ちゃんと俺達で調達できるならいいけど。
「まぁ、調達はそう難しいものでは無い。製法が失われとったら……妾もヨハネスも覚えておる。そう心配せんでも良いぢゃろう」
「なら安心かな。……ってことは、それが出来るまでは我が家に匿わざるを得ないかな。それが終わればこの村に預けてもいいだろうけど」
「ギッギッギ、その辺は任せるぜェ。ンじゃまァ、オレたちがやンねェといけねェことが出来たら言ってくれ」
そう言ってスッと手を差し出すブリーダ。一瞬、なんのことか分からずキョトンとしていると……彼はため息をついた。
「オイオイ、テメーは挨拶も出来ねェのかァ?」
「挨拶……ああ、握手? そんな文化、魔族にあるの?」
俺が言うと、ブリーダはちょっと愉快そうに嗤った。
「テメェらに合わせてやってんだろォが」
へらへらと言うので――俺は懐から、活力煙を取り出す。自分が吸う用ではなく、挨拶用のそれだ。
「じゃあ、もっとしっかり合わせて貰おうかな。何か無いの? 人に渡せる消耗品」
AGの流儀。挨拶では、ちょっと良い消耗品を相手に渡す。
それが名刺の代わりであり、いつ死ぬか分からないAG同士の交流。
俺から活力煙を受け取ったブリーダは、苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……逃亡生活してるオレが持ってるわけ――ああいや」
ブリーダはそう言って、ごそごそと懐を探す。すると、三本の小瓶が出て来た。
そのうちの一本を、俺に渡す。
「何? これ」
「『魔王の血・Ⅲ』。オレ用に調整してあるから、テメェじゃ飲んでも定着はしねェだろうが……数分くらいなら魔物と合一出来るぜ。ギッギッギ」
「思ったより貴重な物だった!?」
どうしよう、これ志村にサンプルとして渡すべきかな……。
「ギッギッギ、安心しろよ。オレとホップリィがいればちゃんと量産出来るからなァ」
いやそういう意味で言ったんじゃないんだけど。
俺はそれを受け取って、アイテムボックスにしまう。
「じゃ、オレはテメーと『契約』する。そのための指示はテメェから出せよ? その代わり、オレが『トラゴエディア・バレー』を案内してやる」
「良いよ。その分、俺はアルシファーナっていうのを助けてあげる」
――魔王を倒しても、覇王を倒しても世界は平和にならないし……たぶん、今のようにいがみ合っている三国が友好を結ぶとは思えない。
覇王は絶対に俺が倒したいし……魔王、キィターニだっけ? も、倒さないといけない相手だしね。その戦力が増えるんならまあいいか。
それに加えて、転移の秘密が得られる可能性があるとしたら。
「とはいえ、『契約』した後も大変だよ? 俺が匿ってるってバレたら大変なことになる」
「ギッギッギ。まァ、その辺は任せるからよォ。頑張ってくれよ」
まるで他人事のブリーダ。
俺はため息をついて、腕を組む。
「準備って時間かかるかなぁ」
「ヨホホ、魔法師ギルドに行けばすぐ……のはずデスよ」
「そうなんだ。それなら見張りをこの村に残して、暫くここで生活させるのがいいか」
あんまり大事にすると、ブリーダがせっかく隠れてるのに魔族に気取られちゃうからね。
「それでいいんじゃないですかねー。また何か問題が起きたらー、都度考えるって感じで」
「そうだね。どうせ問題は出てくるし、追々考えようか」
そのタイミングで、こんこんと扉を叩く音が聞こえる。中に入って来たのは、レーンだった。
「義兄ちゃん、姉ちゃん、ごめん。村長から伝言あるんだけどさー」
「ん、どうしたの? レーン」
俺達が彼の方を振り向くと、彼はチラッとブリーダを見てから――ハキハキと喋り出した。
「村長が、今夜は泊まってくれって言ってるんだけど、大丈夫?」
「……別に構わないけど、なんで?」
「村の子たちが全員怖がってるから……落ち着くまでは、強い奴らに守って欲しいって」
この村の警備してる人らだって、Bランククラスの実力はあるんだけどね。世間一般からすれば十分に強者だ。
それこそルグレのようなヤバいのが来ない限りは安心だろう。
「そんなこと皆分かってるけど……まぁ、今夜だけだから」
「了解、分かったよ。じゃあ、もう一つの方を片付けようかな」
俺はそう言いながら、部屋の端っこで寝かされているアイネの方を見る。年齢は十代後半くらいだろうか。黒い角が生えており、目鼻立ちはすっきりしている。
今はキアラの魔法で眠っているが、起きたら暴れるだろうなぁ……。
「ってか、新入り! お前、怪我治ったんなら仕事出来るな! ほら行くぞ!」
「あァ? お、オイオイ。……まァ、分かったよレーン」
ズルズルとレーンに引っ張って行かれるブリーダ。
「って、ちょっとレーン。ダメだよ、そいつらは……」
いくら彼らが仲良いとはいえ、ブリーダは魔族だ。そう思って俺が止めたのだけど、レーンはムンと胸を張ってブリーダの背中を引っぱたいた。
「安心してくれ、義兄ちゃん! 何かあったらオレが責任を取る!」
「いや責任って……」
「あと、どのみち人手が足りてない! だから、いいでしょ? 義兄ちゃん、姉ちゃん」
そう言われると、こいつの水魔術は便利かもしれない。
俺は少し考えて、少し大きめのAmdmを出してブリーダに着けることにする。
「美沙も氷の鷹でもつけといて」
「はーい」
ひゅん、と氷の鷹が現れる。それが扉をくぐって外に出ると、いきなり大きさが五倍くらいになった。軽自動車くらいの大きさがあるね。
「レーン、何かあったらすぐ逃げてね」
まぁAmdmに見張らせてれば、何があってもすぐ気づけるけど……。
「分かった!」
「ん、あー……そうだ、キョースケ。そのガキ、なんか変だぜェ?」
扉に手をかけながら、俺の方を振り向いたブリーダ。そのガキ、というのはアイネのことか。
そりゃ魔族と獣人族のハーフなのだし、変わったところくらいあるだろう。
「いや、そうじゃねェ。まずその角が怪しいのは見て分かると思うが……それ以上に、たぶんそいつが使った短距離転移と雷の魔術は、そいつ本人の魔術じゃねェ」
「なんでそう思ったの?」
俺が問うと、ブリーダはひょいと肩をすくめた。
「短距離転移の方は勘だ。しかし雷の方はな、明らかにおかしいんだ。なんせ、同じ魔術の威力が弱まった」
……なるほど。
確かに、魔法も魔術も……使う時は事前に魔力を用意してから発動するものだ。そして、使用に必要な魔力が集まらなければそもそも魔術を使えない。
だから、同じ魔術なのに威力が弱まる……なんてことは本来あり得ないのだ。
「……おっけー、参考にさせてもらうよ。レーン、ブリーダはいくらでもこき使って良いよ」
「おう! んじゃまず、ぶっ壊れた地面を直すぞ!」
「ギッギッギ、んじゃ行くかホップリィ」
「ええ。……久々ね、肉体労働は」
朗らかな会話をしながら、レーンに連れていかれるブリーダとホップリィⅡ。
彼らが出て行き、部屋に残ったのは『頂点超克のリベレイターズ』の面々のみ。
「で――キアラ、あの角について何か分かった?」
俺が問うと、彼女はいつもの自信満々な表情――では無く、少しめんどくさそうな顔になった。
「記憶をまず、覗いた。……のぢゃが、こ奴はこの角について何も理解しておらんらしい。『使おうと思ったら使える』程度の認識しか無かった」
わお。
よく原理のよく分からない物に、自分の命を預ける気になれるものだ。
「そして直接角を調べようとすると……保護結界が中に張られておる。解除するのは造作も無い……が、その際にかかっている魔法が全て解ける。つまり、こ奴が起きる」
なるほど、起きたら騒ぐだろう。それは……少々面倒くさいな。
俺が腕を組んでふむと思っていると、冬子がアイネの顔を見る。
「整った顔立ちだな、作り物みたいだ」
アイネはいわゆるOLさんというか、知的な雰囲気な顔だ。目鼻立ちはシャープで、肩まであるセミロングの髪は綺麗に手入されている。
同じOL枠というか、知的枠な顔立ちのマリルと比べるとやや幼さが残るが……彼女と違って、愛嬌が足りない感じがするね。
活力煙を咥えて、火を点ける。
「ふぅ~……。あ、作り物と言えば」
俺はポンと手を打ち、一応皆にルグレから聞いた彼女の生い立ちについて伝えておく。
「実はかくかくしかじかでね」
「いあいあくとぅるふなんだね」
「CoCはやってないんだよ美沙」
いくら俺でも邪神だの旧支〇者だのには勝てない。というか、あんなんとやり合うならせめてスパー〇レンスかエス〇レンダーを寄越してくれ。似てるけどGUTSス〇ークレンスじゃダメだよ。
「ってわけでルグレから頼まれてるんだけどさ」
「……殺意が無い相手を殺すのはダメだぞ、京助」
俺に背から抱き着いてくる冬子。活力煙の煙を吐き出して、俺は肩をすくめた。
「分かってるよ。ただ……ジンもルグレも『戦場での死』に拘ってた。戦士だから、って。もしそれを彼女が望むのなら、それくらいならしてあげてもいいかなって」
居場所が無いのは辛いものだ。
「望まない場合は?」
「まぁ、普通に捕虜じゃない?」
この国で敵国の捕虜がどうなるかは知らないが、いくら何でも捕まえた俺達が言えば拷問はされないだろう。
「ってわけで、ルグレから託されているってのもあるから……彼女が死を望むなら俺はそうするつもり。そうじゃないなら、国に突き出すよ。それでいい?」
俺の決定に、全員首を縦に振る。活力煙を燃やし尽くしてから、キアラの方を向いた。
「起きちゃうんだよね? じゃあ、キアラお願い」
「うむ。しかしお主ら、少し驚くやもしれぬぞ?」
ちょっと気になる言い方をするキアラ。
何だろう――と俺が聞き返す前に、彼女はパチンと指を鳴らした。すると次の瞬間、アイネの身体が光り出す。
たっぷり十秒ほど光っただろうか。それが収まると――キアラ以外の全員が、驚きに目を見開いた。
「「「「「子ども!?」」」」」
さっきまでの、十代後半の女性はどこへやら。
身体が縮み、十一、十二歳くらいの女の子が現れたのだから……!
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「じゃあブリーダ! こっちの方頼んだぜ!」
復旧作業が行われている村の中、一区画を割り当てられたブリーダはやれやれと首を振った。
「ギッギッギ、オレのことを信用していいのかァ? 魔族だぜ?」
何とはなしにそう言ってみると――レーンはケラケラと笑ってからブリーダの肩を叩いた。
「まぁ悪いことしたんだろうけどよ、それでも俺らのことを助けてくれたからな! お前が魔族だろうと、俺は俺が見た物を信じるよ!」
爽やかに言って、去っていくレーン。その背を見ながら、ブリーダはぽつりとつぶやいた。
「ギッギッギ、なんつーか……ガキって純粋だなァ」
「あら、眩しいのかしら?」
「ギッギッギ、馬鹿言え」
そう言って笑いながら、ブリーダは倒されている大木を水で持ち上げる。とりあえずこうして、壊れた物を撤去せねばならない。
「それにしても――アイツら結局オレたちを殺さねェつもりか。ギッギッギ。甘ちゃんだなァ!」
笑い、嗤い……ため息をつくブリーダ。その様子を見て、ホップリィも肩をすくめた。
「当てが外れたわね」
どちらかが死んでいれば――ホップリィの能力で、どちらかの肉体に死んだ方の魂をぶちこむつもりだった。
それが彼女の持つ固有魔術、『三つ子の魂永遠に』。魂を別の肉体に乗り移らせることが出来るものだ。
本来であれば魔物に乗り移ったり、別の奴に乗り移る魔術だが……これによって人形に乗り移って疑似的な蘇生を再現している。
だからキョースケには『ホップリィⅡ』と言っているが、本当にホップリィ本人である。
「……オレの固有魔術は、今は意味ねェからなァ」
「仕方ないわよ」
魔族は、魔術師として修業した場合――固有魔術と言うものを習得するに至る。というか、覚えないと魔術師は名乗れない。
これは狙って覚えられるものでは無く、本人の才能が覚醒するだけなので……それまでに習得したスタイルに合致しない物になることも多々ある。
例えば……長いこと人族の国に潜入していた二人。ヒルディとヨダーンは固有魔術が非常に強力だった。
ヒルディは、『黒乃蔵雲』という真っ黒な空間に対象の人物を閉じ込める魔術を。
ヨダーンは触れるだけで敵に幻覚を見せ、精神異常を引き起こし洗脳を可能にする『夢幻に現を奪われる者』。
彼女らは、実力もさることながら本人の固有魔術が人族を崩すことに向いていると判断されたため、先兵として人族の国へ派遣された。
最も、そのように本人の実力も『固有魔術』も強力な者の方が稀で、大概は『固有魔術』のみを買われて先兵として送り込まれることの方が多い。無論、最低限の実力は必須だが。
例えば異世界人の勧誘を任され、王都での戦闘の際に死んだメロリアの実力は今一つだったが、『昨日の悪夢をもう一度』という固有魔術を持っていた。
自分に起きた出来事を、『その出来事が起きた自身は幻影だった』ということにして、全てを『無かったこと』にする強力な魔術だ。
「ギッギッギ、メロリアは本当に惜しかったなァ……。オレとホップリィ、魔術局の面々も本気でやったのに魔道具に落とし込めなかった」
固有魔術は、本人しか使えない特異な魔術。しかし、魔族はそれを魔道具にすることで普及させ、自分たちの戦術を拡大してきた。
王都で戦ったあの日、特筆戦力どもを隔離した結界……アレはヒルディの『黒乃蔵雲』を元として生み出された魔道具だ。
また、王都全体に張った結界を生み出した魔道具は先々代の魔王、そして複数名の魔術師の『固有魔術』を複合させて作ったもの。
更に『魔王の血・Ⅲ』はキィターニの『固有魔術』をベースに、オージョーの魔力を肉体に取り込んで巨体化出来る『俺の肉体は無制限』やブリーダの魔術を取り込んで発展させて作り上げた。
「このことは、言うの?」
魔族という種族の……戦闘の要であり、恐らく他国には知られていない真実。知られていないことがアドバンテージとなる情報。
しかしブリーダは、躊躇いなくうなずいた。
「……ああ。キィターニをぶっ殺すためだ、キョースケの信頼を得とくにこしたことァねェ」
「まぁ、貴方が言うならそれでも――あら」
そっと、彼に抱きしめられる。魔族では殆どない、愛情表現。
ほんの少しだけ照れながら……それをごまかすように、ため息をつく。
「あたしを抱いても、固いわよ?」
「ギッギッギ。死ぬ可能性の方が高ェンだ。いつ最期が来ても良いように、な」
精巧に作ったとはいえ、この体に感触は無い。どうせ凝るなら、五感くらいつければよかったか。
ホップリィはそう思いながら、目を閉じた。
「新入り達! イチャイチャしてサボるんじゃねーよ!」
「「イチャイチャしてねぇ(ないわよ)!!」」
天川「何とか、今月は普通に更新できるか……?」
志村「それは来週のお楽しみで御座る」




