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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十三章 獣たちの狂乱なう
369/396

318話 腹を割る、なう

前回までのあらすじ!

京助「ブリーダが意味深な情報を出してきたね」

冬子「むぅ、なんというか……余裕な表情に腹が立つな」

リャン「そもそもどうして知ってるんでしょうか」

シュリー「ヨホホ、警戒はしてたんデスがねぇ」

マリル「よく分からないですけどー、やっぱり魔族は怖いですねー」

美沙「もうやっつけちゃっていい気がする」

キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」

「……なんでお前がそれを?」


 確信を持っている目。もうこいつと腹芸をするのも馬鹿らしい。

 俺はそう思って問うと、ブリーダはフッと笑った。


「ギッギッギ、テメーならコレ見りゃ十分だろ。姿を現せ」


 彼が言って、手を振る。すると次の瞬間、彼の頭上に手乗りサイズの水で出来たスライムらしきものが出現した。

 何故、俺がらしきものと言ったかと言うと……それには、魔物には必ずあるはずのあるものが無いからだ。

 そう、全ての魔物の核……魔魂石が。


「感じる魔力は微弱……下手したらその辺の子犬より少ないね。だとしてもあり得ない」


 最弱であるFランク魔物だろうと、必ず存在するそれ。

 かなり特徴的な形や魔力の濃さをしているから、日常的に行っている感知でも範囲内に入ればすぐに気づける。まして、目の前にあって俺が見えないなんてことは無い。

 つまり、このスライムに魔魂石は存在しない。


「となると……もしかして、疑似魔物?」


 俺が使うAmdmのような疑似魔物(今俺が勝手に名付けた)だろうか。

 アレは使用者が結界魔法など、様々な魔法を併用して生み出す。つまり独立した生物ではないため、使用者の魔力と同じ色、同じ雰囲気の魔力を纏うことになる。

 だから仮にこいつがそれと同様ならば、そうなるはずだが――ブリーダの魔力とはまるで似ていない。


「ギッギッギ! おいおい、テメェはやっぱ魔法師としては一流でも、魔術師としては二流だなァ!」


 愉快そうに笑うブリーダ。そこに何の違いがあるのかは分からないが、ここで反論しても面倒なのでそのまま話の続きを聞く。


「ギッギッギ、『魔視』じゃなくて『魔流視』を使いな」


 よく見えるようにだろうか、頭上のスライムを手に乗せてこちらに差し出してくるブリーダ。触るのはなんとなく嫌なので、顔を近づけるだけにする。


「『魔流視』……なにそれ?」


 コイツの言う『魔視』は――俺が魔力を『視』る眼と呼んでいる技術のことだろう。魔力をサーモグラフィカメラのように見ることが出来るようになる。

 魔法師は全員出来る、基礎技術だ。しかし後者に聞き覚えは無い。魔族は人族と用語が違うからね。


「……ンなことも知らねぇのか。魔力の流れを『視』るンだよ。『魔視』の発展、魔術を極めるためには必須のステップだ」


 なるほど、『魔力の流れを視る眼』のことか。目を凝らすか『魔昇華』をしたら視えていたから、そんな名前がついているなんて知らなかった。

 でも確かに、キアラから言われたっけ。魔力の動線、流れを『視』るのは人族ではかなり訓練しないと出来ないって。

 シュリーはキアラから教わっているが、彼女ほど魔法に精通していてもすぐには出来なかったからね。

 ……俺は最初から出来たんだけど、『魔王の血』のおかげで。


「でも何が変わるって言うのさ」


 そう言いながら眼を切り替え、さらに目を凝らして魔力の流れを『視』る。すると、周囲の魔力がそのスライムに流れ込んできていた。

 魔物は魔魂石で生み出された魔力で動く。外部から魔力を吸収する場合でも、魔魂石を経由してからでないと全身に行き渡らない。

 だというのに、このスライムは供給された魔力がそのまま全身に行き渡っているのだ。


「あー……え?」


 俺達は魔魂石の有無で魔物か動物か判断する。逆に言えば、魔物を感知しようとするときは魔魂石を探す。

 無いものは探せない。つまり、俺やキアラでも『魔力感知で魔物を探そうとすれば』――物理的に風を使って感知するならまだしも――このスライムに気づくことは出来ないのだ。


「ギッギッギ、気づいたかァ?」


「……こいつを使って、盗み聞きでもしてたの?」


 ギラリと睨みつけ、殺気をぶつける。


「おう。監視と言ってもいいかもなァ。ギッギッギ!」


 笑いながら、手のひらの上のスライムを撫でるブリーダ。そんなブリーダに――俺はビシッと指を突き付けた。


「じゃあ、俺が冬子やリャンやシュリーやマリルや美沙とあんなことやこんなことをしているのも全部!? このド変態! 助平! 出歯亀! 色情狂! 戯れ男!」


「いや見てるわけねェだろ!? ってか、人族にゃどんだけレパートリーがあんだよ! 変態に対する罵倒の!」


「ちょっと、ブリーダ……? 見てたの? あたし以外の女を?」


「いやちげ……」


 なんか隣のホップリィⅡから爪を突き立てられるブリーダ。俺も彼の足の小指を槍で小突く。


「っつ……! おま……地味に痛ェことを……!」


「クソッ……もっと探知の精度上げないと」


 スライムとは言っているが……こいつの見た目はほぼ水。もしもこの状態で水の中とかに潜まれたら、俺の風でも探知できないだろう。


「いや、マジで苦労したぜェ? テメェの風……ホップリィのそれよりも探知精度も距離も上だしよォ。なにより、テメェらの有視界内だったら気づかれるからなァ」


「ブリーダ、嘘つかないで。あたしの風よりも僅かに上なだけよ」


 ムッとした表情で張り合うホップリィⅡ。しかし、そんなのどうでもいい。


(カカカッ、コイツァ一本取られたナァ。マサカ、マ・サ・カ! コンナ手デオレ様とキアラの探知を掻い潜るナンテヨォ)


 いつもの口調――に反して、かなりの苛立ちが含まれた口調。出し抜かれたのが、よほど腹に据えかねているらしい。


「視界からギリギリ外れた所で、声を断片的に拾うだけ……オレとホップリィ、魔国の二大研究者が心血を注いでやっと一体だけ作れた最高の諜報魔物だ。名付けて『アンノウンスライム』。ギッギッギ、どうよ!」


 研究成果を見せびらかすような――いや実際にそうなんだろうが――テンションで解説するブリーダ。

 俺はジッとアンノウンスライムを見る。魔魂石が無い、カナリアよりも微弱な魔力の魔物。それでいて情報収集はキッチリこなせる。

 こんなのが量産されていたら……。


「ギッギッギ、安心しろよ。そいつはそこにいる一体だけ。二度と作れねェよ。どうだ? オレの切札。――こいつを明かしたのは、結構信頼に値するんじゃねェか?」


(腹立たシイガ……ン、マァ嘘を言ってる風ジャネェナ。マァ種は割れたカラ、二度と同じ轍は踏まネェガナァ)


 ヨハネスが言うのなら……まぁ、そうなのだろう。


「それで――お前は俺達から隠れながら、せっせとストーカー用の魔物を作ってた、と?」


「ギッギッギ、魔族ってのァ……情報収集で他二国に渡り合ってきた種族だ。その面目躍如って言ってくれ」


 悲しそうに、複雑そうに笑うブリーダ。


「オレは、テメェらSランクAGくらいの扱いを受けてる。国じゃ、な。――本質的に、魔族ってのは戦闘が苦手なンだよ」


 唐突にそんなことを言いだす。お前らが戦闘が苦手だなんて、何を言ってるんだか。


「別に信じねェならそれでいい。――つってもなァ、コイツでもテメェらの探知範囲内に入れるのは怖かったからなァ。殆ど何も聞けてねェの。さっきの『トラゴエディア・バレー』の話くらいしか重要そうな情報は手に入れらんなかった」


 苦笑するブリーダ。


「だからこそ、そこ一点突破だ。――オレとホップリィがこの村に潜伏したのは、人族から身を隠すためじゃねェ。魔族に生きてるって悟られねェためよ」


 国家元首であろう魔王に逆らう気でいるんだ。そりゃ、自国の人間に生きてるとバレたらやりづらいだろう。


「その通り! 戦いってのは正確な情報を持っているかどうかで九割決まる。魔族はオレたちが生きてることは予想していても……洗脳が解けたとは思ってねェはずだ」


 解けても術者には気づけないのか。


「おう。ンで、魔族の連中にそれがバレてねぇオレたちは――国に戻れば、まだ『高位指揮者』だ。つまり、オメェらを『トラゴエディア・バレー』の最深部まで最短で連れて行ってやれる」


「……ふむ、なるほどね」


 SランクAGが三人がかりでも死にかけるという、『バルバミューダ』を超えた先にある魔族の城が建つ谷。

 そんな魔境を超えた先だけでもガイドがいれば、確かに心強いだろう。

 だが――


「どうしてそこまでする?」


「ギッギッギ、簡単な話だ。『トラゴエディア・バレー』にはアルシファーナ様が封印されている。あー……あそこにある城はな、キィターニが魔王になってすぐにアルシファーナ様の封印を強化するために建てたんだ」


 …………なるほど。


「つまり、お前はそこに行くまでのボディガードが手に入る。俺達は目当ての場所に真っすぐ行ける……それが交換条件だと」


「そういうことだ。ギッギッギ、アルシファーナ様を救った後は……あの人と交渉してくれ。キィターニを倒すっつったら、一も二もなく協力してくださるとは思うがなァ」


 俺は瞑目し、ブリーダの言っていることを考える。

 こいつは口が上手い。それに、今まで何度も戦ってきた。今回は共闘という運びになったが、おいそれとはいそーですかと聞くわけにもいかない。


(筋は通ってるし、理屈も分かる。本当に『洗脳が解けた』んならだけど)


 そこが嘘ならば、この誘いは自国の有利な土地に俺達を招き入れるための言葉となる。


(……どう考えるべきだ?)


『トラゴエディア・バレー』の情報だけでなく、それ以外の魔族の情報を抜き出して殺すのがベストだ。誰も困らないし、何も不都合は無い。

 しかし一方で、コイツがいれば『トラゴエディア・バレー』を進み、目的の場所に行くことがスムーズに進むだろう。話を聞く限り、大臣のようなことをやっていたみたいだし。

 それは、情報を抜き出すだけじゃ出来ない。


「ギッギッギ、今すぐ決めろなンて言わねェ。さっきも言ったが、オレを殺してもホップリィも案内出来るからなァ」


「だからブリーダ!」


 再度、痴話げんかを始める二人。俺はそれを放っておいて……外のキアラに尋ねてみる。


「(どう思う?)」


「(罠ぢゃとするなら杜撰過ぎる)」


「(同感)」


 ブリーダが俺達の会話を聞いていたとしたら――『トラゴエディア・バレー』には俺達のチームだけでなく、タローとウルティマも来ることが分かるはずだ。

 SランクAGが最低でも三人自分たちの本陣に来るなんて……まぁ、普通は歓迎しないだろう。

 罠を張って、敵の強者を一網打尽……なんて常識が通用するような実力者じゃない。


「(己惚れてるわけじゃないけど、覇王クラスの実力者がいたとしても被害の方がデカくなると思うんだよね)」


 俺達を一網打尽にする間に、たぶん都市が二、三個滅ぶ。それくらいの規模の破壊はこなす自信がある。

 非戦闘員を殺すかどうかは置いておいて、だけど。


「(うむ。そして、こ奴等はそれが分からぬほど阿呆でもあるまい)」


 アホだとは思うけど、その辺のリスク管理は出来るだろう。

 最大限警戒しているSランクAGが三人に、うちのチームメイト。そしてキアラ。

 これだけの人数を出し抜いて罠にはめることが出来ると思えないし――


「俺が、お前らを奴隷にするって言いだしたらどうするつもりなの?」


 ――そうなってしまえば、一切の反抗は出来ない。

 文字通り、生殺与奪の権を全てこちらに委ねることになる。

 ……しかし、ブリーダもホップリィⅡもどこ吹く風という表情で肩をすくめた。


「なんでもいいぜ。オレたちはアルシファーナ様を復活させて、キィターニさえ殺せればそれでいいからな」


「それに、アルシファーナ様が復活されたら……まぁ、ちゃんとあたしたちを助けてくれるだろうしね。交渉事も得意だから、あの人」


 ブリーダもホップリィⅡも、あの人呼びって。王様に対して、結構気安いんだな。


「それに――実力至上主義だもの。キィターニの下についてもいい――そう思えないのだから、反逆するだけのことよ。そのためなら、奴隷になろうが泥をすすろうが戦うだけよ」


「ギッギッギ、オレは産まれた村にいた『指揮者』に従いたく無くてなァ。幼馴染と二人っきりで反逆して乗っ取った。自分が上に立つか、違う御輿を担ぐかの違いだけだぜ。今回やるこたァよォ! ギッギッギ!」


 幼馴染――と言ったところで、懐かしむようにホップリィⅡが笑う。

 そっちに目を向けず、愉快そうに嗤うブリーダ。

 ――言っている内容は理解出来る。

 出力される結果も理解出来る。

 でも、何故か……こいつらとは決定的に『何か』の価値観が違うんだ。

 こいつらからは……怒りが感じられる、憎悪が感じられる。

 でもそれ以上に――別の感情が前面に浮かんでいた。

 それが何か分からない。きっと俺が魔族じゃないからだろう。


「……まぁ、うん」


 彼らのことは芯から理解出来ない。

 でも、最終的な結果は理解出来る。


「結果が同じになった感情を、同じ感情だと定義するだけか」


「あン?」


 美沙に言われた言葉を思い出す。

 こいつらの出した結論、結果は――自由を求めるモノだ。

 自分たちが選択したいという、自由を。

 それなら、その動機だけ・・は応援出来る。


「こっちの話。――にしても、たった二人でもやろうってのが凄いよ」


「ギッギッギ。テメェだってこんだけコケにされりゃあ……一人でもやンだろ?」


「まぁね。……だとしても、なんで死んでいいと思うのかは分からないけど」


 さっきからまるで、どっちかを殺して欲しいかのように互いを庇いあっている。 

 それは不気味だ。


「ンなの簡単だろ。一番確実な方法を取るべきだからだ」


「あたし達二人じゃ無理。でも、人族の実力者を利用できるなら話は別」


「俺が裏切る可能性の方が高いでしょ」


 そう水を向けると、ブリーダもホップリィⅡも笑い出した。


「ギッギッギ! そりゃそうだ!」


「ふふふ。だから今、交渉してるんじゃない。カードを切ってるんじゃない」


 目的を達成したら、アルシファーナを助けずにこいつらを殺すことも出来る。

 その可能性の方が高い――と、俺は思うんだけどね。


「……魂を、ね」


 俺はジッとホップリィⅡを見る。彼女は少しだけ身を竦ませると、しかし気丈に笑った。

 その表情が――あの時戦った、彼女とダブる。


(って、俺……案外、覚えてるんだな)


 たった一度、殺し合いをした相手。それだけなのに、どんな表情だったか思い出せる。

 それだけ彼女は強かったし――あの戦いは、俺も必死だった。


「ちょっと、外の皆と話してきていい?」


「……おう、いいぜ」


 俺はブリーダの許可を得て、一度外へ出る。

 冬子が、リャンが、シュリーが、マリルが、美沙が俺を見て駆け寄って来た。


「キアラさんに繋いでもらってるから、中の話は聞こえていた。……どうする、京助」


 シリアスな表情の冬子。俺達異世界人からすれば、『トラゴエディア・バレー』の最深部に行けるというのは非常に大きな意味を持つ。

 現状、一切『元の世界に戻る』ための情報が無い状態。俺達が帰りたいかと言われるとそれはまた別の話だが、研究が進めば非戦闘員を帰すことも……究極的には行き来出来るようになるかもしれない。

 このまま人族の国に籠って調べても得られない情報がごまんとあるだろう。無論空振りに終わる可能性も大きいが……それを加味しても、行くことのメリットの方が大きいだろう。


「いいんじゃない? 私は賛成。メインストーリーが進むしね」


 美沙がそう言って、腕を組む。というかメタいよ美沙……もう少し、せめて本題とかそういう言い方をして欲しかった。


「ブリーダ達はSランクAG三人と、私たちだけと思ってるかもしれないけど……たぶん天川君たちのパーティーも噛ませろってくるよね」


「だろうね」


 そしてあのパーティーには団長や、枝神も混ざってる。そして何より――


「志村もたぶん、来る」


 ――俺、天川、志村の三人を完全に罠に嵌めるなんて、たぶん俺でも無理だ。

 三人とも力業だが、その力の種類がまるで違う。


「そして京助は、アイツらの動機に関しては否は無いんだろう?」


「う……何さ、その見透かしたような顔は」


「別に? お前は相変わらず単純シンプルな思考をしてると思っただけだ」


 何も言ってないのに、冬子からそう言われてしまう。

 首肯するのがなんとなく恥ずかしかったので、俺はつんっと冬子のお腹をつついてから、コホンと咳払いした。


「ま、こっちに利がある以上、協力を結んでもいいかもしれない。でもそうなると、問題が出てくるんだよね」


 アイツらが敵国の人間であり、且つこの国甚大な被害を出した主犯である以上。

 避けられない問題が。


「ヨホホ……それまでの間、彼らをどこに置いておくかが問題デスよね。奴隷の首輪は通用しないデスし」


「そうですね。普通に匿えば、バレた時にマズいことになります。しかし、だからと言って誰かの許可を得るなんて不可能でしょうし……」


 リャンの言う通り。

 魔族の奴隷がこの国にいない理由の一つは、奴らには人族の国で作られた奴隷用の首輪が通用しないからだ。

 どうも魔術師なら奴隷の首輪を解除することが出来るようで、つけても行動が阻害できるとは限らない。

 国で捕虜としている奴らは、首輪とかそういうのじゃなくて……腕や足を切り落とし、目を塞ぐことで物理的に逃げられないようにしている。しかしそれでは、ブリーダ達に案内させるという目的を果たせない。


「かといって何も対策を講じないのはあり得ませんしね。流石に、純粋に信じることは不可能です」


「そうだよねー。それに魔族って私たちのこと洗脳して闇落ちさせたり出来るんでしょ? 私だってヤバかったし。単純に見張るだけでも、かなり神経使うよ」


 美沙がそう言ってムンと胸を張る。確かに彼女が洗脳されていた時はヤバかった。氷の城を出された時は、ありのままの姿を見せられるのかとヒヤヒヤしたよ。

 かく言う俺も、ヨダーンに嵌められた時は本格的にヤバかった。


「阿呆。いつでも魔族がそんな大規模且つ協力な洗脳を行使出来るか。キョースケが喰らったのは例外ぢゃし、ミサがやられたのも入念な下準備と薬効、魔道具を併用して仕掛けたものぢゃ」


「「え」」


 俺と美沙が同時に素っ頓狂な声を出す。


「いやいやいや……魔族だよ? 闇魔術で人心を操る悪逆非道の輩だよ?」


「まぁ我々一般人からすれば脅威ですけどー、実力者が操られたせいでとんでもないことに! みたいなのは、生まれて24年間で一度も聞いたこと無いですねー」


 マリルが後ろから補足を入れてくれた。それを聞いて、キアラがやれやれと首を振る。


「天川も操られていたし、私ももっと驚異的なものだと思っていたんですが」


「であれば王都動乱の際に、お主らが誰も操られておらんかったのはおかしいぢゃろ。あの場には相応以上の実力者がかなりの数来とったんぢゃぞ」


 俺とタローのSランクAGが二人に、騎士団長。それだけでなく冬子たちや志村もいた。それなのに、操られて被害を出したのは美沙だけか。


「……というかキョースケ、お主は魔族と何度も戦っているぢゃろう。なのにヨダーン以降操られてないのはおかしいと思わんのか」


「それは……俺に精神異常耐性があるからかなって」


「それも理由の一つではあるがのぅ。ま、お主は根本的な部分での理解が出来ておらんかったんぢゃな。そう考えれば、良い機会ぢゃったか」


 そう言うと、キアラは軽くため息をついてから俺の鼻にデコピンしてきた。


「とはいえ、違和感を抱いて妾に聞くべきぢゃったな」


「う……そうだね、気を付ける」


 やっぱり分かったつもりのことって多いなぁ……。

 俺は少し反省しつつ、キアラの話の続きを聞く。


「闇魔術というのはとどのつまり警戒するに越したことは無いが、気にし過ぎるほどのモノでも無いということぢゃな。妾達のように、一定以上の実力を持つ者であれば」


 少し逸れた話をまとめたキアラは、咳払いして元の話に戻った。


「とはいえ、魔族の闇魔術で最も怖いのは、非戦闘員が洗脳されて搦め手を使われることぢゃ。魔族を拘束する場合は、そこを重視して檻などに入れられる」


 キアラの説明に、俺と美沙、冬子はなるほどと頷く。


「まあ、だとしても最初の所に戻るね。協力するにしても、バルバミューダを超えるまでどうするか。裏切らないように枷が付けられないか」


 動機に多少理解は示せても、あくまで俺達は敵同士。

 種族同士の諍いには興味無いし、アイツが魔族だから信用出来ないというわけでもない。

 何度も殺し合いをした相手だから、信用していないのだ。


「うーん、どうすればいいんですかねー」


「こうして考えると、かなり難題だな」


 皆で腕を組んでうんうんと唸る。この問題がクリア出来ないなら、彼らと協力を築くのは不可能に近い。


「安全に、且つ裏切られない方法で匿う……」


「そもそもどこにそんな場所が」


 ……と、皆で考えること数分。俺は長くため息をついた。

 そして活力煙を咥えて、火をつけて煙を吸い込む。


「ダメだ。――物事はシンプルに考えないとね」


 複雑なことはどうせ出来ない。やることは極力シンプルで真っすぐが良い。


「俺達はアイツらに『トラゴエディアバレー』を案内させたいんだ。決して、下僕や奴隷にしたいわけじゃない」


 ずっと言うことを聞かせる必要は無い。全ての動きを縛る必要も無い。

 俺達はアイツらの全ての動きを縛る必要は無い。目的を果たすまでの間、一般人に手を出したり俺達に不意打ちを仕掛けてこないようにすればいい。

 それはつまり、『奴隷の首輪』が必要なわけじゃないっていうことだ。


「そう考えればやりようはある。例えば……そうだな、結界の応用で疑似的な奴隷の首輪みたいな効果を与えるとか」


 Amdmの時のように、複雑な複数の効果を持つ結界を組めばブリーダ達でも容易には解けないかもしれない。


「そんな面倒なことしなくても、怪我は治しちゃえばいいんだからさ。手足をへし折って常にボコボコにしておくとか」


「物騒過ぎますよー。でも手を折ったりするんじゃなくてー、必要な時まで寝かせておけば、匿いやすいかもしれないですねー」


 ああ、そういう魔法はあるからね。キアラがよく使うし、そうでなくとも回復系の魔法師ならば割とポピュラーな魔法だ。


「しかし奴隷の首輪のように、動きを何か強制出来る魔法があればいいんだが」


「そんな便利なものがあるなら、もっと広まっているのではないですか?」


 そうリャンが言ったところで――ポンとシュリーが手を打った。


「ヨホホ、そういえば……ワタシが魔法師ギルドに入ってすぐに、奴隷魔法が作られる前によく使われていた魔法があったという話を聞いたことがあるデス。名前は確か……」


 うんうんとこめかみに指を当てて唸るシュリー。そんな彼女の言葉を引き継いだのは、キアラだった。


「よく知っておるのぅ、しっかり勉強しておる証拠ぢゃ」


「ヨホ? あ、ありがとうございますデス」


 唐突にキアラに褒められて目を丸くするシュリー。彼女の頭にポンポンと手を置いたキアラは、俺の持つ槍――『パンドラ・ディヴァー』を睨んだ。


「リューよ、お主が言いたいのは契約魔法のことぢゃろう? どこぞの阿呆のせいで廃れた古の魔法ぢゃ」


「「「「「契約魔法?」」」」


「ああ! それデス!」


 シュリーはパッと表情を明るくして、すっきりした様子だが――俺達は初めて聞く単語だ。

 俺達が首を傾げると、キアラがふむと頷く。


「知らぬのも無理は無い。奴隷の首輪が出来てからは使われなくなったものぢゃからな。使える者が限られる上に、奴隷魔法とは根本的に思想を異にする魔法ぢゃからのぅ」


 奴隷魔法というのは、奴隷の首輪を作成する時に使われる魔法。これと封印魔法を併用して奴隷の首輪は作られているらしい。


「思想を異にする……というのは、どういう意味デスか?」


「奴隷魔法は『一方的』、契約魔法は『双方向的』という部分が最も違うのぅ」


 シュリーの問いにそう答えるキアラ。


「更に言えば強度がまるで違う。奴隷魔法は一方的且つ力押し故に単純。封印魔法もそうぢゃが、力ずくでも搦め手でも案外破れんことは無い。……まぁ、魔法師ではないものが使うために作られた魔法ぢゃから仕方が無いがのぅ」


 魔法っていうのは、単純であれば単純であるほど力と力の戦いになる。ただの風や水なんかは、奪って奪われては日常茶飯事。

 一方、結界のような複雑な魔法は相応の技術を使わねばそもそも介入すら出来ない。魔法っていうのは、複雑であればあるほど解除したりコントロールを奪ったりしづらくなる。


「言われてみれば、奴隷の首輪って指定した命令に従って痛みを与えたり拘束したりするだけだもんね」


「ああ、確かに単純っちゃ単純か。……じゃあ、契約魔法っていうのはもっと複雑で解きづらいってことなんですか?」


 美沙の問いに、こくんとキアラが頷く。


「様々な準備が必要ぢゃし、使う側に高い技量が必要ぢゃから扱いづらいがのぅ。しかし、奴隷魔法よりも複雑で強力な契約を結ぶことが出来る。この中なら――まぁ、キョースケとリューならば問題なく使えよう」


 そう言われて、ちょっと不服そうな顔になる美沙。まぁ、魔法の扱いにかけてはまだまだ練習中だしね。

 しかし契約魔法か……。


「古いんだよね。今でも使い物になるの?」


「少なくとも、今回の事案に対してであれば十二分に役割を果たせると言っても良いぢゃろう」


 自信たっぷりに言うキアラ。いや彼女はいつも自信満々だけどさ。

 俺達は顔を見合わせて、頷く。その問題が解決出来るならどんな魔法だっていい。


「一応、話をまとめとこう。あいつらに協力して、『トラゴエディア・バレー』に行く。それまでの間は契約魔法? で、どうにかする。……これで良い?」


 全員が頷く。まぁ、この流れで否が出るとは思ってなかったけど。


「じゃあ、キアラ。その契約魔法を使うことにするよ。……で、どんな魔法なの?」


「ふーむ。説明するなら、あ奴らにも一緒にやるか」


 そう言ってブリーダ達がいる小屋に足を向けるので、俺達も後ろを続く。


(異世界モノじゃ割とポピュラーなイメージだけど……)


 言われてみれば、聞いたこと無かったな契約魔法。

呼心「契約魔法なんてあるんだね、知ってた?」

天川「ラノールさんから借りた本に載ってたな」

桔梗「やっぱり、本は大切だね」

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