313話 氷樹なう
前回までのあらすじ!
京助「また間隔開いたね?」
冬子「その、すまない……」
リャン「えーっと、なんか難産らしいですよ」
シュリー「ヨホホ! ちょっとリアルが忙しい様子デス!」
マリル「でもちゃんと続きは書いてますからね!」
美沙「あ、あらすじ……。えーっと、京助君がルグレと戦ってるところから始まります!」
キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」
気づいたら、俺は青空を見ていた。
「――ッ!?」
すぐに立ち上がるが――足に来ている。倒れそうになるのを強引に風で立て直し、俺は顔をあげた。
そしてそこには、既にルグレが右拳を――否、爪を振り上げている。
「チッ!」
紙一重の所で身を反らして回避し、右足の踵を支点にして回転。その勢いでルグレのボディをぶっ飛ばす。
しかしルグレはその場で側宙して受け流し、逆に後ろ回し蹴りで側頭部を狙ってきた。
「ガハッ!」
ぐわんと視界が回転する。脳が揺らされた、平衡感覚を失って体から力が抜ける。その隙を逃さず、追撃の手刀がボディに入った。風のガードが間に合った――にも関わらず、衝撃が俺の背を抜けていく。
「うげっ……!」
さらに顔面に蹴りが。ギリッギリ首を捻って躱すが、目にも留まらぬ連続蹴りで横っ面を蹴っ飛ばされる。
二度、三度バウンド。ゴロゴロと転がり、がくんと地面の窪みに落ちた。
「痛たた……なんでこんなところにクレーターが……? って、ああ。さっき俺が地面削ったところか」
登場の時に抉った穴に落ちてしまっていたらしい。息を吐いて、身を起こす。
『オメーが痛いナンテ言うの、イツブリダァ?』
「そもそも怪我したのが久しぶり過ぎる」
『ダメージは?』
「余裕」
口の中に血の味が広がる。こればっかりは、いつまでも慣れない。
その辺にペッと吐き出し、俺は活力煙を咥える。
「ふぅ~……」
「この私の攻撃に二撃以上耐える者が……まさか、覇王様以外にいようとは」
クレーターに降りてくるルグレ。彼は冷静にこちらを見ると、さっきのナイフを構えた。
「なにそのナイフ」
一度、集中しないとエンチャントのエクステンドは使えない。さっきまではルグレの攻勢が激しすぎて切り替える隙が無かったけど――今なら。
「これか? ……無知に付け込むのは私の流儀に反する。簡単に説明してやろう」
「……ご丁寧にどうも」
まさか説明してくれると思ってなかったので、俺はちょっと驚きつつ……活力煙の煙を吐き出した。
「この身に深く沈む、古代の力を――時代を遡り、引き出す兵器。その名も獣暴記だ。これを使えるのは覇族のみだが……その中で更に一握りの選ばれた者だけが、深代度を5以上に引き上げることが出来る」
古代の力。
改めて、ルグレの姿を見る。顔にはフ〇ダリのように鬣が生え、マズルが伸びてライオンのそれと殆ど同じようになっている。
加えて両腕と両足が、まるで動物のように毛がふさふさになっている。体毛の色は、橙色だ。
全体的に、獣度が上がってる。これにはケモナーもニッコリだね。
「先ほどは、取り乱してすまなかったな」
真剣な目で、頭は下げず――しかし、謝意を示すルグレ。
「前言は撤回しない。覇王様の決定に貴様が異論をはさむなど、私は認めない。その点については、まだ私は怒っている。……しかし、それだけの大口を叩く実力があることは理解した」
そう言って、スッと獣暴記(ビーストクロニクル)を俺に見せる。
「私は、覇王様以外には二度と負けないと誓った。しかし、ただ勝つだけならば誰にでも出来る」
だが、と言葉を一度切った。
「どんな時でも……覇王様に、アイネに、自分に胸を張れる勝利を得たい。だから、貴様に獣暴記(ビーストクロニクル)についても教えた」
獣人族でも、リャンは割と勝てばそれでいいってタイプだ。だから種族としてというよりも、彼個人の信条なのだろう。
そして……この強さでそれを言われたら、それは無駄なプライドではなく貫いた信念という風にすら感じる。
「とはいえ、相手がそれに値するような者でなければその限りではない。これは私なりの、礼儀だ」
「嬉しいね、そこまで買ってくれるなんて」
俺は笑いながら立ち上がる。煙を深く吸い込み……そして、吐き出した。地面に叩きつけ、踏みつける。
集中は十分だ。
「じゃあ、ここから本番かな?」
「ああ。ここからは、貴様を全力で潰す! そして、覇王様が貴様を殺せなかったと言ったことは撤回させる!」
ルグレが動く。跳躍し――その勢い全部を踵に込めて、俺に落としてきた。
槍を振り上げ、中腰でそれを受け止めるが――ズガンッッッッッッッッ! 勢いを殺しきれず、俺の両足が地面に埋まる。
「そんな姿では、回避も出来まい!」
「そうでもない」
嗤うルグレ。俺も笑み返し、『ブレイズエンチャント』に切り替え――大爆発した。
業火が球状に広がり、地面が丸ごと灼け消える。そのままロケットのように自らを撃ち出して、地面から離れた。
空に浮かびながら地面を見ると――鬣をたなびかせ、ルグレが腕を組んで立っていた。体には、煤一つついていない。
「手品か?」
「驚かせちゃった? それならごめんね」
魔力を練り上げ、昇華させていく。今までの荒れ狂う業火ではない、制御し……ただひたすらに押し固め、圧縮する。
「『ブレイズエンチャント・エクステンド』」
ドッ!
身に纏う業火が、薄く揺らめく陽炎のようになる。しかし同時に、周囲の気温が見る見るうちに上がっていく。
……しまった、これ長時間維持してたら気温が百度超えるんだった。
「行くぞ、キョースケ!」
「来い! ルグレ!」
カカカッ!
空に駆けあがってくるルグレ。よく見ると、薄っすらと足の裏に魂が出ているのが分かる。どういう原理か分からないけど、こいつも空を走れるのか。
(覇王もそうだったっけ、そういえば)
空を飛ぶのがデフォルトって、龍の玉を集めるアレじゃないんだから。俺は炎を槍に集め、迎え撃つ。
ガジィッ!
俺の突きとルグレの拳が激突する。空中ではいくら『ブレイズエンチャント・エクステンド』と言えど踏ん張ることは出来ず、互いに吹っ飛ばされてしまった。
着地し、背中に炎の翼を生み出す。
「『フェニックス・チャージ』!」
ギュイイイイイイイイン……。
空間が震え、エネルギーが高まっていく。ルグレもただ事ではないと感じたのか、防御するように両腕に魂を纏わせた。
槍を右手で持ち、後ろに引き絞る。すると俺の背に出ていた炎の翼が、空を覆わんほどに巨大化した。
「なんだ!?」
「槍で突進するなら、これを言わないとね――エネルギィィィィィィ! 全ッ! 開ッ!」
身を低くし、肉体を一つの槍として敵に突進する『職スキル』、『砲弾刺突』も発動。背中の翼が爆発し――その推進力を以って、ルグレに突撃する。
「フェニックス・クラッシャー!」
「ッ!?」
俺のスピードを見て、避けきれないと判断したらしい。すぐさま右手に魂を集中させ――迎え撃ってきた。
ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!
鼓膜が破れるかと思うほどの衝撃。ルグレはガリガリガリガリガリ! と地面を削りながら、後方に下がっていく。
筋肉を膨張させ、滝のような汗を出すルグレ。左手で獣暴記を操作すると、大きく開いた口で笑うように吠えた。
「一つ……いや、足りん! 二つ上げる! 獣暴記、深代度7!」
ゾンッ!
ルグレの体が一回り大きくなる。服を破り――中から、ムキムキに鍛え上げられた肉体が現れた。
腕は肩から変化し、首がやや伸びる。尻尾が通常時の倍ほどの太さになり――足が、ネコ科特有の逆関節のそれになる。
「ああああああああああああああああ!!!!!!」
叫ぶルグレ。一気に手ごたえが増し、完全に拮抗する。
「くっ……!」
『キョースケェ! 集中切らすナヨォ!』
「分かってる!」
轟!
背中の翼をさらに一対生み出す。それによって推進力を増やし、再びジリジリとルグレを押していく。
「くっ……うおおおおお!」
ばしんっ!
ルグレは尻尾をバネのようにして、上へ跳躍。俺の突進を受け流した。
だが、それで終わらせるわけにはいかない。俺は『ストームエンチャント・エクステンド』に切り替えて空へ飛びあがる。
ルグレが一瞬驚愕するが、すぐに対応。空中で放った俺の突きで左肩を貫かれるが、逆に蹴りで俺の鳩尾を抉って来た。
「「がはぁっ!」」
お互い、とんでもないスピードで吹っ飛んでいく。ズンッ! と嫌な音が鳴り、地面にめり込んだ。
俺は腹を抑えつつ立ち上がる。
「今度は完璧にガードした! ……と、思ったんだけどな」
がくっ、と膝が折れる。ボディをやられて足にくるっていうのは、あんまり良くない。
『アイツの攻撃、ドレモスゲェ威力だナァ。シンプルで、強い。非力な風ジャァ無理ソウカ』
「そうだね」
風は柔軟で速いが、パワーや防御力には他のエンチャントに劣る。風の結界じゃ、軽減は出来ても完全に防ぐことは出来ない。『ハイドロエンチャント』じゃないと無理だな。
俺は空へ飛び、ルグレの方へ。彼は肩の魂を輝かせ、怪我を治そうとしていた。
「――そんな隙は与えない!」
「ならば!」
ルグレは右手の魂を一瞬で極大に輝かせると、肩を思いっきりぶん殴る。すると次の瞬間、左肩の魂が一気に活性化して――傷を塞いでしまった。
ルグレに真上から斬りかかるが――彼はギリッと歯を食いしばり、回避と同時に尋常じゃないスピードで俺の背後を取った。
「どうだ!」
スピード特化の『ストームエンチャント』についてくるなんて。俺は回転しながら槍を振るい、ルグレの蹴りを受け止める。
シャレにならないような衝撃が、しっかりガードしたはずなのに――俺の背骨に響く。吹っ飛ばされ、地面に激突する寸前に暴風を出してクッションにした。
「ぬるい!」
着地すると同時に、残像が見えるほどのスピードで迫るルグレ。
「『ハイドロエンチャント・エクステンド』!」
轟!
激流が俺の肉体を包み、泡のように弾けた。見た目はやはり穏やかだが――パワーは、通常の『ハイドロエンチャント』の比じゃない。
ルグレは両拳を握りしめ――同時に、俺に突き出してきた。そんな腰も入らない技――と思ったが、ルグレの方が俺よりも背が高い。いつの間にか、三メートル以上の巨漢になっている。
押し潰される――俺は腰を落とし、槍でその拳を受け止めた。
「ぐっ!」
ドッッッッッッッッッッッッッッッッ!
衝撃で地面が抉れる。ミシミシと俺の骨が軋む音を上げた。
しかしどうにか互角――いや、俺の方がパワーはあるようだ。全身の激流を力に変え、下から突き上げるようにルグレをぶっ飛ばす。
「うおっ!」
バランスを崩したルグレの腹部に、水で作った拳が突き刺さる。ドッ! と衝撃が通った手応え。ルグレは血を吐き、そのまま後ろへ後退していった。
「ふっ……なかなか、やる」
しゅう……と腹に手を当てるルグレ。獰猛に――肉食獣そのものの顔で、笑う。
「はぁ……はぁ、そりゃどうも」
少し距離が出来た。俺はすぐに活力煙――の、一番効果の高い奴を咥えて火をつける。
「ふぅ~……」
甘い煙が俺の肺を満たし、じわじわと体が温まっていく。ルグレは俺が吸っているのを見て、軽く睨みつけてくる。
「余裕があるな」
「無いから吸ってるんだよ!」
ルグレの回し蹴りを、跳躍して回避。着地したところに拳を振り下ろされたので――俺は槍を横にしてそれを受け止めた。
「そういえば、なんでここ攻めて来たの?」
ギリギリとお互いの力が拮抗する。俺は活力煙が効いてくる時間を稼ぐためにも、ルグレに話しかける。
「……魔族に、対抗する術を得るためだ!」
彼は一つ息を吐くと、バッ! と跳躍して俺から距離を取った。
「数か月前。魔族の襲撃で、都市が一つ落とされた。我々超越者が誰もいない、商業の街だった。完全に壊滅し……巨大な結界のせいで、生存者を一人も助けることが出来なかった」
「!」
王都動乱と同じようなことが、獣人族の国でもあったのか。
「復興など考えられないほど滅茶苦茶になり、千人以上の国民が魔族に連れ去られた。それ以外の物資も、殆どだ」
「…………ッ!」
言葉も出ないとはこのことだ。
ルグレは長く息を吐くと、さらに魂の輝きを強める。
「獣人族は、最強の種族だ。魔族よりも、人族よりも戦闘に特化した種族だ。だから獣人族は己の肉体のみを鍛えて来た。それでよかった。しかし……魔族によって齎された災害は、戦闘力ではどうにもならなかった」
もし仮に――王都動乱と同じような状況だったとしたら。アレを俺達がどうにか出来たのは、キアラという魔法のエキスパートがいたからだということは大きい。
いくら俺、タロー、ラノールが強かったとしても……三人じゃどうしようも無かった。
「だから我々は……人族を浚って魔道具、魔法に対しての造詣を深める。今度は倒すためではなく、利用するために。急務だ」
利用するために、か。
俺は苦笑して、活力煙の煙を吐き出す。
「良いの? 獣人族のプライドは」
「私は、己の誇りと天秤にかけるのは己の命までだ。それ以上の物が乗るのであれば、そもそも量るに値しない」
リャンから聞いていた話――獣人族は、魔道具を使うことを唾棄する。
でも、なるほど。
「大した覚悟だ。……でも、攫うんだ。それで? 強引に言うことを聞かせると」
「当然だ。戦争なのだから」
もう一度、煙を大きく吸い込み――息を止め、ゆっくりとその香りを味わう。
ルグレを睨み、俺は笑った。
「私は、獣人族のために――覇王様のために戦う。そのために、この命を使うと決めている」
ザッ、と構えるルグレ。彼の『圧』が鬣を揺らす。
「――大した覚悟だ。それなら確かに、部下が全滅しても戦うのは納得できる」
「……何?」
ルグレがそう言った瞬間――俺の背後で超巨大な、氷樹が完成した。
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「あははははははははははははははははははははは!!!」
目の前で、キョースケの妻の一人――ミサが、完全にヤバい目で笑いながら獣人族の兵を凍り付かせていく。レーンはそれを見て、ちょっとだけ寒気がした。
「ふふふ……なぁんか、数が減ってる……ね……。リュー、ちゃん。保護してる……人、たちは、大丈夫……?」
「ヨホホ。大丈夫デス――おっと!」
姉であるリューは、炎を用いて傷病者の手当てをしたり……不意を突いて襲い掛かって来た獣人族の兵を、一撃で焼いて飛ばしている。自分が知っている彼女の実力と完全に乖離しており、ちょっと混乱してしまう。
「お義姉さん……こんなに強かったっけ。というか、あの人……何者……?」
目を覚ましたナリアがそう言って、驚愕に目を見開く。あの人、というのはミサのことだろう。
「えっと、義兄ちゃんの奥さんの一人」
「あんな逝っちゃった目をしてるのに……?」
確かに目はヤバいが。
巨大で角の生えた氷の化け物が五体も周囲を警戒し、村の人たちを守るように立っている。そしてミサ本人は、氷のアーチを生み出しつつ、縦横無尽に走り回りながら獣人族たちを凍らせていく。
趣味の悪い氷像が何体も出来上がる中……リッキーさんたち、村の警備隊の人たちが唖然として口を開いている。
「以前、Aランク魔物をあっさり倒したから強いのは知っていたが……ここまで、とは」
「ヨホホ。まぁワタシたちはこう見えてもSランクチームの一員デスからね。この程度の三下にやられるようでは――」
細く絞った炎の槍が、襲い掛かってくる獣人族の兵を撃ち抜く。ドゥッ! と衝撃が背後へ抜け、撃ち抜かれた兵は力なく倒れた。
「――足手纏いになってしまうデスからね」
「すっげ……」
実の姉ながら、ついレーンはそう呟く。隣に立つナリアは……何故か誇らしげに、リッキーさんたちの方を見た。
「ふふーん」
「ヨホホ。うーん、可愛い義妹デスねぇ」
デレデレな姉。ちょっと面白くない。そう思って文句を言ってやろうとしたら――地面に、違和感を覚えた。闘気、怒気――いや違う、もっと粘ついたもの。
殺気だ。
「姉ちゃん!」
「この穢れた血がぁぁぁぁ!」
「修正してやる!」
ドオォッ!
地面から獣人族の男二人が、穴を掘って現れた。同時に、その手刀と拳でレーンとナリアを狙ってくる。
レーンは咄嗟に槍を構え、リッキーさんがナリアと獣人族兵の間に飛び込んできた――が。
「「うぐっ!?」」
二人の獣人族兵が、同時に動きを止める。なにをされたのか分からないが、痙攣しながら膝を突いた。
悔しそうな顔をしながら、レーンたちの後ろを見る獣人族兵。そこにいるのは当然、リュー。
……なのだが、レーンの知っている彼女とはまるで違う表情をしていた。
誰しも、怒ると眉間にしわが寄る。しかし、彼女は全身から怒りが迸っているのに……無表情。そのまま金属で出来た、巨大な空飛ぶ箒の上に仁王立ちしている。
「獣人族の国が、父と母を裏切った国が……穢れた血? ヨホホ、よくもそんなことを言えるデスね! それなら貴方たちには――一体、どんな血が流れているんデス!?」
バチバチバチバチバチバチ!
稲妻と炎が渦を巻き――真上から降り注ぐ。ゴウン! と掘って出て来た穴にまで入り込み、大爆発が起きた。
煙が晴れた後には……何も、残っていない。血も骨も……灰すら、何も。
「おや」
冷たい表情。怒り、悲しみ――そういった負の感情がごちゃ混ぜになった顔のまま、口角を上げるリュー。
「どんな色かと思ったら……そもそも、流れていなかったんデスね」
そんな彼女の笑みを見て、レーンは想う。
(姉ちゃんの好きになった人が、義兄ちゃんで良かった)
殆ど両親の記憶が無いレーンと違い、リューはハッキリと覚えている。だからこそ彼女は、未だに怒りの炎が消えないのだろう。
今の彼女を、レーンは支えることが出来る気がしない。
でも――キョースケならば。あの規格外の力を持つ彼ならば。きっと、リューを幸せにしてくれる。そう確信が持てる。
「姉ちゃん、義兄ちゃんのこと大切にしろよ?」
「ヨホっ? あ、当たり前デスよ!」
そう言って笑うリューの表情は、いつもの優しい彼女に戻っていた。
「んー。下で……ごたごた、してたけど。うん、リューちゃんが……なんとか、したね」
上空、氷のアーチの上。
地面に氷の鹿と氷の鷲、そしてベルゲルミルを五体出現させつつ……美沙は大暴れしていた。すべては、京助のために。そして、さっきの自分の鬱憤を晴らすために。
「貴様ァ!」
氷のアーチを上って来た獣人族の兵が一人。全身に魂を迸らせ――特に、足に纏っている。アレで氷の橋に足を突き刺しながら登って来たようだ。
「ふん、魔法師とは距離を詰めれば脆いもの! 覇族が一人、ゴセイ――」
――パキン。
なにかごちゃごちゃ言っていた獣人族の兵士が凍てつき、地面へ落ちていく。土地を取った魔法師の前で『距離』などあってないような物。戦闘経験が彼は足りなかったようだ。
そこで下を見ると――何やら、五人ほどの獣人族兵士が少し大きい魔道具を取り出して起動していた。気になった美沙は、氷のアーチからそこへ落下する。
殆ど自由落下に近いスピードで降り、ブーツのブースターを起動してヒーロー着地した。
ドッ! と派手に土煙を起こし、獣人族兵士の前に立つ。
「くっ!?」
「もうバレたか!」
「……よく、分かんない……けど……何か、してる……の……?」
背後に新たなベルゲルミルを発動し、杖で氷の盾を生み出しつつ、コテンと首を倒して問いかけた。
そこに立っているのは巨大な砲台。土台が傷だらけで、上には旗がついている。
「なん、だろ」
取り合えず鹵獲しよう――そう思って美沙が手をかざすと、一番前に立っていた獣人族兵士が、意を決したように叫んだ。
「やむを得ん! オレが行く!」
「なっ!?」
「やめろ、死ぬ気か!?」
美沙の――敵の前でごちゃごちゃ言い出す獣人族兵の五人。なにをしているんだろうと思いながら、そのうちの一人を足元から凍らせていく。
「あ、足が動かない……! ひ、ひぃっ……!」
「ラグナス!」
仲間の一人が凍り付いていく彼に声をかけるが、ラグナスと呼ばれた獣人族は恐怖に引きつりながらもグッと仲間に笑顔を向けた。
「ぞ、ゾール……! 後は頼ん」
パキン。
笑顔の氷像が一つ完成する。
それを見た獣人族の兵の一人――ゾールと呼ばれた男は、歯ぎしりをしてから背後の獣人族兵たちに声をかけた。
「ラグナス! くそっ……! 獣暴記の深代度を5まで上げる!」
よく分からない単語が出て来た。しかし他の三人も悔しそうに顔を歪ませると、砲台に短剣やナイフをセットした。
「ぐうううううう!!」
「がああああああ!」
セットすると同時に、苦しみだす獣人族兵の三人。エネルギーのようなものが旗に集められ、砲弾からビームとして飛び出してきた。
なんというか、ニチアサヒーローみたいな兵器だ。
「ぐおおおおお!! い、がぁ……」
そのビームが、ゾールと呼ばれた獣人族兵に直撃する。彼は首を掻きむしりながら呻くと……次の瞬間、その男の肉体がミシミシと軋み……犬のような顔、猫のような腕、ゴリラのような胸を持つキメラのような姿になった。
「わ、あ……かわいい……く、も無いか……でも、獣耳は……いいなぁ……私も……こんな風、に……モフモフに……なって、みたいなぁ……」
そしたら、京助君に耳とかをモフって貰える。
そんな邪な想像をしていると、犬顔獣人が口から血を吐く。
「やはり……まだオレの練度では足らんか! しかし、魔法師一人殺すには十分! 皆、力を貸してくれ! うおおおおおお!」
全身の魂を増幅させ、犬獣人が物凄い勢いで突っ込んでくる。本来であれば、魔法師である美沙にはとても追えない速度で。
――ガギィン!
「がぁっ!?」
美沙が新たに手に入れた杖で生み出した盾――それが、勝手にはじき返してくれた。
それを見て、美沙は呪文を唱える。
「『ベルゲルミル・ライジング』」
追撃。背後のベルゲルミルを巨大化させ――盾に弾き飛ばされ、地面に転がっていた犬獣人を拳で叩き潰した。
ぐしゃ。
「嘘……だろ……」
倒れている獣人族兵士が呆然と美沙を見上げるので……軽く、ため息をついた。
「一足す一……を……十にも、二十にも出来ない……なら……絆パワー、なんて……自己陶酔でしか……無いよ……?」
「なっ……」
「くぅ……」
悔しそうに歯ぎしりし、拳を握る獣人族兵士たち。美沙はそれを見て、にっこりと微笑んだ。
「切札は……今ので、おしまい?」
首をコテンと傾げ、問いかける。
獣人族の兵士たちはよろめきながらも、なんとか立ち上がって武器を構えるが……特に、目新しい技を使うわけではないらしい。
それを確認した美沙は、にっこりと笑って……パンと手を叩いた。
「じゃあ、蹂躙するね」
空間が凍る。絶対凍土が美沙を中心に森を覆い尽くさんスピードで広がっていく。
「『生命の生きられぬ不毛の地、無限に伸びる蛇が絶え間なく襲い来る瘴気の根、思考を奪う無明の幹、空を覆う永久に広がる葉。それら全てがただ一つの大樹となり、九つの世界を凍らせろ! ロスト・ユグドラシル』!」
呪文を唱える。そして地に這う氷が木となり敵を凍らせていく。そしてそれらが天に向かって伸びていき――やがて一つに束ねられ、一本の大樹となる。
カキィィィィィィィン……。
「美しい……」
「綺麗……」
遠くの方からそんな声が聞こえて来た。しかし美沙の前に立つ獣人族兵たちは、この魔術がどんな物かなんとなく感じ取ったのだろう。即座に踵を返し、美沙からの逃走を図った。
しかし。
「逃がさない……よ?」
ニコッと微笑む。すると同時に――氷の大樹から、数百本の枝が伸びた。
「!」
「なっ!」
「やめっ!」
まずは目の前にいた残りの三人が、氷の枝に絡み取られ……体表を氷で覆われ、そのまま氷樹の中に吸収されていく。
「……まだまだ、いる……ね、獣人族の、兵士さんたち」
声が聞こえる、気配が分かる。
シュリーの方に行っている者も、実はこっそり後方で待機していた獣人族兵たちも、まとめて……。
「蹂躙、するね」
尋常じゃないスピードで、氷の枝が森の中を駆け巡る。途端に聞こえてくる、数々の悲鳴。
それらが徐々に徐々に――消えていく。
「……うん、全部……捕まえ、た……かな?」
凍らされた獣人族兵士たちは木の枝に絡み取られ、氷樹の中に取り込まれる。
後に遺るのは――まるで雪山のような静寂。
「……うん、初めて使ったにしては良い感じ」
美沙は生み出した大樹の出来に満足し――地面に大の字になって寝転がる。
「あー、疲れた。皆大丈夫かな」
冬子とピアの相手は問題あるまい。
美沙はそう思いながら、アイテムボックスから取り出した魔力回復薬を呷った。
天川&志村&難波「清田が殴られた?!」




