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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十三章 獣たちの狂乱なう
362/396

311話 クロニクルなう

前回までのあらすじ!

京助「とうとうぶつかったよ、敵と」

冬子「強そうだな、ルグレという奴は」

リャン「私たちは私たちの相手をしっかり倒さないといけませんね」

シュリー「ヨホホ、村の人を逃がしませんと」

美沙「というか暴れ足りない」

マリル「わ、私の出番……」

キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」

「シッ!」


「フッ!」


 ギィィィィィン!

 俺の槍と、ルグレの拳が激突する。衝撃波が周囲に飛び散り、互いの前髪を揺らした。

 その反作用を利用して、バックステップで距離を取る。ルグレも同じことを考えていたようで、くるくるとバク宙で背後に飛んで行った。


『カカカッ! 久々に歯ごたえがアリソウな奴ダナァ!』


「行くよ、ヨハネス!」


『アイヨォッ!』


 着地し、ルグレと視線が交錯する。俺はフッと笑って――肉体に風を纏った。


「『ストームエンチャント』!」


 轟!

 嵐の如き暴風が俺を覆い、流れる世界がスローになる。ルグレはそんな俺を見て、脚部に魂を集中させた。

 俺は足の裏で風を爆発させて、その勢いでルグレとの距離を詰める。


「はぁッ!」


「むっ!」


 喉を狙って槍を突くが、ルグレはそれを軽くステップして躱し、鳩尾に拳を叩き込んできた。


「チッ!」


 膝と肘で挟んで止める。そのままぶち壊すために力を籠めるが、ルグレは拳を解いて尋常じゃないスピードで引っ込めた。

 ほんの少しだけ二人の間に距離が出来たので、俺は独楽のように回転して石突でルグレの側頭部を狙う。そして同時に、避けるであろうコースに風の刃を発射した。


「ッ!」


 ルグレは顔をやや歪ませ――踏み込みながら屈んで槍を回避。そこに襲い掛かって来た風の刃を、魂を頭に纏って強引に相殺してしまった。


「効かん!」


「いやおかしいでしょ、っと!」


 ルグレは背がこちらに向くほど体を捻り――伸びあがるようにして、右の貫手を俺の顎に放つ。咄嗟に反って避け、風の力でホバークラフトのようにその場を滑って背後に回り込んだ。


「やっ!」


「ムンッ!」


 振り下ろされる俺の槍を、振り返ると同時に指二本で真剣白刃取りしたルグレ。

 そして空いた左手の手刀で俺の喉を狙う。これは体勢的に躱せない――俺は『ストームエンチャント』を『ブレイズエンチャント』に切り替え、全身から業火を放って地面ごとルグレを吹っ飛ばした。

 地面ごと宙を舞ったルグレは、嫌そうな顔をしてクルクル回転して着地した。


「……強引過ぎるだろう。あそこから何故、私が押し返される」


 回転して着地し、呆れたように呟くルグレ。


「その言葉、そっくりそのまま返すよ。なんで俺の槍を指二本で止めれるのさ」


「技術だ」


「凄いな、技術」


 ぷしゅっ、と俺の顎から血が流れる。さっきの攻撃を躱しきれていなかったらしい。最初に交錯した時の貫手といい、回避したはずなのに掠ってるのは何故だろうか。

 ルグレの方は無傷か――と思いきや、先ほど俺に挟まれた左手から血が出ている。ああ、親指が変な方に曲がってるね。


「痛そうだねぇ」


「この程度のどこがだ。フンッ!」


 右手で親指を掴み、位置を強引に戻すルグレ。そして左手に魂を集中させ、指を治癒してしまう。


「はぁ……ふう」


 少し息があがっているルグレ。顔色もやや陰っている。チャンスだ、俺はスッと身を低くする。


「とはいえ流石に、超越者二人と連戦は堪えるか」


 薄っすら笑みを浮かべるルグレ。


「超越者? って、何?」


「Sランク魔物を単独で討伐できる実力者のことだ」


 ああ、Sランク相当の実力者のこと。

 彼は両手を開手で構えて、重心を後ろに置いた。恐らく、カウンターの構えだ。

 彼ほどの達人がカウンターを狙っている時に、迂闊に踏み込むことは出来ない。俺は防御よりの構えに切り替え、再び風を纏う。

 そして雨あられのように風の矢を放った。何百発もの風の矢――ルグレはそれを最小限の動きで回避していき、徐々に魂を膨らませていく。

 風の矢を囮にして、俺は右手に竜巻を作った。その中には荒れ狂う暴風だけでなく、小さい風の刃を混ぜている。これに巻き込まれたら、傷だらけ程度じゃすまない。

 ルグレは俺の竜巻に気づいたようだが、苦い顔をするだけで風の矢を回避するだけだ。

 俺はルグレのバランスを崩そうと風の矢をさらに増やし、低空から足を狙う。


(……なんで、躱してばかりなんだ?)


 魂を使って風の矢を弾き飛ばさず、ただ避けている。何故――そう思った次の瞬間、膨れ上がった魂が一気に萎んだ。


「!?」


 驚愕で目を見開く。すると、ルグレの顔色が元気な朱色に戻り――先ほどとはくらべものにならないほどのキレで風の矢を回避しだした。


『カカカッ、アリャ萎んだンジャネェナ。吸収シテ体力を回復サセヤガッタ!』


「吸収……ッ!?」


「ほう、一目見てよく分かったな!」


 一気に俺との距離を詰めてくるルグレ。カウンターを警戒していたせいで、反応が遅れた。右の手刀が俺の額を狙い――


「つッ!」


 ――間一髪回避、したはずだったのに。再度、額を掠めるルグレの攻撃。しかも今度はさっき以上の衝撃で俺は吹っ飛ばされる。額が切れて、どくどくと血が流れて来た。


「まずッ……!」


 このままだと、流れて来た血で目が塞がる。

 俺は『ハイドロエンチャント』に切り替え、水を操る要領で血を操って止める。その隙にアイテムボックスから塗り薬タイプの回復薬を取り出し、切れたところに塗った。これで蓋は出来た、はず。

 水を勢いよく噴射して距離を取り、ついでに顎の傷にも塗っておく。


「やっぱ知らない相手と戦うのは、やりづらいね!」


『カカカッ、当たり前ダロウガァ!』


 止血なんて久々にやったせいで、これで上手く出来てるか分からないけど……取り合えず血は流れてきていないから良いことにしよう。


「むしろ、何故今ので決まらんのだ……というか、塗るタイプの回復薬とは。えらく質素な物を使っているな」


「切り傷にはワセリンって、ジョン・L・サリバンの時代から決まってるんだ」


 いやまぁ、俺だってかけるだけで回復する奴を使いたいけど……暫くはデカい戦いは無いだろうと思って、俺が持ってた分も全部冬子たちに渡しちゃってるんだよな……。ダンジョンでたくさん使ったって言ってたから、その補填として。

 別に金が無いわけじゃないけど、高価な回復薬は流通量が少ない。だからいつでもどこでも手に入るわけじゃないから、後回しにしてたんだけど……仇になっちゃったね。

 ただまぁ、今はそんなことよりも……。


「(魂を吸収して体力を回復するって)」


 ジンと、そしてルグレを見ている限り……魂を活性化させれば傷を治すことが出来るようだ。しかし、それをすると非常に大きく体力を使う。

 だが、今ルグレがやってみせたのは……魂を吸収して体力の回復。


「(それって、無限に傷も体力も回復し続けることが出来るってこと……!?)」


『カカカッ、ンナワケネーダロォ? 限界は絶対にアル。ッテカ、回復スル暇もネークライの火力を叩き込んでヤリャイインダヨ!』


 ヨハネスがそう叱咤する。……言われてみれば、確かにそうだな。


「そもそも、無限に回復する魔物だっているしね。粉微塵にすればいいだけのことか」


 ひゅんと槍を回転させて構え直すと……ルグレは再び魂を纏って両手を上げた。


「そろそろ決めるか」


 渦巻くような殺気を噴出するルグレ。彼の目には俺への怒りの色が見える。

 さっきの覇王のことを話したせいなんだろうけど……何が彼の逆鱗に触れてしまったのだろうか。

 ……いや、それよりも。


「もう少し遊ぼうよ。俺も見せてない技があるしさ」


 あの間合いが分からなくなる攻撃をどうにかしないと一気にやられるかもしれない。俺は槍を防御的なそれに切り替え、ルグレを睨む。


(最初はジャックみたいに、拳から何かを飛ばして射程を伸ばしてるのかと思っていたけど)


 だとしたら、右フックを俺が躱し損ねたことに説明がつかない。

 魂ならば黄金色の輝きが見えるはずだ。しかし、そんな様子も無かった。物理的に伸びでもしない限りは当たらない。


「ジャックの拳もまるで刀かと思うくらい砥がれていたけど、アイツのとも少し違うように感じるし」


『ンー……キョースケ、アイツの腰の所を見ろ』


 ヨハネスに言われてそこを見ると、腰の左にナイフが提げられていた。それも、柄の部分にダイヤルのようなものがついた変なナイフだ。

 妙な形のナイフだけど、彼の戦闘スタイル的にあまりナイフを抜いているとは思えないような……。


『イヤ、オメーは見えて無かったダロウガ、アイツは攻撃を仕掛ける前に必ず腰のナイフを触ってヤガッタ。秘密がアルトスリャ、アレだ』


 アレか。

 俺の視線に感づいたか、ルグレはやや目を細めてから右拳を握った。


「何をごちゃごちゃ言っている?」


「いやぁ、素手の相手とやるのは久々だなぁって思って」


「素手か」


 意味深に笑うルグレは――ゴッ! 空気を切り裂いて一直線に突っ込んできた。俺は瀑布の如き水を纏い、激流の渦を放つ。

 ルグレはそれを横っ飛びで回避しようとするが、俺の放った渦は自在に操れる。奴を飲み込もうと軌道を変化させた。

 舌打ちし、全身の魂を拳に集め――スパァン! と真っ二つにしてしまうルグレ。だが飛び散った水を俺は刃に変え、全方位からその身体を狙う。


「むっ――!」


 バシバシバシバシバシ!

 その場にとどまり、魂を纏った拳ではじいていくルグレ。しかしさっきの風の刃の時と違うのは、俺がその中心に突っ込んだところだ。

 喉を狙った突きは回避されるが、そこに水の刃が降り注ぐ。魂を纏って回転して水の刃を強引に弾いたルグレだが、足元がお留守だ。俺は槍を引いた勢いで回転させ、彼の膝を石突で砕く。

 ガバァンッ!

 二tトラック同士がぶつかったような激しい音が鳴り、足を払われたルグレの体が宙に浮く。そこを狙って真上から槍を振り下ろした。


「ぐ――ふんっ!」


 ルグレは右手で俺の槍を掴む。ミシミシミシィッ! と骨の折れる音が聞こえて来たが――一切顔色を変えず、掴んだままグルンと体を入れ替えた。

 彼の左拳が俺の目を狙い――当たる寸前、俺は水でルグレの拳を受け止めていた。

 ――獣のように鋭い爪を備えた、(おお)きな拳を。


「なん……!」


「チィッ!」


 ルグレは砕けている右手の爪をシャキンと伸ばし――魂を纏わせて俺の水を切り裂いた。

 俺もルグレも弾かれるようにバックジャンプし、距離を取る。彼の腕は……人の手に獣のような体毛が生え、指や爪が巨大化している。もっと獣要素の強い獣人の腕って感じだ。

 再度左腰に提げているナイフに触れると、手が元通りになる。なるほど、アレの力を使っていたのか。俺が避け損ねたのは……インパクトの瞬間だけ、爪を伸ばしてたとかだろうか。


「ぐう……」


 右手を庇うようにするルグレ。取り合えず、回復される前に詰めるのが良いか。

 俺は『ストームエンチャント』に切り替え、高速移動で一気に近づく。そして首を落とさんと槍を振るうが、ルグレは足の輝きを増加させてその場から飛びのいた。

 左手一本でバク転し、体勢を立て直したルグレは腕に集めた魂を刃にして発射する。


「っと!」


 風で防ぎ、俺は上空へ。そういえば、魂はエネルギー弾みたいに放てるんだった。


『オイ、キョースケ! 距離を取ると、回復サレンゾ!』


「分かってる!」


 足に纏わせた風をバネのようにして、加速する『超天駆』を発動。ジグザグに突っ込み、ルグレの右手側から真上から振り下ろし――


「キョースケッ! 避けろッ!」


 ――真上から降って来た黒い稲妻を『パンドラ・ディヴァー』で封印、魔力に変換した。

 しかしそのほんの僅かに出来た隙を突かれ、ルグレが短距離転移。十メートルくらい離れたところに女と現れた。


「……何故、私を助けた。言っただろう、戦いの邪魔をするなと」


 そう言ったルグレは、軽く右腕を振る。怪我をしている動きには見えない――既に治ってたのか、あの腕は。

 女の方もそれに気づいていなかったのか、驚いたような目になって頭を下げる。


「も、申し訳ございません! ルグレ旅士範!」


 ガバッ、と下げた頭には――何か、角のようなものが埋め込んである。そして女は俺を睨むと、黒い稲妻を雨あられのように連打してきた。


「悪ィ、キョースケ。抑えきれなかった」


 それらを『パンドラ・ディヴァー』で封印しながら捌いていると――横に、ブリーダが着地した。


「別に良い。お前に期待なんかしてないから」


「ギッギッギ、言うねェ」


『ルグレの腕は、タイミング的に――ドウモ獣ッポイ腕カラ戻った時に治ってたミテェダナ』


 ヨハネスがそう解説してくれるけど――なるほど、右手を庇ったのはブラフだったか。突っ込んでたら、カウンターを貰ってたかもね。

 当のルグレは足に魂を集めている。……俺が石突でぶん殴ってたところ、痛めてたのか。そっちには気づけなかった。


『節穴ダナァ』


「お前も気づかなかったじゃん」


「なァ、キョースケ。オメーの槍って喋るのか?」


「いいでしょ、あげないよ」


「煩そうだからいらねェ」


 煩いとかお前が言うか。

 横にいるブリーダは……なんていうか、珍妙な魔物になっていた。真っ黄色なリザードマンと言ったところだろうか。


「なにその恰好」


「カッコいいだろ?」


「微妙」


 ルグレは完全に回復してしまったようで、再度立ち上がる。俺はチラッと女の方を見て、ブリーダに問う。


「あいつ、何だった?」


「取り合えず今のところは、転移するッてことと、黒い稲妻を撃つってことしか分かんねェ。あと、病的なまでにルグレの野郎をリスペクトしてるってとこくらいかァ? アイツら、絶対デキてるぜェ。ギッギッギ」


「いやデキてるかどうかは関係ないでしょ」


 死ぬほどどうでもいい。


「名前は?」


「名乗りやがらねェ、亜人族のくせになァ。変な奴だぜェ。ギッギッギ」


 俺の知ってる中で変な奴筆頭のブリーダがそう言うってことは……そうとうだな。


『黒い稲妻ダガ、アレは変だナァ。闇魔術とも違うが、普通の雷魔術デモネェ』


 困った声を出すヨハネス。『知りたがりの悪魔』であるこいつが知らないなんて――。


『魂に魔力が混じッテル感じダナ』


 ヨハネスの言葉に、俺は眉に皺を寄せる。


「そんなこと出来るの……?」


「現にやってる奴がいるからなァ。ギッギッギ、いい実験材料になりそうだぜェ!」


 愉しそうに笑うブリーダ。俺はため息をついて、彼の頭を軽く小突く。


「いいから、しっかり抑えといて」


「おうよォ。ギッギッギ、テメェの方は大丈夫そうなのかァ? しんどいなら代わってやってもいいぜェ」


「はぁ? 余裕に決まってるでしょ」


 ブリーダに煽られると、いつも以上にムカつく。


「ルグレ旅士範……。その、血を流されるなんて……」


「ああ、私も久しぶりだ。強くなりすぎるといかんな、火がつくのが遅くなる 。しかしアイネ、お前の言う通りだな。こんなの――覇王様に挑んで以来か(・・・・・・・・・・)


 覇王。

 その名前が出た途端、俺の心臓がドクンと跳ねた。


「お前……覇王と()ったの? 勝った? 負けた?」


 俺が問うと――ルグレは不機嫌そうに、睨んできた。


「……勝てるわけが無いだろう。だからどうした。これから死にゆく貴様に、関係があるか?」


「大ありだね」


 槍を突きつけ、俺は笑みを作る。


「俺は覇王を倒すって決めてるんだ。俄然、お前に負けられない理由が出来た」


 覇王に負けた奴に負けてたら――いつまで経ってもアイツに勝てやしない。

 それに。


「勝てるわけ無いとか言う奴には、猶更負けられない」


「なんだと……ッ!?」


 チャキッ。

 左腰に提げられたナイフを抜くルグレ。それを見たアイネが真っ青にしてその腕に縋りつく。


「だ、ダメですアール! それは――」


「戦場ではルグレ旅士範と言えと言ったはずだ。アイネ」


 底冷えするような、殺気の籠った声。ビクッと震えたアイネは――しかしそれでも、泣きそうな顔で首を振った。


「ダメです、ダメです……! 貴方は、絶対に無茶をする! そもそも、短時間の使用でも寿命を縮めるんです! それなのに、あのレベルの相手と戦う時にそれを使ったら……!」


「黙れ。私は、覇王様を愚弄する者を許さない」


 なるほど、アレはリスクがあるのか。だからちょいちょい出したり引っ込めたりしていた、と。


「ちなみにブリーダ、適合しなかったら戻れないってこと以外に、魔王の血にもリスクあるの?」


「ん? あー、適合しても精神が魔物に引っ張られて気が狂う奴がいる」


「SAN値の扱いが杜撰過ぎる」


 魔族といい、獣人族といい……パワーアップにリスクを取り過ぎでしょ。いや俺もあんまり人のこと言えないけどさ。

 まぁ、いい。俺はため息をついてルグレを見る。


「別に覇王のことを愚弄なんてしてないけど。むしろ、世界で一番リスペクトしてるよ」


「覇王様と一度でも対峙すれば、あの方が世界最強であることが理解出来るはずだ。だというのに、まだ抗おうなど……虫唾が走る!」


 ナイフを構え、ダイヤルに指をかけるルグレ。俺はフンと鼻で笑ってから肩をすくめた。


「なら、そこがお前の限界ってだけの話でしょ。――俺は、覇王にボコボコにされた。だから、次は勝ちたいと思った。そのために、つけた力だ」


「そうか。では、この場でその思い上がりを粉々に打ち砕いてやる」


 アイネは心配そうにルグレを見ているが……彼が止まらないと思ったか、決意に満ちた目で俺を睨む。


「貴方のせいで……ッ!」


「おお、ギッギッギ! キョースケ、オメー嫌われてんなァガバァッ!」


 ブリーダの腹をぶん殴り、俺は一歩前に出る。


「お、オメー……オレにだけ扱い酷くねェかァ……?」


「あれだけのことをしておいて、むしろ何で優しくして貰えると思った……?」


 こいつの面の皮はアダマンタイト製なんだろうか。


「いいから、アイネって子を抑えといて」


「殺していいかァ?」


「情報が欲しいから、出来れば生け捕り。無理なら()って良い」


「あいよォ。ギッギッギ――まァ、実験で使いてェから、殺す気はねェがなァ!」


 笑うブリーダ。マジで何で俺はこいつと肩を並べて戦ってるんだ。

 ……まぁ、ごちゃごちゃ考えるのは後でいいか。


「行くぞ」


 カリッ、ルグレがナイフのダイヤルを操作した。


獣暴記(ビーストクロニクル)深代度(レベル)5(ファイブ)


 空気が変わる、世界が反転した。

 ――ぶん殴られて吹っ飛ばされたと気付いたのは、その数瞬後のことだった。

天川「清田がやられた!?」


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