310話 獣人族軍VS『頂点超克のリベレイターズ』+1 なう
前回までのあらすじ!
京助「ブリーダ! ここで会ったが百年目。ぶっ飛ばしてやる!」
冬子「ま、待て京助! なんだか様子がおかしいぞ」
リャン「それにしても、ティーゾさんはやられて村は攻め込まれて。大ピンチですね」
シュリー「ヨホホ、でも大丈夫デス。ワタシたちが間に合いましたからデス」
マリル「うう……私の出番は次何時になるんですか……」
美沙「この戦いが追われば日常パートでしょ」
キアラ「しかしまぁ、長引きそうぢゃがのぅ。それでは本編をどうぞなのぢゃ」
「ヨシ」
「いやヨシじゃないよ義兄ちゃん!? あいつ、俺ら助けてくれたんだ!」
セーヌを抱えたレーンが、驚愕した顔でこちらを向く――って。
「は? レーン、何言ってるの?」
俺の聞き間違いじゃなければ、今彼は……ブリーダが、助けてくれたと言ったのだろうか。
「えっと、アイツが俺たちを助けてくれたんだよ!」
「……そんなはずはない」
まさか、闇魔術で洗脳されているんだろうか?
そう考えて魔力を『視』る目に切り替えるが――魔力が二重になっていることは無い。というか、獣人族だから一切の魔力が無い。
俺は困惑、混乱しながら……ぶっ飛ばしたブリーダの方を見る。
「ギッギッギ、痛ってェなァ! キョースケ!」
ミシミシミシィ! と近くにあった木をへし折り、ブリーダが立ち上がった。俺が槍を構えると、ブリーダはレーンの方を見る。
「オレはこの村を救おうとして、レーンとセーヌを助けたヒーロー様だぜェ? そんなオレによォ! この仕打ちはねェんじゃねェかァ!?」
つかつかとこっちに歩いてくるので、俺が槍を突き付けると――両手を挙げて、ブンブンと首を振った。
「おいレーン! 何とか言ってやれよ! ブリーダさんは、俺たちを救ってくれたって! 超絶カッコよく、守ってくれたってよォ!」
「……えっと、カッコよかった……っちゃ、カッコいいんだけど……どっちかっていうと、超グロかった……」
サッと目をそらすレーン。そしてギュっとセーヌを抱きしめる。
なるほど。
「なら、殺してオッケーだね」
「い、いやそれはダメ! た、助けてくれたのは本当なんだ!」
……意味が分からない。
レーンの目にも口振りにも嘘は無さそうだが……いや、でも。
「ブリーダ、が……?」
状況が分からない、理解出来ない。
どうやればあのブリーダが、獣人族であるレーンを助けたりするのか。
こいつは……こいつは……。
「つーか、今マジでンなことやってる場合じゃねェんだ! アレ見ろ!」
ブリーダがそう言って、とある方向を指さす。そこには――今にも死にそうな、ティーゾが。
「ティーゾ!?」
慌てて駆け寄ると――ギリギリ、生きてはいる。しかし意識は無くなり、呼吸も浅い。魔力も、ほぼ無い。死んでいないだけ……このまま放置していたら、もう五分も持たないだろう。
(――そんなバカな!)
混乱、驚愕。既に現役を退いたと言っていたが……それでもSランク、最強の頂にいたはずの男。その彼が、ここまでボロボロにされるなんて。
「まさか、ブリーダ! なにか卑怯な手で……!」
「いや違う違う違う違う! ルグレって野郎がやったんだ! 真正面から!」
「……ティーゾを、やった? 真正面から!?」
そんなバカな。
「ティーゾは、元とはいえSランクAGだ。俺でも、正面からぶっ飛ばすのは……」
「そうだなァ、オレもそう思う。でもそれが現実だ! 状況が読めたかァ!? 別に後で捕虜になってやる、情報も売る! だが、今はルグレをぶっ飛ばさねェと落ち着いて話も出来ねェ!」
そうブリーダが叫んだ瞬間――ゾワッ! と全身から鳥肌が立った。
ブリーダも、俺もレーンも同じ方向を見る。するとそこには……二十代後半くらいの獣人族の青年が、立っていた。
金髪をツーブロックにしており、片耳に大きな傷がある。上半身が裸だが、その肉体はまるで鋼のようだ。
手には血塗れの小さいナイフを持っており、表情はどこか高揚しているようで……薄っすらと笑みを浮かんでいた。
「先ほどの風は、貴様か」
「君がルグレ?」
俺が名を問うと、その獣人族は少しムッとしたように睨んできた。
「人に名を問う時は、まず名乗るべきでは無いか?」
「――それもそうだね。俺はSランクAGの、キョースケ・キヨタ」
ひゅん、と槍を回転させて構える。
魔力を練って、少しだけ笑みを作った。
「最近は『流星』とも呼ばれてる。よろしくね」
レーンを背に庇い、そう答えると――獣人族の男は、驚いたように目を開いた。
「貴様が……あのキョースケ・キヨタか」
そして、全身から殺気を噴き出した。その『圧』に、俺はついつい笑ってしまう。
「……ブリーダ、お前がアレとやり合おうとしたの? 無理でしょ」
「もうちょい準備してりゃ、楽勝だったんだよ。ギッギッギ」
獣人族の男は、バチ……バチ……と、肉体に魂を纏った。膨れ上がる殺気に呼応するように、その輝きが強まっていく。
「私の名は、アルルグレール。覇族において、旅士範の地位についている。ルグレと呼べ」
旅士範。
確か、ジンはさっき……旅範と呼ばれていた。もしかすると、軍隊か何かの階級なのかもしれない。
ルグレがゴキッと首を鳴らしたところで――筋斗雲から、皆が下りてくる。
「京助! 大丈夫か!」
「マスター、先に行くならそう言ってから飛んでください」
「うわぁ……なんかすごそうな人いるねー」
「ふむ。厄介そうぢゃのぅ」
冬子、リャン、美沙、キアラは飛び降りて来たけど……シュリーだけ、ふよふよと浮かぶ筋斗雲が地面まで降りてから、よっこらしょと降りて来た。そういえば、シュリーは高いところ苦手だったな。
「――姉ちゃん!」
「レーン! ヨホホ、無事でよかったデス!」
俺が背に庇うレーンと抱き合うシュリー。しかし姉弟の再会に喜んでいる場合ではない。全員が、ルグレを睨みつける。
それだけ、彼は存在感がある。
「――時間か」
ルグレがそう呟いた瞬間、奥の方から声が聞こえて来た。魔力は感じられないが――感覚で分かる。獣人族の援軍だ。
「ねぇ、レーン。……君の言葉、信じて良いの?」
ルグレから目を離さぬまま、俺は問いかける。
「――うん。ブリーダは俺たちを守ってくれた」
ブリーダを信じるわけが無いし、信じられるわけもない。
彼が味方だとは思わない。
「ブリーダ。お前が俺達に牙を剥いても裏切りだとは思わない。だが、その時は確実に息の根を止める」
「ギッギッギ。信用しろなんて言ってねェ。そういう話は、あのルグレを倒してからしようぜェ」
絶対に信用は出来ないが――こいつを殺すのは、それはそれで骨が折れる。その間に、ルグレに暴れられたらたまったもんじゃない。
だから、今は……レーンを一度信じよう。そうするしか、無い。
「ルグレ旅士範!」
「リボリー旅範隊、アレラ旅範隊、到着しました!」
ザッと数えて、五十人くらいか。殆どが雑魚だけど、中には少し面倒くさそうな奴が混ざっている。
……ルグレと合わせて、三人か。
「冬子、リャン。向こうのめんどくさそうな奴、二人お願い。シュリー、周囲の人の避難を。キアラ、ティーゾを回復させたらシュリーを手伝って」
「了解」
「承知しました」
「分かったデス。レーン、セーヌちゃんは大丈夫デスか?」
「構わんが、アレは傷だけ治しても……暫くは動けんぢゃろうな」
俺が矢継ぎ早に指示を出すと、美沙だけがコテンと首を傾げた。
「ねぇ、京助君……私、は?」
何かに期待するように、ワクワクするように……俺のことを、上目遣いで見つめる美沙。その仕草に――戦場だというのに――可愛いな、なんて思いながら俺は笑みを作った。
「さっき、暴れられなくてストレスたまったでしょ」
俺が言うと、美沙はゆったりと頷く。
「だから、雑魚は全部お願い」
「――あはっ」
語尾にハートか音符でもついてそうな、弾んだ声を出す美沙。次の瞬間、世界が凍り付いた。
「「「「「「!?!?!」」」」」
ルグレ以外の獣人族たちが驚きで目を見開く。そりゃ、タイムラグ無しで地面に氷原が広がれば驚きもするか。
「うん……京助君……ありがとう……嬉しい……! さっき、うん、手加減……ばっかり、で……ストレス、たまっちゃってた、から……!」
うっとりと、頬を赤らめて俺にしなだれかかってくる美沙。そして瞳を氷のように冷たくして――ぺろっと舌を出した。
「強そうな……の……いない……けど、あはっ! ぜーんぶ、貰っちゃう、ね……!」
いつもの笑顔。俺達は見慣れたものだが――ブリーダとレーンがドン引きして口を開けている。
「な、なぁ義兄ちゃん……。あ、あの人も義兄ちゃんの奥さん? っていうか、さっきと全然雰囲気が違うっていうか……」
「キョースケ……なんつーか、どう見ても目がイッちまってねェか……?」
「可愛いでしょ?」
普段の彼女と違って、妖艶な雰囲気になるのもいいよね。ちょっと色っぽ過ぎる気はするけど。
「義兄ちゃんの趣味が分かんない……」
「いやァ……魔族にもいたっちゃいたが……ここまでの奴ァいなかったからなァ……」
ブリーダとレーンはスッと美沙から距離を取ったけど、なんでだろうね。
パチン、とフィンガースナップの音が聞こえ、気づいたらティーゾが無傷の状態でレーンの足元に置かれていた。
キアラが治してくれたらしい。気は失っているが、生きているようだ。
「私以外、不要だ。作戦通りこの村を我らの管理下に置く。雑血だろうと殺すな。彼らはこの村を維持するために必要だ」
「「「「ハッ!」」」」」
向こうもルグレが指示を出している。そして指示を受けたうちの一人が、ニヤッと笑ってへらへらとルグレに話しかけた。
「ルグレ旅士範。……その、あそこにいる人族に関しては……どう、でしょうか。へへ、いい女が揃ってるんスけど」
「……リボリー。貴様の趣味は、相変わらず反吐が出るな」
呆れ……というよりも、怒りを滲ませた様子でリボリーを睨むルグレ。しかしすぐにため息をつくと、顎で俺達を示した。
「はぁ。……勝手にしろ。その代わり、村の制圧が終わってからだ」
許可が出たからか、嬉しそうにパッと顔をほころばせるリボリーとかいう男。見た目は若い、なんなら俺くらいだろうか。美少年と言った風体をしており、サラサラの腰まである金髪と切れ長の目が印象的だ。線も全体的に細い。
しかし、旅範――隊を任されるだけのことはある。強いね、間違いなく。
「リボリー……貴殿は覇族としての、武人としての誇りは無いのか。そうやって女性に手を出すなど」
旅範と呼ばれていたリボリーに苦言を呈す……こちらは老齢の男。ウサギみたいに長いケモミミと、白髪にちょび髭が印象的だ。喋り方も落ち着いているというよりも、やや古風。
「相変わらず硬いッスねー、アレラさん。いいじゃないッスか! 兵士の慰安に女と肉は必須ッスよ! そりゃ、ボクだって獣人族は食いたいとは思わ無いッスけど……」
ペロッと舌なめずりをして、品定めをするようにこいらを見るアイボリー。
「ああやって、調子に乗ってる人族をギッタギタに屈服させてペロッと食べちゃうのが何よりもいいんじゃないッスか! 誰にも咎められないし!」
「私は何度も咎めている」
「小生もだ」
「でも毎回、なんだかんだ許してくれるッスからねー。お二人とも、懐が深ーい!」
ケラケラ笑っているリボリー。俺が冷めた目で見ていると、冬子がツンツンと俺の背をつついてきた。
「京助。私がやっていいか?」
有無を言わせぬ表情。俺が今ここで殺そうかと思ったけど――冬子がやりたいなら、譲るか。
「お願い。じゃあリャンは、あっちのアレラの方を頼んだよ」
「分かりました。……むぅ、私がアレに鉄槌を入れたかったんですが。女を舐めてるとしか思えません……というか、背骨をへし折りたいです」
ちょっと拗ねたように唇を尖らせるリャン。冬子は申し訳なさそうに彼女に軽く頭を下げた。
「すまないな、ピア」
「いえ。その代わり、キッチリ倒してくださいね」
「――分かっている。脊椎を引きずり出そう」
二人の会話を聞きつつ、ルグレの方を見ると――バチッと目が合う。その瞬間、会話どころか、風の音も葉の擦れる音も聞こえない静寂が辺りに満ちた。
時間にして、一秒も無いであろう無音。だからこそ、彼の動きがハッキリと見えた。一度の跳躍で俺の前に立つ、ルグレの動きが。
(――速いな)
繰り出される拳を、上体を反らして回避し風を放つ。しかしルグレはそれを手刀で切り裂いてしまった。
いつの間にか、肉体に纏われている魂が――目がくらむようなレベルになっている。少しだけ距離を取って、槍を構えた。
示し合わせたわけでもないのに俺達は同時に動く。ルグレの貫手と俺の突きが交叉し、お互いギリギリのタイミングで首を傾けて回避する。
俺の槍の方がリーチが長いのに、なんで同時に――そう思いつつ、俺は横なぎに槍を振るう。しかしそれを右手の甲で逸らされ、踏み込みと同時に最小限の動きで掌底を腹に入れられた。
ヒットする瞬間に足を引いて半身になることで避け、回転させた槍の石突で脳天を打つ。
だが今度は左の手のひらで逸らし、その勢いで右手で目を突くルグレ。俺は腕を下から弾いて逸らし、膝に切りつける。
しかしルグレは頭の位置を変えずに跳躍し、それを躱した。そして体を横に倒し、ドロップキックを放つ。
俺が槍でガードすると――その反動を利用して、ルグレはいったん自分の仲間たちのところへ戻って行った。
ルグレが着地した瞬間――彼の頬から、つぅと血が流れた。しかしそれは俺も同じこと。グイっと頬の血を拭う。
(一発目、躱しきれて無かったか……)
完全に回避したと思ったのに。さて、どんなからくりか。
「ぷはっ」
俺の後ろで一部始終を見ていたレーンが、大きく息を吐く。
「こ、呼吸忘れてた……」
「ヨホホ、正直ワタシもあんまり目で追えなかったデス」
「……私、も」
魔法師の二人がそう言って苦笑しているが――一方、冬子とリャンは別の意味で苦々しい顔になっている。
「なまじ、Sランクの域に近づいたからわかるが……アレは、凄いな」
「ええ。……少々、レベルが違います」
俺も槍を合わせて分かった。あいつは、強い。
ティーゾが倒された、それを加味せずとも……俺達、現役のSランクAGじゃないと対処は厳しいだろう。
「京助、頼んだぞ」
「マスター、信じています」
「もちろん、任せて」
一方で――ルグレの方は驚きは少ないようで、納得したように頷いた。
「同姓同名の別人かと思ったが――確信が持てた。貴様があのキョースケか」
「たぶん俺と同じ名前の奴は、この世界にはいないと思うよ」
俺がそう言って笑うと、ルグレは目を細めた。
「唯一、覇王様が殺さなかった男――キョースケ・キヨタ」
その言葉に、俺は少しだけ目を細める。
(そうか――)
獣人族で最強の男、覇王。俺はアイツが取り逃がした男って思われているのか。
思わず、少し笑ってしまう。なるほど……それは、有名になっても仕方ないかもしれない。
でも。
「殺せなかった、の間違いじゃない?」
少し訂正しておく。
あの時点で、覇王が俺を見逃す理由は無かった。そして、俺じゃ勝つなんてあり得なかった。
だというのに、俺は生きている。マルキムの話を聞く限り……物凄い偶然が重なって、あの時の俺は生き延びたんだろう。
彼が殺さなかったんじゃなく、色々と重なって殺せなかった。
――そう思って言ったのだが、いきなりルグレは顔から表情を消した。
そしてギリッ、とこちらに聞こえてくるほど歯を食いしばる。恐らく――怒り、で。
「もう一度……言ってみろ。覇王様が……なんだって?」
「覇王が殺さなかった、じゃなくて殺せなかっただろうって」
言うと、ささっとルグレの部下たちが彼から距離を取った。それを見て、俺も冬子たちに目配せする。
「その思い上がり……私が直々に正してくれる……! 貴様の実力では、覇王様の決定に何ら影響を与えられないということを……!」
「決定に影響を……? まぁ、よく分からないけど」
コーン……。
木と木を打ち合わせたような音が鳴る。同時に俺の魔力が綺麗な紫色になり、渦巻いて昇っていく。
「『魔昇華』」
ドッ!
渦巻いたエネルギーが形を為し、『圧』が周囲に放出される。コキッと首を鳴らしてから、俺は肩を回した。
「キョースケ、手ェ貸すぜェ?」
そんな俺の背に、へらへらと笑いながら声をかけてくるブリーダ。
「今、お前に構ってる余裕無いんだけど」
「ギッギッギ、そう言うなよ。――テメェんトコの嫁にゃあ、隣にいるあの女はキツイだろォ?」
「何を言って――」
俺がそう言いながら、ルグレの横を見ると……女が一人、立っている。手に何か道具を持ち、目の下にはクマが凄い。
一見すると、ただ不健康な獣人族。だが何か妙だ。尻尾が無く……そして、不気味なオーラを纏っている。
魂、じゃない。アレは……。
「魔力……?」
シュリーのように、人族とのハーフなのだろうか。いや、でも違う。
……まさか。
「ねぇ、ブリーダ」
「ギッギッギ、その殺気は引っ込めろ」
そう言って薄く笑うブリーダ。その目は……興味津々と言わんばかりに輝いている。
「ギッギッギ、さァて……アレはオレも知らねェ。うちの国じゃ、他国の奴と交わるなんざしねェからなァ。略奪もしねェ、殆どの奴が性欲を抱けねェ。でもアイツの纏ってる魔力は」
――魔族のそれが、近い。
「ただ強いだけの奴なら、テメェの嫁がどうにかするだろうがァ……未知の敵が相手じゃ分が悪ィだろォ? 安心しろ、情報も後でテメェにやる」
「お前の味方面、本気で殺したくなるんだけど」
ニマニマしているが――よく見ると、時折顔が苦痛に歪む。というか、体中怪我だらけ、傷が開きまくってる。
たぶん、動くだけで体中痛むはずだ。だというのに、レーンを救ったのか。
「な、なぁ義兄ちゃん。……その、別に味方って思わなくていいけど。でもせめて、傷くらい治してやってくれないか……? ホントに、ナリアと俺を助けてくれたんだ」
下唇を噛んで、俺に言ってくるレーン。俺は少しだけ思案し……キアラの方を見た。
「致命傷だけ、頼むキアラ」
「うむ」
パチン。フィンガースナップの音と共に、ブリーダの傷が治る。
「これはレーンを助けてくれた分。後で殺す」
「ギッギッギ。助かったぜ」
「……言っとくけど、助けないからね」
「それでいい」
笑ったブリーダは肉体を魔物のそれに変化させた。
するとルグレの横にいる女が、顔を上げた。
「ルグレ旅士範。あちらの魔族はお任せください」
「――私がキョースケを倒す。誰も手を出すな、出させるな!」
「「「「ハッ!!!!」」」」
「行け!」
獣人族たちがこちらに向かって走りだす。一方、冬子たちは既に動き出した。そして俺も、ルグレに向かって突っ込んでいく。
「来い、キョースケ・キヨタ!」
「行くよ、ルグレ」
「ギッギッギ、実験に使いてェから優しくするつもりだが、ちょっと手荒になるのは勘弁しろよォ?」
「……キモイ」
俺の手の中で『力』が集まる。それは一条の槍となり、『圧』を放出した。
「神器解放――喰らい尽くせ、『パンドラ・ディヴァー』!」
身に纏う豪風。刹那の後、俺とルグレは激突した。
空美「美沙ちゃん、なんかヤバくなってない?」
冬子「あいつはいつも、あんなもんだ」
美沙「酷いなぁ。私はいたって真面目に戦ってるのに」
追花「真面目っていうか……なんていうか、怖い」
美沙「えー? どのへんがー?」
冬子「そうやって瞬きせずに首を真横に倒すところがだ!」




