309話 圧倒なう
前回までのあらすじ!
京助「ブリーダが獣人族の一人に対して圧勝したよ」
冬子「なんというか、強いんだなアイツ」
リャン「あまりそういうイメージはありませんでしたね」
シュリー「ヨホホ。そしてティーゾさんとルグレの戦いも始まるようデス」
マリル「Sランク相当同士の戦いって、地形が変わっちゃうんですよねー」
美沙「私ですらそうなるもん。仕方ないんじゃない?」
キアラ「そこを気を付けてこそ、と思うんぢゃがな。それでは本編をどうぞなのぢゃ」
ルグレの鋭い拳が空を切り、返しのティーゾが繰り出した斧は軽い掌底で軌道をズラされた。回避されるでも防御されるでもなく、いなされる。
それによって生み出されたセーフゾーンに入り、ルグレはティーゾの溶岩弾を難なく回避してしまった。
ならばと強引に踏み込むと――今度は剛拳が鳩尾に入り、踏ん張ることも出来ないほどの勢いで吹き飛ばされる。
「ガハッ!」
木にぶつかり、肺から一気に空気が飛び出した。そこに襲い来る、ルグレの踵落とし。なんとか横に跳んで回避するが――すぐさま、肘が飛んでくる。カウンターを合わせるが、それを髪の毛ほどの僅かな隙間で躱された。
上から降り注ぐ溶岩弾は弾き飛ばされ、そのまま前蹴りを繰り出される。
斧で受け止めると、その衝撃で腕がしびれた。さらにガードの上からでもお構いなしに拳の連打。
一発一発に重くなるそれに、対抗してパワーで押し返そうとすると――ガクッ、と力を流されて体勢を崩される。
晒してしまう、致命的な隙。全身に纏う溶岩を噴き出してガードしようとするが、それを金色のエネルギーで破壊されてしまう。
避けられない、防げない拳。ティーゾは自ら後ろに飛ぶことでなんとか衝撃を弱めるが、最初の鳩尾の一撃と合わせて……あばらが数本、持っていかれてしまった。
(柔拳かと思えば剛拳を、剛拳かと思えば柔拳を――強いズラね)
そう評するしかない。目の前にいる若者は……自分の戦ってきた敵の中でも、上位に位置する化け物だと。
「吾の仕事は諜報なんズラが」
木を背もたれにしてそう呟くと……聞こえるはずもない声量で言ったにも関わらず、ルグレがふっと笑った。
「冗談を、『紅蓮狼』。見ろ、この汗を」
余裕綽々な笑み――のように見えて、少しだけ強張った頬。ルグレは首を振って、身を低く構えた。
「真剣に回避しても紙一重……など、久方ぶりの経験だ。さすがは超越者」
超越者というのは、確か亜人族で言うところのSランク相当の実力者のこと。人族は昔、覚醒者などと呼んでいたが……今は当人の役職で呼ぶか、Sランク相当の実力者……と言って一括りにすることは少ない。
「フェフェフェ。さすがは……なんて、嫌味にしか聞こえないズラよ」
十年前の獣人族との小競り合いでは見なかった顔。二十代後半……三十代にはいかないくらいだろうか。人生で一番、体が動く時期だ。
目には少しだけ、楽しそうな色が浮かんでいる。このレベルの実力になるものは、大概戦うのが好きだ。それは亜人族も人族も変わらない。
(あと、十……いや、十五年若ければってところズラな)
ぜぇぜぇと、呼吸が乱れる。体力が無い……のは実感していたが、まさかここまでとは思っていなかった。
半ば引退している身であるのもそうだが――そもそもこのレベルの相手と殺し合ったのが十数年ぶりだ。思考と反射に、肉体が追いつかない。
「仕方ないズラ」
息を吐き、斧を右手に持つ。そして空いた左手で拳を握り、ゴッ! と自身の額を殴った。
「!?」
いきなりそんなことをしたティーゾに、ルグレは困惑した表情を見せる。それが若いな、などと思いつつ……ティーゾは肉体に溶岩を纏っていく。
「さて、二十年ぶりズラ……これをやるのは」
SランクAGになるための通過点。人族の頂点に立つ者の、真の実力。
『覚醒モード』。
「フェフェフェ。さぁ、刮目するズラ――『炎斧王モード』!」
ドオオオオオオオオオオッ!
溶岩が噴出し、肉体に業火を模した鎧が生み出される。右手の斧には赤熱した岩がまとわりつき、一回り大きくなった。
そしてまるで髭のように炎が飛び出し、白髪が全て溶岩に変わる。
「……それが、人族の『覚醒』か」
「フェフェフェ。おんしは運がいいズラ。その年齢で『覚醒モード』を拝めるのは、なかなか無いズラよ」
右手の斧を地面に叩きつける。地面が高温になり……至る所から溶岩が噴き出し始めた。
「もういっちょズラ! ――『ラヴァエンチャント・エラプション』!」
自らの肉体に溶岩を付与する、『ラヴァエンチャント』。その上位版――自らの立つ土地にも溶岩を付与するエンチャント。
これによって土地を丸ごと自分の物に変えてしまう大技。指を動かすだけで、至る所から溶岩を発射することが出来る。
地面が一気に高温になったため、ルグレは顔を顰めた。しかしそこで動じず、足に魂を集中させ――身を低くして強引にこちらへ突っ込んできた。
「シッ!」
ルグレの蹴りを回避し、右手の斧を振るう。先ほどと同じように掌底で逸らそうとするが……ジュウウウウウ! と肉の灼ける臭いが辺りに漂った。
「ぐっ!?」
溶岩弾がヒットする。そして吹っ飛ばされた先は、地面からの噴火。連鎖的に襲い掛かる炎と岩と溶岩が――ルグレの全身を焼いていく。
「ぐっ、はぁ!」
全身の金色の輝きが一層増す。ルグレは魂を全て防御に回し、この連撃をやり過ごそうとしているらしい。
だが、そうはさせない。斧を再び両手で握って呪文を唱える。
「『熱き情熱の力よ! 炎斧王のティーゾが命令する! この世の理に背き、終焉を告げる火山の怒りをぶつけよ! ヴォルカニック・ドゥームスデイ』!!!!!」
ドルン!
赤と茶の魔力が渦を巻き、地面に浸透していく。そして地響きを立てて地面が割れ、その間から小さな――と言っても四階建ての建物くらいはある――活火山が出現した。
しかし普通の山ではない。火口には……岩で出来た砲身がついている。
火山の全エネルギーを、敵に向かって放つための砲身が。
「噴火ズラ!」
ドッッッッッッッッッッッッッッ!!!
小型とはいえ、火山の噴火。とんでもないエネルギーがルグレに向かって解き放たれる。轟音が空気を震わし、その余波だけで木々が消し飛んでいく。
「ふぅ……フェフェフェ。こいつは強烈ズラよ」
回避する場所などない、ティーゾの最大火力。Sランク魔物も消し飛ばす火力をたった一人の亜人族にぶつけたのだ。
骨も残って――
「――なる、ほど。去年の私ならば、死んでいたか。もしくは、そちらが二十年若ければ、致命傷だっただろう。まさかこれを使わされることになるとは……舐めていた非礼を詫びよう」
「――ッ?!」
もうもうとたちこめる煙。その中にゆらりと影が浮かんだ。その手には……見たことの無い『何か』が握られている。
本能が警鐘を全力で鳴らす。感覚器官の全てが『ヤバい』と叫ぶ。
その声に従ってマグマで結界を張る。物理的な攻撃を防ぐ、ティーゾの最大の防御魔法。
「がはぁっ!」
――それがまるで紙のように引き裂かれ……腹部を貫かれる。その勢いで背後に尋常じゃない速度で飛ばされた。
何かにぶつかって意識が一瞬戻るが、すぐに混濁して力が抜ける。
(なに……が……)
混乱の極みの中、ティーゾが見たのは……耳まで裂けた、ルグレの口だった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「し、新入り――じゃなくて、ブリーダ! なんだよそのカッコ! ナリアが気絶しちゃったじゃねえか!」
「ギッギッギ! この美しいフォルムを見て気絶するったァ、美的センスが無いらしいなァ!」
どう見ても魔物としか思えない姿に変化したブリーダは、楽しそうに笑った。腕の中でぐったりしているナリアをお姫様抱っこし、彼の足を軽く蹴る。
「そ、それでどうすんだよ」
「どうもこうも。あの野郎をぶっ殺さねェと逃げるに逃げらんねェからなァ。今戦った感じからして、ルグレ以外は脅威でもなんでもねェのが救いか」
しゅるん、と元の姿に戻るブリーダ。腕を組んで、難しい表情で辺りを見回す。
「オレは魔族だからあいつらにとっちゃ排除対象だし、そもそもここは人族の国だ。一人でも逃がせば、ここに軍がいることがバレるかもしれねェ。あいつらは逃がす気はねェぜ」
ゴクッと生唾を飲み込む。ブリーダは口元のみ笑顔だが――目は真剣そのものだ。そして腹を抑え、額に脂汗を浮かべている。
「……なんか暑いなァ」
ふぅと息を吐くブリーダ。確かに、なんか気温が上がったように感じる。いや、確実に上がっている。まるで蒸し風呂の中にいるかのようだ。
「こ、これも敵の攻撃かな……って! 包帯はどうしたんだよ!」
グイっと額に浮かんだ汗をぬぐいながらブリーダを見ると、治療のために巻いてあった彼の包帯が綺麗さっぱり消えていた。
ブリーダはそう指摘されて、今気づいたとばかりに肩をすくめる。
「あァ? サーベルイナズマンダーになった時だろうな。どっか行ったよ」
「すぐに手当てする!」
「バァカ、そんなことしてる暇は――」
ズガァン!
目にも留まらぬスピードで、何かが飛んできた。
慌ててレーンとブリーダがそちらを見ると、そこには斧を握りしめ……腹に風穴の開いた老人が木にぶつかり、ぐったりと倒れていた。
何が起きたか分からずに目を白黒させていると、ブリーダが笑ってるのか困惑しているのか分からない表情を浮かべた。
「こいつは……『灼岩』のティーゾじゃねェか! 人族の特筆戦力が、何でこんな所に……!?」
「し、知ってんのか?」
「あァ。バケモンの一人だ」
頷きつつも、腰を落として周囲を警戒するブリーダ。その老人――ティーゾさんというらしい――が飛んできた方を見ると、地面に陽炎が立ち上り、木々が完全に死滅していた。
自分たちの住んでいた森なのに、まるで別の地域に来たかのような変貌ぶりに、ヒュッと変な生きの吸い込み方をしてしまう。
「微かに胸が動いてるってこたァ、まだ生きてんだろォが……おいおいよぉ。いくらオールドクラスっつっても、特筆戦力だぜ……!? あのルグレとかいうの、どんだけ強いんだよ」
ルグレのせいだと決めつけるブリーダ。レーンは腕の中で力を抜いているナリアを抱え直し、彼に問いかけた。
「な、なぁ。特筆戦力ってなんだよ」
「後で説明してやる。まァ、バケモンって思っとけ」
ピリッとした殺気が微かに帰ってくる。それほど、気を張り詰めているのだろう。
さっき、ゴウゴとかいうのを倒した時も余裕綽々だったブリーダが怖いくらいに警戒している。
「バケモン……か。では、私もその特筆戦力とやらなのかな」
――ジャリッ。
地形が変わり、地面の灼けた道を……一人の男が歩いてくる。その姿はまさに威風堂々としており――天変地異が起きたかのような道なのに、まるで近所の行きつけに向かうような気安さだ。
それを見つけて、ブリーダの口が三日月形に変わる。
「ギッギッギ。当然だろ? 若き超越者、アルルグレール」
「私も有名になったものだな」
少し嬉しそうに笑うと、ルグレは指を三本立てた。
「いい報せがある。予定では、あと三分だ。三分で――別動隊が到着する。逆に言えば、後三分は私の相手だけしておけばいいということだ」
「「!」」
レーンとブリーダが、同時に目を見開く。まさか増援が来るとは。
ゴクリと生唾を飲み込む。
(せめて……せめて、ナリアだけでも逃がさないと……!)
レーンはナリアをお姫様抱っこから、お米様抱っこに変える。そして空いた右手で、再度槍を握った。
「ブリーダ、援護はするぜ……!」
「バァカ、震えてんぞ。さっきも言ったろ、オレを援護してェならキョースケくらい強くなってからにしろってな」
ため息とともに、ブリーダはレーンを押しのけて前に出るが――ふと、後ろを向いた。そこには、ボロボロになったティーゾさんが立ち上がっていた。
ゆらりと陽炎を立ち上らせながら、斧を杖代わりにして。
「……待つ、ズラ。まだ……終わってない、ズラよ」
「……ギリギリで、急所を外していたのか。まったく、これだから老兵はやりづらい」
吐き捨てるように言ったルグレは、首を一度鳴らし……ズオッ! と全身から『圧』を噴き出した。気温は地面のせいで熱いはずなのに、背筋の汗が全て冷汗に変わる。
「げはっ!」
血を吐くティーゾさん。ほんの少しだけ別方向を見てから――再度、真っ赤な殺意の浮かんだ目で、ルグレを睨みつける。
「な、なぁ……あ、あの人……大丈夫なのか?」
その鬼気迫る表情に、ルグレから感じる恐怖とはまた別種の恐怖を覚える。
「ギッギッギ。どう見ても大丈夫じゃねェだろ、ありゃ。急所は避けたのかもしれねェが、血を流し過ぎだ。……だがまァ、今は都合がいい。的になってくれりゃ、戦いやすい」
共闘する――なんて意見が一切出ないブリーダ。
「来る、ズラ。あと、二分……? って、とこズラ」
うわ言のように呟くティーゾさんは、そのまま笑い出した。
「フェフェフェ。おんしら……若造に、負けるほど……」
ブツブツと、呟きながら斧を持ち上げるティーゾ。それだけで、カタカタと地面が小刻みに振動しだした。
じんわりと気温が上がっていく。ティーゾが地面に斧を振り下ろすと、ドバァッ! と溶岩が噴出した。それは天へ昇り、龍の姿になる。
「……どこにこんな力が」
「ギッギッギ、やるじゃねェかジジイ!」
それを見たブリーダも、水流を全身に纏わせた。一方でルグレは、右腕を黄金色に輝かせる。それは直視出来ないほどの眩さで、思わずレーンは顔を覆う。
「喰らうズラ……ッ」
轟!
溶岩の龍が空からルグレを喰らわんと降下し、ブリーダが激流を放った。
直後、ルグレの拳がそれらに激突する。激しい振動と爆音が発生し――ブリーダたちはその勢いで吹き飛ばされそうになった。
「ぬううううう……はぁぁぁぁあぁ!」
裂帛の気合いと共に、ルグレが天へと弾いた。激流を伴い昇る龍――こんな時だというのに、神秘的だと思わず見とれてしまう。
「うおっ!」
「ギッギッギ!」
激しい衝撃波がレーンたちを襲う。ブリーダが庇ってくれたので、レーンとナリアは前髪が揺れただけで済んだ。
「……ふう。まぁ、仕方あるまい」
少し残念そうな声を出すルグレ。その視線の先には――立ったまま、気絶するティーゾさんの姿があった。
ルグレはふうと息を吐き、彼に近づいていく。トドメを刺すつもりなのだろうか。
前に立ち、ルグレが無造作に手を振り上げたところで――ゴッ! とティーゾさんの腕が信じられない速度で動き、ルグレに向けて斧を振り上げた。
「なっ!?」
反ってその一撃を回避し、そのまま後ろ回し蹴りでティーゾを喰らわせようとして――何故か、ピタリと止まるルグレ。
そして足を降ろし、敬意を表するように背筋を伸ばした。
「……気絶したまま。信じられん、なんという執念だ」
ゴクリと生唾を飲むルグレ。そのまま軽く頭を下げると、気を失ったままのティーゾさんに何もせずこちらを向いた。
「さっきのオレらの攻撃でキズ一つ無い上に、今の不意打ちも当たんねぇのか。バケモンだな、ギッギッギ」
やけくそのように笑うブリーダ。それを見て、レーンはつい一歩下がってしまう。
――アレは、勝てない。
「化け物か。誉め言葉と受け取っておこう」
ずしゃっ、と崩れ落ちるティーゾ。ルグレは一瞥するとすぐに興味を失ったのか、ブリーダとレーンを睨みつけてくる。
それを見て……無意識のうちに、槍から手を離してしまった。
「……あん、なの。……勝てない」
声が震えるのが分かる。でも、仕方がないだろう――どう見ても、勝てるわけが無い。あんな化け物。
「おい、どこを向いている魔族」
――さっきティーゾさんが向いた方向を、何故かブリーダが見ている。そのことに気づいたルグレが咎めると、ブリーダはひょいと肩をすくめた。
「ギッギッギ。隙だらけだったろォ? 今。なんで仕掛けねェんだ」
「……私の流儀に反する。勝てる相手に、わざわざ卑怯な手を使う必要は無い」
勝てる相手。
舐めている――というつもりは無いのだろう。彼の態度は、非常に堂々としたものだ。
「何故立ち向かう?」
「あァ?」
こちらへ歩いてきながら、問うてくるルグレ。
「勝ち目はあるまい。……隠れておけば、貴様だけなら逃げられただろうに」
「んー? ギッギッギ。さっきも言っただろ、こいつらが死んだら困るって」
「――嘘だな」
「ギッギッギ。無粋な奴だぜェ」
一考もせずに切り捨てられたブリーダは、へらへらと笑った。
「情が移ったのは……これが案外マジだ。でも、テメェの言う通りそれだけじゃあねェ」
ブリーダの周囲で何かが揺らめく。
「オレは死ぬわけにはいかねェ。アルシファーナ様を救い出すまで、死ねねェんだ。だからだよ、テメェの前に面ァ見せたのは!」
アルシファーナ……?
彼と一緒にいた女性の名前じゃない。レーンが困惑して彼の顔を見ると、ブリーダはちょっとだけ複雑そうな顔になった。
さっきまで愉快そうにしていたというのに、何故だろうか。
「……理解出来んな。死ぬわけにいかないのなら、なおのこと逃げるべきだった」
ジャリッ、とスタンスを変えて腰を落としたルグレ。それを見たブリーダは、分かってないという風に笑った。
「じゃあ、オレが逃げたら見逃してくれんのかァ?」
「ああ。戦場から逃げ出すような臆病者、私が相手するまでも無いからな」
「マジか、ラッキー。んじゃ、レーン。行こうぜ」
そう言って背を向けた所で――ルグレの方から、とんでもない殺気が膨れ上がる。仕方がないという風に笑ったブリーダは、顔だけ後ろを向いて、ベッと舌を出した。
「ほ~ら。それなら、まだ戦った方がマシってモンだろォ?」
レーンの頭に手を置いて、わしゃわしゃと撫でるブリーダ。
「あーあ、もうちょい準備させてくれりゃなァ。テメェに余裕で勝てんだけどなァ」
「言い訳など……晩節を汚すぞ。潔く散ったらどうだ!」
侮蔑するように、吐き捨てる。わざわざ足を止めて。わざわざブリーダの目を見て。
時間にして、たっぷり五秒ほどもかけて。
「晩節ゥ? ギッギッギ、何言ってんだ。死ぬ直前まで足掻くのが『魔物使い』であるオレの信条だ」
ブリーダが答えた、次の瞬間――ルグレはバッと顔を上げる。ティーゾが、ブリーダが見た方角を睨みつける。
「ギッギッギ。オレがまさか、アイツの力借りるとはなァ」
「……なんだ、この気配は――」
ルグレが言い終わるかどうかというタイミングで。
――嵐と見紛うほどの突風が吹き荒れた。
ルグレが、ブリーダが顔を覆う。レーンもナリアを抱いて、踏ん張った。
「な、ぐがっ!?」
豪風が、暴風が――ルグレを踏ん張っている地面ごと吹き飛ばす。木々が吹き飛んだ森の、さらに地表までめくれ上がった。
――そんな、大災害の跡地と言っても過言でない場所に、一人の男が灼熱の大地に降り立った。
美しい紫色の魔力を纏い、本来ならば見えないはずの風を――圧倒的なまでの魔力量で可視化させて。
誰よりも……頼りになる男が。
レーンたちを、支配から解放してくれた男が――
「義兄ちゃん!」
「レーンから離れろブリーダ!」
「そげぶっ!?」
――真隣にいたはずのブリーダをぶっ飛ばした。
京助「ダイナミックエントリー!」
志村「味方打ちするところまで真似する必要無いで御座る」
天川「いやでもあの状況なら仕方ないんじゃないか?」
難波「魔族だもんな、相手」




