308話 新入りなう
前回までのあらすじ!
京助「なんでブリーダがいるの……?」
冬子「あの時、殺した……んだよな?」
リャン「とはいえ、戦っていたのは勇者ですからね。取り逃がしていたのかもしれません」
シュリー「ヨホホ。しかも味方面してるのが凄いデスね」
マリル「私この方よく知らないんですけどー……絶対に敵でしたよねー」
美沙「うわっ、なんでこいついるの」
キアラ「遠慮ないのぅ。それでは本編をどうぞなのぢゃ」
水を纏い、不敵に笑う新入り――ではなく、ブリーダ。彼はパンと手を叩くと、周囲に水の蛇を大量に召喚した。
「……貴様、誰に歯向かっているのか理解しているのか?」
ルグレが、ビリビリと大地すら震動させるような殺気を出す。しかしブリーダはそれをどこ吹く風と受け流し、欠伸をしながら小指で耳かきをしだした。
「おー、分かってんぜぇ? ギッギッギ、洗脳されてた頃のオレ様と一緒。雑魚を甚振って楽しむ、子犬ちゃんだ」
べぇっ、と舌を出すブリーダ。ルグレはさらに殺気を増して、身を低くした。
「なるほど、死にたいらしい」
その殺気を受けて、ブリーダが冷汗をかく。よく見ると……腹の包帯にジワリと血が滲んでいる。それはそうだ、ほんの少し前まで目が見えないほどの重傷を負っていたんだから。
「新入り! じゃなくてブリーダ! 無茶だ!」
「ギッギッギ、無茶でもなんでも……つーか亜人族のテメーらと違って、オレはどうせ殺されるしなァ」
特徴的な笑い方。ブリーダはレーンとナリアの頭に手を置くと、優しくなでて来た。
「オレは今、死ぬわけにいかねェんでな。ギッギッギ、飯代くらいは働いてやるぜ」
コーン……。
どこからか、木と木が打ち合わされたような音が聞こえてくる。目の前にいるブリーダの周囲に、青い……まるで澄んだ川のような色のオーラが現れた。
頭に二本の角が生え、へらへらとした笑顔が……獰猛なそれに変わる。
「『魔昇華』」
ドッ!
周囲にエネルギーの衝撃が迸った。それだけで、獣人族の一団に緊張が走る。
先頭に立つルグレが、低い体勢のまま唸った。
「……何故、こんなところに魔族が」
「「魔族!?」」
レーンとナリアの声が重なる。ブリーダは苦笑すると、やれやれと首を振った。
「ギッギッギ、別になんでもいいだろォ? 今のオレは、テメェの敵でこのガキどもの味方だ。シンプルだろォ?」
「……まぁ、そうだな。どの道魔族は駆除の対象だ」
そう言うと同時に、ルグレの姿が消えた。同い年の中ではそれなりに鍛えていると自負しているレーンの目では、一切捕らえることの出来ないスピード。
気づくと、既にルグレは眼前に迫っていた。そしてそれを、水で雁字搦めにして捕獲するブリーダ。
ドッ! と一拍遅れて衝撃波がやってくる。ナリアを庇うと、ニヤッとブリーダが嗤った。
「ギッギッギ。そんなもんか?」
「なるほど、戦えないことは無いらしいが――」
ブチン! とあっさり水を引きちぎったルグレ。そして空気が破裂するような音とともに、ブリーダの首から上を消し飛ばした。
「――戦力差は考慮すべきだったな」
ルグレはため息をついて、血を払うように手を振った。
「きゃあああああ!」
「……ッ!」
バシャバシャ……。血がまるで噴水のように勢いよく飛び、視界が真っ赤に染まった。ナリアの目を覆ったが、彼女の体がガクガクと震え出す。しっかりと、彼の首が飛ぶ瞬間を見てしまったらしい。
レーンは逃げようと足を動かすが――まるで縫い付けられたかのように動かない。獲物を捕らえた蛇のような目を向けるルグレ。
「これで邪魔ものもいなくな――」
彼が手を伸ばしてこちらに一歩踏み出した瞬間だった。バシュンッ! とルグレの腹から水の槍が生える。
「――ほう」
「チッ! 今ので殺せねぇか。ギッギッギ」
ルグレの背後に立っているのは、ニヤケ面のブリーダ。ルグレは水の槍を腕で払うと、黄色いオーラを腹部に当てて……穴を塞いでしまった。
それを見たブリーダは少し驚いたような顔をすると、指をついっと動かす。すると彼の死体(?)が真っ赤な水に変化し、レーンとナリアを包み込んだ。
一瞬で彼の懐まで移動させられ、肩に手を置かれる。
「ギッギッギ。アレ見て叫ばねェたァ、肝が据わってやがる」
驚きすぎて、事態を把握出来てないだけ――とは言わず、力強くうなずいた。
ブリーダがペロッと舌なめずりをしたところで、ルグレが耳を少し動かして明後日の方を向いた。
その隙を逃さず、ブリーダが水のギロチンでルグレの首を狙ったが、それは別の獣人族に叩き落とされてしまった。
「……これとアレ、挟撃されては厄介だ。お前たち、魔族は任せた」
「「「はっ!」」」
何のことだ――そう思う間も無く、ルグレは視線の方向に走り出す。
「お、おい待て――っと」
ブリーダも慌てて追いかけようとするが、そこをぐるっと獣人族の軍隊に囲まれてしまう。
「あー……チッ、しゃあねぇ。あいつは後回しだ」
ブリーダはそう呟くと、周囲に無数の水の蛇を生み出した。
「ギッギッギ。んじゃ、アレを殺る前に……準備運動といきますかね」
ゆらりと粘ついた殺気を纏うブリーダは……レーンたちを助けてくれているはずなのに、どう見ても悪役にしか見えなかった。
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ルグレが鼻と耳を頼りに走り出すと、思いの外目立つところに『それ』は浮かんでいた。
「光栄だな。人族の超越者の一人にして、先の戦争の英雄の一人と見えることが出来るとは」
「フェフェフェ。おんしみたいに若い子が――吾を知ってるズラか。それこそ光栄ズラよ」
――溶岩を身に纏い、緩く空に浮かぶ老人。一見すると柔和で好々爺と言った雰囲気だが、その実はち切れんばかりの闘気と殺気が肌の下に満ちている。
「何か御用か?」
愚問だ。それを理解した上で、敢えて口を開く。
「『紅蓮狼』、ティーゾ・フィーン殿」
斧を担ぎ、楽しそうに笑う老人は地面に降り立つと……ポリポリと頭を掻いた。
「フェフェフェ! 用らしい用は無いズラ。ただの小競り合いなら、吾も止めなかったズラよ。任務通り、戻って報告するだけだったズラ」
しかし、と言葉を切るティーゾ。そして次の瞬間――ルグレは反射的に臨戦態勢に入ってしまった。自分でもほぼ無意識なほどに。
それだけの、殺気と『圧』を叩きつけられる。
「子どもを狙うんなら、話は別ズラ。そんな大人は、修正してやらんといかんズラ」
ドッッッッッッッッッッッッッッ!!!!
溶岩が爆発する。その風圧で、周囲の木々が吹っ飛んだ。
「任務変更。テメェを排除するズラ、アルルグレール」
空間が灼ける、息を吸うだけで肺が燃える。
「――ふっ」
しかしそんな空間の中で、ルグレは笑う。
「まさか人族の英雄の一人が……魔族と雑血に与するとはな」
「魔族? どこにいるズラ」
犬歯を剥き出しにして笑ったティーゾは――ゴン! と斧を地面におろす。
「ワシの目には、子どもに害を為そうとする獣が一匹見えるだけズラよ」
「獣か。……そんな獰猛に笑う老人に言われるとは思わなかった!」
ルグレはかぎ爪のように指を曲げ、飛び掛からんとする構えを取る。ティーゾはリラックスした状態で、斧に手をかけた。
「元SランクAGにして――元第三騎士団頭領! ティーゾ・フィーン……参るズラ!」
「私はアルルグレール! 来い!」
お互いが同時に飛び出す。直後、二人の激突の衝撃で……地面に特大のクレーターが出来上がった。
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ブリーダはパンと手を叩く。次の瞬間、水の蛇が竜に変わり――亜人族たちを一瞬で蹴散らしていく。
「「「「ぐあああああああああ!!」」」」
「雑魚ばっかだぜ。ギッギッギ……ぐっ」
ズキンと腹の傷が痛む。半身を千切られてから、再生する魔物と合体したわけだが……それでもやはり、千切れた上半身と下半身をくっつけるのには時間がかかる。戦闘力が落ちるからと、そうそうに自分から切り離すべきではなかったかもしれない。
首と足の傷も深い。全力で戦うとなると、面倒だが奥の手を使うしかあるまい。
そうブリーダが判断したところで、三人の獣人族が一斉に襲い掛かって来た。
「ギッギッギ」
今度は水の弾丸を空から降らせる。亜人族はそれを拳で弾くが――その隙をついて、腹を極細の水のレーザーで貫いた。
音もなく倒れる亜人族たち。結局のところ、派手な魔術よりも……こうして細く薄く絞った水の方が、殺傷能力が高い。
右から襲い来る敵の足を水の鞭で払い、バランスを崩したところに水ギロチンで首を断つ。
次の敵は水球で顔を覆う。獣人族は黄色いオーラを纏ってそれを引きはがしたが――もう遅い。口から水を流し込み、腹から突き破った。
「うぇっ……」
「な、ナリアしっかり! ブリーダ! グロいよお前戦い方が! さっきの身代わりもそうだけど!」
半泣きで抗議してくるレーンに、ブリーダはへらへらといつも通りの笑みを向ける。
「ギッギッギ、血が飛んだ方が楽しいだろォ? ナリア、レーン」
「あ、あたしをナリアって呼んでいいのはロロだけ! あたしはセーヌ!」
「そうかいそうかい。んじゃセーヌ、暫く目ェ瞑ってろ――」
ブリーダがスッと表情を消すと同時に……ブリーダの倍近く体躯のある亜人族の男が、黄色いオーラを纏って現れた。
「――雑に戦えねェ奴が来やがった」
「どいていろ貴様ら! 奴は我がやる!」
周囲の雑魚と比べて、頭一つ強い。ルグレほどじゃないが、ブリーダも今のままではマズいだろう。
「ゴウゴ士範!」
「き、気を付けてください! 奴の攻撃は、魂で防げません!」
ゴウゴと呼ばれた男は周囲のメンツを手で制し、ブリーダを睨みつけてくる。
「貴様らの使い方がマズいだけだ! 魔法なんぞに負ける者が覇族にいる資格なし!」
「ギッギッギ、オレ様のは魔法なんてチンケなモンじゃねェんだがなァ」
ブリーダがそう言いながら構えると――次の瞬間にはもう、眼前にゴウゴの拳が迫って来ていた。
バックステップで距離を取り、水分身を四体生み出す。しかしゴウゴは一切意に介さず、拳で粉砕していく。
最後の一体に拳を打ち込んだところで、ゴウゴが逆に吹っ飛んだ。
「むっ!?」
ブリーダの水分身――そのうち一体は、喰らった衝撃を敵にそのまま跳ね返す鏡分身という魔法にしておいたのだ。
バク転して体勢を立て直すゴウゴに、ブリーダはニヤニヤしながら水の弾丸を放つ。
「魔法も使えんだけどな。ギッギッギ」
敵の拳によって水の弾丸を叩き落とされるが――その隙をついて、背後に回る。そして即座にゴウゴの全身を水で拘束するが――魂を纏った肉体に強引に引きちぎられる。
水弾を放つと、今度はチョップで切断された。
「ギッギッギ、スゲェなおい」
「貴様も――なかなかやる。ヒュイゴウゴンだ。ゴウゴと呼べ。名は?」
「魔物使いのブリーダ。ギッギッギ、変な名前だなァ! 亜人族!」
ブリーダが嗤った瞬間、ゴウゴの顔が怒りに染まり――とんでもない速度でチョップを繰り出してきた。
作り出した水の壁をぶった切られ、首をチョップで狙われる。
「っとと」
水で生み出した分身と入れ替わって何とか回避。水を噴射して空へ飛び、空中から水弾を大量に発射する。
ゴウゴはそれらを全て回避し――それどころか、魂を纏わせた足でそれらを足場にしてこちらへ肉薄してきた。
「ゲッ」
「我が名は両親に貰った最高の名! それを――馬鹿にしていいと思ってるのかァ!」
「いやそりゃ、笑うだろォ? もっとカッコいい名前つけてもらや良かったのによォ」
霧を生み出す。これを吸い込んだら、内部から胃液を操って全身を引きちぎれる。
しかしそれを読んでいたか、ゴウゴはチョップ一発で霧を切り払ってしまった。
「おいおいよォ! なんつー力業だ!?」
「死ね!」
右、左、また右。
ゴウゴの拳がブリーダの体に何発も叩き込まれ、一瞬意識が飛びそうになる。
仕方なしにさらに水で高度を上げるが――ゴウゴは空中を蹴って、さらに飛び上がって来た。
「は、反則だろそれ!」
とんでもない速度で飛んできたゴウゴの蹴りが腹に突き刺さる。ミシミシミシミシィ! と骨が砕ける音が鳴った。
それだけでは済まない。その場で一回転し、踵落としでブリーダを地面に叩きつける。
「ゲバッッ!」
マズい、モロに喰らった。
痛みのせいで、意識を飛ばすことも出来ない。ぐわんぐわんと揺れる視界、ごろんと転がり、取り合えず仰向けになる。
「ぶ、ブリーダ!」
「ブリーダ!」
レーンとセーヌが駆け寄ってくる。ブリーダは目を開けて、二人を見た。
「あー……ギッギッギ。やっぱ鈍ってんなァ、オレ」
ベロっと舌を出す。
奥の手――ルグレを倒すために取っておくつもりだったが、仕方がない。
(残り四本しかねェからなァ……ホップリィに怒られるが、しゃあねェ)
無くなった分を補充できるのは彼女だけ。治りかけの体で無茶をしている現状で既にキレられるのは確定しているので……もう解禁していいだろう。
奥の手を。
「言い残すことは?」
着地したゴウゴがそんなことを聞いてくる。ブリーダは空を見上げながら、唸った。
「あー……もうちょいで思いつきそうなんだ。ちょっと待っててくれ」
「……五秒待ってやろう」
短い。
しかし、十分。
「あの世で、今日死んだ部下に言ってやれよ。敵を殺すまで油断すんなってなァ」
ポケットから小瓶を取りだす。ちゃぷんと水面――否、血面が揺れた。
『魔王の血』――それも、ブリーダ専用に調整された特製品。
「今更何をしたところで――」
「テメェみたいな脳筋はァ……そうだなァ、こいつでいこう」
蓋を指で飛ばして、口内に含む。その瞬間、ドクンと心臓が大きく跳ねた。通常は『魔王の血』を飲むと、脳が魔魂石になってしまう。
しかし、ブリーダはそうならない。正確に言うと、ブリーダ以外はそうなってしまうというべきか。
今の魔王が原型を作り、発展させた『魔王の血』。その失敗品の一つ。
何度も魔物と合体し、切り離しが出来る『魔王の血・R』。
「さァ! 行くぜ、馬鹿亜人族!」
ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクン! ドクンドクンドクンドクン!
心臓が跳ねる、騒ぐ、暴れ出す!
血が躍る、波立つ! あふれ出す!
「ギィーッ! ギッギッギッギッギッギッギッギィ!」
真っ黒な魔力がブリーダを包む。ブリーダ自身の青い魔力、魔王の黒い魔力、そしてこの魔物の持つ――黄色い魔力。
肉体が変わる。手足が伸びて筋肉質になり、爪が鋭利な刃物のように。胴が広がり、胸板は厚くなる。
全身から雷を噴き出し、背びれが並び……尻尾が生えた。最後に右手が剣に変わり、ねじれた角が三本飛び出す。
「なっ……そ、その姿……!?」
「ギッギッギ、こいつァオレ様の芸術品の一体。サーベルイナズマンダー!」
バリバリバリバリバリバリ!
周囲に放電しつつ、身を低くする。
「さっきまではよくやってくれたなァ……ギッギッギッギ!」
「くっ……! ば、化け物め!」
ドッ!
地面を割るような勢いで突っ込んでくるゴウゴ。ブリーダは地面に水を流し――そこに右手の剣を突き立てた。
バリバリバリバリバリバリ!
地面一体に電撃が迸る。咄嗟に空へ跳躍するゴウゴだったが――そこを、闇魔術で全身を拘束してやった。
「むんっ!」
一瞬で引きちぎるゴウゴ。しかしその一瞬があれば十分。ブリーダは背中から羽を出し、空へ飛びあがった。
「なっ!?」
空中で踏ん張れないゴウゴに向かって剣を突き出す。ゴウゴもチョップで反撃してくるが――触れただけでアウトだ。
ゴッガッ!
およそ人体から出ない音が鳴り、ゴウゴの全身に電撃が通る。
「ぐああああああああああああ!!!」
心地よい悲鳴。ブリーダはそれを楽しみながら、ニヤニヤと笑う。
「ば、馬鹿な……ま、魔法は……魂で防げるはず……!」
じゅうじゅうと美味しそうな匂いをさせながら――しかし失神しなかったゴウゴ。自由落下で地面に降り立ち、ギラリと睨みつけてくる。
「ギッギッギッギ! こいつの電撃は魔物特有の魔法効果でも! 固有性質でもねェ! 体質だ!」
ブリーダ自身もよく知らないが……魔物以外の動物の中には、不思議な性質を持つものがいるらしい。
そういうのを集めている同僚がいたので、そいつと協力して作った新魔物の一体。それがサーベルイナズマンダー。
リザードマン系の魔物をベースに、再生能力と強靭な筋力、飛行能力に加えて……電撃を出せるウナギ? とかいう動物を混ぜ合わせた至高の逸品だ。
本来であれば切札の一つだったが……研究が進んだ今なら、何体でも複製できる。コストはかかるが。
「いやァ、こいつを作るのには苦労してなァ……。聞いてくれよ、ゴウゴ」
ぎゅん!
一気にゴウゴに肉薄し、剣を振り下ろす。ゴウゴは左に飛んで逃げるが――そこには尻尾の一撃を置いておく。
バチバチバチバチバチ!
電撃に加えて、鉄塊も握りつぶすほどのパワーを持った尻尾による攻撃だ。ゴウゴはたまらないと言った表情でぶっ飛んでいく。
「まずよォ、動物を魔物にする研究から始めたんだ。辛かったぜェ? すぐに死んじまうからよォ」
ぶっ飛び、バウンドしても……何とか、立ち上がろうとするゴウゴ。そこに空中から落下する勢いをつけて、思いっきり拳を叩き込んだ。
「がぼおぁっ……」
「それが出来たら、やっとキメラ作りだ。でもこれもいい組み合わせを見つけるまで大変でなァ。いやマジで、何人死んだか分かんねぇんだこれが」
地面にめり込んだゴウゴ。その首に剣を突き付ける。
「その途中で、二人で合体したらSランク魔物よりちょいと強い魔物になれるってのが分かってな。ま、一回変身したら死ぬんだが。んで、こいつでキョースケを襲ったんだが……アイツ、返り討ちにしてやがんだよ。マジでビビった」
「人を……外道、が」
吐き捨てるように言うゴウゴ。ブリーダはそれに対して――笑顔で答える。
「ギッギッギ。そォだなァ……なんでオレは! 命を使い潰すような実験してたんだろォなァ!」
あの時の自分はどうかしていた。
命を使い潰すなんて――なんと勿体ないことをしていたのかと。
「生きてなきゃデータも取りづれェ。感想も聞けねェ。ああ、本当に馬鹿だ。なにが魔王様のためだ。そんなゴミみてェな研究に何の意味があったんだ! 命は大事だ、生きていれば! 何度でもオレの実験に使えるってのに!」
今のブリーダでも、新しい命を作ることは出来ない。喋れる者を実験台にするのであれば、殺さないようにして何度もデータを集められるようにしなければ勿体ない。
実験にどうしても必要ならまだしも、無意味に命を使い潰すなんて――本当にバカだ。
「ギッギッギ。ってわけだ、感想を聞きてェ。こいつの電撃、どうだった? 使えそうなら、もっとブラッシュアップしねェといけねェからなァ」
自分の剣を撫でながら――弱く、緩く電流をゴウゴに流し込む。ゴウゴは苦悶に満ちた表情になりながら……とんでもない殺気のこもった目で睨みつけて来た。
「地獄へ、落ちろ」
「……感想言わねェなら実験道具にもならねェ」
バヂン! バリバリバリバリバリバリ!
「ぐぐぁがああああああああああああああ!!!」
絶叫を上げて、黒焦げになるゴウゴ。たっぷり一分ほど電撃を流し……痙攣すらしなくなったところでブリーダはホッとして……膝を突く。
「チッ……別に魔物に変身しても怪我ァ治んねェのがな。ギッギッギ。……って、笑ってる場合じゃねェな」
(あいつは、骨が折れるなァ)
ルグレ。
特筆戦力の一人、アルルグレール。
獣人族の誇る――単独でSランク魔物を屠った実力者の一人だ。
ブリーダ「いやァ、オレかっこいいなァ」
京助「いや何でお前は味方面してるんだよ」
ブリーダ「ギッギッギ! そいつァ、そのうち分かるさ!」




