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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十三章 獣たちの狂乱なう
355/396

304話 忘れられないなう

前回までのあらすじ!

京助「獣人族がいきなり暴れた所に、俺たちが到着したよ」

冬子「しかしまぁ、結構派手にやったものだな」

リャン「私たちが間に合わなければマズかったでしょうね」

シュリー「それにしても、なんでこんな大がかりなことをしているんデスかね」

マリル「テロリストのやることは分かりませんねー」

美沙「とにかく、やっつけて元に戻さないと!」

キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」

 俺は皆を連れて収容所の中に入る。すると次の瞬間、咽かえるような血の臭いが鼻を貫いた。


「…………これは」


「ほとんどが、人族のものですね」


「分かるのか、ピア」


「ヨホホ、結構違いはあるものデスよ」


 鼻の利く二人がそう言って顔を顰める。外にはキアラでも間に合わない人が何人もいた。それより被害の大きい中は……考えるまでも無いだろう。

 気が急く、王都動乱の時もそうだった。俺はいつも、後手に回ってしまう。


「ん? おい、京助! こっちの部屋に人が倒れてるぞ!」


 冬子はそう叫びながら、勢いよく扉を開けて中に入る。

 俺とリャンも彼女の後に続くと……そこには二十人くらいの人が倒れていた。


「ここは……管理室か何かかな?」


 倒れている人たちは、服装からして非戦闘員のようだ。どんな奴らが入り込んできているかは分からないが、魔族と違ってその辺の分別はあるのかもしれない。

 俺たちは慌てて彼らに駆け寄り、容態を確かめる。男も女も関係なく、血塗れにされてしまっているけれど……。


「早速これが役立つとは思わなかったデス」


 シュリーはそう言って、例の帽子に炎を灯す。彼女の新しい武器、治癒の炎だ。


「これでいったん容態は安定すると思うデスよ」


 しゅばっ、と全員を同時に治癒の炎で包むシュリー。キアラから魔法を習っているだけあって、一つ一つの魔法が丁寧で効果が高い。


「ナイス、シュリー」


「それにしても――」


 シュリーは立ち上がると、吐き捨てるように口を開く。


「勝手に他国に入り込んできて、牢屋をしっちゃかめっちゃかにしている時点で、分別も何もないデス」


 辛辣なシュリーの意見。その通りだけどさ。


「というか、分別というなら痛めつける必要は無いはずデスからね。……本当に、何のためにこんなことをするんデスか」


「恨み、でしょうね。一度恨めば……よほどのことが無い限り、忘れられませんから」


 そう言って俺の顔を見るリャン。そして二、三人をひょいと担ぎ上げると、顎で外を示した。


「私が彼らをいったん外に連れていきます。道中で怪我人を見ても、治療だけして放置しておいてください。私が外に出しますので」


「一人で大丈夫?」


「ええ。私は転移できますから」


 ああ、確かにそういえばそうだ。


「後から追いつきますので」


「了解。冬子、シュリーもそれで良い?」


 二人も頷く。ここはリャンに任せて、俺たちは先に進もう。

 怪我人を担ぎ上げたリャンが、その辺にマーキングしたナイフを刺しているのをしり目に、俺たちは奥へ進んでいく。


「……よほどのことが無いと、忘れられないデス。ピアちゃんは凄いデス。愛で憎しみを乗り越えたんデスから」


 ズンズンと進みながら、シュリーはそう呟く。


「ケイ君のことは愛しているデス。ピアちゃんのことだって大好きデス。そして……二人が愛し合っている姿を見ると、本当に嬉しいんデス」


 目を伏せ、杖をギュっと握るシュリー。


「やっぱり、愛に種族なんか関係ないって。お父さんとお母さんは、正しかったんだって。ワタシとレーンは、愛されて産まれてきたんだって思えるからデス」


 彼女の周囲に炎が燃える、ちらちらと火の粉が飛び――気温が上昇していく。彼女の姿がぐにゃりと歪む。

 物理的に歪んでいるわけじゃない――彼女が魔力を練り上げただけで、陽炎が発生しているのだ。


「っと、誰かいるぜ!」


「確か抵抗するなら殺していいんだよな!」


「馬鹿! 腕とか足を引きちぎって放置って言われただろ!」


「今は追われないことが大事だからな!」


 前方から、三人の獣人族。今俺たちがいるのは一階、牢獄は地下一階から五階まで。彼らは下の階から昇って来たのだろう。

 俺は風でテキトーに叩き潰そうとしたところで――シュリーが、バッと前に出た。


「おい! 女だ!」


「しかもこの臭い……まさか、こいつ!」


「ひゃっはぁ! 娑婆に出てすぐ女とか、運がいいぜ!」


「犯せ犯せ! お、もう一匹いんぞ! そっちも――」


だからこそ(・・・・・)、忘れられない、忘れられないデス! お父さんとお母さんを殺したこいつ等を! 獣人族の国を!」


 シュリーが杖を地面に突き刺す。次の瞬間、炎の柱が獣人族たちの足元から出現。そのまま彼らを焼き尽くした。


「「「うぎゃあああああ!!!」」」


「獣人族自体に恨みは無いデス。でも他国に侵入して捕まっている連中を逃がすなんて、国が絡んでないと出来ないデス。だから、だから……!」


 炎が消える。そこから出てきたのは、真っ黒こげな獣人族。手足がぴくぴく動いているところからして、死んでは無いようだ。


「ワタシは……今日は、我慢出来そうに無いデス!」


 彼女の瞳から零れる水滴が、頬を伝うことなく昇っていく。蒸気となって、ただ(そら)へ。

 怒りが満ちたシュリーの手を、俺はそっと握る。


「いいよ、我慢なんてしなくて」


「ああ。私だって腸が煮えくり返っている」


 俺は真っ黒こげになった獣人族の手足をへし折っておく。これで暫く芋虫だ、自分だけでは逃げられまい。

 俺は分別があるので、引きちぎったりはしないでおこう。


「怒り、恨みに対する接し方なんて人それぞれだろう。少なくとも私は、そう思っている」


「乗り越えたリャンは偉いかもしれないけど、そればっかりが正解じゃないしね」


 俺たちは進みながら彼女にそういうと、シュリーは二度、三度深呼吸をして……肩の力を抜いた。


「ヨホホ……ありがとうございますデス」


 いつもの笑い方。俺は活力煙を咥えて、火をつけた。

 目の前にあるのは、階段。地下へ続く階段だ。

 俺は煙を吐き出しながら、槍を構える。


「人んちで好き勝手したら、どうなるか教えてあげないとね」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「では……私も指揮を取らねばなりませんので、これで。ただ一つ言わせていただきたいことが……よろしいですか?」


「へ? えっと……どう、しました?」


 あたり一面を氷原に変えた女性が、リミトートの方を見てコテンと首を倒す。

 キョースケ・キヨタのチームメイト。確か――


「ミサ・アライさん、でしたよね」


 ――ミサは、少しだけ驚いたような表情になる。コテンと倒した首をまっすぐに戻すと、クスクスと口に手を当てて笑い出した。


「……よく、ご存じ……です、ね」


 焦点を結んでいない、まるで壁に向かって話しかけているような虚ろな表情。

 魔法を使う時にある種のトランス状態になる者がいるとは聞いたことがあるが、ここまでの魔法師はそうそういないのではなかろうか。


「……有名ですから、あなた方のパーティーは」


 その感想をグッと押しとどめ、彼女の問いに答えると――ミサは体をふらふらと揺らした後、こつんと自分の頭をたたいた。


「あー……あー……ふう。あ、通常モードに戻ったんでそのドン引きした目はやめてもらって大丈夫ですよ」


「そんな目、していましたか?」


「はい」


 彼女は戦闘時にスイッチを切り替えるタイプらしい。騎士団には殆どいない(というかいたら困る)が、AGなら稀に聞く。


「というか、私なんてただのDランクAGなのに、よくご存じですね」


 貴方のようなDランクAGがいるものか。

 雨後の筍のように氷原から生えてくる氷の鬼。その一体一体が自分と同等……否、それ以上の強さを誇っているだろう。

 十体を超えたところで数えるのをやめた。

 それを一瞬で生み出した氷の魔法師。それが駆け出しのDランク? 馬鹿を言わないで欲しい。


「治安を預かる身として、別次元の実力者の名前は全員覚えています」


 AGギルドとは持ちつ持たれつの関係だ。要注意人物の情報は、それとなく流してもらえるようになっている。

 もちろん、その情報を悪用しないという契約を取り交わした上で、毎月謝礼を払っているが。


「凄いですね。……まぁ、私はもうすぐミサ・キヨタになると思いますけど!」


 ……キョースケは彼女を選んだのか。


「あ、違いますよ? パーティーの皆、京助君の奥さんですから。夜もSランク……って感じです」


「え、全員ですか?」


「もちろん! 毎晩、極大の愛を貰ってます!」


 朗らかな笑みで笑うミサ。英雄色を好むというが……もしくは若さか。毎晩五人も相手にするなんて、普通の男では無理だろう。さすがはSランクAGだ。羨ましいとは思えないが。


「と、話がそれましたね。言いたいことって何ですか?」


「少し、懸念があるのです。無論、あなた方の実力を疑うわけではありませんが」


 そう前置きをして、リミトートは収容所の方を見る。


「何度か、キョースケさんが顔を合わせている囚人がいます。差し入れも届けているようでした。……このような職業をしていますから、顔見知りを切ったことは何度かあります。しかし、その都度……嫌な、それはもう嫌な感触が手に残ったものです」


 初めて、知り合いを切った時のことは今でも覚えている。

 あの時、剣が鈍らなかったのは奇跡だった――そう、思っている。


「彼はまだ、十代ですから。もしも、囚人番号七十二番を逃してしまっても……彼を責めることは出来ないでしょう。その責任を取るためにも、私はここにいます」


 責任を取るのは、役職を持つ者の務め。今回の件で、彼らに協力を頼んだのはほかならぬ自分だし……こうなることを予測できず、キョースケが囚人番号七十二番と会う機会を作ってしまった責任の一端は、確実にリミトートにある。

 であれば、しっかりとその責任は取らねばならない。


「話したことがある人……ですか。でも大丈夫ですよ」


「大丈夫、とは?」


 クスクスと笑いながら、ミサは断言する。


「この収容所内にいる獣人族を無力化したら勝利――条件が明確だし、依頼でもある。京助君はやることが決まってたらそれしかしません。相手が誰だろうと関係ないです」


 彼女の目には揺るぎない信頼が見て取れる。さすがに奥さんなだけあって、彼のことはよくわかっているのだろう。


(それでも、だ)


「……分かりました。では、指揮に戻ります」


「はーい、気を付けてください。何かあったら天に叫んでください、すぐに駆け付けるので」


「ありがとうございます」


 万が一に備える。

 それが今、自分にできること。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 地下に降りると同時に、既に十人は叩き伏せている。どうも、犯人は鍵だけじゃなくて奴隷の首輪を外す技術を持っているらしい。

 ……あの首輪、魔道具なのにね。


「獣人族は魔法が使えないのに、魔道具には精通してる人がいるんだ」


 シュリーの弟さんがいる村でも、結構活用してたからね。もしかすると、作成技術くらいはあるのかもしれない。


「力づくかもしれんぞ、京助」


「そんなことしたら爆発して死ぬよ。アレ、結構ヤバい代物だから」


 死刑囚につけている奴隷の首輪だ。そんな乱暴なことをすれば、すぐに死んでしまう。


「五階まである、さらに下がっていこうか」


 ちなみに道中、まだ逃げていなかった牢屋の中にいた獣人族は全員眠らせておいた。どうせ騒ぐだろうし。


「……来ますデス」


 リューがそう呟いた瞬間だった。下の階に向かう階段から――五人の獣人族が昇ってきた。

 バチッ、と先頭にいた男と目が合う。


「止まれッ!」


 リーダー格の男の掛け声で、獣人族たちが焦ったような表情で足を止めた。ピリッとした緊張感が走る。


「ハロー、ジン」


「……キョースケ」


 ――ここまですれ違った獣人族たちは、皆即座に俺たちに襲い掛かって来た。つまり、一目で実力差を看破出来なかったのだ。

 しかし――彼は、ジンは。全力の警戒態勢に入っている。


「……ブレスめ。どうして順番を変えてまでオレを出したのかと思ったら、そういうことか」


「そいつが親玉の名前か。教えてくれてありがとう、ジン」


 薄っすら笑うジンは、半身になって構えた。


「お前ら、ここで足止めするぞ。……残りの連中の首輪が外れるまで持ちこたえる!」


 背後の男たちも一斉に構える。全員、構えは違うけれど……その目に、決死の覚悟が宿っている。さっきまではヒャッハーってやつらが多かったのに、いきなり質が変わるね。


「ジン、回れ右して房に戻るなら――もう少し、長生き出来るよ」


 そう言いながら、俺はカッ! と魔力を放出する。いつもの『魔圧』だ。

 しかし――ジンたちは全身に魂を纏い、それに耐えた。平然と、当たり前のように。

 ……強いね、全員がAランクくらいあるだろう。特にジンは、最初に受け取った印象そのままだ。野獣のような目で、俺を睨んでくる。


「戻る必要は無い」


 バチバチと……さらに魂を練り上げ、高めていく五人。


「オレは戦士だ。敵に背を向けると思うか?」


 次の瞬間、ジンの姿が消えた。俺は咄嗟に首を傾けると、彼の剛拳が頬を掠める。バックステップしている暇はない。俺はその場で左足を軸にして、体の捻りを利用した槍の一撃をジンのボディに。

 しかし、ジンはそれを魂を集中させることで防ぎ――槍を掴み、全体重をかけてきた。


「っと」


「やれ!」


 ジンの号令で、他の四人が同時に俺に攻撃を繰り出してくる。止む無く、俺は全身に風を纏った。

 パァン! とはじかれる獣人族たち。しかしダメージは薄い、俺は一歩後ろに下がって魔力を纏った。

 コーン…………。

 木と木が打ち合うような音が響く。


「冬子、シュリー。ここは俺に任せて降りて行って。……そして、彼らの首輪を破壊無いし無力化している奴がいたら速攻で叩いてくれ。そして敵のボス……えーっと、ブレス? は、極力戦うな。もしも戦うなら全力で殺す気で」


 俺の指示に、冬子とシュリーは頷く。彼らの実力を見て、敵のボスが一筋縄ではいかないだろうと感じたのだろう。


「すぐに追いつく」


 轟!

 魔力が渦巻き、緑がかった紫色になる。それが俺を包み――そして、全身の血管に魔力が巡るような感覚が走る。


「魔昇華」


 ドッ!

 先ほどとは次元の違う圧力が、建物の中に満ちる。ジンたちはビリビリと空気が震える中、額にじっとりと汗を滲ませ――それでも、笑っていた。


「行かせんぞ、キョースケ!」


「そう?」


 俺はガンッ! と地面を石突で叩く。次の瞬間、バカァン! と廊下に大穴が開いた。


「なっ!?」


「速く来ないと、私たちだけで片付けてしまうぞ」


「待ってるデスよー」


 軽口を叩いた二人は、その穴を通って下の階へ。よく考えたら、壊していいか聞かないで壊しちゃった。

 ……うん、キアラに頼んで直してもらおう。


「じ、ジン士範……!」


「狼狽えるな! 作戦変更だ。一人でも多く――外に出る!」


 もう止められないと判断したのだろう、即座に攻撃的な雰囲気に変化するジンたち。俺も身を低くし、槍を構えた。

 それにしても、士範とはなんだろうか。そういう階級でもあるのかな?


「行かせないし、邪魔もさせない」


「そうか。……お前は、戦場に出たことはあるか?」


「無いよ!」


 王都動乱が戦争だったと言われたら、出たことはあるが……そうじゃない、国家間の戦争という物には巻き込まれたことは無い。幸運なことに。


「敵でない知り合いが敵になる感覚を、知っているか?」


「知らないねぇ」


 俺が答えると同時に、ジンの蹴りが飛んでくる。俺はそれを回避し、足を掴んで壁に叩きつけた。それを助けようと他の四人が一気に距離を詰めてくる。

 俺は一人を石突で足払いし、水の鞭で吹き飛ばす。地面から炎の柱を生み出してよけられるコースを限定してから、三連続の突き。一人は肩、一人は腹、一人は膝を突かれて廊下の壁に激突する。


「経験が無いという割に、容赦がないな!」


 壁から出てきたジンが、苦笑とも困惑ともとれる変な表情でそう叫ぶ。


「話もした。嫌いじゃない――それどころか、出会い方が悪かっただけかもな、とも思ってるよ」


 笑みを浮かべて、俺は槍を構える。


「だからって、仕事の手を抜くほど愚かじゃない。いや、それどころか――だからこそ、俺はお前に全力で戦うよ」


 敵でない知り合いが敵になる感覚か――確かに、知らない。

 でも。


「そんなの、終わってから味わえばいいだけのことさ。下手な考え休むに似たり、後で考えても良いことは、後回し」


 それが俺の生き方で、考え方。


「甘ちゃんなら楽だったんだがな!」


 首を刈り取られそうな勢いの蹴り。屈んで回避したところに、先ほど俺が肩を貫いた男のローキックが飛んでくる。

 空へ――咄嗟に跳躍して回避。

 ボッボッ!

 空気の壁に激突する音をたてながら、ジンの拳が俺を狙ってくる。よく見ると、音が遅れてきている。……音速超えか、凄いね。


「チィッ!」


「っと」


 コンビネーション攻撃が上手だ。全員が一定の距離を保ちながら、俺に猶予を与えないために一切の間隙の無い攻めを繰り返している。

 ただAランクが五人いるだけじゃない――厄介な。


「ジン士範! こ、攻撃が当たりません!」


「オレはもう士範じゃないと言っているだろう! ああ、クソッ……!」


 彼らはジンの率いる小隊か何かだったのか。道理で、連携が上手い。


「……ねぇ、ジン。最期にもう一回聞くけど――回れ右して、もう少し長く生きる気は無いんだよね」


「ああ。初日に言っただろう? オレは罪人として死ぬつもりは無いとな」


 ああ、言っていたね。

 罪人として処刑されるのではなく――戦士として、戦場で死にたいとも。

 彼の主張を俺は思い出し、ふうと息を吐いた。


「……ッ」


 ピクッ、と獣人族たちに緊張が走る。なるほど、俺の雰囲気が変わったのを見抜いたか。魔族と戦う時とも、人族と戦う時とも違う。獣人族は……こっちの出方を読むのが凄くうまい。おかげで、戦っていてなかなかストレスだ。

 だから――


「神器解放。喰らい尽くせ――『パンドラ・ディヴァー』!」


「ッ!」


 名状しがたき『力』が俺の右手の中に集う。荒れ狂う『圧』をねじ伏せ――一条の槍が出来上がった。

 それを見るが早いか、ジンはいきなり右手に魂を集中させはじめる。それも全身から、無くなりかけのマヨネーズでも絞り出すかのように。

 それを見た他の五人が、慌て始めた。


「ジン士範!」


「や、やめてください! 俺たちは貴方を犠牲にしてまで助かりたくない!」


「うるさい! 言っただろう、一人でも多く逃げるんだと! ……オレが合図を出したら、行け。十秒は稼ぐ!」


 ジンが一括すると、残りの五人は俺を最大限に警戒しながらも――涙を流し始めた。バチバチと迸る稲光、ジンはその右手を俺にスッと向ける。


(――エネルギー弾か?)


 後手に回るのはまずい。俺は身を低くし、『ストームエンチャント』を纏った。しかし、ジンの動きは俺の予想の斜め上を行った。自分の心臓にその魂を撃ちこんだのだ。


「ガァァァッッッ!!!??」


「!?」


 異様な光景に目を見開く。それを合図にしたかのように、他の四人が俺の背後に向かって一斉に駆け出した。


「チッ!」


 ぬかせない――俺が突風で壁を作ろうとした刹那、ジンの拳が俺の腹に突き刺さっていた。


「ガハッ……!」


 壁に激突する。

 顔を上げる。

 そこにいるのは、太陽みたいに魂を輝かせているジン。


「ッ……! 何その姿!」


 自分の顔が、獰猛に歪むのが分かる。口を三日月形に開き、目をらんらんと輝かせていることだろう。

 目の前にいる、一人の戦士に向けて。

京助「そういえば、リャンと覇王以降……初めてかもね、獣人族と戦うの」

リャン「私は戦闘に入れていいんでしょうか」

冬子「いいんじゃないか? 結構しっかり殺し合いをしていただろう」


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