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兵器と帰還と剣

前回までのあらすじ!

天川「Sランク魔物、デススターゴーレモンを倒したぞ」

呼心「ラノールさんがあっさり倒したね」

桔梗「取り合えず明綺羅君が無事で良かった」

ティアー「ただそれにしても、魔族の攻勢があれだけだったのは気になりますわ」

ラノール「まぁ、あの程度の敵なら何人来ようが問題ないな」

ヘリアラス「それでは本編をどうぞぉ」

8話



 数日後。


「どうですか? ノグラフ所長」


 シロークは騎士団の整備室兼研究所に来ていた。

 魔道具等の作成はもちろんのこと、鎧などの整備を請け負っている、騎士団の縁の下の力持ちだ。

 第一、第二の区別なくサポートをしてくれている機関だが――名目上、第二騎士団の管轄となっている。


「これはこれは長官殿。……いえ、今後は団長とお呼びした方が良いですかな?」


「……勘弁してくださいよ、ノグラフ。同期にそんな呼ばれ方をすると、むず痒いです。それと、正式な辞令は出ていないのでまだ長官ですよ」


 シロークが苦笑いすると、ノグラフはわっはっは、と豪快に笑った。


「そっちが先に所長などと畏まった呼び方をするからだ。なぁ、未来の団長殿?」


「か、揶揄ったのは謝るので団長は本当に勘弁してくださいよ」


 苦笑しながら言うと、ノグラフはニヤニヤしたままシロークに肩を組んできた。


「そういや聞いたぞ? Sランク魔物討伐したって?」


「書類上は、そうなっていますね」


 何せ、誰も見たことの無い魔物だった上に……魔魂石が不気味な脳の形をしていた。つまり、『魔王の眷属』か『魔王の先兵』だったわけだ。

 そのせいで、正確な『魔物としての』ランクは測りようが無い。


「それをいいことに、おれの意見も聞かずに勝手に決められちゃいました。……まぁ、団長になるための戦果は足りていなかったので、ちょうど良かったんでしょうね」


 シロークはSランク魔物と戦ったことが無いので、比較は出来ないが……少なくとも、肌で感じた『圧』は今まで戦った中で最強の魔物だった。

 恐らく『炎帝剣ソルレイド』が無ければあんなにあっさり倒せていないだろう。


「ま、いいじゃねえか。なんにせよ、功績であることに違いは無いからな。かっかっか、羨ましいもんだぜ」


「羨ましいだなんて、心にも無いことを。それで……新造神器はどうですか?」


 本題に入ると、ノグラフは悪い笑顔を浮かべる。


「凄い武器だな、これ。無限の魔力で無限の出力! こんなん、Sランクダンジョンから出た魔道具が子どもの玩具に見えてくるぜ!」


 騎士団で言うと、マナバさんの持っている武器がSランクダンジョンから出た魔道具のはずだ。彼はあれを得てから、瞬く間にSランク相当の実力まで駆け上がったと聞いている。

 しかし、それが子どもの玩具とは。


「魔族の技術は……本当に、凄いですね。でも、それならこの強さも納得です」


 そう言ってそっとソルレイドに触れた。


「おれも自分で使ってみても思いましたよ。こんなの、誰が使ってもSランカーになれると」


 自嘲気味に笑みを浮かべる。すると、ノグラフは顎に手を当ててから唸った。


「いや……それはちょっとちげぇな。これは、持つだけで強さのレベルは上がる。一兵卒が将軍クラスになれる。戦えない奴ががBランクって感じだな。だが、持つだけならそこまでだ」


 いや、持つだけでBランクになれる武器なんて歴史が変わるレベルだろう。仮に全ての街に配備すれば、魔物災害がグッと減る。


「そりゃ、普通に考えればそうだが……Sランクと張り合えるようにはなれねぇってことなんだよ。使いこなすには、相当な修練が必要みたいなんだ」


 そう言ってスッと書類を渡される。『水霊の兵』の使用レポートのようだ。

 使ったのは……水の魔法が得意な、騎士団のAランク魔法師のミクラだ。シロークとノグラフの後輩で、若いころはよく飲みに連れて行ったりしていた。

 彼ならば十分、使いこなせるだろうが……。


「……彼でもダメなのか」


 レポートによると、そもそも王都動乱の報告にあったように鞭の形にしたり出来ないんだそうだ。

 出来ることは、勢いよく水を噴出するだけ。


「どうも、魔力を直接操って鞭の形にした後、水に変えるってプロセスが必要らしいんだ。だがこれって、魔族だけが使える技術……魔術を扱えることが前提らしいんだよな」


 魔術。

 その名前は聞いたことがある。確か、炎や風などを直接操ることが出来る技術だとか。


「相手の出した魔法をインターセプトして、コントロールを奪うってのは魔法師の戦いでは常套手段だ。しかし、それとはまた別の技術体系らしい」


 レポートの最後には、「使いこなすには、相当な修練が必要」と書かれて結ばれている。


「強い武器であることは間違いねぇが、持つだけでSランクくらい強くなれるような便利なモンじゃねえ」


「そうですか……」


 しかし自分が使った時は、平然と使いこなせた。


「そら、そっちの鎧のおかげだろ。ほら」


「っと」


 雑に書類を投げ渡してくるノグラフ。ここ数日、何度か『変身』してとった――『炎帝剣ソルレイド』の性能データだ。


「攻撃力、防御力、膂力、スピード……その他諸々。凄まじい数値だ。単純比較は出来ないが、『覚醒モード』を使った奴と遜色ない数値だ」


「……そうですか」


 数枚の書類には、見たことないような数値が並んでいる。自分が一生を剣に捧げたとしても、これだけの強さには届かないだろう。


「凄い兵器ですね」


 思わず笑ってしまう。これこそまさに『使うだけで強くなれる武器』だ。そんなものを作れるなんて、シムラさんは末恐ろしい。


「ところが、だ。最後のページを見てくれ」


 言われて書類をめくると――肉体への負荷、というページにたどり着いた。そこにもやはり……想像を絶するような数値が並んでいた。


「これ……は……」


「お前、何で平然と使えてるんだ? 並みの人族なら、肉体がバラバラになってるぞ」


 バラバラに……。

 言われて、ゾッとする。確かにそう言われてもおかしくない。特に、新造神器を使用して攻撃した時などは……Bランク魔物の腕力で引きちぎられるほどの負荷がかかっているらしい。

 だが、シロークは無傷で平気だった。


「こんなの武器でもなんでもねぇ。……だってのに、お前の肉体的な損耗はそんなでもない。疲れるくらいだって言ってたろ?」


「え、ええ。普段よりも疲労するくらいです。まるで、全力でずっと『職スキル』を使い続けていた時のような疲労が――」


 そこまで言って、ハッと気づく。自分には『迫撃騎士』の『職スキル』、『騎士の覚悟』があることに。

 あれは使っている間、肉体にかかる負荷に対する強い耐性を得ることが出来る。毒を受けた時や、敵の魔術によって不利になる結界などにとらわれた時に使う『職スキル』だ。

 シロークは訓練によって、一定以上の負荷がかかる場合には自動的に発動出来るようにしている。

 そして――『炎帝剣ソルレイド』を使用した後は、『騎士の覚悟』を長時間使用した時と似たような疲労感に襲われるのだ。


「……着るだけで強くなれる鎧なんて存在しない、ですか」


 こんなデメリットがあるからそう言ったのだとしたら……彼は、何故その詳細を自分に伝えなかったのだろうか。


「今度聞いてみましょうか」


 なにか意図があるのだろう。

 シロークは苦笑して、『炎帝剣ソルレイド』を握った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 一方そのころ。


「それで、なんで一週間もいなくなることになるの! 明綺羅君!」


「いや本当に面目ない」


 疲労困憊になりながらやっとこさ帰って来た王城。待ち受けていたのは、呼心からの涙ながらのお説教だった。

 部屋の中にはいつものメンバー。難波と井川は怒られている天川を、端っこの方でのんびりと眺めている。


「ラノールさんもついてて! なんでそんなことになっちゃうんですか!」


「その……す、すまない」


 普段はガンガン言い返すラノールさんだが、流石に今回はシュンと小さくなってしまっている。

 桔梗とティアー王女も泣いているし、ヘリアラスさんも若干怒っている。


「ケータイが壊れたなら、近くのギルドから連絡するとかさぁ! 音信不通になるなんて、誰が思う!? しかも一週間も! 一週間も!」


「ま、まぁまぁ空美。天川達がわざとやったわけじゃないんだから……」


「難波君は黙って奥さんといちゃついてて!」


 仲裁に入った難波が一喝される。


「その……オレがもう少しちゃんと探せばよかったんだが」


「井川君はそんなに悪くないよ。……でも何で元の場所に戻ってこれなかったの?」


「私が暴れて地形が変わったから……かな」


「地形が変わるってどんな暴れ方!?」


 驚愕に目を見開く呼心だが、そもそも清田だって街を一つ覆う雨雲を発生させて、そこから使い魔を生み出して制圧出来る化け物だ。Sランク相当の実力者というのはそういうものなのだろう。


「ラノールさんが剣を振るだろ? そしたら、山が一つ無くなったんだ」


「ちょっ、ラノールさん!? あ、貴方また山を消しましたの!?」


 山を消し飛ばしたというところに、ティアー王女が食いつく。しまった、言ってはダメだっただろうか。


「いずれバレるから、それは構わない。えーと、山の件に関しましては魔物と戦った時の不可抗力と言いますか……」


「趣味で消し飛ばしましたと言われても困るだけですから、そりゃあ魔物と戦った結果でしょう。ですが! ……この短期間で二度目ですわよ!?」


「はい……」


 年下にお説教されてへこむラノールさん。尊敬する相手のこういう姿はあまり見たいわけではないが、今回ばかりはこちらが悪いので何も言えない。


「それにしても、ラノールさんって山を消し飛ばせるのか……オレには無理だな。難波、お前なら出来るか?」


「無理無理。逆立ちしたって出来ねぇ」


 天川も、おそらく『終焉』を使わないとそんな芸当は不可能だろう。

 ラノールさんだって、通常技で消し飛ばしたわけではなさそうだが……いやでも、連発出来ていたな。


「取り合えず、無事に帰って来たから良いけど……でも、一週間の間、何も無かったよね?」


「「え」」


 天川とラノールさんの声が被る。


「…………何その反応」


「えっと、ラノールさん? あの、明綺羅君と……な、何かあったんですか?」


「へぇ……アキラにしては、結構頑張ったのねぇ」


「アキラ様!? し、信じて送り出したアキラ様が……!?」


 呼心、桔梗、ヘリアラスさん、ティアー王女が物凄い勢いで距離を詰めてくる――というか、押し倒された。


「ぐへっ」


 ゴチン、と強かに頭を強打する。すぐさま呼心が回復魔法をかけてくれるが、やったのはお前だ。


「な、なにもって……な、何の話だ?」


 天川が取り合えず口を開くと、ギラっと呼心の目つきが鋭くなる。


「具体的には明綺羅君の童貞とか!」


「「そんなことするか!」」


 顔を真っ赤にして否定する。そもそも、そんな甘ったるい旅行が出来るほど余裕があったわけではないのだ。二人とも、服が無かったし。

 ……まぁ、ちょっとしたハプニングはあったが、それだけだ。


「絶対に嘘でしょ! 男女が一週間も一緒にいて、何もないなんてあり得ない!」


 呼心が吼えるように言う。桔梗も鼻息荒くうなずいているし……。

 助けを求めるように難波と井川の方を見ると、彼らは少しだけ気まずそうな顔をして口を開いた。


「つっても、清田なんてずっと女の子と一緒に暮らしてたのに、つい最近まで童貞だったんだろ?」


「天川も清田と同等レベルのヘタレだからな。何かあったとは思えん」


「そうそう。天川ってアホみたいにヘタレじゃん? 絶対に無理だよ」


 フォローを入れてくれる二人。

 ……いや、これフォローになっているだろうか。


「明綺羅君がヘタレでも! ラノールさんが襲うかもしれないじゃん!」


「わ、私はそんなことはしない!」


「どうかしらねぇ。男も女も、激しい戦いをした後は昂るものだしぃ……。泊まり込みの任務の時は、女AGから誘う時もあるからねぇ」


 もちろん、基本は男側から誘ったり襲ったりするものだけど、と付け加えるヘリアラスさん。そしてチラッとラノールさんに色っぽい視線を向ける。

 ラノールさんは天川を見て、一回顔を赤くしてから……コホンと咳払いした。


「確かに、騎士団でも長期の戦闘になる時などは……慰安任務を受けた女性、男性を雇うことはある。それもあるから、娼館街は多少の無法は見逃されているわけだからな」


 慰安任務と娼館が関係あるということは、まあエッチなお姉さんを雇うという意味なのだろうが、エロい任務を受ける男性もいるのか。

 初めて知る情報に頷いていると、ラノールさんはドヤ顔で胸を張った。


「しかし、私はどれほど長期の任務でも、必ず己を律していたぞ。常在戦場だから」


「でも団長のテントには絶対に近づかないようにしてたからね、おじさんたち。一応、おじさんたちも気を使ってさ」


 ――窓から、一人の大柄な男が入って来た。

 王女のいる部屋に、窓から入ってくる――その蛮行に、天川と難波は咄嗟に剣を抜く。 井川も拳を構え、身を低くした。呼心と桔梗は、ティアー王女を庇うように前に立つ。


「何者だ!」


 天川が叫ぶと、その男は少しだけ笑ってから首を傾げた。


「あれ、おじさんのこと知らないってことは……騎士団じゃ無いのかな?」


「俺はアキラ・アマカワ。勇者だ!」


「ああ、勇者。後で稽古つけてあげるね」


 稽古?

 いきなりすぎて天川が混乱していると……ラノールさんが大きくため息をついた。


「マナバさん、なんでドアから入ってこないんだ」


「いやぁ、ごめんごめん。急いでたんだ」


 あはははは、と笑う男――もとい、マナバさん。


「って、マナバさん!?」


 驚愕に目を見開く。咄嗟に『照魔鏡』を取り出すが……反応は無い。魔族ではない。

 四十代くらいの、優しい目をした男性。がっしりとした体つきだが、ナマズ髭でおちゃめな雰囲気。身長が百九十センチはあるであろう巨漢だが、垂れ目でにこにこしているせいで全然怖そうに見えない。


「というわけで、マナバ・バーバラ。色々あったけど帰還しましたっと」


 へらへらっと笑って、右手で敬礼するマナバさん。


「貴方が死んでるとは思わなかったが……急いでいるとは?」


「いやぁ、まさか副団長のボクが、帰ってくるの遅れるなんてダメでしょ? 特にオーモーネル大臣に会ったら絶対怒られるじゃない? だから、先に遅れて帰って来た理由を団長にだけ言っておこうと思って」


 あっはっは、と笑うマナバさん。そんな彼を見て、ラノールさんが視線を鋭くシリアスな物に変える。


「Sランク魔物、もとい『血族』の魔族に襲われたんだろう?」


「あれ、ご存じ? ってことはもしかして」


「ああ。貴方に扮して、既にこの王城に来たよ。魔族は」


 ラノールさんがそう言うと、マナバさんは笑みを消して頭を下げた。


「もう……!? そうか……すまない。不覚を取った」


 よく見ると、彼の鎧はベコベコで……腕の部分も取れている。武器もなく、壮絶な戦いをしてきたことは明白だ。


「娘の姿をした魔族に騙されてな……崖に突き落とされたんだ。武器は全てぐしゃぐしゃにされるし、素手であの大きなゴーレムと戦ったが……死なないようにするだけで精一杯だった」


「アレは仕方がないだろう。私も、初見で一対一だったら不意を突かれていたかもしれない」


 デススターゴーレモンの能力は、普通の武器しか無ければ防ぎようのないものだった。素手で、しかも拘束具を着た状態で戦うようなものだ。


「かなり急いで戻って来たつもりだったんだが……遅かったか」


「……幸い被害は出ていない。死傷者はゼロだ」


 実際は怪我人もいたが、呼心の魔法で治るレベルだった。死者はいないし、新造神器も新しく入手出来た。戦果としては上々だろう。


「山は一つ消えましたけどね。というか、マナバさん? わたくしに挨拶はありませんの!?」


 そう言いながら、ティアー王女がマナバさんの前に出る。そんな彼女を見て、マナバさんは優し気な笑みに戻った。


「ああ、ティアー王女。おっきくなったねぇ」


「小さい子扱いはやめて欲しいですわ!?」


 親戚のおじちゃん、って感じの対応をするマナバさん。……仮にも王女に向かって、凄いなこの人は。

 しかしティアー王女の方も本気で怒っているわけではないようで、腕を組んでからそっぽを向いた。


「わたくしも、もう十六ですわ!」


「おおー……見ないうちに立派なレディになったもんだ」


「ええ、ええそうでしょうとも! 既に婚約者もいるんですわよ!」


 どや顔で胸を張るティアー王女。そして天川の腕を取って、マナバさんの前に並ぶ。


「こちら、婚約者のアキラ様ですわ!」


「へぇ! 勇者様と婚約してるのか。いやぁ、凄いなぁティアー王女は」


「って、ちょっと待ってください!? お、俺いつの間に婚約者になったんですか!?」


「些細なことですわ」


「些細ですかね!?」


 というか、平民の自分が王族の婚約者になって良いわけが無い気がする。


「まぁ、それは置いておいて……本当に申し訳ない。どんな処分でも受ける所存だ」


 再度頭を下げるマナバさん。


「ここに来たのも、団長の気配がしたからな。誰よりも先に伝えるべきだったからだ。通常の装備が通用しない以上、『覚醒モード』で武器を賄えるお前さんしか倒せんだろうと思ってな」


 そう言うということは、マナバさんの能力じゃ武器は出せないということなんだろう。


「その処分については追ってご説明しますが……まずは、よく生きて帰って来てくださいました」


 ティアー王女はそう言い、ラノールさんも頷いた。


「生きていて、ホッとした。ただ、行方不明になっていた間の分、キリキリ働いてもらうからな」


「もちろんだ。しかしまぁ、そうか……王都が無事で、良かった」


 ホッとすると同時に、落ち込んだ雰囲気のマナバさん。魔族に負けたのだから仕方がないとは思うが。


「なんにせよ――オーモーネル大臣と、王子に会いに行こう。話し合うべきことがたまっているから」


 ラノールさんはそう言って扉の方へ。ティアー王女もついて行くようだ。


「そうだな。しかしまぁ、情けねえな。二体いたとはいえ、おじさんが負けるとは」


「「二体?」」


 ラノールさんと声をそろえる。


「えっと、ツインヘッドドラゴンのことですか?」


 天川が問うと、マナバさんは首を振る。


「いや、ドラゴンじゃないね。おじさんの記憶が正しけりゃ、一体は金属を操る巨大なゴーレム。もう一体は……確か、巨大なワーウルフ系の魔物のはずだ。どっちも見たことは無かったが、ワーウルフ系の方が強かったな」


「「「「――――――」」」」


 その場にいる全員に戦慄が走る。

 デススターゴーレモンは、蓋を開けてみればラノールさんが一撃で消し飛ばしたが……あくまで相性が良かっただけのこと。装備を封じる能力に、大地を割るビーム、Sランクに相応しい強力な魔物だった。

 それより強い奴が、もう一体。


「王都に向かってるんでしょうか」


 天川が訊くと、マナバさんは首を振った。


「いや、 ゴーレムの方は勇者と団長を、ワーウルフの方はカノープスに行くって言っていた。あそこには特筆戦力がいないから、地盤を築くにはちょうど良いって」


 カノープス。

 そこに……デススターゴーレモンのように、Sランク魔物が乗り込んでいるわけか。


「天川。急いだ方がいいんじゃないか?」


「いやいや、井川。マナバさんが聞いた通りに解釈するなら、すぐには暴れねえんじゃねえの?」


「だとしても、だ」


 難波の言葉に、天川は首を振る。


「早く動くに越したことはない。……俺たちの次の任務が決まったな」


 カノープスで、魔族を発見し――討伐。

 もしも魔族が下準備をするなら……王都動乱のようなことが再び起こるかもしれない。

 それは、させない。


「カノープスに潜伏しているであろう――もう一体の魔族の討伐だ」


 ラノールさんの見せてくれた背中は、あまりにも遠い。

 でもそこに近づかなくちゃいけない。皆の笑顔を守るために。

 天川明綺羅が、天川明綺羅であるために。

 決意を込めて、天川は拳を握りしめた。






「そういえば、ラノールさんが夜のテントで一人でいたしてた時……何使ってたんだろ」


「呼心ちゃん……女の子なんだからそんなはしたないこと言わないで……」


「でも気になるでしょ?」


「気にならないよっ!」


 女性陣がヒソヒソ話している内容は、深堀しない方がよさそうだ。


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