298話 文字なう
前回までのあらすじ!
京助「ハシンねぇ、こんな奴がいるとは」
冬子「忍者キャラなんて今までいなかったからな」
リャン「ニンジャ……というのは、マスターの国にいた戦士か何かで?」
美沙「炎を出して水を出して風を出す、世界最強の戦闘集団だよ」
シュリー「そ、そんな凄まじい人が……!?」
マリル「キョウ君の世界も凄い人がいたんですねー」
キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」
「じゃあ、そろそろお開きってところかな」
ハシンとリャンの問答の後、修行の段取りを整え終えたところで、俺はそう言って皆の顔を見た。ハシンとタローもニッコリと笑い、頷く。
「二人は 今夜どうするの?」
「タローの部屋で朝まで昔話に花を咲かせようかなぁって」
「仲いいんだね」
「腐れ縁だ。一刻も早く断ち切りたいんだがな」
「またまた~。タローったらツンデレなんだから」
「君にデレたためしは一度も無いはずだが?」
眉にしわを寄せて、不快感マックスという顔になるタロー。しかしハシンは動じず、ニヤニヤ笑ってから俺の方へ。
「あんなこと言ってるけどさ、昔ぼくがSランク魔物に絡まれてピンチになってた時、真っ先に助けに来てくれたんだよ?」
「最初にそう聞いた時、なんて情けない様だと笑いに行くつもりだったんだ。いくらSランク魔物相手とはいえ、君が倒されるとは微塵も思っていなかったからな」
タローはため息をついて、額に指をあてる。
「だというのに、君が血塗れで危機に陥っているものだから、笑うつもりで行ったのに、死闘を繰り広げる羽目になった!」
がう、と今にも噛みつかんばかりの勢いで怒るタロー。
……Sランク魔物が相手でも、危機に陥ると思わなかったのか。
相当、信頼してるんだな。そして、彼もまたそのレベルの実力者なのか。
「いやぁ、あの時は死ぬかと思ったよ。なんだったんだろうね、あの異様に強いダイヤソードラゴン」
「知らん。まったく、あれほど苦戦したのに君は終わると同時に姿を消して! そのせいで私が単独討伐したと勘違いされて、実力以上に買い被られたんだぞ!」
「そうだっけ。覚えて無いなぁ」
へらへら笑うハシンと、ムキになるタロー。
「いいじゃん、君が強いのは分かり切ってるんだし」
「そういう問題じゃない! あの場に君がいれば、私と共にSランクAGになれたというのに……」
「嫌だよ、ぼくそういう表の役職。今みたいに世界を陰から操ってる感じの方が好きだし」
本当に仲いいなぁ、二人とも。
「それにしても、第三騎士団の頭領まで呼べるとはね。タローの交友範囲、凄いね」
てっきりAGくらいしか交流が無いとばかり思っていた。
するとハシンが、少しだけ目を細める。元が糸目だから、ほとんど瞑っているようにしか見えないけど。
「……君は『覇王襲撃』と『王都動乱』。二つの国難の中心人物の一人だ。自分で思っている以上に、上の方では注目度が高いよ」
「覇王の件も、国難なの?」
「当たり前でしょ。あんなの、Sランク魔物なんかじゃ及びもつかないくらいの大災害じゃん。たまたま帰ってくれたから良いけど、そのまま暴れられてたらどうなっていたことか」
……なるほど。確かに、ソードスコルパイダーの時の比じゃないか。
「注目度、ねぇ……。勇者は?」
「彼の方は彼の方で、ベルビュート家の娘っ子とか、ラノールちゃんとかが行ってるから大丈夫だよ」
ベルビュート家?
っていうか、ラノールをちゃん付けって……彼女に殺されそう。
「いーの、いーの。彼女、今度新設される第零騎士団 の団長に移動らしいからさ。ぼくと顔を合わせる回数も減るよ」
第零騎士団って……なに。
「それがゴタゴタの内容。ま、そのうち分かるんじゃない?」
情報が多すぎる。後で天川の方に連絡して、裏付け取ったり整理したりしよう。
「国難の中心人物だった……それらだけが原因ってわけじゃないけど、いまだに君を危険因子と見ている人もいるんだ」
いまだに?
俺を?
「こんな善良に慎ましく生きてるのに?」
「ねぇ、タロー。ぼくは慎ましいって意味を誤解して覚えてたみたい。大暴れするって意味だったんだね」
「いや、恐らく彼の故郷ではそういう意味だっただけだろう」
「そっかそっか。ぼくのお爺ちゃんが生きてたら聞けたのになぁ」
「うん、二人とも表に出ようか」
ぶっ飛ばしてやる。
二人はけらけら笑うと――ハシンは、少しだけ悲しそうな顔になる。
「残念だけど、君のように派手に動く人は好き嫌いが分かれる。まして、異世界人だ。例えば……亜人族と融和的な考えを持っていることに対して、否定的な人は多い」
それは、今までの会話で承知しているつもりだ。俺は決して融和派じゃないけど。
「強硬派のロベリー伯爵とかは王家派の本流だからまだいいけど、騎士団派は未だに異世界人に対する風当たりが強いからね。強硬派の騎士団派って言ったら、マイギル家とか、スケンス家とかね」
マイギル……はどこかで聞き覚えがある気がするけど、スケンス家は全く知らないな。まぁ、今後も関わることはそうそう無いだろうからいいか。
「話が逸れちゃったね。良くも悪くも、君はAGの中で特に注目度が高い。国のためにって視点に立った時に 、どちらに取るかは別としてね」
「少なくとも、ハシンは君たちに対して好意的だ。国の意思とは関係なく、な」
「そゆことー。ぼく個人の判断として、君たちはどこまでも強くなった方がぼくらのためになると思ってる。だから遠慮なく強くなって欲しい」
へらっと笑うハシン。この顔がどうしてもむかつく。
「もっとも、どれだけ強くなったとしても、ぼくの方が強いだろうけど」
「……なんで、Sランク以上の奴らってこうも血気盛んなのかなぁ」
「ミスター京助、君が人のことを言えるのかね?」
なんてことを言うんだ。俺は平和主義者だと言うのに。
「マスター、まずは鏡を見ることが先決かと」
リャンが酷い。
「では我々も解散するか。……明日の修行に支障が出ないくらいにしておけよ、ミスター京助、ミスピア」
「大丈夫大丈夫。今夜はたぶん」
キアラの魔法が無ければ、朝までイチャイチャすることも無いはずだ。
俺はリャンと一緒に部屋から出るのであった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
翌朝と深夜の間、つまり明け方。
俺は冬子と一緒に露天風呂に入っていた。
「昨日はリャン、今日は冬子か……」
「ふふ……勝った……」
フラフラの冬子。そりゃそうだ、晩御飯ギリギリまで修行していたのにこんな時間まで起きているんだから。
俺たちは白み始めている空を見ながら、ボーっと温泉に浸かっている。源泉かけ流しっていうのはいつでも入れていいね。
「……今夜って、キアラさんから精力増強の魔法を受けてたのか?」
「……まぁ、うん」
今夜、最初に襲い掛かってきたのは美沙だった。晩御飯を終えてまったりしていたところで、目をハートにして俺を押し倒したのだ。
早い時間からスタートしたから、昨日よりは早めに終わったのはいいんだけど……。
「これ毎晩やると、さしもの俺も体力もたない気がする」
「まぁ、今度から全員が潰れるまでするのは止めて、回数を決めるべきだろうな。そうすれば、毎晩でも睡眠時間は確保できる」
回数を、ね。自分からガンガン来る冬子が言うと、ほんとに決めた回数で追われるのかどうか甚だ疑問だけど。
ただ――
「冬子が、結構積極的なのには驚くよ」
――この手のことは、もっと『破廉恥だ!』とか『慎みを持て!』とか言いそうなものなのに。そう思って俺が言うと、彼女は俺の肩に頭を乗せてきた。
俺はそんな彼女の額にキスをし、腰を抱き寄せる。
「そりゃ、積極的にもなる。ハシンさん? に、言われたんだろう? 二度も国難の中心人物になった、と。こんなにのんびりしていられるのは、今だけかもしれないからな」
目を閉じて、俺に体重を預ける冬子。
「私はお前が負けるとも、死ぬとも思わない。もちろん、私自身も。でも、だからと言って、こうして肌を合わせられるような時間は……常に取れるわけじゃないだろう」
星明りが、だんだんと淡くなる。空が近くなる。
「王都動乱ならぬ、今度はベガ動乱が起きるかもしれない。ふふ、そうなってしまえばこんなに愛し合えるとは限らないじゃないか。それなら……」
冬子が俺と目を合わせ、すっと瞼を下ろす。俺は彼女の唇に、自身のそれを重ね合わせた。十秒、二十秒……三十秒ほど経ったところで、お互い何も言わずにそっと離れる。
「ふふ、幸せだ」
「……俺も。好きだよ、冬子」
「私も」
胸焼けするような、甘い声。だけど湧き上がる情動に身を任せるには、少しだけ脳が冷静だ。
「たぶん、美沙も、ピアも、リューも、マリルも分かってる。だからこそ、今たくさん愛し合ってるんだ。限界まで、それこそ命懸けで」
「……そうだね」
どれだけ愛していても、どれだけ想っていても、物理的に引きはがされたらどうしようもない。それが分かっているからこそ、限界まで愛し合う。
彼女の言う通り、命懸けで。
「来年どころか、一週間後もどうなってるか分からない。それがこの世界だろう? それなら、一秒だって惜しいじゃないか」
そう言う彼女の目は、とても慈愛と情愛――そして覚悟に満ちていた。
この世界で愛し合うということを、俺よりもしっかり理解している冬子。自分が恥ずかしくなり――それ以上に、どうしても彼女が愛おしくなり、俺はついつい抱きしめてしまう。
「……おいおい、京助。もう一回戦するのか? 私も少しヒリヒリしてて、もうちょっと休みたいんだが」
「いや、今はなんかギュッとしてたいんだ」
この世界は、日本とは違う。簡単に日常が失われる。
そんな世界で、人を愛そうと思ったら――どれだけ早くても「早すぎる」なんてことはない。一秒でも早く最愛の人を見つけて、一秒でも早くお互いの気持ちを伝えあって、一秒でも早く愛し合わなくちゃいけないんだ。
……今なら、分かる。周りの人間はただ面白がって囃してたわけじゃない。本当に俺に後悔しないで欲しかったから言っていたんだと。
誰かに盗られていいのか、と。それは彼女らの心だけじゃなくて、命も。
世界に奪われる可能性があるのだから。
「冬子、愛してる。皆、愛してる」
一回でも多く、言おう。一回でも多く、伝えよう。
この気持ちを、心を。
どんな方法でもいいから。
それが、この世界で彼女たちを愛する覚悟。
日本じゃない、異世界にいる今だからこそ。
俺は抱きしめる手に力を込めて、冬子にキスをする。この気持ちの三分の一でもいいから伝わる様に。
「……もう一回戦、しないのか?」
唇を離したタイミングで、そんなことを言いだした冬子。
「へ? ……え、だってヒリヒリするって――」
「もう一回戦! ……しないのか?」
俺の言葉を遮り、壁ドンみたいに温泉の縁に俺を押し付けてくる冬子。その目は、なんというか思いっきり欲情してらっしゃる。
「「……………………」」
今日の修行は大変だろうな。他人事のように思った俺は……ひょっこりと顔を出した朝日に向かってスマイルを浮かべるのであった。
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「しっかし、えらく時間がかかったで御座るなぁ、ゴールインまで」
というわけで、翌日の午後。いつの間にか転移システムまで完成させていた志村が、俺たちに会いに来てくれた。
「何さ、文句でもあるの?」
「特に文句はないで御座るが、強いて言うならもげろ。もしくは爆発しろ」
俺にC4爆弾をセットしながら、そんなことを言う志村。
「爆ぜろリア充! 弾けろリア充! バニッシュメント・デス・リア充!」
「リズムよく俺を爆破しないで」
「いやぁ、だって前の世界にいる頃から『さっさとくっつけよ』って思っていたで御座るからな。そりゃあ感慨もひとしおで御座るよ」
「ヨホホ、トーコちゃんは……前の世界でもキョースケさんのことが好きだったんデスか? ちょっとその辺のことを詳しく聞きたいデス」
ふんすと鼻息荒くなるシュリー。俺はとりあえずC4爆弾を取り外し、ため息をついた。
「志村、言ったらぶっ飛ばすから」
「怖いから言わないでおくで御座る」
「それはそうと……こんな山奥に呼んで、一体どうしたんデス?」
シュリーの言う通り、俺たちは今……例のダンジョンがあった森の中に来ている。あのダンジョンの名前、早いところ決めないとね。
「ちょっとプレゼントがあってね。というわけで、志村お願い」
「へ?」
「じゃーんで御座るよ」
志村がそう言いながらアイテムボックスから取り出したのは――
「箒? デスか?」
――柄も穂も金属で出来ている、魔女の箒のような形状をした物体だった。
「イエスで御座る。しかもこれは、なんと『新造神器』を改良、改造したもので御座るよ!」
「ええ!?」
目を丸くして驚くシュリー。
「名前はまだ無いで御座るが……仮に名付けるとしたら……ニ○バス2000か、ファイ○ボルトで御座るかな」
「取りあえず速く飛べるのは分かった」
でも駄目です。
「冗談で御座るよ。あの程度のスピードと勘違いされたら困るで御座るからな」
「……ってか志村、あのシリーズ嫌いじゃなかったっけ」
「嫌いじゃないで御座るよ。評価してないだけで」
それを嫌いって言うんじゃなかろうか。
「ま、『セントエルモ・ブレイズ』……なんてどうで御座るか?」
「なんだっけそれ」
どっかで聞いたことあるような、無いような。
「語感で決めたから、由来を聞くとがっかりするで御座るよ。というわけで『セントエルモ・ブレイズ』を進呈するで御座る」
そんな由来を聞くとガッカリするような名前をつけないで欲しいんだけど。
志村から手渡された『セントエルモ・ブレイズ』を、おっかなビックリ受け取るシュリー。
「ヨホホ……え、えっと……『新造神器』デスか……な、なんでワタシに?」
シュリーはややオロオロした雰囲気というか、ちょっと困惑した様子だ。俺は彼女の手からそれを取り、軽く持ち上げてみる。
「シュリーしかいないからだよ、これを扱えるのは」
「ほへ?」
俺の台詞の意味が分からないのか、口をひし形にして首をかしげるシュリー。俺はいったんそれをスルーして、志村の方を向いた。
「そうとう重いね、これ。……振り回すものじゃないでしょ」
「イエスで御座る。それは乗り物で御座るよ。ってか、京助殿から渡されたアレが大きすぎて、改造するとどうしてもこの大きさになってしまうんで御座る」
俺が志村に渡した『新造神器』はホップリィの使っていた物。身の丈もある巨大な杖だ。それが今は、箒になっている。
ホップリィは召喚したゴーレムに持たせていたが、シュリーにそんな魔法は使えない。それならば乗り物にしてしまえばいいってことか。
「で、でもワタシしかって……キョースケさんでもいいじゃないデスか」
そう言うシュリーに『セントエルモ・ブレイズ』を返す。彼女はそれを持って、普通の杖のように構えようとした。
――が。
「……乗り物、デスか」
「そう。俺は槍使いだから、それに乗りながら戦うわけにいかない。冬子とリャンは魔法師じゃ無いから、そもそもそれを扱えない。美沙は不器用だから、二属性以上の魔法は使い分けられないだろうし」
その点、シュリーの魔法構築力や、魔力操作ならば問題ない。キアラからもお墨付きだからね。
「ヨホホ……そ、そういうことでしたらデス。でも、これに跨って飛ぶんデスか?」
「その辺の解説もしっかりするで御座るよ~。万が一にも暴走する危険性は無いで御座るが、一応何かあるかもしれないで御座るから、京助殿も補佐をお願いするで御座るよ」
「了解」
「わ、分かったデス」
覚悟を決めた顔になるシュリーと、楽しそうな志村。
俺の心が狭いのだろうけど、自分の好きな人が他の男と喋っているのを見るのは……あまり気分が良いものじゃないなぁ。
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二人への説明が終わり――志村が『新井殿にもお届け物があるで御座る』と言ってそっちに向かったので、俺はシュリーの『新造神器』の練習に付き合っていた。
志村の改良、改造は流石の一言ではあるが……
「これは結構、練習がしんどそうだねぇ」
「ヨホホ、ちょっと休憩デス」
冬子とリャンは暫く修行だろうし、暫く俺は彼女の練習をサポートした方が良いかもしれない。
空を飛ぶ乗り物である以上、自由に飛べる俺がいないとマズいだろう。
「それにしても……あの、キョースケさん?」
「どうしたの?」
「い、いえ……その……ちょ、ちょっと恥ずかしいデス」
「そう?」
現在、俺はシュリーと箒を二人乗りしていた。彼女を背後から抱きしめ、色々と堪能しながら空中散歩だ。なかなか楽しい。
「誰も見てないよ」
「うう……そうなんデスけど、何なんでしょうデス。夜の方がもっと恥ずかしいことをしているのに、なんでこんなくらいで凄い恥ずかしくなるんでしょうデス」
でもちょっと嬉しそうに俺にそう言うシュリー。彼女の柔らかい体を抱きしめながら、俺はその髪に顔をうずめる。
「もふっ」
「……あ、汗臭いと思うデス。ちょっと離れて欲しいデス!」
「だめー」
あー、ほんと。自分は五股かけてるのに、ちょっと志村と話しただけで俺は嫉妬してるんだろう。
やっぱり、人を好きになるのって難しいな。
「うう……せ、せめて逆側というか、正面同士で抱き合いたいデス。降りますデスから」
「それだと、恥ずかしがって赤くなってるうなじを鑑賞出来ないじゃん」
「キョースケさんが、なんかエッチな人になってるデス! ……でも嫌いじゃないデス」
何を言い出してるんだかこの子は。
とはいえ、そろそろ休憩をはさんだ方が良いだろう。彼女にそう伝えて、俺たちはその辺の森の中に着地した。
それから飲み物とレジャーシートを取り出して、その上に座る。気分はちょっとしたピクニックだ。
まぁ、そろそろ日が傾いてきたのにピクニックもへったくれも無いけど。
「そういえばキョースケさん。……キョースケさんって、親御さんからは何て呼ばれていたデス?」
二人で活力煙を吸いながら、ふとシュリーがそんなことを言ってくる。俺はぷかっと煙を吐き出して、彼女の問いに答えた。
「京助って普通に呼ばれてたよ。おばあちゃんとかからは、京ちゃんって言われてたりしたかな」
「そう……デスか。うーむ、難しいデスね」
正座をしながら、腕を組むシュリー。外だからとんがり帽子をかぶったままだけど、たぶんその中で耳はぴょこぴょこ動いてるだろうな。
「……呼び方の話?」
「あ、バレたデスか? ヨホホ……まぁ、良い機会デスし」
「名前からとらないとダメなの? リャンとか、俺のことマスター呼びからダーリン呼びにチェンジしたけど」
そもそも、俺が呼んでいる彼女の名前も『師匠のリリリュリー』を略してシュリーだ。
「名前からとるのが一般的デスが、お互いが合意すれば特にどんなものでもいいはずデスよ。でも……ワタシは、出来れば名前の一部からとりたいデスねぇ。絶対に無くならない、両親からの愛の形デスから」
無くならない、愛の形。
……なるほど、ね。
俺は少しだけ考えてから……ちょっとシートの端っこに寄って、地面に自分の名前を書く。この世界で過ごしてすぐの時は、俺の書いた文字はこの世界の文字に変わるチートがあったようだけど、いつの間にかそれは消えていた。
だから今なら――俺の名前を、漢字で書ける。
「……この字は、清いって意味。こっちは田んぼ。この二つで清田って読む」
「……清田」
「そ。そしてこれが……なんて意味って言えば良いかな。都とか、大きい街とか? それで、こっちは助けるって意味。この二つで、京助って読む」
「……京助」
そして俺は、少し考えてから……京助の方をさらに分解する。
「こっちの文字は、何個か読み方があってね。キョウだけじゃなくて、ケイとも読むんだ。こっちはスケだけじゃなくて、ジョとも読む。……えーっと、なんか呼び方のヒントになった?」
俺はちょっと苦笑いしながら、彼女の方を見る。こちらの世界は表音文字なので、表意文字という概念がちょっと伝わりづらいかもしれない。
でも、獣人族は呼び方に拘る種族で……シュリーは更に、しっかり名前からとりたいと言っていた。俺から出来ることは、これくらいだ。
「……綺麗な文字デスね」
「うん、俺も気に入ってる」
十歳くらいの時の授業で、両親に自分の名前の由来を聞いてみようというものがあった。
その時に言われた由来は『大きな街でも助けられるくらい、凄い男になれ』ってことだったらしい。
(……王都救ったから、名前負けしない男にはなれたかな、俺は。ねぇ、父さん)
「ケイ……ジョ……ケイくん、ってどうデスか?」
俺が少し親のことを思い出してしんみりしていると、彼女がはにかみながらそう言った。俺は彼女と目を合わせて、笑みを返す。
「ん、いいよ」
「ヨホホ……ケイくん、大好きデス」
にへらっ、と顔を崩して、俺に抱き着いてくるシュリー。俺はそんな彼女の頭を撫でながら、額にキスをした。
親から貰った、消えない愛。
それを交換出来た気がして、凄い嬉しかった。
天川「そういえば、アル〇ァポリスの方で短期集中連載やるんだって?」
難波「なんか『電気椅子』でモンハンやる話らしい」
井川「ここで外のサイトの紹介をやっていいのか?」
京助「どうだろうね。というわけで『囚☆人☆無☆双~史上最悪のスキル「囚人」でモンスターだらけの世界を切り拓く~』が明日からスタートです。読んでね~」




