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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十二章 愛円喜煙なう
324/396

284話 雑魚寝なう

前回までのあらすじ!

京助「なんで更新時間が遅くなってるんですかねぇ」

冬子「更新時間が遅れてしまい申し訳ございませんでした!」

美沙「というわけで、新章始まるよー!」

リャン「前回は、ダンジョンをクリアしたところでしたね」

シュリー「ヨホホ、皆ズタボロですが、なんとか生還したデス」

マリル「そのせいでずっと出番無かったんですけどねー」

キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」

「……寝すぎ、た」


 ダンジョンをクリアしてから――二日後。

 俺は自室のベッド……では無く、お布団の上で目を覚ました。

 空き部屋にびっしりと敷かれた布団の上で、冬子、リャン、シュリー、マリル、美沙の五人が俺に引っ付いて寝ている。


「暑い……」


 アンタレスの気温が暫く上がる……って言ってたその弊害だろうか。クーラーを買った方がいいかもしれない。

 いや、流石に皆で寝るのは今日で最後だろうけど。


(動けないなぁ……)


 掛布団みたいになっている皆を起こすのも忍びない。しかもそもそも……こんな状態になったのは俺が発端なのだ。


『キ゛ョ゛ウ゛ク゛ン゛ふ゛し゛た゛っ゛た゛ん゛て゛す゛ね゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛!!!!!』


 キアラの転移で家に戻った時、取り敢えずマリルはとんでもないことになっていた。いつも着ているメイド服が涙でヤバいことになっており、しかも顔が真っ赤だった。


『ふ゛し゛て゛、ふ゛し゛て゛よ゛か゛っ゛た゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!!!!!』


 全部の言葉に濁点が付いてるんじゃないかってくらい、大泣きしていたマリル。どうも冬子たちとの通話が切れて以降、心配で心配でどうしようもなくなっていたんだそうだ。

 へとへとではあるものの、冬子たちがお風呂に入っている間にマリルを何とか宥めて、そしてお風呂も終えて寝るだけになったところで……俺は、つい呟いてしまったのだ。


『一人で寝るのか。……少し、寂しいな』


 本当に、本当に――もう本当に、言うつもりは無かった、それどころか直前に涼しい顔で『おやすみ』なんて言って笑っていたのだ。

 でも、つい言ってしまった。


『……な、何でも無い』


 俺は動揺をおくびにも出さず、笑顔も崩さず。そのまま速足で部屋に――戻ろうとしたのだが、超満面の笑みで俺の前に立ち塞がるマリルを突破することが出来なかった。


『ええ、ええ! 今日は一緒に寝ましょう、キョウ君!』


『既に空き部屋にお布団は敷いておきました』


『ヨホホ、最近だいぶ暑くなってきたデスし、掛布団は無しでも大丈夫デスね』


『おっぱい枕にする?』


『美沙は自分の部屋で寝ろ!』


 ……ってな具合に、あれよあれよという間に俺は皆と一緒に寝ることになってしまったのだ。

 誰が俺の隣になるかで喧嘩しだし、結局枕投げで決着をつけることになり、そして俺が優勝したので俺が両隣を選べというアホみたいな状況になってしまった。

 最終的にじゃんけんで決めて貰ったのだけど、今考えてみると何で俺まで枕投げに参加してたんだろうか。

 ……で、流石にダンジョン内で四日間も碌に寝ずに過ごしていたわけで。そこから三十時間も連続で寝てしまった。

 そこからは起きてるのか起きてないのか分からないグダグダと二度寝、三度寝を繰り返し……今朝のこの状況に至ったのだ。


「……流石に、そろそろ起きないとなぁ」


 ぼーんやりと天井を見上げながら、俺は呟く。皆を起こすのは忍びないが、そろそろ起きてくれないと腕の感覚が無くなってきた。


「何をしておるんぢゃ、二話連続でお主ら」


「メタいよキアラ」


 かちゃ、と静かに部屋に入ってくるキアラ。そして手には……お盆と、飲み物が人数分乗っている。


「お主ら、ずっと寝ておったから喉がカラカラぢゃろう。水を持ってきてやったぞ」


「……ありがと」


 言われて、喉がイガイガしていることに気づいた。冷静に考えてみれば、一日以上飲まず食わずだったわけか。

 俺は風でコップを操り自分の手元に引き寄せ、中の水だけ抜き取って水魔法で操って喉に流し込んだ。


「起き上がるのが面倒ぢゃとしても、そんな器用な真似をして飲まんでも良かろうに」


「やった後、こっちの方が面倒だったって思ったよ」


「で、また妾は同じことを言わねばならんのかのぅ。『寝汗をかいたぢゃろうに、そのままでいられる根性が分からぬ』」


 呪文を唱えるように言ったキアラだが……俺の上ではマリルだけがピクリと反応した。どうやら彼女はもう起きてるらしい。


「マリル、おはよ」


「……おはようございますー、キョウ君。早速悪いんですけど、シャワー浴びてきますねー」


「ん、行ってらっしゃい」


 マリルはふらふらと立ち上がり、キアラから水を一杯貰って部屋から出て行った。そして俺の上で寝続ける残り四人。


「なんぢゃ、そ奴らはまだ本当に寝ておるのか」


「そうみたい。……まぁ、疲れたんでしょ」


「仕方ないかのぅ。妾とてかなり長時間寝てしもうたからのぅ」


 キアラが長時間寝るなんて……いや、普段からぐうたらしてるから、長時間寝てること自体はそんなに珍しくは無いか。


「しかしどんな気分ぢゃ? 美女布団は」


 昔、バ〇殿様でそんなんあったねぇ。我が家の美女たちの方が圧倒的に可愛いけど。


「……取りあえず、寂しくは無いかな」


 言って、物凄い自己嫌悪に襲われる。なんでそんなことを言ってしまうかな、俺は。

 一人で寝るのが寂しいとか、殆ど幼稚園児じゃ無いか。たった四日間、皆と会えなかったくらいで寂しいとか。

 本当に……本当に。


「……きょうすけぇ」


 寝ぼけているのか、ギュッと俺の服を掴む冬子。そういえば昔、これを指一本一本引っぺがそうとしたら、ピクリとも動かなかったんだよね。

 実は未だに魔力とか補助を一切抜きにしたら、ステータス差なのか冬子に腕相撲勝てないんだよな。もっと筋トレ増やすべきか。


「お主もハーレム王の快楽を楽しむのは良いが、ほどほどにしておくんぢゃぞ。今日はベガのギルドにダンジョンクリアの報告、そしてグレイプのところに行くんぢゃろうが」


「あー……そうだった」


 それにボスドロップも、道中で拾った宝箱も開けていない。

 ダンジョンクリアしてもやることは山積みだ。


「というわけで、ぢゃ。起こすぞ」


「へ?」


 キアラがそう言って指をパチンと鳴らす。すると次の瞬間、俺たちはぶわっと部屋の中を舞……そして床に叩きつけられた。


「「「「うきゅう!」」」


 四人とも、可愛らしい悲鳴をあげながら布団の上に叩きつけられる。俺は一応受け身を取り、くるんと回転してから立ち上がった。


「んあー……」


 思いっきり伸びをすると、腕のしびれが抜けていく。


「おはよ」


「……ああ、おはよう、きょうすけ。そうか、あさか……」


 冬子はまだぼんやりとしているようだ。一方で朝に強いリャンは既に結構しっかりと目覚めている。


「おはようございます、マスター。……マリルさんの姿が見えませんが、もう朝ご飯を作りに行かれたんでしょうか」


「寝汗かいたからってシャワー浴びてるよ」


 シュリーと美沙は冬子程じゃないけどボーっとしている。

 やっぱりダンジョンで皆、神経をすり減らしたんだろうな。


「……俺、ちょっと散歩してくるよ」


 うんと体を伸ばすと、バキバキと体が鳴る。流石にこれだけ寝ると体が鈍るね。


「お供します」


「……ワタシは、お風呂に入ってから朝ご飯の用意を手伝うデス……」


「私も……お風呂入ってから、お部屋の掃除しよ」


 確かにだいぶ家に帰って無かったからね。今日からまたベガに行って暫くは家に帰ってこないし……俺も後でした方がいいかもしれない。

 いまだにボーっとしている冬子を揺すってみると、彼女はなんか幸せそうな顔で笑い出した。


「……きょうすけ」


「どうしたの?」


「もう、さみしくないか?」


 ……………………。

 何故か皆の視線が俺に集中する。いや、何故かじゃ無いか。今回は完全に俺の我がままでこの雑魚寝スタイルになったんだから。

 俺はそっと彼女の頬に触れ、なるべく穏やかの笑顔を浮かべて――ゆっくり、頷いた。


「うん。もう寂しくないよ」


「……なら、良かった」


 冬子はにへらーっと、嬉しそうに笑うと……パタン、とその場に倒れこんでもう一度眠ってしまった。

 ……二度寝するなら、もうちょっとそっとしておこう。


「普段はここまで朝に弱くないはずだけど」


「我々の中で一番、身体を張ってくださりましたからね。お疲れだったのでしょう」


 それもそうだね。

 俺は彼女にそっとお布団をかけてあげ、もう一度伸びをする。


「あー……活力煙吸ってから散歩行こうか」


「ええ」


 あくび。

 暢気にこうしてあくびが出来るような空間。

 ずっとこうなら良いんだけどなぁ。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「うー……なんで起こさなかったんだ京助!」


「いや起こしたけど、起きなかったんじゃん」


 さて、朝ご飯を終えて――俺たちは再びベガに戻ってきていた。部屋の掃除や、旅支度をしっかりした上で。


「別に特に急いでいるわけじゃ無いし、いいでしょ。アポがあるわけでも無いし――そもそも、これは旅行だし」


 ギルドに報告、そしてグレイプに報告が終わってしまえば――後は俺達を縛るものなど何もない。せっかくの温泉地だ、楽しまないと損だろう。


「ギルド側もこれくらいの時間がありがたいと思いますよー。もう一時間か二時間早いと、クエストを受けるAGでごった返しますし……あと二時間か三時間もすればお昼ご飯のAGでギルドは埋まりますからねー」


 なるほど。言われてみれば確かに、ギルドってそれくらいの時間が一番混んでいるような気がする。

 お昼の時間に仮になっちゃったら、ピーク時間が過ぎるまではまた向こうも忙しいだろうし、丁度いい時間に来たのかもしれない。


「マスター、今回は正門から入らないのですか?」


「うん。だって俺ら、ちゃんと門から出る手続きしてないし」


 入る時はちゃんと手続きしたけれど、今回はキアラの転移で直接家に戻り、そしてまたベガに来たからね。

 なんでそんなことをしたんだ――とか聞かれると面倒だし、今回はスルーだ。


「ヨホホ……だからと言って上空で待機はちょっとアホだと思うデス」


 ――そう言って、ちょっと震えるシュリー。現在、俺たちは『筋斗雲』に乗ってベガの上空でふわふわと漂っている。

 全員を普通に浮遊させてもいいけど、魔力を食うし……この『筋斗雲』は作り慣れてきて、最初の頃に比べたらだいぶ魔力を節約できるようになったしね。


「いや、そもそも高いところがあまり好きじゃないのデスよ……」


 そう言ったシュリーが俺に捕まりながら、そっと下を覗き込んでいる。そして怖くなったのか、そそくさと目を逸らしてから俺の腕をギュッと掴んだ。

 怖いなら見なきゃいいのに、ガラスの床と同じ感覚なんだろうか。


「それにしても、やっぱり高いねー、あの山」


 ヘルセ山を見ながら、美沙が笑う。俺達が出て来たのはあの山の山頂付近。雲の上だったのだから、確かに高かった。


「しかし活火山なのにダンジョンになってるとはこれ如何にって感じだね。マグマとか出てくるかと思った」


「あの山全部がダンジョンというわけでも無いのぢゃろう。随分と大きい山ぢゃし、その一部があのダンジョンぢゃったと考えるべきぢゃ」


 キアラの指摘に、そういえばそうかと思い直す。

 俺は一つ頷いてから、皆のことを見渡した。


「じゃ、今からギルドに報告しに行こうか。それが終ったら俺はグレイプの方にアポ取りに行くから、その間に冬子たちはチェックインしといて」


 今回はタローが紹介してくれた宿に泊まることは決めている。そして皆で観光してのんびりするのだ。

 途中で宿は変えるかもしれないけど、彼からの紹介状があるから一件目は確実に泊れるだろう。


「どうせティアールの息がかかってる宿もあるだろうしね。こういう時に不動産王の知り合いがいると便利だよ」


「あれほどの商会長を、便利なホテル検索くらいにしか思っていないのは、お前だけだろうな京助」


 ティアールって今や不動産業じゃ三本の指に入る程の商人みたいだしねぇ。

 俺はそんなことを考えながら……一応、マリルが取ってくれていたメモに目を通している。


「にしても、本当に厄介なダンジョンだったなぁ」


 改めてそう思う。

 分断に特化したダンジョン。全てのギミックが誰かと協力すればクリアできるというのに、その協力を阻害するための物がこれでもかと詰め込まれている。

 幸い――俺はキアラと、冬子たちは四人で合流出来たからボスまで行けたけど、普通なら二日目くらいで限界が来る。

 何せ真っ暗で何も見えない中、透明なダンジョンモンスターがわんさかとやってくる。真っ暗なのに壁は生きているかのようにこちらの行く手を塞いでくる。


(……よく生きてたもんだ)


 冬子、リャン、シュリー、美沙の顔を見る。皆、一回り大きくなったというか……特に冬子は表情に自信がみなぎるようになっている。


「男子三日会わざればなんとやらって言うけど、俺は三日どころか一年で殆ど変わって無いなぁ」


 小さくそう呟いてから、俺は活力煙を咥える。さて、そろそろ降りてギルドに報告しに行かないとね。


「京助、私にも一本」


「あー! 私も私も!」


「あ、じゃあワタシも欲しいデス」


 三人とも俺に手を差し出すので、一本ずつ彼女らの手の上に乗せていく。大量に箱買いしてるから別に良いんだけど、そんなに吸いたいなら自分で買えばいいのに。


「活力煙が吸いたいというよりも、お主と吸いたいんぢゃろ」


 キアラがそう言いながら、煙管に火を入れる。俺はそれを横目で見ながら、自分の活力煙に火をつけた。


「甘くて美味しいから、もっと流行るといいのにな。……さて、それじゃあそろそろ行こうか」


 キアラの方を見てそう言うと、彼女は一つ頷いてからパチンと指を鳴らした。そしてフッと景色が切り替わる。相変わらず、滑らかに転移させてくれるね。

 唐突に現れた俺たちに、周囲の人がギョッとした表情でこちらの方を見ているけど、まぁ気にする必要も無いか。


「さて」


 俺は活力煙の煙を吸い込みながら、ベガのギルドの扉を開けた。

 ベガのギルドはアンタレスよりも規模が大きいので、お昼前でもそれなりに人はいるが……平日の夢の国くらいの混雑だ。


「そこそこ人がいるな」


「そうだねー」


 そのまま受付に――と思っていると、何やら見覚えのあるオールバックの男が現れた。冬子になんか絡んでたやつだ。

 そいつらは俺たちを見ると……まるで幽霊でも見るような目で、ポカンと口を開けた。


「お、お前ら……あのダンジョンから、帰って来たのか?」


 視線の先は、俺では無く冬子。関わり合いがあるのは彼女だし――と思って俺は一歩下がる。


「久々だな、オルバク。……死んでたらここにはいないだろう、そんなに不思議か?」


「いや……だっておめぇ、あのダンジョンって戦闘力が高きゃどうにかなるもんじゃねえだろ。それをお前……生きて帰るなんて」


「そんなに意外か? 心外だな」


 冗談めかして笑う冬子だが、オルバクはそんな彼女に苦笑とも呆れともつかない表情を浮かべた。


「戦闘力でどうにか出来るようなダンジョンなら、とっくのとうにクリアされてるはずだ。だが、クリアどころか誰も帰ってきてすらいねぇ。Sランカーの前で言うのもアレだが、AランクAGってのは強いんだ。Sランクダンジョンからでも、帰って来れるくらいには」


 チラッと俺を見るオルバク。別にAランカーが弱いだなんて思って無いんだけどな。


「……それなのに一人も帰ってこない。それがあのダンジョンだったんだ。転移丸薬もあるっていうのに、帰ってこれない底なし沼。それがあのダンジョンだった。なのに帰ってくるなんてよ……」


 ベガで恐らく長く活動しているであろうオルバクがここまで言うほどなのか。


「出来れば入る前にこれくらいの勢いで忠告して欲しかったがな」


 冬子がそう言って肩をすくめる。言われても俺たちが行動を改めたかどうかは分からないが、終わった後に言われても……という想いはある。

 しかしオルバクは笑い、首を振った。


「挑戦するのは個々人の自由だし、『何が』、『どうして』、あのダンジョンがヤバいのか説明できないからな。『誰も帰っていない』っていう事実しか知らねぇ、それを相手も知ってる。なら、必要以上に脅かすのは馬鹿のやることだろ」


 うーん、なんでこんなチンピラみたいな見た目してるのに、冷静な判断と言葉が出てくるんだろう。流石はベテランのAランカーと言うべきか。


「ま、何にせよ生きて帰ってこれたんなら、あのダンジョンで何が起きたか分かったんだろ!? そしたら、次はダンジョンアタックのプロが対策を立てられる! マジでスゲェよ! これであのダンジョンのクリアも早まったな!」


 嬉しそうに言うオルバクだが――冬子は少しだけ頬を上げると、肩をすくめた。


「早まるも何も、私たちは今日――ダンジョンを踏破した報告に来たんだ」


 ざわっ、と。

 冬子が何気なく言ったそのセリフで、周囲の空気がいきなり変わった。

 オルバクも目の色を変え、真剣なまなざしになる。


「……マジか?」


「嘘をついてどうなる」


「マジかよ……」


 顎が外れるんじゃないかってくらい口をあけるオルバク。数秒、黙っていただろうか。ジッと冬子のことを見て……納得したような、諦めたような顔になって首を振る。


「スゲーよ、オメーら。やっぱりSランカーってのは何か違うんだな」


 チラッと俺を見るオルバク――だが、それだけは否定しておくために冬子の隣に立つ。


「言っておくけど、俺だけの力じゃないよ。……冬子たち、皆のおかげだ」


「……そうか」


 オルバクは冬子だけでなく、俺たち皆の顔を見る。そして――フッと笑った。


「そういえば、オメーとは落とし前をつけるって言ってたな」


「ん? ああ、今からやるか?」


 冬子はポンと刀を叩き、少しだけ獰猛に笑う。しかしオルバクは首を振って、指を一本立てた。


「AGがやっちゃいけねぇことは二つある。一つは舐められること」


 そして二本目の指を立て、ニヤリと笑った。


「もう一つは、舐められてもしゃあねえくらいの格上と戦うことだ」


 そう言って懐から――ナイフ、いや鉄串を取り出した。その中部分には彼の名前が彫られている。


「改めて名乗るぜ。オレはAランクAGのオルバク。こいつはお近づきの証だ」


「……トーコ・サノ。AランクAGだ。女物で悪いがコレを」


 そう言って、親指くらいの大きさの小瓶を渡す冬子。中身は香水だ。彼女もAGだから俺たちのように名刺代わりの小物を持っているが……今回は、ちゃんと銘入りの物を渡したらしい。


「香水か。……これを付けて行けば娼館でモテるか?」


「しょうっ……!? あ、いや、うん。どうだろうな、少なくとも男性よりは女性の方が好む香りではあると思う」


「そうか。……この街に暫くいるなら、どこかで飯でも行こうぜ」


「ああ。その時は、うちのチームメンバーを改めて紹介するよ」


 最後に……ガシッ、とお互い左手で握手をして、オルバクは自分たちのチームメイトのところへ戻っていった。


「ギリギリ顔色を変えんだったのぅ、動揺はしておったが」


「……それじゃ、報告に行こうか」


「ああ」


『頂点超克のリベレイターズ』の冬子では無く。

 一人のAランクAG、トーコ・サノとして友誼を結ぶ。

 嬉しい意味で、複雑な心境だ。

難波「羨ましい……美人布団……」

ユラシル「マサト、私じゃ不満なの?」

難波「いやそういうわけじゃ……」

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