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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十一章 先へ、なう
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278話 ステップなう

前回までのあらすじ!

冬子「私たちの絆が深まったぞ!」

美沙「しかも冬子ちゃんが絶対ハーレム宣言してたね」

リャン「なんですか絶対ハーレム宣言って」

マリル「でも男らしかったですねー、トーコちゃん」

リュー「ヨホホ、それでは本編をどうぞデス」

 俺の膝の上でキアラが寝息を立てている。休憩に入って、かれこれ二時間半は経っただろうか。


『キョースケ、顔色悪いゼェ?』


「……大丈夫」


 だいたい、百層は登ってきた。どれほどの深さかは分からないが、そろそろ地上が見えてきてくれてもいい頃じゃなかろうか。

 息を吸って、吐く。

 体力は残っている。魔力も残ってる。

 精神的には……だいぶ摩耗しているが。


「キアラがいてくれてなきゃ、無理だったね」


『マァ、序盤でぶっ倒れてたかもナァ!』


 自分でもそう思う。


「……ふぅ」


 焦りはだいぶマシになったか。

 しかしそれ故に――余計なことを考えてしまう。

 喋っている時や、戦闘している時はいいが……それ以外の時は、思考がループしてしまう。

 怒りを向けられれば、どれほど良かっただろう。

 しかし無力感と自責の念、不安と心配が脳内でぐるぐる回る。

 あの時、なんで降りた。

 あの時、なんで進んだ。

 そもそも、なんで受けた。

 俺は、俺は――


「……皆、俺に愛想尽かすかな」


 口に出してから、強烈な罪悪感に駆られる。

 彼女らの命を心配しなくちゃいけないのに、彼女らの無事を願わなければならないのに。何故俺は、そんなくだらないことを考えているのか。


「こんな無様なリーダーじゃ……皆、俺と一緒についてきてくれない」


 さらに罪悪感が増す。

 そんなことを考えている場合じゃ無いだろう。彼女らは今まさに、命の危機に晒されているのだから。

 誰かと合流出来ていなかったら、こんな風に休憩することも出来ないのに。


『カカカッ、安心シロ。トーコたちも死んジャネェヨ』


「簡単に、言うね」


『説明シニクイケドヨォ、分かるンダ。身近な人間が死んだカドウカ。……信じるも信じないも勝手ダガヨォ。心が折れないヨウニスルノハ大切ダゼ』


「……そう、だね」


 ヨハネスの言う通りだ。

 俺が折れてちゃどうしようもない。

 でも、それでも……思ってしまう。


「俺が皆を守らないといけないのに……」


 リーダーなんだから。

 そのためには、もっと強くならなくちゃいけない。

 俺が皆を守るんだから。

 皆を守れないんじゃ、俺がリーダーである必要が無い。皆にとっての俺の価値も無くなってしまう。

 皆は、今、俺のことが好きかもしれない。

 でもそれは……この世界で、SランクAGで、皆を救った、お金持ちの、キョースケ・キヨタだからだ。

 俺のチートは俺の物で、今までやってきたことは……結果的に、俺の誇るべきことで、自信に出来ることかもしれない。

 皆を助けられた、その事実は誇るべきことかもしれない。

 でも、でも。

 皆が俺と一緒にいてくれるのは、俺が強いからだ。

 俺が皆を守れるからだ。

 それなのに、それなのに。


「嫌だ……」


 口が動く。

 皆が死ぬのは嫌だ。

 皆を失うのは嫌だ。

 皆を喪うのは嫌だ。

 でも、でも。


「嫌だ……皆と、一緒にいれないのは、嫌だ……!」


 ――この感情は。

 たぶん『愛』とか『恋』みたいな、綺麗な感情じゃない。

 もっとどす黒くて、醜悪で、気持ち悪い。

 それはきっと『独占欲』。

 皆は物じゃない。

 でも俺は、皆を俺の物にしたいと思っている。

 気持ちが悪い。

 気持ちが悪い。

 でも、でも。

 皆と一緒にいたい。

 皆を失いたくない、放したくない、離れたくない。


「美沙は、結果が一緒なら、って言ってたけど」


 でも、でも。

 やっぱり俺のこれは気持ちが悪い。

 だってそうだろう。

 俺が彼女たちのために何をしてやれた。

 一度、そう、たった一度命を救ったくらいのものだ。

 冬子に対してなんて、塔でちょっと助けてあげただけ。美沙の命を救ったのは、空美で俺じゃない。

 それなのに、美沙は俺に見てもらうために、あれほどの実力を蓄えたと言っていた。

 俺は皆に何をしてやった。

 俺が皆に何をしてやれる。

 守るしか、無いだろう。

 力しか無いだろう。

 だって、それが彼女らを救うために使った物なんだから。

 ――であれば逆に。

 俺が守れなくなれば。

 俺が守れないような男なら。

 皆は、俺のことなんて。


「嫌だよ……」


 生きていてくれたら。

 そう、願わなくちゃいけないのに。

 皆のためを想うのなら、そう願わなくちゃならないのに。それだけを願わなくちゃいけないのに。

 俺は思考を止められない。

 嫌だ、一緒にいて欲しい。

 守る、次こそはちゃんと守る。

 絶対に、皆を放さない。

 だから、だから。


「だから……一緒に、俺の側から、だから」


 皆がいない人生なんて――


『阿呆』


 ――ヨハネスの声が、静かに辺りに響いた。


「……何さ」


『オメー、何か勘違いシテネェカァ?』


「何を」


『オメー、自分がコノチームに必要無いッテ? 何言ってんだ。必要ネーノハ、トーコたちダローガヨォ』


「――は?」


 俺は槍を握り、ヨハネスを睨みつける。


「ヨハネス、いくらなんでも言っていいことと悪いことがあるよ」


 へし折らん勢いで槍に力を籠めるが――ヨハネスはいつもの通り、飄々とした雰囲気のままだ。


『事実ダロォ? オメーが出来ねェコトナンザ、精々回復魔法クライダロォ? ナンデ、チームを組む必要がアンダァ?』


「……バカバカしい。俺は罠や野営のスキルや知識に乏しいし、会計なんてからっきし。いくら無限魔力でも補助とデバフと攻撃と、全部出来るわけじゃない。誰か一人でも欠けたら、俺は」


『ンナモン覚えリャ良い。オメーはマダ18ダ。『知れ』バ、問題ネェ。連携? 補助? デバフ? オイオイ、アンナ小娘の方がオレ様ヨリ強い魔法師ダト思ってンノカァ?』


 嗤うヨハネス。


「でも各々がスペシャリストとして特化していけば、全部手広くやるよりも」


『都度雇え。プロを雇う金はアルンダカラヨォ。……チゲェカァ?』


 ヨハネスは言葉を切ると、大きなため息をついた。


『阿呆ナンダヨ、オメーは。考え方が間違ってンダ。『知れ』バ、何でも出来る。今のオメーがチームを組む『理由』に『戦力』とか『役割』とかイラネェ。ダッテソーダロォ? 自分の身を自分で守れネーヨウナ足手纏いを連れ歩くナンザ、アクセサリーと一緒ダ』


「ヨハネス!」


 俺が叫び、立ち上がろうとしたところで――ヨハネスの呆れたような声が飛んでくる。


『オメーが言ってるノハソウイウコトダッテ言ってんダヨ。キアラは自分で気づかセテーミテーダガ……マ、別にイイダロ』


 膝の上にいたキアラがゴン! と音を立てて地面に落下した。慌てて抱き起すが……良かった、まだ寝てる。

 よほど疲れているんだろう。

 俺はヨハネスを目の前に突き立て、ギラッと睨みつけた。


「どういうこと?」


『オメーは『皆を守る』ッテ『役目』の自分が『守れない』ナラ、チームに要らない。ソウ言ってルンダ。……マリルが計算出来なくナッタラ、オメーは見捨てるノカァ? ダッテソウダロ? アイツの価値は計算能力、家事能力なワケで――』


「あり得ない」


 間髪入れず答える。確かに彼女の会計能力や家事能力を頼りにしている――どころか、頼り切りになっている。それ以外にも元ギルド職員としてのコネとか、年長者としての判断も頼りにしている。

 でも、それは彼女と共にいる理由じゃない。

 いや――それだけ(・・)が、彼女と共にいる理由じゃないと言うべきか。


「マリルの能力を買ってるのは確かだけど、彼女の価値はそれだけじゃないし――そもそも、誰かと一緒にいたいっていうのに、価値だの利害だのなんて、そんな冷たい人間じゃないよ俺は…………あれ?」


 数秒、黙る。

 自分で言ったことを思い出す。


「…………あれ?」


『ソウダロ? ソウイウコトダヨ』


 一言、一瞬で論破された。

 あまりに一瞬で論破されたせいで、論破されたことに気づいてなかった。


『阿呆ダロ』


「……うん」


 ここでもし『そんな、皆も一緒か分からない』って言ってしまえば……皆を『冷たい人間』と断じることになる。

 それは、出来ない。

 それなら……俺は自分の意見をひっこめるしかない。

 ぐうの音も出ず――俺の視線は、いつの間にかヨハネスではなく、天井に行っていた。


『ベガの領主ニモ言われてたジャネェカ。相手の気持ちに応えルコトガ誠実ダッテヨォ。オメーに取って、チームメイトの価値が『本人の実力』ダケジャネェヨウニ、オメーのチームメイトもソウ思ってルヨ』


 チームとしての『役割』と、お互いを繋ぎとめている物は一緒だが全てじゃない。自分でそう言ってしまった以上、俺はもう何も言い返せない。


「……でも、さ」


『ンダヨ』


「なんていうかさ……だからって言って、『それでも皆は、俺と一緒にいてくれるよね!』って思うの、恥ずかしくない……?」


『イヤ知らネェヨ』


「うう……」


 俺は天井に向けていた顔を、一気に地面の方へ。


「活力煙吸わないと……」


 活力煙を咥え、火をつける。


「……でもやっぱり、チームの中で役割欲しくない?」


『デモオメー、皆を守るッテ……タンクじゃネェダロ』


 …………。

 まあ……『チームの役割』として『皆を守る』だと、確かにタンクになるのか。


『ソウイウ意味ジャ無くて守るッテンナラ、ドウスルンダヨソモソモ。ズット皆を見張って何か危険なコトがアッタラ駆けツケルノカ?』


 …………。

 ああ、そうか。

 守る、を突き詰めると……そうやって、常に俺が皆を見ている必要があるのか。


『お互いが責任を持って仕事をヤリ遂げる。ソレがチームだゼェ? 常に全力で守りナガラッテ、マジでチーム組む意味ネェぞ』


 …………まぁ、うん。

 そうか、突き詰めるとそうなるのか。

 …………。

 …………。


「あれ? もしかして俺、滅茶苦茶的外れなことしてた?」


『リーダートシテ、頼りにナラナイト思わレルカモシレナイ……は、分かるケドヨォ。ジャア、『知れ』バイイダロ。勉強ダゼェ? 下がった評価は、成長シテ上げる。人間関係ッテ、ソレの繰り返しダゼェ?』


 …………。

 まさか、悪魔に人間関係を教わる日が来るとは……。


『ンジャ、お節介ツイデダ。……イイカ、物事ニハ『ステップ』ってモンがアル。コレを間違えた時に大問題が起きるんだ。ドンナコトデモナァ』


「『ステップ』?」


『アア。『ステップ』だ。仕事も人間関係も。コノ『ステップ』を見誤ると失敗スルンダ。好感度1の相手と10の相手がイタとスル。10の相手に1のステップから始めタラ、失敗ハネェダロ? チャント次を2にスレバ。デモ1の相手にイキナリ10で行ったら嫌わレル。ソウイウコトダ』


 ステップ、要するに段取りか。


『アア。現実に必要な『ステップ』と、実際に踏んだ『ステップ』に乖離が大きければ大きいホド、問題は大きくナル。デモ、踏むべき『ステップ』を踏んでリャ、失敗シテモ問題ネェ』


 踏むべき『ステップ』を踏んでいれば、失敗しても問題ない。

 そんなわけ……


『何故か? 踏むべき『ステップ』を踏んでイレバ、コレ以上進めネェッテタイミングが来るカラナァ』


 進めない、時か。


『アア。オメーはソモソモ――嫁との関係でマダ『ステップ』を踏んでネェ。リーダートシテ言えば、今回はダンジョンに挑むに当たッテシッカリ準備シテ『ステップ』を踏ンデタガナァ』


 ……なるほど。

 つまり――人間関係は置いておいて、リーダーとしては今回、間違って無かったと。

 俺はヨハネスの言葉を再度反芻する。


「…………じゃあ、俺が、皆とまた会った時、どうすればいいのかな」


『泣いて喜べ。文句言われタラ、ソコデ改めて考えロ。安心シロ、オメーの嫁はオメーの味方ダ。皆、イイ女ダ。……ソウダロォ? オメーは自分に自信はネーカモシレネェガ、嫁のコトは信じてヤレヨ。取りあえず生きて、ソノ後色々考えロヨ』


 ……そうだね。

 俺はくしゃっと髪の毛を掴み、ふと気になって鏡を取り出す。松明に近づけて自分の顔を見てみると……土気色の死人がそこに映っていた。


「……顔洗って、なんか食べよ」


『カカカッ、イージャネェカ』


 活力煙の煙を吸い込み、吐き出した。


「ふぅ……」


『ステップ』。

 もっと、意識すべきなんだろうな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「起きて」


「うむ? ……ふむ、おはよう、キョースケ」


「おはよ」


「顔色が悪いぞ。もう少し休むかのぅ」


「キアラがずっと乗ってるから、足がちょっと痺れただけ」


 キアラは俺の足をさすり、よしよしと頭を撫でてくる。振り払うのも面倒で為すがままにさせていると、彼女が軽く回復魔法をかけてくれた。


「無理しすぎぢゃ」


「キアラだって俺と同じ時間しか休んでないでしょ。条件は一緒だよ」


「阿呆。妾とお主では精神的な負荷がまるで違うんぢゃ。……まぁ、足はしっかりしておる、目も死んでおらん。行くかのぅ」


 こくんと頷く。

 上層へ行く階段はもう見つけてある。それを登って、次のフロアの壁を燃やし尽くせば、また敵が出てくる。そしてそれを蹴散らす。

 大丈夫、俺は一歩ずつ進んでいる。大丈夫、大丈夫――


「だいぶ、敵が増えたね」


「うむ。一層登るごとに一体から二体は増えておるようぢゃな」


「……ああ、言われてみれば」


 俺とキアラは敵を倒した数で勝負している。だいたいは俺が六割ほど倒して勝っているのだが……。

 このフロアは俺が五十八、キアラが四十二だったね。併せて百か。

 百――キリの良い数字だ。

 そう思うと、不意に緊張感がせりあがってきた。


「活力煙、吸っていい?」


「うむ」


 活力煙を咥え、大きく煙を吸い込む。洞窟内に溶けていく紫煙は、暗いのにハッキリ見えるのは何故だろう。

 俺は活力煙を咥えたまま、歩き出す。


「じゃあ、登ろうか」


「そうぢゃな」


 目の前にある上層へ向かう階段に足をかける。いつも通りカツンカツンと大理石の階段を上ると……


「灯り?」


 ――天井一面に、一層と同じ光る石が埋められた、広い空間に放り出された。

 いや……広い、なんてモノじゃない。


「地平線……?」


 そう、地平線。

 どこまでもこの空間が広がっているのだ。さっきまでのダンジョンの広さとは比べ物にならない。

 まるで俺だけ別の場所に転移させられたかのような――


「ふむ、実際の広さはそうでも無いのぅ。幻覚、幻術……『魔視』を使ってみよ」


 ――冷静な、キアラの声。彼女の言うまま、魔力を『視』る目に変えると……ぼんやりと、魔法が広がっているのが見えた。

 そこの魔力の流れを確認して、より分けていくと……一本の廊下が見えてくる。壁があった階層に比べると広いが、せいぜい三車線道路くらいか。


「……進もう」


「そうぢゃな」


 一本道になっている。

 俺はキアラと共に歩き出し、そして……


「これは……ボスの間?」


「そうぢゃな。そして真ん中に鎮座しておる、アレがダンジョンボスか」


 真ん中に――キアラに促されてそちらを見ると、そこには巨大な天使が立っていた。水晶で出来た肉体に、人骨が張り付いている。骨の鎧のようだ。

 あまりに禍々しく、醜悪な見た目。天使とは言ったが……人型の体に羽が付いてるからそう言ったまでであり、まず間違いなく死神の類だろう。

 キラキラと光りを反射し、がらんどうの眼孔がこちらを睨む。

 ビリビリと痺れる魔力量、そして感じる『圧』。俺達を見て身体を揺するが、その動き一つで周囲の空気が炎のように揺らめいた。

 明らかにAランクじゃない。かといってソードスコルパイダーほどの圧力を感じるわけでは無い。

 ダンジョンモンスターは魔物じゃない――そう考えると、なかなか戦力分析が難しい。

 だが、そんなことよりも……今、やっと目の前に出てきた明確な『目標』であり『敵』。そのことが俺の心を荒ぶらせる。


「キアラ、サポートお願い」


 轟! 俺の周囲に魔力が荒ぶる。魔力が勝手に炎になり、それを風があおり、水が弾けて空へ溶けていく。

 アレを倒せば――全部終わる。このダンジョンの罠を止められる、そしたらすぐに皆を探しにける。

 何百層あろうが関係ない。壁も敵もいないダンジョンを降りるなんて――自由落下と変わらない。


「サポートは良いが、『エクストリーム・エンチャント』は使うでないぞ」


「了解。『エクストリーム……』」


「阿呆」


 ぺしっ、と鼻っ面を叩かれる。俺はニヤッと笑ってから、肩をすくめた。


「ジョークだよ」


「そんなくだらんこと言えるなら――焦りは無いようぢゃな。良いことぢゃ」


 クスクスと笑うキアラ。彼女は煙管を咥えてから、煙を吐いた。


「それ、さっさと倒すぞ」


「オーライ」


 俺は苦笑しつつ、槍をひゅんと回した。


「『ステップ』……ってことなら、いつも通り名前を付けるところからかなぁ」


 強敵と戦う時、いつも俺はそこからスタートする。

 敵を明確化し、容姿から連想される特徴で敵がどう動くかを予想する軸を作る。

 それが基本。最初の『ステップ』。


(皆が、もし――)


 最悪の未来がふと脳をよぎり、俺は首を振ってその考えを追い出した。

 今は、思考を止めていい。

 今やるべきことは、考えることじゃ無い。

 目の前の敵を倒すことだ。


「じゃあ……スケルトンスカルエンジェル……長いな。スカルトンエンジェルで」


「なんぢゃその妙な語感は」


 変かな。

 俺は活力煙の煙を吸い込み、地面に叩きつける。


「さて、倒すか。――『魔昇華』!」


 コーン……。

 木と木を打ち合わせた時のような音が鳴り、荒ぶる俺の魔力が徐々に収束されていく。炎が、風が、水が少しずつ形を成して『俺』という一条の槍を形成する。


「こんなレベルのダンジョンボスと戦うなんて、初めてだね。――『ブレイズエンチャント』」


 業火を纏う。マグマよりも熱く、花火よりも激しい俺の獄炎。

 準備は取りあえず整った。


「だから――俺の経験値になってくれよ?」


 笑い、身を低くする。

 自身を一条の槍として。

マリル「これ、そろそろ私の出番が消えそうですねー……」

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