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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十一章 先へ、なう
308/396

273話 呑むなう

前回までのあらすじ!


                       ……マズい。

「……ま、やるってのはいいんだけど、その前に」


 俺は『パンドラ・ディヴァー』を掴むと、グイッと顔を近づける。


「さっきの、何?」


 神器『パンドラ・ディヴァー』は封印の神器だ。ヨハネスが封印されており、文字通り物を封印する能力を持っている。

 そして封印した物を、ヨハネスが魔力に還元して俺に渡してくれている。これによって俺は疑似的に無限魔力を再現しているわけだ。

 俺の戦闘力の根幹を為す能力であり、これが無いと『ストームエンチャント』とかが発動出来ない重要なファクターだ。

 ただ……仮にも神器なのにただ封印するだけなのだろうか、というところに疑問も残る。だからもしかすると何か別の能力があるのかもしれない……とは思ってたけど。


「お前が俺の身体を操るなんて、出来たっけ」


『アー……マァ、ソウダワナァ。オラッ、受け取れ。チョット、キツイゾォ?』


「何を言って――グッ!?」


 ガツンッッッッ……。

 いきなり、脳に情報が流れ込んでくる。『パンドラ・ディヴァー』を初めて手にした時と同じ、ヨハネスの考えや想い、そして――言いつくろえない本心。

 同時に俺のそれも相手に流れて行っている。そう、俺がヨハネスを信用できる唯一の根拠。俺とヨハネスはいつでも脳をリンクさせることが出来るのだ。

 普段、『パンドラ・ディヴァー』を出さずに喋っているのはその応用。だけど、それ以上のことも出来るなんて。


「か、身体を操るんじゃなくて……意識、を、交換してたのか、あれ……」


『カカカッ、ソノ通り。……トハイエ、マダ教えたく無かったガナァ』


「ぐっ……げほっ」


 あまりにも大きい情報が脳内に流れたため、ちょっと吐き気がこみあげてくる。根性でそれを押しとどめ、壁に手をついた。


「なんで……今まで、教えな、かった。後、なん、で……このたタイミングで……」


『カカカッ……ソウダナァ、オレ様が見たカッタカラカナァ、オメーの成長を』


「は? うぷっ」


 さらに情報が流れてくる。肉体の交換は、俺の意思でのみ行われる。ただし、先ほどのように俺が無意識化で『助けてくれ』と思っていたりすると、ヨハネスが出て来て助けてくれる。


(……俺、助けてって思ってたのか。まあ、実際だいぶ助かったけどさ)


 さらに――この『パンドラ・ディヴァー』の本来の用途も流れ込んでくる。


「うぐぁ、待って、こんなに、色々……うっぷ」


 さらに情報が流れ込んでくる。ついに膝をつき、その場に座り込んでしまった。

 ぐわんぐわんとする、情報の濁流が終わる。吐きそう、っていうかヤバい。

 俺はこみあげてくるものを地面にぶちまける。ダメだ、我慢できなかった。


「……え? 本当、は……ヨハネスが魔法を使ってサポートすること、前提……?」


『カカカッ、ソーナルナ』


 ヨハネスに肉体の一部を交換して渡すことで、ヨハネスに勝手に魔法で戦ってもらう。その間、俺は別の手段で戦う。

 つまりヨハネスは解析系キャラじゃなくて、お助けモンスター的な扱いだったってわけか。


「例えば……左腕をヨハネスに渡して、魔法を使って貰いつつ戦うってこと?」


『アァ。……仮にソレをゲットした日に教えてタラ、ソノ戦い方を磨いテタダロ?』


 頷く。そりゃ、そんな便利な物使わないわけがない。


『オレ様は――ソレジャア、オメーの才能が開花シネェと思ったンダ。オメーが持ち主にナッタ瞬間分かったゼ? コイツは本物ダ、ッテナ』


「……そ、そうなんだ」


『アア。最初からその戦い方をシテイタラ――オメーは、オレ様ヨリ強くナレネェ。オレ様が使う魔法アリキジャア、オレ様ヨリ強くナレルワケガネェカラナァ』


 それは……ヨハネスの言う通り、だろう。

 仮にその戦い方をしていたら――俺は魔法を磨こう、なんて思わなかったはずだ。


『ソウナッテイタ時、オメーは今のオメーより強くナッテルハズガネェ。アノ三種のエンチャントを使えるオメーと、ソレ抜きでオレ様が魔法を使うオメー。後者が覇王に勝てるイメージが湧くカァ?』


 考えるまでも無い。魔法による強化が無ければ、覇王と戦いうる身体スペックを保てていないだろう。

 それを補う手段は別で用意したかもしれないけど、今より強くなれる保証はない。


「……でも最初からそう言ってくれてたら、いや」


 あの頃の俺なら――お前なんかに頼るか! とは言っただろう。でも『いざとなれば』の想いを消し去れるとは思えない。

 いざとなったら、ヨハネスが助けてくれる……という考え方は、俺は危険だと思う。それは油断に繋がるから。


『マァ、ドッチが良かったカハ、最終的には分からねぇガナァ。オレ様は、ソッチの方がイイって思ったンダヨ』


 ……なるほど。

 そして今なら、俺の成長を阻害しないと思ったわけか。


『カカカッ、久々に成長スルガキンチョを見て楽しんデルンダヨ。アア、キアラには言わないデクレッテ頼んだンダ。アイツも成長を阻害スル恐れがアルカラって納得したゼェ? ンデ、言うノハオレ様のタイミングで、トモ言った。カカカッ、オレ様が魔法を使えるコノ機能、キアラは嫌がってたカラナァ! 渡りに船ダッタロウゼ!』


 もしピンチになったら教えてくれていただろうけど――神器を手に入れてからあったピンチらしいピンチって覇王戦くらいだけど、あの時キアラは気絶してたしね。


「……覇王戦の時、何で助けてくれなかったのさ」


『オレ様が参戦シヨウトシタ瞬間、アイツが離脱シタンダ。運が良い奴ダゼ』


 なるほどね。

 やっと吐き気が収まってきたな……。苦しかった……でも、取り敢えず色々と教えて貰えた。

 もらえたけど……


「やっぱもっと早く言って欲しかった」


『カカカッ』


 笑うヨハネス。でも取り敢えず、お前がいてくれてよかった。

 あんな、姿。誰にも見せたくなかったからね。


「さて……取りあえず、結構嫌だなぁ……怒られるだろうし」


『デモ、ソレ以外に方法は思いツクノカァ?』


「……そうだね。じゃあ、行こうか」


 息を吸い、吐く。そして俺は……心臓に魔力を集中させていく。俺の奥にある扉を開くために。魔力を集めて開くんだ。

 使いすぎると動けなくなる魔力。それを無意識にセーブしている――扉、みたいなものを。


(ぐっ!)


 ドクン、と心臓が暴れるかのように跳ねる。まったく、イチかバチかにもほどがある。

 魔力が体内で暴れまわり、この体の外へ弾けようと、体中を駆け巡る。

 膨大な魔力はそれそのものが物理的圧力を持つかのように爆発し、破裂し、燃え上がるように全てを喰らおうと狂い踊る。


「……俺は一条の槍」


 でもこんなアイデアを出すなんて。


「敵を見据え、刺し穿つだけの武器に過ぎない。常に前を向き、ただひたすら自らの眼前の敵を殺し――背後にいる者を守るだけ」


 ヨハネスって、俺よりキアラのことを信じてるんだね。


「そう俺は――悪に破滅を齎し魂喰らう槍!」


 ま、当たり前っちゃ当たり前なのか。


終扉(ロック)――ッ!」


「している場合か阿呆!!!」


 轟! 

 俺の纏っていた魔力が散らされ、いきなり現れたキアラからドロップキックを食らう。そのままその場に押し倒され、頬を思いっきり張り飛ばされた。


「な――に、をやっておるか阿呆!!!!」


 ビリビリと鼓膜が震える。とんでもない剣幕だ。

 でも――


「『ヨシ! 狙い通り!」』


 ――俺とヨハネスは声を揃えてニヤッと笑う。

 それを聞いて、キアラは俺に馬乗りになったままキョトンとした顔になる。


「……狙い通り? キョースケ! お主、終扉解放(ロック・オープン)は使うなと言ったぢゃろうが!」


 ガッ、と俺の胸倉をつかむキアラ。唇と唇がくっつきそうなほど迫られ、ちょっと顔を逸らしてしまう。


「お前が暴れたら無事なものも無事じゃなくなるぢゃろうが!!」


「そ、それはそうだけど……」


『カカカッ、キアラ。オレ様がヤレッテ言ったンダ』


 ヨハネスがそう言うと、キアラはキッと『パンドラ・ディヴァー』を睨みつけた。


『カカカッ。コノダンジョンの魔力濃度のセイデ、オレ様でスラ探知がママナラネェ。ソモソモ、半径百キロは探知出来るテメーがスグに転移シテ来なかったノガソノ証拠ダロォ?』


 半径、百キロ……? えっ、それってどれくらい?

 全力全開でやってもそんなの無理……っていうか、え? マジでどれくらい?

 キアラは『パンドラ・ディヴァー』を睨みつけると、舌打ちする。


「妾は今、枝神の力を失っておる。せいぜい八十キロぢゃ。それも集中して感知専用の魔法を使わんと出来ぬ。……それはそうとして、どういうつもりぢゃ! こ奴が倒れたら出来るもんも出来んようになるぢゃろうが!」


『ダカラダヨ、キアラ。オレ様は最善をシタゼェ? 戦力の集中は基本ダロォ』


 ヨハネスの言葉を受けて、険しい顔になるキアラ。俺が|終扉解放を使おうとして、その魔力をキアラに探知してもらう……という、一歩間違えれば危険な策。

 上手く行ったから良かったけど、キアラ怒る気持ちも分かるか。彼女は数秒の沈黙の後、ため息をついた。


「……確かに合流出来たのは僥倖ぢゃ。お主の言う通り、戦力の集中は急務ぢゃからな」


 そしてキアラは俺の上でから降りると、グッと俺の腕を引いて立たせてくれた。


「それにしてもキョースケよ。……思ったよりも動揺しておらんな。冷静さを失って暴走しかけているかと思って焦っておったが……」


 ズバリ言い当ててくるキアラ。しかし俺は肩をすくめ、首を振る。


「流石に優先順位はつけてるよ。確かに不安で心配で怖いけど……でも、うん。今はさっさと皆と合流する方法を考えないと」


 ひたっ。

 また、死神の足音が聞こえる。でも、俺は頭を振ってからそれを無視した。


「今は、皆と合流しないと」


 皆と合流しないと。

 俺は息を吐いて、周囲を見る。相変わらずの暗闇で周囲は見えないが、気持ちは落ち着いている。

 ……落ち着いているとはいえ、俺に出来ることは少ない。


「とはいえ、ぢゃ。……どうするかのぅ」


 思案するように腕を組むキアラ。彼女が灯りを出してくれているおかげで回りが見えるのはありがたい。

 壁に手を当て、俺は少しだけ意識を集中させる。


「取りあえず上、かな。一番上まで行って、そこから下がっていけば皆を見つけられるはずだ」


「そうぢゃな。……一応、下に行くという手もあるがのぅ。ダンジョンをクリアすれば、ダンジョンコアが手に入る。様々な価値があるが……ダンジョンコアを持っておればギミックを一時的に無効にすることが出来る」


「……いや、上に向かっていく最中で皆を助けられるかもしれないから。皆も出口に向かうだろうからね」


 はぐれた時のことをちゃんと確認しておいてよかった。

 とはいえ……結局、俺に出来ることはこれだけか。

 だから、皆とチームを組んでるんだけど――だから、俺は今日足を掬われた。

 誰でも無い、このダンジョンに。


「……お主、キレておらんか?」


「そうかも。……うん、たぶんあんまり冷静じゃない……んじゃないかな」


 キレてはいる、でもそれは自分に対してだ。

 そして同時に、未だに体の震えを止めるので精いっぱいだ。

 とある死神の漫画で言っていた――人間を縛るのは恐怖だ、と。

 怖い、でも、そんなことを考えている場合じゃない。それに関して考えるのは後だ。

 今は皆を救う方法を考えないと。


「……キョースケよ。終扉解放(ロック・オープン)はダメぢゃぞ」


「分かってる」


 さっきは確かに発動しかけたが(そして実際に発動する寸前まで行ったが)、覇王の時のように命を振り絞って使うつもりは無かった。

 だから大丈夫ってわけでも無いけど、ちゃんと理性はある。そう思ってキアラの目を見返した。

 彼女は俺の目を見ると、一歩近づいてから顔を近づけてきた。


「お主が三種のエンチャントを開発した時に……同時に開発しておったエクストリームなんちゃらも使うで無いぞ。アレは未完成ぢゃ」


「……分かってる」


 キアラの言う通り、『エクストリーム・エンチャント』は未完成だ。五秒も保たないし、そもそもアレは魔法のコントロールが難しくなって放出系の魔法が使えないからね。


「安定して終扉解放(ロック・オープン)と同じような力が使えたらと思って開発したんだけどね」


 だから、まぁ……アレは短期決戦向けの切札って立ち位置だ。せめて十秒使えれば結構倒せる範囲が増えそうなんだけどね。

 俺は無理に笑顔を作る。

 折れない、俺は折れてない。

 大丈夫、大丈夫。


「それにしても、透明なダンジョンモンスターは厄介ぢゃのぅ」


 ピクッ、と俺の手が動く。そう、厄介だ。厄介だから、俺はすぐにこの状況を改善させないといけない。


「キアラ、さっさとやるよ」


「……それは良いが、何をするつもりぢゃ」


「『ブレイズエンチャント』」


 呟き――肉体に業火を纏う。最大火力を発揮するための形態。俺が編み出した魔法。

 壁に手を触れて、俺はキアラに声をかけた。


「キアラ、このダンジョンの壁って……ほぼ全て魔力で出来てる、よね」


 唐突な問いだが、キアラは少しだけ驚いた顔をした後に頷いた。


「うむ。ラビリンス系のダンジョンではよくある形式ぢゃ。……それがどうかしたかのぅ?」


 俺は壁に当てた手に魔力を籠める。とある結界を生み出すための魔力を。


「王都動乱の時に魔族が張った結界。アレを破壊するために、張ってあったのと同じ結界を作ってたよね」


 無理矢理で、力ずくの戦法。あの時、王都には『受けた攻撃を増幅して反射する結界』が張られていた。

 それを突破するために、全く同じ結界を作り、結界内で俺達の攻撃を無限に反射させた。それによって攻撃がドンドン増幅され……ついに、結界を破るまでの威力に至った。


「それがなんなんぢゃ」


「あの時、キアラから説明を聞いて思ったんだ。キアラが作った結界の維持方法が変だって」


 結界の維持には、内部で反射されている魔法の魔力を使ったと言っていた。でも、あの結界は攻撃の威力を上げるだけ。魔力は増えない、つまり維持出来ない。


「じゃああの魔力はキアラが出し続けてたのか? 違うはずだ、であれば――あれは結界の魔力を使って結界を維持してたんだ。つまり、自分以外の魔力を使って魔法を使ってたんだ」


 触れた壁を取り込まずに解析していく。そこでキアラは俺が何をしようとしているか気づいたらしい。ギュッと唇をかみしめてから、声を荒げた。


「ヨハネス……否! 『知りたがりの悪魔』よ! お主、何をキョースケに吹き込んだ!」


『カカカッ、別に。ヒントを与えたマデダ』


 結界を完成させる。なんのことはない、発動したら流し込まれた魔力を炎に変換するだけの結界だ。つまり普通であれば、発動と同時に炎がともる結界。魔力を流し続ける限り、流された魔力は炎に変わっていく。

 ……それをただ、俺の魔力ではなく壁の魔力と接続させるだけで。


「『紫色の力よ! はぐれの京助が命令する。この世の理に背き、その身を魔力に変える禍々しき結界を! 炎呑み(ボーライ)』!」


「ッ! その魔法の名は……! ヨハネス、貴様! ヒントどころか――お主の魔法では無いか!」


 発動する。その瞬間、目の前の壁が炎上していく。それは魔力を食い尽くし、どんどん広がっていく。

 紙に火をつけたように、なんの抵抗も無く燃えていく。俺は何ら魔力を使っていない、ただ魔法を編んだだけで。

 相手の魔力を解析し、ジャックしないと使えないから弱い魔物相手じゃないと使えないけど、原理的にはどんな魔物も燃やし尽くす必殺技だ。


「お主の魔法は禁術に指定されておる! それを教えるなど……人に見られたらどうする!」


『カカカッ、別に構やシネェダロ。オメー以外、誰がオレ様の魔法を知ってるンダヨ』


「う……む、むぅ。他の枝神……も、魔法に疎い者しか今は降りておらんのぅ。……はぁ、腹立たしいが、良い。お主の言う通りぢゃ。それにしても……お主が最初に言っていたことが本当ぢゃったと言うことか。奴は槍術師ぢゃというのに」


『オイオイ、何を言ってンダカ。オメーが一番良く知っテルダロウガヨォ。『才』と『職』は関係ネェ』


 壁が燃える。炎が伝っていくのではない、壁が炎に変わっていっているのだ。壁が壊されたとダンジョンは認識出来ていないのか、再生するようなことも無い。

 ただ何も抵抗無く、俺達のいるフロアから壁がなくなっていく。


「……俺は、無力だ。罠を発見することも出来ないし、事前準備の知識も足らないし、感知すら風に聞かないと大した範囲では出来ない」


 でも。


「ダンジョン……! お前をぶち壊すくらい出来るんだよ……!」


 業火が広がる。

 紅蓮が広がる。

 ダンジョン内は煌々と照らされ、轟々と焔が至る所で湧き上がる。

 俺達の前に、障害は無い。

 後から壁が生えてくるが……それは壁となる前に燃え、消える。辺り一面火の海になり、その炎が俺を襲うが……業火を身に纏う俺にそんなものが効くはずがない。


「いや妾は熱いんぢゃが。あとお主、まだ作りが甘い。酸素が無くなる。作っておくかのぅ」


 ……俺は一つ咳払いし、俺は彼女に笑いかけた。


「さ、行こうキアラ。更地にしちゃえば下へ行く道くらいすぐに見つかるさ」


 キアラにそう声をかけると、彼女は苦笑とも呆れともつかない顔になって、俺の頬に手を当てた。


「たった一年なんぢゃがな」


「え?」


「妾にとっては、お主は弟子ぢゃ。しかし先にそちらの魔法を使うとは思っておらんかったからのぅ、ビックリしたんぢゃ」


 彼女が何を言ってるのか分からず、俺は少しキョトンとしてしまう。

 しかしキアラは特に詳しく説明するつもりもないのか、何やら愛おし気な目で俺を見るだけだ。

 ……なんか、前にソードスコルパイダーを倒した時みたいな感じだな。

 そんな何とも言えない会話をしていると――陽炎がゆらりと揺れた。


『カカカッ! キョースケ、落ち着いてるか?』


「うん、落ち着いてる」


 空間が歪み、かなり強力な『圧』が。敵さんのお出ましか。

 透明なダンジョンモンスター……しかし壁が無くなったせいなのか、さっきまでの連中とは比べ物にならないほどの大きさになっている。バス二台分くらいかな。

 炎によって体が炙られているが、特に気に留めてないみたいだ。結構強い……S、には届かない。Aの上位って感じか。

 それが、俺の前方には(・・・・・・)、三十体ほど。


「キョースケよ、妾は後ろを担当しよう」


「おっけー。じゃあ俺は前ね」


「後で倒した数で勝負ぢゃぞ? 負けた方は勝った相手に……そうぢゃな、性的ご奉仕ぢゃ」


「皆が良いって言ったらね」


 身に纏う業火がさらに燃え上がる。瞬間、目の前の一体が消し炭になった。


「邪魔するなよ……ダンジョンモンスター。俺は皆を助けるんだよ……!」


 皆を救う。

 そのために、一秒だって足踏みしてられない。


「五秒でかたす!」


「それなら妾は三秒ぢゃ」


 キアラに笑みを返し、俺は敵に向けて走り出した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 さて、京助がキアラと合流し戦闘を開始しているころ。

 他の四人はというと――


『ダンジョンモンスターと言えど、臭いも音も、なんなら気配も消せませんからね。視界情報がほぼ無かろうと私には関係ありません』


『ヨホホ……周囲の空気を使わない炎を生み出す練習をしておいて良かったデス。これなら周りもばっちり見えるデスし、何が来ても勝手に燃えていくデス』


『あはっ……みんな……律儀に地面歩いてる、んだぁ……ふふっ、氷の床に足を踏み入れた奴を……全員、串刺しにすれば……ふふっ、あはっ』


「しかし弱いな。……本当にSランク以上のダンジョンか? 体の近くに攻撃が来たと思った時に反撃するだけで死んでいくぞ。視界情報が無いと壁にぶつかるのは不便だが」


 ――一切、意に介していなかった。

天川「まぁ、皆がいなくなったら怖いな。分かる」

難波「それにしても慌てすぎじゃね? こいつら全員、俺より強いのにさぁ」

井川「それだけ心配ってことなんだろう」

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