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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十一章 先へ、なう
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267話 ねむけなう

前回までのあらすじ!

京助「Sランカーたちと模擬戦したりしたよ」

冬子「相変わらず、マルキムさんもギルドマスターも強いな」

シュリー「ヨホホ、初めてレオさんと戦えたデス」

リャン「師匠越えはまだまだ遠そうです」

キアラ「しかしお主ら、まだまだぢゃのぅ」

マリル「それでは本編をどうぞー」

「あああああ~~~~~~……疲れた」


 と言うわけで、夜。

 俺たちはリビングでぐったりと溶け切っていた。


「キョウ君たち、だらしないですよー?」


「……いやあのまま十戦もやると思って無かったし」


 まさかのキアラが鬼コーチと化したせいで、大変な目にあった。いや付き合ってくれたマルキムたちには感謝しないといけないんだけどさ。


「マスター……肩でもおもみしましょうか……?」


「そんなボロボロの声で言われても……」


「あー……じゃあ、私がして欲しいです」


 俺はふらふらとリャンの背後に回り、彼女の肩をもむ。


「あああああああ……マスタぁー……」


「なんて声出してるのさ……」


 皆パジャマでぐだーっとしているのは、何となく部活の合宿のようだ。まあ合宿なんて行ったこと無いんだけどね。


「ピアさんだけずーるーいー。私もー」


「というかピアが京助に甘えるなんて珍しいな」


 比較的元気なのは美沙と冬子だ。あくまで比較的、であってやっぱり疲れているのは疲れているのだと思うけど。


「うう……私だけ一回も勝てませんでした……」


 ガックリと肩を落とすリャン。そういえば何度かチームをシャッフルしてたけど、リャンだけ勝ててなかったね。

 今回の戦いはあくまで自分の課題を見つけるもの(と、キアラが言っていた)だから、勝てなくても気にするところじゃないと思う。

 思うが、まあ悔しいよね。


「私はあの戦い、正直速すぎて見えなかったんですけどー。どうやったらアレに反応出来るんですかー?」


 マリルが頭にハテナを浮かべながらそんなことを問うてくる。どうやったらと言われても……


「見えてるからだよ」


「IQが3くらいしか無さそうな答えだな」


「セクシー担当大臣みたい」


「疲れてるから勘弁して……」


 何というか、説明するのも難しい。もちろん、実際に目で捉えているかと言われると怪しいと思う。前の世界の頃と比べたらやっぱり動体視力は上がってるけど、それだけが理由じゃないからね。


「でもやっぱり、予測とか勘とかも含めて『見えてる』って表現しかしようが無いからなぁ」


「はぁ……ピンとこないですけどー」


 志村に「弾丸なんて遅いもの見て躱せばいい」って言った時も似たようなこと言われたっけね。なんで見えるんだって。

 今ではあいつも経験と予測、そしてアイテムの補正で見えるようになっているらしいけど。


「ヨホホ……魔法師はともかく、前で戦う方々は信じられないスピードで動くデスからねぇ」


「私もたまに追えないことあるしね」


 シュリーと美沙が苦笑する。純粋魔法師と俺らじゃそりゃスピード感も違うしね。


「魔法師並みに魔法が使えるのに前衛も出来るお主が狂っておるんぢゃ」


「この中で一番ヤバい奴に狂ってるとか言われたんだけど……」


「あとトーコさんの剣から出るビームって何だったんですかー?」


「ああ、アレは私の剣を変えてから……」


 皆と和気あいあい話すマリルを見て、今日は仲間外れにならなくて良かったなーと感じる。やっぱり独りぼっちは寂しいもんな。

 テーブルに突っ伏し、ボーっと皆を眺める。あんまりにも疲れたからか、どうにも頭が回らないな。


(あー……ヤバい)


 うとうと、少しだけまどろむ。晩御飯はまだマリルが作ってる途中だし、これ部屋に帰ってちょっと横になってた方がいいかな。

 ホント、久々に疲れた。眠い頭を無理矢理動かし、俺は椅子から立ち上がる。


「じゃあキョウ君、それでいいですかー?」


「は? え? あ、うん。何が?」


 まさかのタイミングで話しかけられて、変な声を出してしまう。何にも話を聞いてなかったので慌てて問い返すと、彼女はコロコロと楽しそうに笑う。


「やですねー。ベガの温泉地に着いたら必要だから、今のうちに水着をオルランド伯爵に用意してもらわないとって話ですよー」


「……水着?」


 温泉地に行くのに何故水着。掲載の関係で絶対冬場になるよ? その水着回。

 一瞬、誰か別の人が乗り移った気はしたがそれはそれ。ちょっと眠くて電波を受け取っちゃったみたいだ。


「なんで温泉なのに水着なの?」


「温泉だから水着なんですよー?」


 …………?


「宇宙猫みたいになってるぞ京助。……何でもこっちの世界の温泉は混浴が標準、そして入る時は水着らしいんだ」


「えー……?」


「そもそも大浴場っていうか、大衆浴場っていう文化が無いみたいだよ。タイシュウヨクジョウって響きがなんかエッチだね」


「何言ってんの美沙?」


「ま、海外でも温泉はあるが……日本のそれと違って水着でレジャーって感じだっただろう。アレと同じ感じじゃないか?」


 世界全部の温泉を知っているわけじゃないが、昔ちょっとテレビで見たのはそんな感じだったね。


「言われてみれば、アンタレスに作ろうとしてる銭湯が大衆浴場第一歩みたいな感じらしいしね」


「魔法と水浴びで衛生面は何とかなるからのぅ。前も話したが、金がかかることも相まって風呂は貴族の遊びぢゃ」


 そういえば以前に、毎日湯を張ってるのはおかしいと言われたね。


「それにしても混浴で、水着か……」


「え? 何々? 京助君、私の水着が見たいって? んもー、言われなくても見せてあげるってば」


「いや」


 美沙の戯言をスルーし、俺は活力煙を咥える。チラッとマリルを見ると、彼女は窓際を指さした。ご飯作ってる最中に吸うのは良くないか。

 俺は窓際に行き、窓を開ける。窓に腰掛け、風を操って中に煙がはいらないようにすれば取りあえずOKだろう。


「ふぅ~……。だって、混浴ってことは俺以外のお客さんもいるわけじゃん?」


「ヨホホ、キョースケさんが貸し切りにしない限りはそうでしょうデスね」


「でしょ? ……他の男に、皆の水着姿を見せるなんて嫌じゃん? 他の男に皆の可愛い姿を見せたくない」


 活力煙の煙を吸い込み、吐き出す。窓の向こう、夜空に紫煙が溶けていく。ふわふわと伸びる煙は、今日は珍しく天井まで登っていく。

 ボーっとしている頭に煙がしみこむ。なのにいくら吸っても眠いのが抜けない。ちょっとした眠気ならこれで飛ばせるのに、今日は結構来ているらしい。


「そりゃ皆の水着が見れるのは嬉しいけど、他の奴らに見られるのは嫌。それなら俺も見なくていい」


 脳みその外側を使ってるような感覚、マジで一回寝た方がいいな。


「マリル、ご飯出来たら言ってー。旅館は貸し切りにしたいなぁ。どうせタローの紹介だし、ちょっとくらい我儘を言っても……って、皆?」


 俺が灰皿に灰を落とし、家の中に戻ると……何故か皆が黙り込んでいた。俺、何か変なことを言っただろうか。


「……京助って、自分で思ってる百倍くらい独占欲強めなんだよな」


「無自覚なんですかね。しっとりしてます」


「ヨホホ……何かこう、DV男がたまに見せる優しさにコロッと落ちる感覚ってこんな感じなんデスかね」


「あ、全然違いますよー。ああいう奴らってマジで全部こっちにおっかぶせてきますから―。家を支えて全員を養える甲斐性があって、仮に一方通行で不器用だとしても、相手のことを考えようとしてるキョウ君とは全く違うんでー。キョウ君は釣った魚に餌をたまにしかあげないタイプですー」


「滅茶苦茶早口になりますね、マリルさん。……まあそれはそれとして、他の奴に渡すもんか! お前は俺のだ! ってもう一回言って、京助君」


「お主ら全員、目が節穴かのぅ? 言うほどコロッと来る台詞ではないぞ?」


 何でか知らないけど、皆が微妙な表情で顔を赤くしている。というか俺って釣った魚に餌を上げないタイプと思われてるの?

 言われて、自分のセリフを思い返してみる。……ふむ、まあでも普通のことしか言ってない気がするんだけどな。

 他の男に皆の可愛い姿を見せたくない。当たり前のことだろう。


「何かよく分からないけど、俺は釣った魚には餌あげるよ」


「じゃあちゃんと餌ちょうだい! ほら早く!」


 何故か俺にタックルしてくる美沙。彼女の口に活力煙を突っ込んでみる。


「……あ、これさっき吸ってたやつ?」


「んなわけないでしょ。新しい奴だから安心して」


 俺はふわふわする思考のまま、リビングを後にする。

 あー、眠い。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「お主ら……今のはチャンスぢゃったぢゃろう?」


 京助が欠伸をしながら上の階に行ったのを見届けて、ポツリとキアラさんが呟く。全員それを受けて、ちょっとだけ気まずそうに笑った。


「私はアピールしました!」


「お主はやり方がマズすぎて冗談としか思われておらん」


 バッサリいかれる美沙。彼女がよよよ……と泣いているのをしり目に、冬子はヒョイと手をあげる。


「いや、今のは不意打ち過ぎて……」


「さっきも言ったがキュンと来るほどの内容ではないぞ」


「……こう、明確に好意と独占欲を出されたのは初めてですし」


 京助がこっちのことをどう思っているのか、あまり口にしない。そんな彼が言ってくれたのだから、驚いても仕方が無いだろう。


「ま、これで分かったぢゃろう。妾が何度も言っておる通り、あ奴を落とすなんて赤子の手を捻るより簡単ぢゃろう? キョースケが他の女になびくと妾が困るんぢゃ。それはお主らにも前々から言っておるぢゃろう?」


 うっ、と全員が言葉を詰まらせる。

 確かに前々から言われている。ここにいる女性陣は、一応キアラさんの面接を突破してここにいることを許されているらしい。

 記憶に新しい女性で言えばパイン。アレは変則的だが、京助に救われた女性であると考えてもいいだろう。

 結局フラグは建たなかったが――仮に建っていたとしたら、キアラさんはへし折るつもりだったらしい。

 神様らしい傲慢さが抜けないというか、一周回ってモンペというか。


(ハニートラップが入る余地を消す、か)


 キアラさん曰く。男は良い女と悪い女に逆らえない。

 だから、良い女で周囲を埋める。それが一番だ、と。

 冬子たちはキアラさんに言われたから京助の側にいることを決めたわけじゃないし、彼から離れる日が来たら(来るとは思えないが)それはきっと自分の意思だ。

 ……と、まあ色々言いたいところが無いわけではないが、それでこの心地いい空気が保たれるならそれはそれでいいだろう。


「っていうか、今さらですけど、なんでキアラさんが京助君と付き合う相手を決めるんですか?」


「む? なんぢゃ、知らんかったのか? このハーレムは妾のハーレムでもあるんぢゃぞ? 良い男と良い女に囲まれる……これ以上ない幸せぢゃろ?」


「キアラさんのハーレムだったのここ!?」


 目が飛び出そうなほど驚く美沙。そういえば似たようなこと、前にも言ってたな。


「後はまあ、魔法や能力に頼らぬ洗脳なども防がんといかんからのぅ……あの神器を持たせている以上」


 何やら意味深に呟くキアラさん。本当に意味があるのかは知らないが。


「ただハニートラップ防げって言いますけどー、私たちが出来ることって少ないと思いますよー?」


「気持ちを伝えたけど、恋心が分からないとフラれた人がここにいますし?」


 そう言ってまたわざとらしく泣き出す美沙。とはいえ彼女の言う通り。


「でも……少しずつ、恋心を教えるしかないと思っていましたが、あの様子ならもっと早いのでは?」


「ヨホホ、もうワタシたちは受け入れられる前提で話してるの、ちょっと面白いデスけど」


 リューさんが苦笑する。正直、冬子も似たような気分だ。


「あ奴がお主らの悲しむ顔を見たいはずが無かろう。ま、それは今度の話にした方が良いぢゃろうな。……そういえば、鎧はどうぢゃったんぢゃ?」


 ちょっと強引に話を変えるキアラさん。ごろん、とソファに寝っ転がる姿はまるで猫のようだ。


「問題無かったです。少し普段の鎧よりは機動力が落ちた気がしますけど」


「私は若干動きづらかったんでもう少し調整してもらいます。セパレートタイプだからか、ちょっと勝手が違うんですよね」


 他の皆も概ね問題無いようで、こくんと頷いている。取りあえずそこが確認出来れば今日の目的は果たしたと言えるだろう。

 冬子たちがワイワイ話している間に、マリルさんがご飯を作り終えていた。今日は鍋のようだ。


「暑くなっていきますからねー。最後ですよー、これが食べられるのはー」


「別に私の魔法で部屋をちょっと冷やせば美味しく食べられると思うんですけどね」


「……ミサさんは無粋ですねー。ブスイですよ、ブスイ」


「だ、誰がブスですか!」


 何故かムキーッと反論する美沙。そろそろ京助も起きてくる頃だろう。

 何というか、こういうのんびりとした空気は良いな。

 そんなことを思いながら、冬子は皆と一緒に皿を並べるのであった。




 ……ちなみに、顔を真っ赤にして『さっきのは、何かその、無し』と情けないことを言う京助が部屋に入ってきたのはその五分後のことだった。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おう、タロー。こっちだこっち」


「お呼びいただき光栄だが、珍しいな」


 遡ること一週間。京助たちの鍛錬に付き合わされた日、その夜。マルキムはアルとタローと一緒に酒を飲んでいた。


「ただ、私は明日があるので……少し早くお暇させていただくよ」


「かまへんで。わしも明日は仕事やしな」


「オレは休みだ。久しぶりにちょいとアンタレスをまた離れようと思ってるぞ」


 取りあえずエールを頼み、三人で乾杯する。


「それで? 私を呼んだんだ。何も用事が無いということはあるまい」


「いや、マジでただ飲もうってだけだぜ」


「そうそう。最近は結構話すことも増えたしな。一回酒の付き合いってのをやっといてもええやろってこっちゃ」


 わっはっは、とマルキムとアルで笑い合う。タローも別に嫌じゃないのか、グーッとエールを飲み干した。


「ぷはっ。それならそれで楽しませていただこう。おかわりを頼めるかな、美しいお嬢さん?」


 息を吐くように店員をナンパするタロー。相変わらず手の早い男だ。


「ちょっと前にキョースケんところの嬢ちゃんにも言われただろ。精を吐き過ぎだってな」


「こればっかりは性分でね。奥方のいるミスターアルリーフはまだしも、ミスターマルキムのように浮いた噂が一切ないAGの方が珍しいだろう」


 そう言って少し探るような目を向けられるが、マルキムはぐいっと酒を飲んでその視線を躱した。


「んなこと言ってもよ。オレはオメーやキョースケみてぇにモテるわけじゃねえからな。剃る前は結構モテたもんだが」


「ハゲたらそらモテへんようなるやろ」


「だからオレはハゲてねぇ! 剃ってるんだ!」


 ぴしゃっと自分の頭を叩くアルの手を振り払い、タローを見る。


「オレはいいんだよ。オメーこそ、身を固めたりしねぇのか」


「私は全ての女性を愛しているのでね」


「プレイボーイやなぁ。そのうち刺されるで」


 既に二ケタ単位で刺されていそうだが。タローも少し意味深な笑みを浮かべている辺り、もしかすると本当に刺されたことがあるのかもしれない。


「しかし今日のアレには参った」


 タローはため息をついてから、届いた煮物にフォークをつける。一口サイズにトポロイモンを切って、口に運ぶ。相変わらず育ちのいい男だ。


「最後はキョースケのチームVSわしら三人やったからなぁ」


「ミスター京助が一切手を抜かないのはどういう了見なのか」


「最初の一戦目はともかく、途中からオレらもマジでやってたからそこはしょうがねぇ」


 むしろキョースケ以外、トーコ、リュー、ピア、ミサの四人がついてきたことが驚きだ。


「ええチームになるやろうなぁ」


「だな」


「はーい、生三つ! 大ジョッキです!」


 ガシャン! と景気よく置かれたジョッキを持ち、再び乾杯する。こういう酒は思いっきりジョッキをぶち当てて乾杯するのがいいものだ。


「しっかしタロー。お前も飲めるようになったもんやな。昔は一杯でへべれけやったんに」


「何年前の話をしているんだ、ミスターアルリーフ。もうアレから……七年、そうか七年か。私がSランクAGになって」


 タローが指折り数えて、少し感慨深げに笑う。なるほど、あの若造がSランカーになってもう七年――おじさんになるはずだ、とマルキムは違う理由で笑ってしまう。


「お前も後輩が出来るなんてな、ホント」


「私も驚いている。まさかこんなに若い後輩が出来るとは」


「あと二十年は記録更新されへんって言われとったんにな」


 わっはっは、と皆で笑い合う。歳を重ねれば強くなれるものでもないが、歳を重ねねば得られない経験というものはある。

 そしてSランカーというのはその経験に裏打ちされて実力者とみなされるのだ。

 それから三人で近況報告、そして思い出話に花を咲かせた。一時間も経った頃だろうか、タローがチラッと外を見た。そろそろ時間だろうか。


「そういやタロー。お前、そろそろウルティマにまた会いに行ったらどうや? 寂しがっとるやろ」


「アレが寂しがるとは到底思えないが……ただそうだな。たまに顔くらい見せた方がいいかもしれんな」


 SランクAG、ウルティマ・トラーマン。マルキムは数度しか会ったことは無いが、いずれ彼女ともキョースケは会うのだろう。

 どんどん世界を広げていくキョースケは、どんどん自分の知る彼とは違う者になっていくのだろう。

 それが寂しくもあり、誇らしくもあるのは……何だろうか、この気持ちは。


「さて、すまないな。明日の朝が早いんだ。また誘ってくれ」


 夜はまだまだこれから、というタイミングだが――タローは申し訳なさそうに席を立った。


「おう、ほんならなー」


 ひらひらと手を振るアルを見ながら、マルキムはぐいっとジョッキを呷る。


「……あー、アストラ」


 ポツリと、そう呟く。


「懐かしい名前やな、レオ」


 アルもまた、マルキムの昔の名を呼んだ。


「アルリーフ・ストラ・エクスハフ。略してアストラって、何で定着してもうたんやろな。レオンハルトをレオに変えるんは分かりやすいんやけど」


 あっはっは、と大声で笑うアル。まだ何となく獣人族との交流が抜けきれなかったマルキムが、それっぽく着けてしまったのだ。


「オメーの弟……虎口流の五代目はどうしてる」


「わしと違って師匠から貰ったカトラの名前で頑張っとるで」


 武道家の習わしで、免許皆伝と同時に武名を貰う。明確にルールが決まっているわけではないが、少なくともアルのところは虎口流にならってトラの文字が入るようにしてあるらしい。


「オレはSランクに戻るつもりはねぇ」


「言うてたな」


「……オメーもそうだろう?」


「そやなぁ。わしにも嫁さんも娘もおるしなぁ」


 あーん、とつまみを食べるアル。しかしその目が若干笑っていない。


「今日、何割出せた」


「全盛期の七割ってところやな」


 マルキムもそんなものだ。お互い、本気の装備じゃないことを差し置いても九割には届くまい。

 そこで、二人で視線をぶつけ合う。アホらしいことだと自覚しているが、お互い腕っぷしだけでここまで生きてきた人間同士だ。考えることは同じらしい。


「あれだけ舐められたらなぁ……」


「せやな」


 相手が自分より強かろうが、弱かろうが。

 鍛え方が足りないなど――言わせて捨て置けるわけがない。

 自分が、最強なのだから。


「わしらも歳のはずなんやがな」


「こればっかりは性分だろ」


「弟呼ぶわ。万が一のことがあってもあいつがおれば何とかなるやろ」


「後任はどーすんだよ」


「わしが両立出来んとでも思っとるんか?」


 それもそうだ。

 遠征に行かねば身体が鈍る一方だろうが、それはどうにかするのだろう。


「あー、くそ。なんやろなぁ、せっかくこう……熱いモンを消しとったのになぁ」


「覇王の件だってある。魔族の件だってある。……隠居してらんなくなっちまったな」


 二人でガツンとジョッキをぶつける。

 いつからだろうか、酒の席じゃないと……お互いの本音を引き出せなくなったのは。

 でもまあ、それもいいだろう。

 鍛え直して、再出発。

 こんな言葉こそ。いつぶりだろうか。

マルキム「あー、戦いてぇ」

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