261話 通報網なう
前回までのあらすじ!
京助「契約金の話とか、魔族のこととか……アンタレスの名士と会議を始めたよ」
冬子「京助にしては珍しく馬鹿話をあまりしてないな」
美沙「京助君を何だと思ってるのさ」
リャン「マスターは結構、小難しい話を嫌いますからね」
マリル「キョウ君、お金のこと全部私任せですからねー」
シュリー「ヨホホ、それだけ信頼しているということデス」
キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」
タローに渡された書類に目を通す前に、一応王都のこと、パインのことを皆に共有しておく。ついでに『先兵』や『眷属』の強さについても。
「ふむ……厄介やな」
「どの魔物もランクが一つ上がって、そこに知恵がつく感じなんだな。オレたちみたいなベテランならまだしも、若手は賢い魔物と戦ったことなんかねえだろ。どうするかな」
マルキムの言い方だと、魔物魔族以外にも知恵がある奴らがいるってことか。そういうのと魔族が合体したらどうなるんだろう。
「実際、精霊系の魔物同士の会話は観測されているからな。そうじゃなくても突然変異みたいに頭がいい魔物はいるぞ」
「なるほどね。まだまだ知らないことは多いなぁ」
「ミスター京助の話はギルドに報告書が上がっているし、その程度でいいだろう。先ほど私が渡した書類に目を通していただけるだろうか」
促された通り、数枚綴りになっているそれに目を通しながら俺は口を開く。
「今回の……たぶん『先兵』と『眷属』かな? その狙いは俺か」
「ああ。ミスター京助が生け捕りにした者と、村長に化けていた者。二体の話を総合するとそういうことになるな」
報告書には尋問で入手した情報、それを基にした考察、そして今後の対応について書かれている。
「俺も舐められたものだね」
「君のことを観察し、弱点を探るために今回の騒動を引き起こしたらしい。同様のことが起きていないか、今関係各所で調査中だ」
どれくらいの条件ならば『誰も受けないけど、ギルドに依頼として出せる』というラインを探る意味もあってあんな無茶な条件を出したのだろうと推測されている。
また隔離地域にする実験も兼ねていたのではないか、とも書かれている。こそこそやってたら、突然見つかるリスクを抱えることにもなるし。
それでも回りくどい気はするが……。
「俺以外のSランカーの周りでも魔族が潜伏していないか調べるわけか……いや、それなら『特筆戦力』を特定する方が急務じゃない?」
ふと、ギギギ……もといブリーダに最初に襲われた時を思い出す。俺とマルキムは特筆戦力、それを同時に潰せると言っていた。
つまり連中がこうして暗殺などを狙っているのは『特筆戦力』のはずだ。
「そもそも王都だって、『特筆戦力』である勇者――天川を狙って起こした騒乱だったはずだからね」
タローは俺の言葉にうなずき、パサッと報告書を追加する。
「そう言うと思って、現在分かっている範囲の『特筆戦力』のリストだ。とはいえ幹部格、つまり『血族』クラスでないと全員は知らされていないらしいな」
タローが渡してくれたリストを見る。そこにはズラッとSランクAGや、それに準ずる実力を持つ人間の名前が書かれていた。
『三叉』:キョースケ・キヨタ。
『猟鬼』:アトラ・タロー・ブラックフォレスト
『巨人』:セブン・ディアベル
『壊音』:エース・ファットン
『怪物』:ジャック・ニューマン
分かる人だけでもこれくらい。
「……この辺はSランカーか。何人か俺も知らない人がいるけど――」
『禿頭』:マルキム
「んふっ!」
「ぷっくぅうう! ぎゃははは! ま、マルキム! お、お前! ま、魔族にまで禿って言われとるやん!」
「この野郎! タロー! オメーが書き換えただろ!!!!」
「待ってくれ、ミスターマルキム。いや……ミスターオクトパス。それは誤解だ」
「オ! ク! ト! パ! ス! あはははは! ま、待って! 待って待って、わ、笑いをこらえられない! あはっははあ!」
「テメェら全員表に出やがれ! ぶち殺してやる!」
真っ赤になってブチ切れるマルキム、もとい禿頭。まるで茹蛸みたい――
「ぶふぁっ! あ、あははは!」
「いやいやいやいや、無理無理無理無理! これ笑うなって言う方が無理!」
「キョースケェ! お前は何でそんなかっこいい、カッコいい感じなのに……!」
「わ、わしは載っとらんな。いや残念や、これでも若い頃は……ぷぅぅぅ! こ、『金色』のレオンハルトが……! お、オクトパス……っ! ぷぅぅぅぎゃはっはは! ま、マルキム! 良かったやん、こんな、ぷっくぅぅぅ!」
腹を抱えて転がるアルリーフ。この中で一番付き合いが長いからか、容赦ないな。いや俺もタローも、何ならオルランドも一切容赦なく笑ってるけどさ。
「いやこれを笑わないでよく出せたね、タロー」
「私はその後半も知っているかな。いや流石に最初に報告書を貰った時は笑ったが」
タローにしては珍しく普通に笑いながら、トントンと報告書を指さす。俺も笑いながらそこを見ると――
『不可侵』:レオンハルト・マルキム
――と、マルキムの名が。
「……アンタッチャブル?」
「ミスターマルキムのかつての名、『金色』は覚えているだろう?」
愚問だ。
俺がコクリと頷くと、タローは笑顔のまま由来を解説してくれた。
「彼は誰にも視認できないほどの速度で戦場を駆け、残るのは軌跡のみ。彼がいたことを示すのは戦場に残された金色に輝く頭髪のみ。戦場で彼の姿を見た者はいない。形容するには残されたものから。それ故に『金色』とね」
マルキムってスピード系だったのか……。てっきりパワータイプとばかり。
「……あれ? でもそれって結局抜け毛が凄いって意味じゃない?」
「はっはっは」
笑って誤魔化すタロー。いや誤魔化されてないから。
……でも言われてみれば(俺は覚えてないけど)あの覇王と普通に斬り合っていたのだ。それはつまりあいつのスピードと渡り合っていたという意味で――
「――凄いね」
「私たちと同格、SランクAGなんだ。当然だろう」
改めて、マルキムはSランカーなんだと実感する。そして以前の彼を知っているのならば、どうして今のマルキムと区別しているんだろうか。
「別人って思ってるのかな」
「仮に同一人物だと理解していたら分ける必要は無いからな。もしくは深い意味があるのかもしれないが、私たちが関知することでは無いさ」
同名の人物なんてありふれてるしね。
まだ笑っていた皆も、少しずつ落ち着きを取り戻す。そして皆がある程度静かに話を聞ける体制になったところで、タローが改めて口を開いた。
「魔族の特筆戦力になっている人間には、既に通知している。周囲を探る動きがあれば魔族かもしれないな。しかし――」
一転して深刻な表情になるタロー。
「――何人かは既に連絡がつかない。幸いSランクAGは皆無事なようだが」
ピタッと空気が凍る。そりゃそうだ、魔族側の暗殺が成功してるってことなのだから。
「具体的にはどういう輩だ」
「ミスターアルリーフやミスターマルキムのような『元』Sランカー、もしくはAランクでも上位と目されている者など、数名だ」
マルキムの質問に答えるタロー。さっきまでげらげら笑っていたとは思えないほど張りつめた空気になるので、俺はちょっとだけ愛想笑いする。
「まあ、連絡が取れないって言っても別に殺されたとは限らないでしょ?」
「そうだな、遺体は発見されていない。遺体は、な」
含みのある言い方をするタロー。
「魔族ってゾンビを作る技術でもあるの?」
「オレは聞いたこと無いな。アルは?」
「わしも無い。しかし……」
タローはフッと笑って、次のページをめくるように俺達に言う。そこに書いてあるのは、『魔王の血』の効能について。
「『魔王の血』は死亡した魔族に取り込ませて魔物と合体させることが出来る。そうなったら見た目は魔族で心は無い――魔族型の魔物が出来上がるんだそうだ」
魔族型の、魔物?
やや混乱する頭で報告書を読む。『魔王の血』の実験として――ようするにマウス実験のような形で、死者を魔物にしていたんだそうだ。
そして現在は、魔物を操る(いわゆるテイマー系の魔法なのだろうか)能力を持つ魔族たちによって使役され、魔族の労働力となっている、と……。
「魔族が姿を変えてギルドに深く入り込んでいた事件もあった。魔族に洗脳された例もあった。しかしこれに関しては……操られているわけじゃ無くて、そういう生物になってしまうからな」
タローの言葉に皆が口をつぐむ。昨日まで仲間だった奴が洗脳される、ならまだしも別の魔物になってしまうわけだ。
似ているようで、この差は大きい。
「ある意味では洗脳以上に厄介かもしれないと私は思っている。ガワだけ一緒の魔物……と割り切って殺せるだろうか?」
その死者の知人なんかには絶大な効果を発揮するだろう。捕まえて回復魔法をかけても意味が無い。殺すしか方法は無い。
そう頭で分かっていても――ちゃんと割り切れる奴はそうそう多くないだろう。
「こうやって徐々に切り崩されて行くのは怖いぞ」
「そう、だね……」
俺が呟くと、オルランドがパサッと報告書を放る。
「話が逸れたわ。要するに、ギルドは特筆戦力として名が乗っている人たちにこの事実を通知した。そしてその上で……『身を隠して欲しい』とでも言った?」
コクッと頷くタロー。そんな彼を見て渋い顔になるオルランド。
「教えてちょうだい。何人が従ったの?」
その問いに、タローが肩をすくめて首を振る。
「お察しの通りだ。……我々は腕っぷしのみで成り上がってきたからな。実力者ほど、『むしろ倒してやる』という気概だったよ」
ああ……まあ、そうなるか。
せめて現役じゃなければ――と思ってチラッとマルキムとアルリーフを見る。彼らはいわゆる「一線を退いた」人間だ。しかし、その実力が衰え切っているわけではない。
「というかそもそも論として、彼らに付けられる護衛なんて存在しまい」
「まあね」
別にSランカーって協調性が無いわけじゃないと思うんだけどね、チームを組んで戦う人はそう多くないだろう。
「ちゅうてもな、ギルド側から出来ることもそれ以上は無いんや。とはいえ――」
「――魔族の強みは常識外からの奇襲だ。来るって分かってりゃ、だいぶ被害は減らせるはずだぜ。あと忠告を聞かない連中が死んでも責任は取れねぇ」
ドライだけど、マルキムの言う通りだ。
「まとめると……今回の事件はキョースケを監視、あわよくば殺害するために潜入していた。魔族は人族の強者を同じようにを狙っている。ギルドの対応は『特筆戦力』たちに魔族が狙っていると通知、と」
オルランドが報告書の内容をまとめ、ため息をついた。
「対応が後手後手ね。『特筆戦力』が皆街から出て行けば街は守れるかもしれないけど、根本的な解決にはならないしね」
そもそも、俺は今さらアンタレスから出ていくつもりは無い。
とはいえ、俺がいる限り魔族から狙われる危険性があるのも確か。今回だって村が一つ犠牲になっているからね。
「厄介やな、魔族ってのは」
「魔物に変身できる、人を魔物に変えて使役出来る、洗脳、変装、何でも出来る。そのうち人族が疑心暗鬼になってもおかしくねえ」
「むしろそれが狙いなのかもね。……はぁ、困ったわ」
ため息をつくオルランド。パンパンと手を叩くと、メイドさんを呼んだ。
「おかわりを」
「かしこまりました。よろしければ皆様もいかがですか?」
俺とマルキム、そしてアルリーフは残りをクイッと飲み干してからお盆に置く。一方のオルランドとタローは何もせずゆったり腰掛けたままだ。
「馬鹿正直に俺だけ狙えって言っても無理だろうしね」
「人質を取ることもなんとも思わないだろうからな」
タローの言う通り。
俺はポリポリと頬を掻いてから、改めて報告書を睨む。
「今回の件が失敗したからってすぐに魔族が攻め込んでくるとも限らないけど……」
「でも遅かれ早かれ、また来るわよ。見回りを強化するだけじゃダメね」
俺ならアンタレスを一日でパトロールすることも可能だけど、それじゃピンポイントで襲われた時に対応出来ない。
「ぶっちゃけ、俺らを狙いに来るなら何とでもなるんだよ――っていうか、俺らがやられるなら誰も対処出来ない」
これでもこの国の最高峰。俺達がやられるような相手に単身でどうしろって話だ。
「つまり周辺住民の安全の確保が課題なんだろ? 周辺の見回りは強化するとして……例えば狼煙を上げるとかして知らせるとかどうだ」
「狼煙じゃ即効性が無いわ。それに普通の村が、常に狼煙をあげられる状態を維持するのは難しいわ」
そもそも雨の日は使えないし、そう遠くまでは見えないだろう。
「私やミスター京助が気づければすぐ対処出来るが、そう上手くいくまい」
「しかもアンタレスの外周って小さい村多いからねぇ……中心部なら狼煙でも事足りるんだろうけど」
「市街地やったらわしらが対処出来るしな」
なかなか難しい問題だ。力業でどうにか出来ない系統の課題は苦手だよ、俺は。
「タローの木魔法でさ、報せを木から木へ……とかできないの?」
「それを言うならミスター京助、君の水魔法で地下水脈などを使ってアンタレス全域を監視できるのか?」
見事なカウンターで論破される。仰る通りで。
「まさかずっと雨降らせてAmDmを使うわけにもいかないしな」
常雨の街って、響きはちょっといいけど住みたくはない。そもそも俺の魔力ももたない。この案も却下だ。
「せや、ギルドにある書類転送魔道具を各村に設置するんはどうや」
ああ、そういえばそんなものもあったな。手紙を転送する魔道具。転移魔法の応用なんだろうけど。
「高いわ。そもそもギルドでも使用に制限がかけられているでしょう? 一つ送るのに相応のコストがかかるのよ。アンタレスの税収が低いわけじゃ無いけど、そんな余裕はないわ」
現実的な返答をするオルランド。そもそもあの転送の魔道具もメールみたいにパッと飛ぶモノじゃなくて、FAXみたいに少しラグがあるもののはずだ。
「周辺に知らせることが出来て、且つオルランドやギルド、後は俺とかマルキム? に連絡が行くシステムか……無理じゃない?」
思わずそんなことを言ってしまうが、誰からも非難の声は出ない。皆も薄々そう感じているのだろう。
「あ、ごめんね。マルキムの前で『薄々』なんて言っちゃって」
「だからオレは薄くねぇ! 剃ってるだけだ!」
よく考えたら薄いじゃなくて無いだもんね。
「テメェさらに失礼を重ねてるだろ」
なんのことやら。
(う~ん……)
こんな問題、すぐにアイデアが出てくるようなものじゃない。しかし、だからと言って会議が停滞するのは駄目だ。ブレインストーミングのようにアイデアを取りあえず出さないと。
そう思って俺が次の言葉を発そうとしたところで――
「キョースケ、お願い」
――オルランドが何故か俺に水を向けた。
「持続可能性はこの際、考慮しなくていいわ。貴方がいないと実現出来ないっていう物でもいい。今、解決策が欲しいわ。領民を安心させるためにも。これは依頼よ」
ふむ。
極論、延々と雨を降らせてAmDmを使ってもいいということか。
「依頼なら仕方ないね。……まあ、Sランカーが四人いるんだ。ちょっと考えてみるよ」
暗に『全員協力してね』と言ったのだが、誰からも異議は唱えられない。それならば、心強いね。
それなら……切札を切ろう。俺の手持ちで、最もチートな力を。
「よし」
俺は立ち上がり、くるっと回転して『パンドラ・ディヴァー』を取り出す。そして座り直してから、脳内でヨハネスに声をかける。
(知りたがりの悪魔。力を貸して? 報酬は……そうだな、お掃除ロボットについて、でどう?)
(カカカッ、イイダロウ。久しぶりダナァ!)
確かに『知りたがりの悪魔』に訊くのは久しぶりだね。
(ツッテモ簡単ダゼェ。キアラがこの前覚えた結界を応用スレバイイ)
王都動乱の際に魔族から盗んだアレか。どう使えと。
(百聞はナントヤラダ。脳内にイメージを渡すゼ)
そう言ったヨハネスから、ぶわっと映像が送られてくる。
まず各村に、音魔法を発射する魔道具を設置する。
何か危険がせまったら音魔法を発射。中継地点に到達したら、増幅、反射の結界で勢いを元に戻して次の中継地点へ。
以下繰り返して、アンタレスのギルドなりなんなりへ。
(音魔法である必要は?)
(音魔法を使った方が、少ない魔力でヨリ遠くマデ飛ばせルンダ)
なるほど。
(途中で遮られたり、魔物にぶつかったりしない?)
(試行回数を上げルシカネェナァ。一度に十発でも出せるヨウニスレバ問題ネェ)
(資金の問題とメンテナンス、後は魔物に壊されない?)
(大した額にはナンネェヨ。ソンナニ難しい魔道具ジャネェカラナァ。メンテナンスはギルドと連携を取るシカネェナ。魔物ハ結界でカバーダナァ)
結界でカバー、か。俺とキアラ、森の中だからタロー。三人で頑張ればそこそこ強い結界を張ることは出来るだろう。
俺達が一度張れば、後は魔魂石を常時供給するだけで結界は維持出来るしね。
(マ、一つ二つ壊さレテモ大丈夫ナヨウニ配備スリャ良い。コレデ仕舞いダ)
仕事は終わったとばかりに黙り込むヨハネス。脳内に送られてきた図面を書き起こしつつ、俺は皆の方を見る。
「なんとかなりそうだよ」
「いやそもそもお前、なんでいきなり槍を出した!?」
「まさか私の前で武器を出すなんてね……不敬を通り越して笑っちゃうわ」
「わっはっは。アレやな、大物ってレベルや無いな」
「ミスター京助、後で説教だ」
「あ」
完全に忘れてたけど、そういえば伯爵様の御前だった。ヤバいヤツじゃん俺。
「しかもなんで槍を出したらいい案が思いつくのよ」
「そういう体質なんだよ」
「特殊過ぎるやろ!」
ビシッとアルリーフにツッコミを入れられる。言われてみれば確かにシュールだったな……。
俺は苦笑しつつも、取り敢えずヨハネスが教えてくれたことを皆に伝える。
「つまり最初の音魔法を発生させることさえ出来れば、後は自動でアンタレスまで通報される、ってわけね」
「そういうこと。ちなみに予算はこんなもん」
俺が設計図の端っこに推定額を書くと、オルランドはピクッと頬を引きつらせた。
「……ギリギリね。仕方ない、領債を発行してうちの商会で引き受けましょう」
「それなら私の懇意にしている商会にも声をかけておこう。アンタレスの財政状態を考えれば相当額を引き受けてもらえるだろう」
「そう? ありがとう」
……リョウサイ? 良妻じゃないだろうし……なんだそれは。
俺が頭にクエスチョンを浮かべていたからか、オルランドが苦笑する。
「また今度説明してあげるわ。はぁー……仕事増える」
「通報後の対処についても考えないとな」
「せやな。メンテナンスのマニュアルが出来たらそれも周知せなあかんし。こっから結構しんどいで」
「では結界の打合せをしておこうか、我々は」
「そうだねぇ」
各々の活動指針が見えてきたところで、パンパンとオルランドが手を叩く。
「では解散ね。また進展があったら招集をかけるわ」
タローとマルキムの方を見るオルランド。彼らもこくんと頷いた。暫くはアンタレスにいるつもりなんだろうな。
「あ、キョースケ。約束のお茶よ、これ」
メイドさんが持ってきた紙袋を受け取る。俺はニコッと笑みを浮かべてお礼を言った。
「ありがとね」
マリルは喜んでくれるだろうな。
俺はそんなことを思いながら、窓から外に飛び出るのであった。
「コラ! キョースケ、お行儀が悪いわよ!」
……背後で叫ぶ、オカマから逃げるように。
オルランド「領債っていうのは、簡単に言うと借金よ。ただ、普通の借金と違って引き受けてくれた人に年間で何割ってお金を渡す感じね。決められた期限になったら、元のお金を返して債権は満了って感じ」
京助「……? 結局、何をしたいのそれがあって。だって、それをたくさん出しても最後に払えないと意味なくない?」
オルランド「ま、これがどうなるのか……は、今度話すわね」
京助「(はぐらかされた)」




