258話 戒めをぶっ飛ばせなう
前回までのあらすじ!
京助「また魔族だよ」
冬子「こら京助!」
リャン「ほんとですよ、マスターがせっかくイーピンを教導している最中だったというのに」
美沙「京助君って戦闘のこと以外教導出来ないんだね」
シュリー「ヨホホ、そうは言ってもまだまだ新人デスからねぇ」
マリル「魔族ですかー……シェヘラがまた頭を抱えそうですねー」
キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」
「魔族!?」
イーピンは驚いて剣を取り落としそうになる。魔族どもはそんなイーピンを見て、心底不快そうに舌打ちする。
「チィッ! バレるのが早い! もう少しだったんだがな!」
「まあ、いい。ここでこいつらを殺せば何ら問題ない。仮に強くとも、人族の基準でBランク程度だ! やるぞ貴様ら!」
『グウラララララアッァァァァァ!』
あの畑に三人分の足跡があった。そのうち二人は、この魔族二人だったのだ。
(よ、よし……!)
驚き、剣を構える。ここでこいつらを倒せば大金星だ、誰も我慢を強いてこなくなる。
そう、魔族を倒したら『異名』ももらえるかもしれない。そうすればCランクを飛び越えてBランクAGになれるかもしれない。
キョースケと一緒だ、この年齢でBランクAGに……
(あ、う……あ……)
足が、震える。
目の前の魔族二人と、ソードクリアズリー。その纏う魔力を見て、竦んでしまう。
だって、ヤバい。明らかにヤバい、人族の国に入り込んでくるなんて相当な腕利きだ。勝てるのか? いや、勝たないといけない。
(勝って、ボク、はもう誰にも……誰にも、馬鹿にさせない! だから、だから動けよ、ボクの足! 動いてくれよ、頼むから! ボクは、ここで、こいつらを倒すんだ!)
脳の命令を、身体が拒む。本能が拒絶する。
ここで、戦ったら――死ぬ、と。
それが、そうなって、だから、だ、から。
「死ね!」
そう叫んだ魔族の、四肢が吹き飛んだ。
「「「え……?」」」
イーピンと、魔族の声が重なる。
「取りあえず一匹、生け捕りにしとくか」
状況について行けない魔族が、ようやく驚きに目を見開いたところで――キョースケの腕が、その顔面を掴んだ。
「寝てろ」
ブッ! と、残像が出そうなスピードで敵の頭を揺らすキョースケ。魔族は直接脳を揺らされたからか、四肢を失った状態で失禁しつつ白目を剥いた。
一瞬の出来事で、何が起きたか状況について行けない。
「ぷはっ、はっ! はっ、ひゅー……はっ、ふっ……」
息を吸い込む。さっきから碌に呼吸をしていなかったらしい。呆然としつつも、何とか剣を握りなおす。
「なっ……き、貴様ァ! よくもバノバンを! ぶるるるるらぁぁぁぁ!」
ソードクリアズリーの上に乗っていたもう一人が飛び降りると同時に、その肉体が変化していく。アックスオーク――に、翼の生えた形状。まるで伝説に出てくる合成獣のような姿だ。
『ブルルルルラァァァァ! 殺してやる!』
咆哮。同時にソードクリアズリーも動き出した。どちらも内包する魔力量が桁違い、圧倒的だ。
息を吸い、足を踏ん張る。大丈夫、震えは止まった。動ける!
「うおおおお!」
勢いをつけるために叫ぶが――それよりも先に、突風が吹いた。
「神器解放――喰らい尽くせ『パンドラ・ディヴァー』」
『ブルァ……ッ!』
シュキルルルィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!
聞いたことの無いような音を立てて、羽の生えたアックスオークが細切れになる。誓ってイーピンは瞬きしていなかった。それでもなお――まるで時間が飛んだかのように、気づけばアックスオークが細切れになっていた。魔魂石だけ、風で包まれた状態で。
「生け捕りは一人でいいからね」
『なぁっ……!?』
太陽を背に、風を纏って飛ぶ男。
圧倒的な力で、魔族を瞬殺した。
これがアンタレスの支配者――
「『流星』の……キョースケ」
――イーピンが呆然と呟いた瞬間、ソードクリアズリーがハッとした表情でキョースケを見上げる。
『嘘だろ……ッ!? 『三叉』は、こんなチンケなクエスト受けられないはずじゃ……!』
「へぇ、うちの国のルールを良く知ってるね。……ま、ちょっと今回は特別な事情があったんだ。おかげでマリルに可愛いバッグを買ってあげなきゃならない」
肩をすくめるキョースケ。ゆったりと、まるで普通の人間のように笑う。
しかしその目は確実にソードクリアズリーを射抜いている。絶対に逃がさないという、強い意志を持って。
「あの村に人がいないのは、君らのせい? ……って、聞くまでも無いか。命乞いなんてしないでよ? 冬子と約束しちゃってるから」
キョースケの片目が紅く、妖しく輝く。まるで血をすすり、嗤う悪魔のように。
『なら……テメェを人質にしてやる!』
ソードクリアズリーは身を翻すと、イーピンに向けて走ってきた。物凄いスピードで迫る巨体。
四足歩行で頭に付けた剣でイーピンを串刺しにしようと突っ込んでくる。
「――――舐めるなァ!」
剣に熱を纏わせる。蒸気で体を加速させる。
負けてたまるか、ここで、こんなところでやられてたまるか。
「ボクは貴様を倒して……ランクを上げる……誰にも、我慢しろなんて言われなくなるんだ!」
叫び、こちらも逆に突っ込んだ。そしてソードクリアズリーの剣を躱し、横から剣を振り抜く。
だが――
「き、消え……!?」
『こっちだ!』
――いきなり透明になったソードクリアズリーが、横から現れた。そうだ、こいつは体の透明度を操作できるんだ。
それを思い出したところで遅い。何とか剣で受けるが、吹っ飛ばされてしまった。
「カハッ!」
『さて捕まえたァ!』
立ち上がり、イーピンを抱きしめようと両手を広げるソードクリアズリー。尻もち付いたままでは、避けられない。
「くぅっ!」
地面の土を掴み、投げつける。何とかそれを目に当てて、敵の視界が一瞬悪くなった隙にその場から転がり立ち上がった。
(おかしい……)
動きがいつもより鈍い。
敵の攻撃が、いつもより痛い。
そもそも戦いづらい。
何故――
「さ、サリ――」
『今度こそ!』
――何とか次のチャージングを躱す。そしてやっと気づく、今の自分は一人で戦っているのだということに。
サリルが攻撃を受け止めてくれない。
ケヴィンが遠距離から敵を削ってくれない。
ガリアが敵の意識を逸らしたりしてくれない。
キルスからの回復も、バフも無い。
今の自分は一人、一人なのだ。
(こ、このシチュエーションこそボクが望んでいたもの! ……そうじゃ、無いのか!? ボク!)
それに気づいた瞬間、手が震えた。足が震えた。
だから、一歩踏み出せなかった。
そのせいで――
『ガハハハッ! 捕まえたァ!』
――ガシィッ! とソードクリアズリーに捕まえられてしまった。腕が動かせない、剣を振るえない。
「あ、は、離せ! 離せ! やめろ!」
この距離じゃ魔法剣を使えない。魔法剣が使えなければ、こいつに攻撃できない。殺される、やられる、マズい。
『ガハハハッ! さぁ『三叉』! こいつの命が惜しければ、武器を置け!』
ソードクリアズリーが勝ち誇ったようにそう叫ぶ。しかしキョースケは動かない。動かず、冷たい目で――イーピンを射抜いた。
「イーピン! 武器に拘るな! 柔軟に思考しろ、柔軟に手札を持て! ありとあらゆる状況を想定しろ! 剣が効かないなら魔法、それでもだめなら体術! それでもだめなら逃げる! 考えろ、落ち着け! 諦めるな!」
――何ともまあ、抽象的なアドバイスだ。
しかし、ハッとなる。そうだ、この状況でも魔法は使える。
「……『淡き渦の力よ。魔法剣士たるイーピンが命令する』……ガァァァぁ!」
『本当に殺すぞ! って……こ、こいつ何か丈夫ってか、潰せねぇ……!』
締め付けが強くなる。意識が薄れてくる、マズい、死ぬ。
(呪文、呪文……どうすれば……!)
呟きながら、ふと思い出すのは先ほどのキョースケの姿。風を纏い、高速で移動するその姿。
もしも、アレが出来たなら。
イーピンでも、あれが出来たなら――
「イーピン!」
――キョースケの声。
「俺の魔法は『ストームエンチャント』だ! 叫べ、イーピン! 越えろ! もう誰にも我慢させられたくないなら――自分を戒めてるそいつを、取り敢えずぶっ飛ばせ!」
「うわあああああああああああああああああああ!!!! 『この世の理に背き、我を戒める魔物を殺す熱の鎧を! ヒートエンチャント』!」
『職魔法』、『ヒートエンチャント』を習得しました
じゅうううううう!
いきなり肉の灼けた匂いが辺りに立ち込める。その瞬間、ソードクリアズリーが自分の戒めをほどいた。
『ギャアアアアアアア! あ、熱い! 熱い! テメェ、テメェ! 何しやがる!』
「うわああああああ! お前なんかに、負けない!」
剣を振り上げる。しかしソードクリアズリーも動く、頭の剣を振り上げ、そのまま巨体から振り下ろしてきた。
コンマ一秒の交錯。振り上げるイーピンと、振り下ろすソードクリアズリー。どちらの方が速いかなんて明白で――
「ああああああああああああああああ!!!!」
――ザシュッ!
ソードクリアズリーの首にイーピンの剣が突き刺さる。そしてそのまま、『職魔法』を唱える。
「『淡き渦の力よ。魔法剣士たるイーピンが命令する。この世の理に背き、我が剣を加速して敵を一瞬で葬り去れ! スチームイグニッションソード』ォォォォォォォ!!!!」
カァァァァァァァァァァァァァァァ! と、人生で最大の輝きがイーピンの剣に灯る。突き立てられた剣をそのまま横に振り抜く。肉を、断つ。
「ああああああ!!!」
斬!
血飛沫が舞わない、肉が灼けて断面が焦げているのだ。
首を落とされたソードクリアズリーが倒れこむ。身動き一つせず――溶けもせず。
「あ、はは……ま、魔魂石も……と、れた……」
イーピンもその場に膝をつく。頭がくらくらする――魔力を使い過ぎたらしい。そのまま地面に倒れこみ――
「おっと。……ナイスファイト、イーピン」
「……あ、はは」
――キョースケに、抱き留められた。
「寝ときな。まだ多分、後始末にもう少しかかる」
「は、い……」
キョースケのありがたい言葉にうなずきつつ、意識を手放す。
確かな充足感と、満足感を持って。
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俺が初めてアックスオークを倒した時は、血塗れになってたっけ。
泥汚れ以外ない、ある意味綺麗な体で寝転がってるイーピンを見ながらそんなことを思う。
「はっ!」
「おはよう、イーピン」
「……日が、沈みかけてませんか?」
「それでも起きたならおはようでしょ」
時刻は夕方。
イーピンがまだ目覚めない可能性を考慮して、薪を集めていたところで彼が目を覚ました。
「あの後、結構大変だったんだよ? たぶん、ギルドに戻ったら報告書地獄だから覚悟しといてね」
「はぁ……」
俺の推測通り、村人は全員殺されていた。オルランドの領軍とアンタレスに駐在している第二騎士団が調べた結果、村人全員の死体と身元が一致した。
偽村長は俺が連絡を取ってすぐ、冬子たちが捕まえた。案の定魔族だったらしいが、今は全ての魔力を失って全身の骨が砕けた状態で捕縛されているらしい。お前ら何やったんだよ。
魔族の目的は推測しか出来ないが……恐らく、俺の調査がメインだろうと思っている。AGがランクによって受けられるクエストが違う、みたいなことも知っていたから……今後のことも考えた実験だった可能性もある。
何にせよ、ヨダーンのように長期的に潜入することが目的じゃなかったのは確かだね。
「どれくらい……寝てましたか?」
「三時間くらい?」
昼過ぎにこっちについてから、今は夕方だから……もう少し寝ていたかもしれない。起き上がった体勢でボーっとしているイーピンに、フッと笑みを向ける。
「お疲れ様。どう? 初めてCランク魔物を自分一人で倒した感想は」
そうやって問うと、イーピンは……どこか気恥ずかしそうな笑みを浮かべた。
「最後の瞬間、キョースケさんが止めたんでしょう? ソードクリアズリーの動きを。……じゃないと、ボクの剣が先に届くなんてあり得ませんから」
あれ、気づかれてたのか……。
俺はポリポリと頬を掻く。アレは結構上手くやれてたつもりだったんだけど。
「そもそも、単独なら捕まった時点で殺されています。……足りないものを、思い知りました」
「あれ、『あんなことされなくても倒せました』くらい言われるかと」
というか、それを言われたところからどう話すか……って組み立てていたのに。
「いえ……本当に一人で、対峙してみて知りました。ボクは……本当に、常にフォローされていたから戦えていたのだと」
自分でそれに気づくとは、思ってなかった。
やっぱり、イーピンは何か変だ。
「昼も言ったけど……何かサリルから聞いてたイメージとか、昨日いきなり喧嘩を吹っかけた君と今の君、全然印象が違うんだよね。……何で?」
「何で、と言われましても……」
もっとはねっ返りというか、一切人の話を受け入れないタイプを想像していた。実際、ギルドで喧嘩を売った時なんてただのキチガイだと思ってた。
「言い方に問題はあったけど、まあ飯が終わってるからどけ……は、理解できないことは無い。その後だ。抜剣する必要は無かったよね?」
そう問うと、イーピンはキュッと唇を噛んだ。
「だって、我慢しろって。ボクはもう我慢したく無くて。サリルも、皆、ボクより年上はいつもそう言うんだ。我慢、我慢って」
我慢、我慢か。まあお前から喧嘩吹っかけたと思うけど。
「強いから、ボクは強いからAGをしてるんです。だから、負けちゃいけないし、我慢だってしたくない。強くあり続けないと、やっぱり我慢を強いられる。強いことだけが、ボクが我慢しなくて済む唯一の方法だから」
独白するように、自分に言い聞かせるようにそう呟くイーピン。
「我慢したくない、自分で好きなように生きたい。だから……何かで押さえつけるように『我慢しろ』って言われるのが嫌なんです」
そう言ってイーピンが語り出したのは……思っていたより過酷な半生。金持ちの道楽かと思いきや、切羽詰まっていたようだ。
「指南役のAGは、剣の振り方を教えて貰ったので片腕は勘弁してやりました」
「AGは廃業だろうけどね。それにしてもまあ……着替えの最中に襲うって。殺意剥き出しじゃん。よく剣を持ってたね」
「あまりに酷い仕打ちだったので、常に小剣だけは懐に忍ばせていたんです」
曲がりなりにも指南してくれていた人間の腕を、小剣で斬り飛ばす辺りイーピンのセンスは高いと見るべきか。
「何でそいつは君を襲ったんだろうね」
「日頃から貴族に対していい感情を抱いていないようでしたので。日に日に強くなるボクに嫉妬でもしたんじゃないですか?」
自意識バリバリなセリフを吐くイーピン。とはいえその線か、後は痛めつけて恐怖を植え付けた上で自分の言うことを聞くようにしたかったか。
正解は分からないけど、どのみち碌な想いはそこに無かっただろう。
「じゃあ後、キルスティンの寝所に忍び込んだ件は? 何かその話を聞いてる限り、彼女を襲う必要性を感じないんだけど」
そう訊いてから、ふと今日の彼の身のこなしを思い出す。キルスティンは毎度ぶっ飛ばしてると言っていたが……
「君の実力ならキルスティンくらい簡単に組み伏せそうなものだけど……」
「だって無理矢理そういうことをしたら犯罪じゃないですか。でも強いAGは女性に誰彼構わず手を出すと聞いたので、ちゃんとやっておこうかと。あと……アトラさんから、キルスなら冗談で済ませてくれると」
何言ってんだこいつ。
「タローに狙っていた人、全部寝取られて意気消沈したって話は?」
「……アトラさんに『強いAGは女性に誰彼構わず手を出すものだと聞いたのでそうしてます』と言ったら、『それで相手に本気にされたらどうする。君は貴族だろう? 平民と付き合っても良いのか?』と言われてしまい……」
ええ……?
ガチで困惑しているけど、要するに……。
「ええと……強くないと我慢しないといけない。強くないとAGでいられない。誰かに我慢を強いられたくない。強いAGらしいことをしたい。……こういう行動原理でOK?」
コクリと頷くイーピン。
「だから魔物からも退きたくなかった、と」
「はい。キョースケさんは一度も撤退していないと聞いたので。強いAGとはそういうものかと」
「いや、俺だって撤退したことはあるから……ああ、そうだなぁ」
俺はうーんと腕を組む。
要するに『強いAG』と言われている俺の行動をトレースすることで形から入ろうとしていた、と。
そしてそれに加えて本人の我慢したくないという信条が合わさってあんな行動になっていたわけか。
理解……まあ、理解出来ないことは無い。ただまあ、この二つなら『撤退の重要性』を教えるよりも、はるかに俺の経験から話しやすい。
「よしイーピン。君が思う『強いAG』である俺のイメージを三つほど上げてくれ」
「え? えーと……一度も負けず、退かず、誰のチームにも入らずSランクまで駆け上がった。領主を追い落とし、後から来た領主と同盟を結んでアンタレスの実質的な支配者にのし上がる。強いという一点のみで大商会を破壊しても、誰に何を言っても許される。六人の妻に、愛人が三人。ムカつくという理由だけでアンタレスの亜人族奴隷を解放した……こんなところですか?」
思ってたより俺のイメージが最悪だった。もっと優しい男の子だったよ、自分のイメージは……。
もっと別の話をしようと思っていたのに、出鼻をくじかれた感じになってしまった。まあいいけど。
「えっと、その誤解から解かせてもらっていいかな……」
というわけで今度は俺の半生を語らせてもらうことになった。というか、AGになってからの出来事を……だけど。
というかアンタレスの支配者ってどういうことだよ。
「とまあ、そういうわけで君のイメージとはだいぶ違うと思うんだけど……俺は『強いから』って動機で何かをしたことは無いってこと」
「でも、それらが許されているのは強いからでは?」
間髪入れずに問うてくるイーピン。それはまさにその通り。
「だからぶっちゃけ、俺からそれを咎めることは出来ないんだよねぇ。でも、そのまま行けば……俺にとっての覇王と出会うことになる」
イーピンの目の色が変わる。
「あの時、俺が生き残れたのは……友達がいたから、助けが来たから。俺に残っていた一握りの社会性が、俺を助けてくれた」
つまり、それがオルランドやタローが言っていたところの『信頼』の力。
人を動かすことが出来る『武力』、『財力』、『権力』の三つの力。それを本当の力にするためのもの。
「イーピンにとっての覇王がいつ来るのか分からないけど、今のままじゃ生き残れないと思うよ」
同時に思い出すのは、サリルが『Bランク』を諦めた日のこと。俺もサリルも、生き残った。それは間違いなく『信頼』の力があったから。
俺はもっと強く。
サリルは、もっと強かに。
選んだその後は違えど、その状況で生き残れたのは単純な『強さ』や『運』以上のことがあっただろう。
その話を、サリルはイーピンにしてあげていただろうか。
「…………」
そろそろ日が沈む。
薪の用意をした方がいいだろう。
彼を使い物にするには――もう少し、話をした方がよさそうだから。
シェヘラ「ふぇえぇぇえええええ!!!! な、何でこんなことになってるんですかぁぁぁああ!」
タロー「君はいつも苦労が絶えないな」




