245話 一緒に戦って? なう
前回までのあらすじ!
冬子「京助が勝った!」
リャン「流石はマスターです。魔物のような強さのジャックをあっさりと倒すとは」
京助「別にあっさりじゃないさ。強敵だった」
シュリー「ヨホホ……まるで魔物をその身に宿しているような戦い方をする人でしたデスね」
キアラ「実際にそういう『職スキル』ぢゃったんぢゃろうな」
美沙「でも何で最後、負けた方がアドバイスを送ってたんだろうねー」
マリル「指導者もやってるからじゃないですかー? それでは本編をどうぞー」
「あー……疲れた」
俺が自分の控室の方へ向かうと――そこにはマリルとキアラの姿が。やっぱり激闘の後は皆の顔を見るとホッとするね。
同時に、ガクッと膝が折れる。あー……ヤバい、気が抜けたら意識持って行かれそう。
「タローは早々に去ったぞ。また後でホテルに訪ねると言っておったが」
ぼぅ、と俺の身体が緑色の光に包まれる。キアラの回復魔法だ。同時に体力も回復してくれているらしい。
ホッと一息……あのまま立ってたら絶対に気絶してたね。
「ありがと。……あれ? 皆は?」
よく見れば――よく見ずとも、冬子たちがいない。自惚れるわけじゃないが、皆出迎えてくれると思い込んでたもので、少々拍子抜けする。
「なんかミサさんがお手洗いに行ったんですけど、妙に遅いって言って皆が迎えに行ったんですよー。もしかすると女の子の日かもしれませんし、キョウ君は控室で戻りましょー」
女の子の日、とか言われちゃうと俺は何も言えない。っていうかこっちの世界でもそういう隠語なんだ。
「ん、分かった。じゃあ控室に行こうか。あそこ汗臭いけど」
「慣れてますからー。もしくはキョウ君にくっついておけばキョウ君の匂いしかしないわけですしー」
「俺が一番臭いと思うけどねぇ」
苦笑しつつ活力煙を咥えると――マリルがマッチを取り出した。
「あれ? いいの、吸って」
いつも通りの活力煙を仕舞うところまで脳内でシミュレーションしていたのに。マリルは何か優しい笑みを浮かべて、俺の頭をよしよしと撫でた。
「そりゃ今日はキョウ君、頑張りましたからー。その代わり、私が煙たくないようにしてくださいねー」
「ありがと」
彼女に火をつけてもらい、俺は煙を深々と吸い込む。
「ふぅ~……あれ?」
そこで俺は、ふと魔力の増加に気づく。美沙の魔力だ。まさか何かあったのか? そう思った俺は『パンドラ・ディヴァー』を取り出す。
「マリル、君は控室に戻って――」
「阿呆。お主も一緒に戻っておれ」
パチン! とキアラのフィンガースナップ。いつの間にか俺たち三人は控室に転移していた。
「何するの、キアラ」
「妾達で対処出来ぬ場合、改めてお主を呼ぶ。お主は自分でも思った以上に疲れておるんぢゃ、休んでおけ」
「いやでも――」
「でもぢゃないわ。そもそも、お主が感じ取ったのは美沙の魔力だけぢゃろ?」
頷く。今シュリーの魔力も膨れ上がり、冬子とリャンの気配も増大した。
しかし敵が一向に見えてこない。
「つまりその程度の敵ということぢゃ。休んでおれ」
「……でも、冬子が」
「あん?」
キアラが俺の頭を掴み、グリグリする。
「わーらーわーが信じられんのか? ほれ、休んどれ」
パチン、キアラが指を鳴らす。
次の瞬間――キアラは冬子たちのところへ転移したようだ。いなくなったキアラの方を見ながら、俺は活力煙の煙を吸い込む。
「……強引な手段に出たなぁ」
「そうですねー」
「……マリル、俺の上にのしかかって押さえつけなくても行かないよ?」
「あ、そうですかー?」
俺は素数を数えて煩悩を締め出しながら、マリルを横に降ろす。
「あ~……」
「心配ないと思いますけどねー」
暢気なマリルの横で、俺は二本目の活力煙を咥えた。
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「はぁ……凄い戦いだったなぁ」
異世界なのに水洗トイレがある、ということに違和感を覚えなくなったのはいつ頃からだろうか。それでもシリウスの高層ビル群には驚いたが。
「まるで八重洲口みたい。この試合場だって普通に現代的な建物だし……何でこんな風になってるんだろう」
電気は無いが魔力がある。美沙ですら魔法を使えば東京ドームの広さくらいなら凍土にする自信があるのだ。高層ビルを建てるくらい朝飯前なのだろう。
それにしては発展の仕方に差異というか、偏りがあるようだが。
「ん~……キアラさんに聞けば分かるのかなぁ」
美沙はこの辺のことが結構気になるタイプだ。割とどうでもいいことを考えて一日が過ぎたりしている。
「どうでもいいことと言えば――何で、皆……私をチームに入れてくれたんだろう」
京助が入れると言ったから――究極的にはそうなのかもしれないが、もう少し反対というか、反論があって然るべきだったんじゃなかろうか。
京助の性格を完全に把握しているとは口が裂けても言えない。言えないが……それでも、彼が優先順位をつけるタイプの人間であることは理解している。
もしも、チームメイト全員が反対すれば美沙をチームに入れることはしなかっただろう。積み重ねた時間は彼女らの方が長いし、美沙はあくまでポッと出の人間。半魔族の一件だって、彼が本気になれば隠し通す方法なんていくらもあったはずだ。
(それに……皆、かなり本気みたいだし)
何より、美沙は完全なる恋敵だ。彼女らからすれば一人でもライバルが減る方がいいだろう。一人に絞らない――ハーレムエンド状態だったとしても、一人増えたらその分一人にかまう時間が減るのだ。
それを許容してなお、何故自分を入れることに賛成したのか。
(京助君が私を好きにならないと思ったから?)
これが現実的な線だろう。しかし、それでも万が一の芽を摘みたいのが人間というものだ。入ってからいじめて自分から抜けるように仕向ける――ということもせず、普通に接してもらっている。ご飯とかも普通だし、普通にいじったりいじられたりしてくれるし。
(なんか流れでここにいるけど……やっぱり私だけが異物だよね)
既に出来上がっている関係の中に、その中心人物が好きだと言って入っていく女。地雷女に他ならない。
でも、彼女らは受け入れた。唯一ピアさんだけが少し怪訝そうな顔をしたが、すぐにいいだろうと考えを改めた。
何でだろうか。
「はぁ、まあいいか」
首を振って思考を打ち切る。この『何故』に関しては考えたところで無駄――むしろ考えない方がいい気すらする。
「どうせハーレムエンドだろうし」
あのメンツの誰かを京助君が振るとは思えない。日本であれば――一人に絞る必要がある。そういう法律なのだから。
でも、ここはありがたいことに異世界。特に一夫一妻制の法律は存在しない。だからあの時のような気持ちを味わう必要は無いのだ。
どちらか一人を選ぶように迫る必要は無い――
「ふん、ふふん、ふん」
手を洗いながら鼻歌が漏れる。そう、京助君は一人に絞る必要は無い。ただ一人一人を選んでいけばいいのだ。妻にすると、選んでいけばいいのだ。
確かに一人一人にかまう時間は減るかもしれないが……ぶっちゃけそんな毎日イチャイチャしていたらお互い疲れるだろうし、ちょうどいいんじゃなかろうか。
「れっくれすふぁいあ、そうだいたんに、たまーしいーに、ひーをつけろ……えっと何だっけ」
歌詞を忘れた。何だったか。
「えーと……いまはわーからーなーいこーとばーかりだーけどー、しーんじーるこのみちをすーすーむだーけさー」
諦めて別の曲に。京助君は知っていそうだが、冬子ちゃんは知っているだろうか。
熱い懐メロのサビ縛りでひとしきり歌い、最後にカサブタをちょっとはがしたところでトイレから出ると……
「あ、ああ……あっ、ふぅ……ああ……」
「へ?」
何故か、うずくまっているツインテールの女の子がいた。苦しそうに胸を押さえ、プルプルと震えている。貧血だろうか。
「あのー……大丈夫ですか?」
思わず声をかけると、彼女は震える手でポケットから巾着袋を取り出す。どうも中には錠剤が入っているらしい。
「あ、はぁあ……も、もう……八個しか……無い……無くなったら……無くなったら、斑点が消えない……ああ、ああ……ふはっ、で、でも……でも、だい、じょうぶ……」
プルプルと震える手で錠剤を持ったツインテールは、ギョロリと美沙の方を振り向いた。その目はまるで野獣のようで――
「え? あ、あの」
「こん、なところで、きれるなんて…………!」
血走った眼で美沙を捉えると、狂気の笑みを浮かべるツインテール。流石に尋常じゃない様子に美沙も焦る。
「ちょっ、本当に大丈夫で――」
がぶっ、ごっくん。
手にあった錠剤を飲み込んだツインテールは、すーっ……と態度を鎮静化させていく。でも、さっきまでの狂ったような笑みから唐突に真顔になるものだろうか。
「えっ……と。その、お薬が……少ない、んですか?」
「ああ、大丈夫。大丈夫、確かに残り少なくなったけど……」
べろ、と舌を出すその女の子は――いきなり、剣を振り抜いた。ニィッと邪悪な笑みを浮かべて。
「へ?」
その笑みをどこかで見たことがある気がした美沙は、咄嗟にその場から飛びのく。
「ッ!」
ガギン! 志村から貰ったオートガードが発動する。魔術で咄嗟に氷の盾を周囲に出し、そのまま地面を凍らせてツインテールから距離を取った。
「な、何を――」
「あはははははははははははは! ああ……良かった落ち着いてきた。これさえあれば、SランクAGだって怖くない」
狂気。その二文字が似合う目になる女の子。
「ありがとう、さっきは心配してくれて。でも大丈夫――お前を殺せば、もっとたくさんお薬が手に入るから。だから、だからいいんだ、心配無いんだ! あはははははははは!」
今度は狂ったように笑いだす女の子。その姿を見て――さっきの邪悪な笑みをどこで見たかを思い出した。
自分が完全に暴走していた時の、鏡の前。
「魔族ッ!」
杖を取り出し、廊下を全て凍らせる。気温を氷点下まで下げる。この中でまともに動けるのは自分だけ。
――そのはずが。
「あは……あはははははあはははは! あたしには加護がある、加護がある! 殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!!」
なんと、ツインテールは笑いながら剣を引き抜いた。まさかこの空間で動けるなんて。そんなバカな。
(京助君みたいな超人なら分かるけど……ッ!)
目の前のツインテールからはそんな雰囲気は感じない。迫力も圧力も無い。ただ、それでも……不気味さはある。
何かがマズい、そう判断した美沙は――脳を戦闘モードに切り替える。
「あはっ」
こてん、と首を倒す。自然と笑みが口元に浮かぶ。ふわふわした気持ちになり、まるで宙を浮いているよう。
自分の意識と肉体が切り離される。脳に靄がかかり、体の隅々まで冷たく、凍てついた魔力が循環する。
「……殺す、かぁ……」
ビンビンに叩きつけられる殺気と、その言動。向こうはこちらを殺すつもり。
それならば――容赦は必要あるまい。
「はははっはははっはははあ!!! 殺す殺す殺す殺す……ッ!」
ベロッ、と舌を出して錠剤を食べるツインテール。何を――と思う間も無い。みるみるうちに彼女の雰囲気が強大になる。
あれは何かマズい――?
「……くす、り……? ちょっと、やば、い……?」
飲むと強くなる薬――それを美沙はよく知っている。自分にもいつの間にか投与されていたという、アレ。
しかし京助君から聞いた話では錠剤では無かったはずだ。そもそも、適合する人間にしか使えないとか言っていた。
というか、そもそも彼女が半魔族になっているような雰囲気も無いし――
「隙だらけだぞ、ミサ・アラ――」
「うる、さい」
キンッ。
剣を振り上げ、空中で固まった氷像が一体出来上がる。体内の水分ごと凍らせる魔法だ、相手は死ぬ。
「なん、だった、んだろう……」
考え事をしている時に襲い掛かられてしまったため、反射的に殺してしまった。別に構わないが。
「なん、か……変な、こと……言ってたし、なぁ……」
出来れば彼女が持っていた薬の情報くらいは持ち帰られていたら良かったんだが……。過ぎたことをくよくよしていても仕方が無いか。
気持ちを切り替え、フラフラとする頭を起こし……戦闘モードから通常モードに切り替える。ああ、やっぱり戦闘はあまり好きじゃない。
京助君に選ばれるために磨いた力だから、無くなれとは思わないが……出来ることなら、自分から戦闘を仕掛けないでおきたい。
「……でもあのふわふわする感覚は癖になると言えばなるんだよね」
なんかこう、何も考えずにパーッとやれる感じがある。全能感というか、万能感というか。ある種、トリップなのかもしれない。
「ふふふ……京助君と一線を越えたらこれよりもっと……」
そう独り言を言いかけた瞬間だった。ぞわっと背筋に冷たいものが奔る、まるで氷柱を入れられたように。
直感、とかそういう言葉はあまり好きじゃない。好きじゃないが――今だけは直感に従って振り向きもせず、全面に氷の盾を張った。次の瞬間、その盾が強引に壊される。
「ッ……!」
「四個、同時は……初めて……ッ!」
振り上げられた剣。それを見た瞬間、恐怖から――強制的に脳が戦闘モードに切り替わる。同時に、どうすれば殺せるかに思考を巡らせた。
(片手は仕方ない。その代わり、口内から冷気を叩き込んで確実に仕留める――)
防御のために片手を差し出す。切られても断面を凍らせればキアラがくっつけてくれるはずだ――
「こんの馬鹿!」
――ガキィン!
ツインテールの剣が弾かれる。同時に割り込んできた黒髪は――ツインテールを思いっきり蹴り飛ばした。
すかーん! と気味のいい音が鳴り、吹っ飛ばされるツインテール。スタッと着地した黒髪は、美沙の方を振り向いて肩を掴んだ。
「おま……な、何いきなり戦ってるんだ!」
そこに現れたのは――サムライガール、冬子ちゃんだった。
「え……っと、分かん、ない」
「分かんないじゃないだろ……ああもう」
冬子ちゃんは復活したツインテールに剣を向けると、ため息をついた。
「よく分からんが……私の仲間に手を出した罪。償ってもらうぞ」
よく分からない状況だろうと、取り敢えず敵を倒す方向に思考を向けるらしい。流石は京助君の仲間――なんて思いつつ、美沙はペロリと唇を舐めた。
「あはっ……あいつ、何かヤバいから……冬子ちゃん、ごめん、一緒に戦って?」
美沙がそうお願いすると、冬子ちゃんは少し不思議そうな顔になる。
「何を言ってるんだ。仲間だから当然だろう?」
――ああそういえば、冬子ちゃんはそういうタイプだった。
何となく嬉しくなりながら美沙も杖を構えると……さらに後ろからピアさんとリューさんが駆けつけてくれた。
「何をカッコつけてるんですか、トーコさん」
「ヨホホ、速いデスねお二人とも」
「う、うるさい。んんっ。取り合えず……四人なら逃げられそうだ。ひとまず逃げて、京助とキアラさんに報告して対応を――」
冬子ちゃんがそう言いかけた時、唐突にツインテールが高笑いを上げた。
「くっ……あはははははは!!」
ツインテールはまたも懐から紙のようなものを取り出す。
そして今度は冬子ちゃんの顔をジロジロ見ると……にまぁ……といやらしい笑みを浮かべた。
「あはははははははは! こいつは嬉しい! ボーナスキャラが一人増えた! ――キョースケ・キヨタのパーティーメンバー。トーコ・サノだろうあんた!」
「……何故私の名を知っている。貴様、何者だ!」
冬子ちゃんはそう言って剣を構える。ツインテールは哄笑をひっこめると、剣を構えた。しかしさっきまでの剣ではない。石で作られている妙な形をした剣だ。その刃の部分はギザギザの……チェーンソーみたいになっている。
「あたしはパイン・ロベリー。ロベリー家の四女……そして、すべての亜人族と魔族を駆逐するもの……! あたしは……貴様らを殺して……最強の力を手に入れる!」
そう言ったと同時に、彼女の持つ剣の刃の部分が回転しだす。見た目通りチェーンソーだったらしい。
厄介そうな武器だ――と思っていると、彼女は更に二錠舌の上に乗せる。
「六錠……くこか、クコカカカカカ!」
ヤバい、完全にヤバい――そう思うが早いか、いきなりピアさんの前に現れた。とんでもないスピードだ。
「でもォ! まずは貴様からだ――亜人族!」
「む、どうしますかトーコさん」
キンッッ! と敵の剣を受け流しつつ、冬子ちゃんに指示を仰ぐピアさん。冬子ちゃんはパインを横から蹴飛ばすと、剣を彼女に突きつけつつ指示を飛ばした。
「私と美沙の名を知っていたのが怪しいから捕らえるぞ! ピア、私と一緒に前衛! リューさん、支援を頼む。美沙、お前の氷魔法で拘束だ! 死なないくらいに凍らせろ!」
「了解」
「了解デス!」
「ん……分かっ、た……」
冬子ちゃんの指示で一斉に飛び出す。パインはチェーンソー剣を振り上げると……ガン! と廊下を思いっきりぶっ叩いた。その衝撃で、廊下がめくれ上がる。
しかも『飛斬撃』系のスキルも同時に使っていたらしい。青白い斬撃が冬子ちゃんとピアさんに向かって放たれる。
「パワーだけなのが救いか。ハァッ!」
黄色いオーラを纏った冬子ちゃんが、衝撃波を一撃で散らす。ピアさんはそんな冬子ちゃんの影から飛び出ると、パインの剣と切り結んだ。
ギィン! と火花が飛び散ったかと思ったら……パインがいきなり剣から左手を離した。その隙をついて冬子ちゃんが左から切り込む。
「ぐっ――!」
バックステップで距離を取ろうとするパインだが、そうならないように美沙が地面を少し氷で盛り上がらせておいた。おかげで足を取られ、パインは転倒する。
そこを逃す二人じゃない。冬子ちゃんはパインの剣を蹴り飛ばし、ピアさんは馬乗りになって顔面に拳を叩き込んだ。
パインも反撃の拳を握ったが……突然、その手を開いて、動きを止めた。チャンスだ、そう思った美沙は彼女の腕や足を氷で地面に縫い付ける。魔物を凍らせるくらいの力で。
「がっ……き、貴様ラァァァァァァァァ! 亜人族、亜人族ゥゥゥゥ! アァァァアアアア、アアア、ガァァァァァアアアアア!」
「うるさいですね……」
ゴッ!
鈍い音がして、パインの身体が揺れる。さらにもう一度、ゴッ! という鈍い音。二回のそれでパインは失神したのか……だらんと手足から力が抜けた。
「チ〇ちゃん……みたいな、口調、で……エグい、こと、……を、する……」
「〇ノちゃんはそんなこと言ってない定期」
脳を戦闘モードから元に戻し、ふうとため息をつく。チラッと見ると、パインの手が火傷状態になっていた。リューさんの炎で彼女の手を焼いたのだろう。それで剣を握れなかったのか。
「やれやれ……面倒なことに巻き込まれないといいんですけど」
ピアさんはそう言ってパインを拘束する。既に面倒ごとに巻き込まれてるだろうな――なんて言葉を飲み込み、美沙はパインの顔を見る。
(殺す、かぁ)
冬子ちゃんと自分、その共通点は……異世界人であること。
果たしてどんな陰謀が裏にあるのやら。
京助「暫くのんびりしたいなぁ……って思ってるのに、何だこれ」
天川「ヒロインだけが戦うのは珍しいな」
志村「安心して戦いを任せられるヒロインっていいで御座るなぁ」




