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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十章 それぞれの始まりなう
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244話 魔物拳法なう

前回までのあらすじ!

京助「とうとう始まった天覧試合。SランクAGの一人、ジャック・ニューマンとの死闘が始まる!」

冬子「おお、なんかあらすじっぽいぞ京助」

シュリー「ヨホホ……そういえば最近、まともなあらすじ書いてなかった気がするデス」

リャン「それにしても、マスターが嘗て倒した相手を覚えているとは驚きでしたね。彼はそれなりに強かったですが」

マリル「キョウ君って自分がぶっ飛ばした相手に微塵も興味無さそうなんですけどねー」

美沙「そりゃ殺した相手なんてどうでもいいしねー」

キアラ「それでは本編をどうぞなのぢゃ」

「はぁっ!」


「シッ!」


 ガギィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィン!!!!

 俺の槍、ジャックの貫手が激突し――その余波で会場の石畳がめくれ上がり、リングがボロボロになってしまった。


「まあSランカー同士がやって壊れなかったことは無いんだけどよ。ただここまで派手にイッたのは久々かもなぁ。はっはっは」


 向こうの方からセブンの笑い声が聞こえるが、気にしない。俺は笑ったまま思いっきり槍を振り抜く。

 ジャックは再びそれを受け流そうと流麗な動きを見せるが――無駄だ。ジャックが槍に触れた瞬間、俺は竜巻で彼の腕を巻き込む。


「それ!」


 そのまま彼を持ち上げ、地面に叩きつけた。ズドン! とリングが破壊され、バウンドするジャック。俺は追撃の突きを食らわせようとするが、この程度で倒せるほど楽な相手じゃない。ジャックは空中で体勢を立て直し、俺の槍を蹴りで弾いた。


「ッ!」


 着地と同時に貫手を繰り出してくるジャック。俺は全身に嵐を纏ってそれを防ごうとするが――何とジャックの貫手は嵐を突き破った。


「ぐっ!」


 咄嗟に横に転がって回避。ジャックの貫手が頬を掠める。


(これが直撃してたら――)


 嫌な想像にゾッとした瞬間――ジャックの回し蹴りが俺の横っ面をぶっ叩き、思いっきり吹っ飛ばされた。


「チッ!」


 転がって勢いを流した後、立ち上がる勢いを利用して『超天駆』を発動する。先ほどの倍以上のスピードでジャックの背後を取った。

 ジャックは裏拳で死角にいる俺を攻撃しようとするが――そんな苦し紛れの攻撃、俺には通用しない。裏拳を槍の穂先で弾き、その回転の勢いを利用してジャックの鳩尾を石突きでぶっ叩いた。


「ぐふっ……!」


 ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!

 まるで隕石が墜落したかのような音が辺りに響き、ジャックがその場から消えて壁に激突した。遅れて壁が粉砕する音。流石に音速越えて壁に叩きつけられりゃ……少しは堪えるだろ。


「す、凄いスピードとパワーですね」


 ニコッと笑いながら、壁から出てくるジャック。何で今ので五体満足なんだよあいつは、ちょっとは堪えろ。


「お褒めいただき光栄だね。……ペッ」


 血を吐き出し、ぐしぐしと口元を服の袖で拭う。さっきの蹴りで口内を切っちゃっていたようだ。咄嗟に薄いながらも風の結界を張っていて良かった。じゃなきゃアレでKOされてた。


「じゃあ、これにしましょう」


 ゆらっ、と構えを変えるジャック。先ほどは貫手を蛇のように頭の横に構えていたが、今度は翼のように体の後ろへ。

 すると彼が纏うオーラが変化する。ワイバーン……いや、グリフォン? オーラが翼に変化し、彼の腕が前足のように。槍じゃなくて今度は鋭い爪かな。


「では」


 フッ、とジャックの姿が消えたと同時に、振り向かず背後に槍を振るう。ガギン! と俺の槍がジャックの貫手を弾いた。凄いスピードだけど……大丈夫。見える、追える!


『(カカカッ! キョースケェ! アレは『シックルグリフィン』ダナァ!)』


 小声でそう俺に伝えてくれるヨハネス。


『(特徴は鋭い爪、風弾! ソシテ超速移動! ソノ速さハ魔物の中デモ随一ダゼェ!)』


「了解」


 スピード勝負なら負けない。

 というか――


「俺に追える程度のスピード、覇王に比べれば大したことないね!」


 ――更に加速するジャック。しかし俺はそれに難なくついていく。足払い、それを躱すと同時に放たれる俺の喉を狙った三本指貫手。指を伸ばしていた先ほどとは違い――まるで鎌のような形になっている。

 俺は膝蹴りでそれを弾き、その勢いを利用して回転――正中線を槍で切り裂く。ジャックは横から俺の槍を叩いて逸らそうとするが――俺は『ハイドロエンチャント』に切り替える。スピード自慢はいいけど、それじゃあこのパワーに対抗できないでしょ。

 力を受け流そうとしたジャックだが、俺のパワーが上がったことに気づいてか即座に離脱した。おかげで切り裂けなかったが――即座に『ストームエンチャント』に切り替え、追いかける。


「速いし、力強い。良い力ですね」


 ドッ! と飛び上がるジャック。物凄いスピードで地面を蹴ることで空気弾のようなものを作り出し――空中に飛び上がったらしい。脳筋に程がある。

 俺も『超天駆』で空へ駆けあがる。ボッ、ボッ! と空を駆けるジャックに追いつき、槍を振り下ろした。

 ガッ! とジャックは受け止め――同時に、体全体を使って俺の攻撃を受け流した。透かされた俺は一瞬空中で制御を失う。

 立て直そうとした刹那の隙に、ジャックの突きを食らう。暴風を身に纏う故そこまでのダメージにはならなかったが……それでも踏ん張りのきかない空中での一撃だ。俺は思いっきり吹っ飛ばされてしまった。

 くるくるくる……と回転して地面に降り立ったが、同時に背後を取られた。速い――と思ったら、ジャックの構えがまた変わる。今度はちょっと見たことがある。確かフォーハンドオーガだ。


「はっ!」


「くっそ!」


 俺は『ハイドロエンチャント』に切り替え、敵の右拳を左腕でガードする。ハンマーで殴られたかのような衝撃が走るが――骨まではいっていない、受けきれた。

 距離が近いので俺は右手で槍を振り下ろす――が、何とジャックは俺の右手首をつかんできた。


「ふっ」


「んのやろ!」


 俺は逆にジャックの左手首を右手で掴み、変則的な手四つみたいな状態に陥る。

――『ハイドロエンチャント』は水を利用し油圧ピストンのようにしてパワーを上げるエンチャント。肉体への負荷を考慮しなければ、身に纏う激流を増やすことで際限無くパワーを上げることは出来るのだ。

激流を二倍にし、圧し潰さんと体重をかける。ガガン! と地面が陥没し、ジャックの身体が徐々に沈んでいく。


「ほ、本当に凄まじいパワーだ……ッ!」


 興奮するようなジャックの声。同時にいきなりジャックの力が消え、巴投げのような技で投げられた。


「うおっ」


 俺は水を蜘蛛の足のように出して、空中で体勢を制御。そのまま着地する。巴投げ自体のダメージは無いが、掴まれた手首が痛い。


(手刀、足刀なんて言うけどさ)


 それはあくまで比喩。人間の拳や蹴りでは切断も貫通も出来ない。本来であれば。

 しかしジャックの貫手は俺の嵐を貫いた。破壊せず、刺突で貫くなんて――刃物じゃないと出来ない。

 つまり、ジャックの能力はただ身体能力を上げるだけじゃない。魔物の特性、能力を再現する能力なんだ。


『(カカカッ! ソレダケジャ無いゼェ! 自分に合うヨウニ強化、調整も入ってる感じダナァ!)』


「(厄介オブ厄介過ぎる)」


 俺の思考に、ヨハネスが小声で答える。だから通常のフォーハンドオーガよりパワーがあったのか。俺は納得しつつ、槍を構えなおした。


「強いねぇ」


「強いですねぇ」


 お互い同じことを言って笑い合う。さて、このレベルの人間とやり合ったのはいつぶりだろうか。ホップリィは魔法師としては素晴らしかったが、武人となると本当に思い出せない。

 俺は『ハイドロエンチャント』のまま……水を大量に出す。水流でヤマタノオロチを作り上げ、ジャックに襲い掛からせた。

 ゆらっと再び構えを変えるジャック。今度は……水棲系の魔物かな。俺が見たことの無いオーラになった。

 あっさりと対応するジャックに、俺は再び笑みを浮かべてしまう。でもこれだけじゃいけない。熱くなるだけじゃダメ、クールにいかないとね。


「……っと!」


 水流をまるで泳ぐようにしてこちらへ近づいてきたジャック。びしょ濡れのおっさんなんて誰得だよ――なんて思いつつ、まるで流水のようにシャープな貫手を俺は槍で防ぐ。

 俺は首を一つ鳴らし、槍をその場で回転させる。叩き潰すようにして槍を振り下ろし――躱されても、もう一度槍を回して攻撃を加える。

 ジャックは俺のこれを見て再び構えを変えた。どんな魔物かは知らないが、この距離ならスピード型でもすぐに追いつける。『ハイドロエンチャント』でこのまま押し切ってやる。


「はぁっ!」


「カッ!」


 掛け声とともに、両拳を合わせた突きを打ち出すジャック。諸手突きだったか、俺は水の鎧を纏うことでそれを防ぐが――ドッ! と大きく吹っ飛ばされる。『ハイドロエンチャント』なのに踏ん張れなかった!?


「ごほっ……まさか……!」


 血を吐く。口を切っただけのさっきとは違い、今の一撃で――内臓をやられたっぽいね。『ハイドロエンチャント』中でよかった、無理矢理体内の傷を水で補修する。これで少しは保つだろう。


「やれやれ……『覚醒』を使わされた挙句……この構えまで引きずり出されるとは。SランクAGのホープは凄いですね」


 ゆらり……と構えが変わる。その身に宿るオーラは――明らかに、今までとは更にレベルが一つ違う。俺はこの魔物と出会ったことは無い、しかし……理解できる。こいつは、Sランク魔物だ――


「このランクになってくると、そのまま威力を出すことは出来ません。出来ませんが……貴方では勝てない」


 ドクンと心臓が跳ねる。俺は『ストームエンチャント』に切り替えて空へ駆けあがった。台風を生み出し――この身に宿す。

 荒れ狂う暴風は俺に『速度』と『力』を与えてくれる――


「『職スキル』、『砲弾刺突』」


 自身の肉体を砲弾に見立て、突撃する『職スキル』。何の魔物かは分からないが、このスピードで突っ込まれればいくら何でも受け流せまい。

 しかし――ジャックは受け流すなんてことはしなかった。グワシィッ! と思いっきり俺の体を体全体で受け止めたのだ。


「だりゃぁ!」


 力強い掛け声とともにジャーマンスープレックスを仕掛けてくるジャック。俺は地面に突き刺さる寸前に『ハイドロエンチャント』に切り替える。そして肉体を激流で覆い、直撃ダメージを打ち消した。


「あぶな……ッ!」


 敵のホールドを切り、水で自身を上空へ打ち上げる。そして落下のダメージをプラスした踵落としを食らわせるが――あっさり片手で掴まれてしまう。


「こいつ……ッ!」


「ぬるい!」


 グンと引っ張られ、顔面に拳が飛んでくる。俺は両腕でガードし、自分から飛ぶことでその攻撃をいなした。

 先ほどまでとは違い、ジャックの背後にある幻影が朧気だ。彼が完全にこの魔物の能力を使用できないことの現れだろうか。

 ……何でもいい、今はどうにかしなくちゃならない。


「チィ――ッ! 『ブレイズエンチャント』!」


 俺は全身に業火を纏う。『ブレイズエンチャント』は火力に特化――瞬発力や攻撃力であれば他のエンチャントに比べると破壊力がある。だがその分、繊細なコントロールが難しいので対人戦では扱いにくいわけだが――相手は殆ど魔物みたいなものだ。雑にぶっ飛ばしても構わないだろう。

 空へ駆け、俺は呪文を唱える。次の一手のために――


「『紫色の力よ! はぐれの京助が命令する。この世の理に背き、すべてを灰燼に帰す轟円の一撃をこの世に顕現させよ! 燃え盛れ……ッ! 『大紅蓮炎王殺』!」


 唱えると同時に、ビル一つ分はあろうかという業火の槍が俺たちの頭上に顕現した。


「(相棒! 頼むよ!)」


「(カカカッ、アイヨォ!)」


 制御をヨハネスに任せる。緻密な制御は知ったこっちゃない、俺が脳内でイメージするのは破壊力だけ。

 紅蓮の槍はそのまま太陽の如き威容を持って落下していく。ジャックはそれを見るや否や、先ほどの構えのまま……全身に纏う魂のようなオーラを更に倍化させた。


「避けてもいいよ? 受け流してもいいよ? ――出来ないだろうけどね!」


 ジャックのスピードなら躱せるだろう、本来ならば。でもここはリング上、その全てを焼けば回避も受け流すことも不可能――ッ!


「フッ――!」


 鋭く吐かれた息、練り上げられた裂帛の気合と共に俺の魔法とぶつかり合う。そこに音は無い。あるのは尋常ならざる拳だけ。

 ドォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!


「――ハハッ、避けませんとも、受け流しませんとも! ハァッ!」


 ブァァァァァァッッッッ!

 リングが灰になったが、ジャックとその周りだけ無傷。ジャックは宣言通り、避けも受け流しもしなかった。


「貫いてしまえばいいだけですからね――後ろッ!」


 ギィン! 俺の槍がジャックの貫手で弾かれる。魔法を目くらましにして背後を取ったが、それにすら反応した。

 流石はSランク。想像通りの化け物だ。避けずに貫いた、足を止めた。そのせいで逃げ場を失ったというのに!


「シッ!」


 弾かれた槍を回し、勢いをつけた突きを食らわせる。

 がぎぃん! 音が反響する。まるで鋼鉄同士が打ち合ったかのような音。ジャックはそれによって思いっきり仰け反った。

 仰け反り――一歩、後ろに下がった。下がってしまった。


「ッ!」


 咄嗟に構えを変えようとするジャック。でもそんな暇は与えない。与えるつもりは無い。


(お前の弱点は――イチイチ構えを変えないとフォームチェンジ出来ないことだ!)


『ストームエンチャント』に切り替えると同時にジャックの背後へ。驚きに目を見開くジャックだが――まだ構えの途中。反応は出来ても反撃は出来ない。俺の槍が彼の首筋に吸い込まれ――


「そこまでだァ!」


 ――ビタァッ! と俺の動きが止まる。金縛りにあったように……いや、金縛りにあったのだろう。よく見ると、ブブブブブ……と音の結界で動きを封じられている。エースか。

 俺は魔昇華と神器を解き、ヘラッと笑う。


「ん、あー……ごめんね、ジャック」


「ふふ、拙も殺す気満々でしたから。大丈夫ですよ」


 俺が戦闘態勢を解くと同時に結界が解除される。ふぅと一つ息を吐いて……その場にへたり込んだ。ヤバい、テンション上がりすぎた。体にガタが来てる。っていうかジャックに殴られたところが痛い……お、折れてるかこれ……。

 頬や口内も切ってる。常に結界を纏ってる状態だからこれで済んでるけど……最後の一撃がクリーンヒットしていたらと思うとゾッとする。


「それにしても、派手にやりましたねぇ」


 ジャックはそう言って笑う。意図してやったとはいえ――リングは原型をとどめていなかった。

 リングはジャックが立っていたところ以外無くなり、観客席は余波でいろんなものが吹き飛び、更にセブンは丸焦げになっていた。


「ああ、セブン。ごめんね」


「お前、オレじゃなきゃ死んでたぞ。ってか地面……これマグマみてーになってねぇか? 熱い、あっちぃ!」


 夏の砂浜を裸足で歩いてるような状態になっているセブン。確かに、彼じゃこの足場を歩くことは出来ないだろう。


「ああ、ごめんごめん。今冷やすよ。ちょっと熱いかもしれないけど我慢して」


「あん? 何言って――」


 ――ザバァァァァン……

ドッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!


「これでOK」


 とんでもない轟音と共に、水蒸気爆発が起きる。俺の放った水は一瞬で蒸発し、雲まで届くほどの上昇気流を生み出した。

 そして……上空に雨雲が生み出され、ざー……と雨が降り出した。これで熱さは消滅したはずだ。


「キョースケェェェェェェェェェェ! おまっ、おまっ! ってか天気変わってんじゃねえか!」


「風の結界張ったから死にはしないよ。びしょ濡れにはなるけどね」


「OKじゃねえよ! やるなら一言言えよ! あー、死ぬかと思った。死ぬかと思った!」


 大事なことだからか二回言うセブン。お前はたぶん守らなくても死ななかったと思うけどね。


「流石の拙も、マグマの上ではまともには戦えないですね。あの魔法を撃たせた時点で、拙は詰んでたってことですなぁ」


 当然、最後の魔法は……ジャックを倒すためのものじゃなかった。地面を灼いて、まともに立てなくするためのものだったのだ。

 ジャックの足元だけは超高温になっていなかったようだが、回避してそのサークルから出たが最後。空を飛ぶか、高温に耐える能力を使うかしないと踏ん張りが効かなくなる。

 だから、ジャックは咄嗟に構えを変えようとして……致命的な隙を晒したわけだ。


「いい試合だった」


「ほんに。死合えて光栄でしたわ」


 笑うジャックは、細い目を更にスッと細めた。この目はシュンリンさんやキアラが良くする……ご指導いただける時の眼だね。


「ただ、動きに無駄が多い。特に魔法を使いだしてから、スペックに任せた攻撃が多かったように感じます。魔力消費を抑えることと動きの無駄を抑えること、この二つを意識すればもっと動きが速く、力強くなるはずです」


「……肝に銘じます」


 俺は頭を下げる。今だけは対等なAG同士ではなく――教導を受ける若輩として。ジャックはそれににこりと笑みを返すと、すたすたと自分の控室の方へ歩いて行った。


「キョースケ君。フォーマルハウトに来る時があったら連絡をください。牛や豚しかいない辺鄙な町ですが……歓迎しますよ」


 フォーマルハウト、というのが彼の住む町なのだろう。そういえば近くのお肉屋さんが、フォーマルハウトの肉は結構な高級品って言ってたっけ。


「ありがとう。ジャックもアンタレスに来る時があったら言ってね。……マジで何にも無いけど……ああ、洋服だったら少しいいものがあるんじゃないかな」


 オルランドのデザインする洋服はアンタレスの目玉商品の一つだからね。ジャックはこちらへ会釈してから……そのまま振り返ることなく去っていった。

 俺はジャックの背を見ていると、すー……っと雨がやんでいった。雨上がりっていうのは、空が綺麗に見えていいね。


「あー、疲れた。キョースケ、これどう弁償するつもりだ? だいぶ濡れたし」


「……え、これ俺が弁償すんの?」


「――冗談だ。こういう時はギルド持ちだよ。後な、不可抗力で街のモンぶっ壊した時は、ギルドが金出してくれるぜ。仕事ん時以外に壊した場合でもな。裏技みてーなもんよ」


 わっはっは、と豪快に笑うセブン。


「へぇ。よく知ってるね」


「当たり前よ。オレが何回闘技場とか壊したことあると思ってるんだ。がっはっは。んじゃな、いいモン見せてもらったぜ」


 そう言って去っていくセブン。……流石先輩AG、って意味で言ったんだけどな。壊し慣れるなよ、Sランカー。

 あと、闘技場壊したのは絶対に不可抗力じゃないだろ。


「セブンみたいにはなりたくないなぁ」


 出来ることなら一生その裏技を使わないでいたい。

 ……無理そうだなー、と思いながら俺は自分の控室に戻るのであった。

白鷺「なぁ、こいつらの戦いって人間同士の戦いだったよな」

加藤「お前も似たような感じだけど、まあそうだね」

白鷺「いやいくら何でも俺じゃ天候は操作できねえよ」

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