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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第十章 それぞれの始まりなう
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235話 ハントタイムなう

前回までのあらすじ!

京助「っていうか、更新が遅れて申し訳ありませんでした」

冬子「予約するのを完全に忘れていたな」

リャン「さて、あらすじなんですが……」

リュー「ヨホホ、えーと、姉妹の美しき再開デスね」

マリル「そしてキョウ君がヤバい目をしてましたねー」

キアラ「後は祝勝会みたいなのをやっていたかのぅ」

美沙「それでは本編をどうぞー」

あらすじ「姉妹の美しき再開」→「姉妹の美しき再会」『それでは、これよりささやかながら祝勝会を開かせていただきます。本来であれば我が父、グロリアスが挨拶すべきなのですが……生憎、現在シリウスに居ますので、このわたくしが代理として挨拶させていただきます』


 ティアー王女の挨拶が朗々と続けられる。労いの言葉や被害のこと、そして今後の復興の話まで。

 どこかで聞いたような内容ではあるものの、不思議とそれが耳に心地良い。


『そして別会場でもご挨拶があるので、簡略ながら以上で挨拶を終了させていただきます。では皆さん、お手を拝借。乾杯!』


「「「「「「「「「「「乾杯」」」」」」」」」」」」


 カチン、と冬子も美沙のグラスに合わせる。マリルさん、リューさんともグラスを合わせ……飲み物を口に含む。


「酒じゃないんだな」


「トーコさんはあんまりお酒強くないんですから、それでいいんじゃないですかー?」


「私よりもマリルさんの方が残念じゃないんですか」


 酒癖の悪さは折り紙付きのマリルさんにそう言うと、彼女はペロと舌を出してからグラスを空にした。


「別にいいですよー。どうせキョウ君もいないですしー」


 彼女はそう言って残念そうに笑う。


「ピアさんは……まだ妹さんと一緒にいらっしゃるんデスかね」


「キアラさんは京助君の方についていっちゃったし、私たちだけでパーティーに参加してもなー」


「仕方ないだろう。京助が上手いこと誤魔化しておいてくれと言うのだから」


 そう、京助は「野暮用」と言ってパーティーに出なかったのだ。キアラさんのみを連れて。ピアとその妹を不幸に叩き込んだ奴らを叩き潰すために。


「……私たちを連れて行ってくれればいいものを」


「とはいえ誰もいないと怪しまれますからねー。非戦闘員の私だけがいればいいとは思うんですけどー」


「あいつらがいないなら私もそう思うんですがね」


 チラッと端の方を見る。そこにいるのは見知った顔……というか、天川パーティーを筆頭とした異世界人たち。

 身分や職業でパーティー会場を分けている都合でそんなことになっているらしい。城下では無事だったお店なんかでAGたちはパーティーをやっているんだとか。


「これで貴族とかがいるとワタシも含めて色々と突っ込まれたかもしれないデスからね」


「だから分けたんでしょうねー。あのお姫様は見た目によらずやり手ですねー」


 見た目はちゃんとお姫様だから、見た目よりもむしろ年齢にそぐわずとかの方が良い気はするが。彼女はあれで冬子や美沙の一つ下だ。


「あはは、あの人はああ見えてそこそこ政務とか政戦は得意なんですよ」


 美沙が笑いながらそんなことを言う。


「それにしても滅茶苦茶気まずいから端っこの方に行ってるね。じゃあ冬子ちゃん、天川君たちを誤魔化すのはよろしくー」


「ああ、確かに抜けたばかりのパーティーメンバーと宴会するのは気まずいか」


「言葉にしなくていいから!」


 そう言ってそそくさと言葉通り端っこの方へ行く美沙。まあ天川の性格からしてそんな美沙をイチイチ構ったりはしない気がするが。

 それよりも彼が突っ込んでくるところは別だろうから――


「佐野」


 後ろから声をかけられる。来たか――と思うと同時に、こっそりため息をつく。京助の奴は面倒な仕事を押し付けてくれたものだ。


「なんだ、天川」


 振り向くと声の主――天川が爽やかな笑顔で立っていた。この笑顔にコロッとやられた女性は多いことだろう。京助には劣るが。


「綺麗なドレスだな。このパーティー用に誂えたのか?」


「いや、これは京助が選んでくれたやつだ。私の誕生日に」


 ちょっとだけ惚気ると、天川は苦笑いしてから肩をすくめた。


「お熱いことだな。それはそれとして、やはりこういったパーティーは慣れないな」


「お前はよく参加してるんじゃないのか?」


 新しいグラスをその辺のテーブルからとり、彼にも渡す。手慣れた様子で受け取った天川は、こちらへグラスを向けた。

 カチン、と控えめにぶつけてからジュースを飲む。


「そうだな。よく貴族が主催するパーティーにゲストとして呼ばれたよ。……だが、今回は『一応』、主役だろう俺たちが」


「違うものか?」


「ああ。……だから少し気になるんだが……もう一人の主役、清田はどこへ行った?」


 冬子はもう一度ため息をつく。当初の予定通り誤魔化そうと口を開いてから……やめた。


「京助のアレはほとんど病気みたいなものだ。朝まで戦って昼から会議して……それでなお突っ込んでいくんだから」


「何の話だ?」


「私たちの仲間を不幸にした奴隷狩りの尻尾を掴んだらしいんだ。あいつは……奴隷狩りとか、大っ嫌いだからな」


 冬子は笑みを浮かべる。


「仲間の心を安らかにするために。そして自身の怒りを発散するために戦いに行っている。安心しろ、お前との決闘には間に合うように帰ってくると言っていたから」


 天川はポカーン……とした顔になり、そして笑い出した。


「何があったのかは分からないが……そうか。怒りの発散、仲間の心……そうか、そうか。清田が戦う理由はシンプルなんだな」


「ああ。あいつはいつも言うだろう? 『答えはいつだってシンプルさ』と」


 単純とも言うが。


「そうだな、今日も聞いたし。それが清田と俺の違いで……清田の強さなのかもな」


 天川はまた爽やかな笑みを浮かべ、グラスを呷った。


「佐野たちはついていかなかったのか?」


「京助に上手いこと誤魔化してくれ、と言われてな」


「そうか。……清田が間に合うならそれでいいが……ちゃんとコンディションは整えていろと伝えておいてくれ」


「ああ」


 天川はそう言うと踵を返す。ヒロインたちのところに戻るのだろう。冬子も何も言わず踵を返した。


(さて……そろそろ終わったころだろうか)


 キアラさんと志村もいるのだ、万が一も怒らないだろうが。

 そんなことを思いながら、冬子は何となく美沙にちょっかいをかけに行った。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「なんだなんだこいつらは!」


「アニキィ! ヤベーッスよ!」


「うわぁあああ! ちょっ、やめ……!」


 血飛沫が舞う。

 悲鳴がこだまする。

 流れる液体は血か涙か。


「無抵抗なら殺しはしない。全治二か月くらいで許してあげる。ただし、抵抗するなら容赦はしない」


「京助、あいつら前歯が吹っ飛んでたりあばらが砕けてたりしそうだが……ちゃんと容赦してるのか?」


「あのくらいの怪我なら治るでしょ、そのうち」


 後遺症は知らない。


「そもそも、人の尊厳を奪ったんだから死んでも文句は言えない」


 天川が奴隷狩りの末端を倒した時は洞窟か何かを根城にしていたらしいが……本体はそれなりのところに住居を構えていた。

 とはいえやましいことをしているからか、周囲に一般人がいる様子は無い。安心して血祭を開始出来る。


「それにしても弱いね。貴族が裏で糸を引いてると思ってたんだけど」


 表向きは商会のようなものを営んでいるらしい。一応ティアールにも聞いてみたが、無名に近い商会のようだ。

 だからこそ奴隷狩りなんて悪行が出来るんだろうけど。


「一人も戦闘員いないし」


「キョースケよ、さっきからお主が吹っ飛ばしているのが恐らく戦闘員ぢゃぞ」


 剣を握って向かってくる黒いスーツの男たち。俺はそいつらにテキトーに風の礫をぶつけつつ、中へズンズンと進んでいく。


「キアラ、逃げ出した奴はいない?」


「おらぬ。しかしあの魔族が作っていた結界はいいのぅ、少しいじるだけでコストもかなり軽減出来るしのぅ」


 なんで魔族の結界をあっさり使えるのかは追求しない。だってキアラだし。

 その結界のおかげで連中が逃げずに向かってきてくれるのは楽でいい、んだけど……。


「やめろ……やめろ! 死にたくない! 死にたく……ああああああああ!」


「嫌だぁぁぁあ! お母さん、おかあさーん!」


「死にはしないよ。死には」


 ゴッ。

 顔面に風の弾丸がめり込み、水の鞭で吹き飛ばす。壁にぶつかってべちゃっと全身から血が流れているが……死んでは無いだろう。手足は変な方向に曲がっているが。


「死で償わせるのかどうか決めるのは俺じゃないしね」


「京助のことだから死で償わせる以外の方法は無いかと思っていたが」


 確かに今すぐ殺したい。それは間違いない。

 でも同時に、ここで殺してしまえば一時しか地獄を味合わせることは出来ない。罪を背負った人間は、命尽きるその時まで苦しみ続けるべきだ。

 自由を奪うことは尊厳を奪うこと、命を奪うのと同然。しかし目には目を歯には歯を……自由と尊厳を奪った罪は、自由と尊厳を奪われることでのみ償われるだろう。

 だから、せめて首領くらいは生け捕りにして裁かせるべきだ。


「いやだ……俺は、俺はまだやりたいことがあるんだ……! こ、こここ、こんなところで死にたくなんか……!」


「戦闘を放棄するなら殺しはしないよ」


「手足があんな風に曲がって生きてるわけねえだろ!?」


「大丈夫、致命傷は避けてるから」


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ! 殺さないで殺さないで頼む頼む頼む! 俺は三日前に入ったばっかりなんだ!」


「だから殺さないって――」


 パァン!

 乾いた銃声と共に、泣きながら命乞いをしていた男が倒れた。志村の方を振り向くと、彼は少しだけ呆れたような顔をしてから銃を下ろした。


「あそこまで無様に命乞いをしている奴を相手にする必要はないだろ。話を聞かず無力化すればいい」


「……まあそうだね。でも今殺さなかった?」


「みねうちだ」


「みね無いでしょ」


「非殺傷弾だ。ゴム弾だよ」


 なるほどね。

 活力煙を咥えて火をつける。……志村に言われるほどって相当かな。

 俺がそんなことを思っていると、キアラがスッと指をさした。


「ふむ、あっちの部屋に少し大きな気配が二つぢゃ。首魁がおるぢゃろう」


「じゃあ行こうか」


 俺と志村、そしてキアラの三人で血塗れの廊下を歩く。隠れてやり過ごそうとしている輩も結構いるが、俺が風で吹き飛ばしてそのまま歩いていく。


「燃やした方が楽だったんじゃないか?」


「肉を焼くと血の臭い以上に酷いことになるから風の方がマシなんだよ」


「殺した方が楽なんぢゃがな」


 まあね。ただ恐怖を植え付け、伝播させるなら生かしておいた方がいい。

 奴隷狩りをするやつのところには、SランクAGキョースケ・キヨタが来るぞってね。

 奴らが守ろうとしていた扉の前に到達する。外から見ていた時も分かっていたけど、このホールみたいな部屋がこの館の中で一番広そうだ。


「……来たか」


 扉を風で切り裂いて中に入ると、そこではそれなりの年齢の男がどっしり構えて座っていた。左右には護衛らしき男が一人ずつ。片方は屈強そうな見た目で、もう一人は痩せている。何ともまあ典型的な。

 二人とも何故かローブを着込んでいるが、魔法師には見えない。……ってことはあのローブの下に何らかの魔道具とか隠している感じかな。


「さて、わしの城に何か用かな」


 自分の家を見せびらかすように手を広げる部屋の主。二十人は座れそうな長い食事用テーブル。それが三つも。天井のシャンデリアとテーブルの燭台のデザインが似ているね。


「で、あいつ誰だっけ」


「この辺を取り仕切っているヨーク商会の長だ。表向きは運送業、輸送業を営んでいる。……入る前に言っただろう」


 志村が解説してくれる。そういえば言ってくれてたっけ。


「キアラ、獣人族の奴隷は?」


「ふむ、ここではないようぢゃな。救うならあ奴の口を割らせるしかあるまい」


 ちょっと面倒だね。

 ヨークはキアラのセリフを聞くと、にやー……っといやらしい笑みを浮かべた。


「わしの口を割らせる? たかだかAG風情がか? ……このわしにそんなことをしてもいいと思っているのか?」


「余裕かな」


 活力煙を咥え、火をつける。

 リャンに知られる前にすべてを終わらせたい。

 妹を探すところまでは彼女から頼まれたことだけど、その元締めどもをぶっ飛ばすところまでは彼女の依頼に無いか。それなのに危険(がある可能性が否定しきれないよう)な戦いに、彼女のために行った……となれば、ちょっと彼女は気にするかもしれないからね。


「余裕? ふはは、最近のAGは彼我の戦力差すら考慮出来んようだ」


「そんなこと無いと思うけどなぁ」


 俺が言うと、ヨークは眉をピクリと動かす。そしてスッと手をあげた。

 それと同時に横に立っていた男二人がバッとローブを脱ぐ。

 そのローブの下から現れるのは……見たことが無い鎧と、そして剣だった。禍々しい、血がこびりついたような色。まるで鱗のような装甲。

 そして腰に提げられた剣は……こちらは逆に異様なほどシンプルだ。道を五歩も歩けば十人くらい持っていそうな、そんなレベルの剣。しかし力は感じる。アレは何らかの魔道具だ。


「ダーシー、ミーザッツ。やれ」


「「ハッ」」


 二人の男がズイッと前に出てくる。痩せた男の方がダーシーで、デカい方がミーザッツか。ダーシーの方は更に首元にスカーフ? を巻いているが、それもまた魔道具だろう。そしてミーザッツは厳つい顔に似合わないイヤリング。

 三つも四つも魔道具をつけている人間なんて初めて見たね。


「ダーシー、オレは槍を持っている方をやる」


「しゃぁっ! ひぇひぇひぇ、そんじゃあ小さい方をおれが殺る!」


 ミーザッツはそう言うと同時に俺の方へ駆けだしてくる。俺は牽制を籠めて風の礫を奴に撃ち出し――


「え?」


「がはははははあああああああ!!!! この『竜鱗の鎧』に魔法なんぞ通用するか!」


 バシバシバシッ、と風の礫が彼に当たる寸前に消し飛ぶ。まるで冬子の『断魔斬』……いや、昔見たスターヴの『潰魔拳』の方が近いか。

 試しに炎、水を撃ってみるがそれも無駄。目くらましにもなりはしない。

 ダンッ! と真っ白なテーブルクロスに足跡をつけ、跳躍するミーザッツ。空中で剣を抜刀すると……何と、その剣が俺の槍と全く同じものに変化した。


「形状変化……?」


「『無形(むぎょう)(つるぎ)』!」


 そして振り下ろされる槍。俺は間一髪それを回避し、カウンター気味に石突きで奴の顎を狙う。この男、技量はさしたるものじゃない。すぐに切り返せる――


「いや」


「はっはぁ! 『無形の剣』に武器は通用しねえんだよォ!」


 ――ガギン、と。ありとあらゆる物理的な動きを無視して、奴の槍が勝手に俺の槍を止めた。攻撃する方向が分かっていたかのように。


「オートガード……?」


「ノ~~~~~~~だぜ、がっはははぁ! そんなチャチィ魔道具じゃねえんだよコレはァ!」


 そして奴の突きが来る。出鱈目な突き、余裕をもって回避出来る。そんな程度の突き。なのに――何故か、食らう。

 しかも威力が凄まじい、まるで自分にぶん殴られているような……。


「あー、なるほど。絶対引き分けになる剣って感じか」


 カウンター気味にミーザッツの顔面に蹴りを突き刺す。思いっきり吹っ飛び……鼻が折れたか、顔面を血塗れにしている。

 しかし立ち上がると同時に、その血塗れの顔面が綺麗に治っていく。魔物の自動再生のように。


「そ・の・と・お・りぃ~~~~~! そしてオレがつけているこのイヤリング! 『レフトーバー』は肉体の怪我を瞬時に再生させる……!」


 ああ、そういう。

 ひゅんひゅんと風の魔法を連打していく。炎と風と水の弾丸、割と雑に叩きつけていくが……そのどれもが奴の体に当たる寸前で霧散していく。


「さぁもっと楽しませてみろよぉ……! 魔法も効かない、武器でも決着がつかない……! じわじわとじわじわと嬲り殺しにしてやるよぉぉおおおおおおああはははあ!!」


「『魔昇華』」


 斬!


「へぇ、『無形の剣』って凄いね。このスピードでも受けに来るんだ」


 ポーン……とサッカーのループシュートみたいにミーザッツの首が飛んでいく。その横には峰から真っ二つに切り落とされた『無形の剣』。

 風を纏った俺の速度でも反応するんだから、なかなか凄い魔道具だった。


「俺のステータスをコピーする感じだったのかな」


 となると、志村の方はもっと楽に終わるだろう。あいつの『職』って別に戦闘向けじゃないからステータスそんな高くないはずだし……


「ひぇひぇひぇああああ!? なんで、なんでだよぉ! 魔法は通さない、敵の攻撃をコピーできる……! それに加えて『マッハスカーフ』で、相手より速く動けて……! ってか、ミーザッツ、ミーザッツはどうしたんだよなぁ! おい、おれを助けろ、ミーザッツ……!」


 そう言ってこちらを見るダーシーだが……見た瞬間目を見開く。彼は肉体の至る所に風穴があいており、もはや息も絶え絶えと言った風情だ。


「あ、ああ……なん、なんで……!? なんなんだよ……おめぇら一体ナニモンなんだよぉぉ化け物ぉぉぉおおおおおおおおお!!」


「化け物とは失礼な」


「何者だって? そうか、冥途の土産に聞かせてやろう」


 俺は槍を構え、志村はくるっと銃を回す。


「俺はキョースケ・キヨタ。はぐれの救世主だよ」


「オレの名前は『魔弾の射手(ナイトメアバレット)』。狙った獲物はハチの巣だ。では、アデュー」


 志村が引き金を引く。ダーシーは悪あがきのように手をあげ、何らかの魔道具を発動させたのだろう。

 しかしそんなもので鉛弾をどうにか出来るわけもない。眉間を貫き、地面に埋まる弾丸。これで護衛は消えた。


「な……ダーシー……ミーザッツ……! 貴様らァ……っ! ただで済ますと――」


「気絶させれば全部喋らせられる?」


「無論ぢゃ」


「OK」


 ヨークを気絶させるため、俺は魔力を練る。一般人なんて『魔圧』で一撃だ。俺は一つ呼吸をして――


「ならば……これよ!」


「……どいつもこいつもワンパターンぢゃのぅ」


 ――ヨークの腕にどこからともなく岩が張り付いていく。ガシャガシャガシゃ! といきなり組みあがるのは……大砲。奴の右腕に大砲がとりついた。


「くたばれ化け物!!!!」


 キュガッ!

 空間が軋むような音とともに、魔力が撃ち出される。なかなかの威力だ。俺は風の結界を張ってそれを防ぐ。

 爆風が背後に逃げ、建物がボロボロになる。しかし俺たちがいたところだけは何も起きない。


「はは……ははははは! 油断したなバカめ! このゴーレムキャノンはAランク魔物すら消し飛ばす大砲! まともに食らって生きていられる者など、なに……も……?」


「Aランク魔物を消し飛ばすんだって」


「オレたちをそれで殺せると思ったんだったらお笑いだな」


 土煙が晴れると、そこには呆然とした表情のヨークが口を開けていた。


「あ、な……!? う、嘘だ……!」


 風の刃でゴーレムキャノンとやらを切り裂く。ついでに腕も切り落としておく。


「ぐ、ひ……わ、わしの右腕がぁああああああああ…………あ、あ……」


 ずしゃっ、と倒れこむヨーク。『魔圧』を使うまでも無かったみたいだ。とりあえずこれで気絶は出来た。


「後は残りの奴隷を解放して……マール姫に言えばいいかな」


「ああ。こいつがどんなコネを持っているかは知らんが、流石に第二王女より凄いコネなんて無いだろう」


 そりゃそうだ。

 見切り発車だった割には何とかなるだろう。俺はそんなことを思いながら活力煙に火をつけた。

美沙「京助君って割とこんな感じ……?」

冬子「ああ。むしろ誰彼構わず殺さなくなった分、思慮深くなったと言えるな。……どうした? ヒロインレースからリタイアするか?」

美沙「ううん、惚れ直した! 容赦ない京助君……いい……」

冬子「……こいつヤバい」

美沙「同じ相手に惚れてるのに何言ってるのー?」

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