シュリーの里帰りなう①
前回までのあらすじ!
京助「今回は閑話になってるよ」
冬子「っていうか何か私の出番が少ない気がするんだが……」
リュー「ヨホホ! ……でもワタシの出番もそんなにあるかどうか分からないんデスよね」
リャン「むしろ私の出番が多いかもしれません」
キアラ「妾も台詞は無さそうぢゃのぅ」
マリル「あははー、たぶん私が一番出番無いですね! それでは閑話をどうぞー!」
シュリーと里帰りなう
「というわけでキョースケさん。暫くお暇を頂きたいデス」
ある日の昼下がり。朝の鍛錬も終わり、お昼ご飯にしようか……というところで唐突にシュリーがそんなことを言って来た。
「暇を頂くも何も、今俺ら依頼受けられないし……構わないよ。どれくらい?」
「一週間くらいデスかね。行くだけで三日ほどかかるので……」
行くだけで……ということはどこかに出かけるのか。というか一週間のお休みで三日かけて行って……ってなると一泊しか出来なくないか?
「一日で終わる用事なの?」
「ええ。弟の様子を見に行くだけデスから」
「ああ、そういう」
弟さんの様子を見に行く……ということは、俺が嘗てアンタレスの前領主、マースタベから解放した奴隷たちが住む村か。
人族の中にある、人族と獣人族のハーフや奴隷狩りから逃げ延びた獣人などが住む村。とても閉鎖的なところらしいが……。
「なるほどね」
一応、この家にはタローがいる。日中は基本的にどこかへ行っているが……彼女だけ行かせるのも何か変に思わせるかもしれない。
「よし、三日ってことだけど……『筋斗雲』を使えばすぐでしょ。俺が送るよ」
「えっ!? い、いえキョースケさん。流石にそこまでお手を煩わせるわけにはいかないデス……」
恐縮するシュリー。
「そうぢゃぞ、キョースケ。お主がメインで監視されておるんぢゃ。ついて行っては本末転倒ぢゃろう」
「いや、タローだから話せば分かってくれると思うんだよね」
タローも形式上、みたいなこと言っていたし。
「それにどっちかって言うと、俺を含めたチームメンバーが短期間いなくなることよりも、チームメンバー一人が長期間抜けることの方が怪しまれると思うんだよね」
「ああ、なるほど。だから極力アンタレスから離れる時間を短くしたいわけか」
冬子の言に頷く。
「そう、だから最大三日くらいじゃないかな。タローが自由にさせてくれるのって」
「ああ……なるほどデス。そういうことならお任せしたいデスね」
「帰りはキアラの転移だから、『筋斗雲』を使うのも行きだけだしね」
その隠れ村がどこにあるのか分からないけど、俺たちはシュリーが弟さんと会っている時は別のところにいればいい。
というか、全員連れていく必要も無いか。
「シュリー、付いてきて欲しい人いる?」
「ヨホホ……そうデスね。皆さんが来てくださるのは嬉しいデスが、その中でもピアさんは来ていただけると嬉しいデスね」
「彼らに会うのは少し気まずいですが、そうですね。挨拶の一つくらいはしておくべきかもしれません」
じゃあリャンも参戦決定。
「俺は行くとして……冬子はどうする?」
「行きたいのは山々なんだが、マリルさんと少し約束があってな。明日、隣町の図書館に行くんだ」
隣町、といえばアクラブか。大きな街ではないのでオルランドが一緒に統治していたはずだ。アンタレスと違っていくつか大きな村が集まって出来ている街なので、あまり大きな図書館は無かったはずだが。
「確かに大きな図書館は無いんですけどねー。トーコさんの読みたがっていた本がどうも入ったらしくって。私はアクラブにいる知り合いのお店で売っているスパイスが欲しくて」
なるほど、それでか。
冬子がいれば他のAGを雇う必要も無いし、大人数が一緒に入る乗り合い馬車に乗る必要も無いから、日帰りで帰ってくることも出来る。それなら心配することも無いか。
「じゃあ冬子とマリルは不参加。俺とシュリーとリャンで行くか。キアラは俺の魔力追えば転移出来るでしょ?」
「そうぢゃの。ぢゃからまあ、お主が呼ぶまでは家でのんびり酒でも飲んでおるよ」
「それで寝てケータイがかかってきても気づかないってなりそう」
その場合は俺が飛んで帰ることになるから、少し手間か。
「今日から出発するの?」
「いえ、明日から行こうかと思っているデス」
「じゃあ今日中に準備して、だね」
直接村の中に着陸することは出来ないし、近くまで飛んでから徒歩で村に入ることになるだろう。だが、それでも相当な距離を飛んでショートカット出来るから一日あれば十分。
「俺はシュンリンさんに数日修行出来ないって旨を伝えとかないと。あとタローに旅行に行くことを言ってと」
「では私が旅支度は整えておきましょう。リューさんは弟さんに手紙などは出したんですか?」
「ああ、そういえばリューもこっちに来る前、手紙よこしてくれたもんね」
「ヨホホ……向こうは隠れ里デスからね。こちらからは送れないデス」
近く(と言っても徒歩で一時間か二時間はかかるようだが)に村があるため、そこから手紙を出すことは出来るが受け取ることは出来ないとのことだ。
ということは、何も言わずにサプライズ里帰りってことだね。
「じゃあ各々、準備ってことで」
パン、と手を叩いてぞろぞろ解散する。
(会っておきたい人もいるしね)
それじゃあまず、タローのところか。
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「というわけで三日ほど家を空けるよ」
タローに貸している部屋――ではなく、アンタレスのとあるカフェにて。タローの行動パターンを知っているわけじゃないが、今日に限ってはここで彼がデートしているのを知っていたからね。
「そうか」
特に反応を示さないタロー。隣にいる女性は俺の姿を見てぽかんとしているが、そっちは無視して俺は首を傾げ、活力煙の煙を吐いた。
「いいの?」
「何度も言うが、私が君たちを監視しているのは形だけのようなものだ。……確かにどこに行くか言えない、となると私も報告しなくてはならないが……三日程度だからな」
何とも緩い。それでいいのかSランクAG。こちらとしては願っても無いけどさ。
「お土産は期待しないでね」
「最初からそんなもの期待していない。というか私は言っただろう、今日は女性と会う約束があるから来ないでくれと」
ため息をつくタロー。俺は苦笑しつつ、軽く頭を下げる。
「ごめんね、こっちも急に決まっちゃったから。すぐお暇するよ。そちらの女性も、お邪魔してすみませんでした」
「い、いえ……大丈夫です。というか、その……アトラさんと普通に会話しているこの方は何者ですか……?」
俺の顔を知らないってことは、アンタレスの人じゃないのかな。自惚れているつもりは無いけど、この街で俺を知らないってのは考えづらい。
タローは苦笑しつつ、俺のことを紹介してくれた。
「彼はAランクAG、キョースケ・キヨタだ。実力的にはSランクに引けを取らない、有望な若手だよ。ミスター京助、彼女はミス・コラム。以前私たちが計画した公衆浴場のチェーン化を、ミスター・ティアールから任された優秀な才女だ」
「へぇ、アレを」
以前、タローとちょっと話していた俺の思いつき。アンタレスに銭湯でもあればいいんじゃないかと思って提案したのだ。衛生と風呂の関連、後は短期的に出店して調子が良かったら広める……みたいな話をタローと一緒に形だけ纏めておいたもの。
それをティアールに話したのは覚えていたが……そうか、その関連で来たのが彼女か。あのティアールから任されるのだから相当優秀なのだろう。
俺は懐からちょっといい活力煙を取り出し、彼女に渡す。
「AG流の挨拶で失礼。紹介にあずかった通り、『魔石狩り』のキョースケだ。何かあったらタローを……失礼、『黒』のアトラを通して言ってください。出来る範囲でお手伝いしますから」
コラムは活力煙を受け取ると、名刺を出してきた。
「お噂はかねがね。コラム・ジャーティーと申します。その……アトラさんとは懇意にさせていただいています」
チラッとタローの方を見るコラムさん。その目は明らかに恋する乙女のそれで……何となく、複雑な人間関係に見える。
タローの方はその視線を柳のごとく受け流し、それでいて彼女を拒絶していない。大人の世界……ってやつかな、俺には分からないけど。
というかデートと聞いていたけど……仕事の話をしているようだ。これ以上邪魔をするのは流石にマズいか。
俺は最後にもう一つだけお辞儀をしてから、その場を去る。それにしても公衆浴場……あの計画、本当に進めてたんだね。
「一枚噛むことになったら……マリルを通してかなあ」
一枚噛むというか、計画の概要自体は俺とタローで組み立てたんだけども。俺は一つため息をついて、顔をあげる。
「ま、いいか」
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「というわけで準備出来た?」
翌日。俺たちは旅支度を終えて庭に集まっていた。旅支度と言っても全部アイテムボックスに入っているので、格好はいつもと変わらないが。
シュリーとリャンが頷いたので、俺は神器を解放して『筋斗雲』を作り出す。
「相変わらず、マスターの魔法は凄いですね」
「ヨホホ、キョースケさんデスからね」
二人を乗せ、急上昇する。雲の上まで上がれば、取り合えず誰かから見られる心配はない。道も分からなくなるから、進んだら一回降りて確認する必要があるけど。
「規格外ですね」
「自由自在に空を飛ぶ人はよくいますけども、他人も乗せられる魔法を作れる人は限られてるデスからね。それ専門の魔法師じゃない、となるとワタシはキョースケさんしか知らないデス」
「褒めても何も出ないよ」
「どちらかというと呆れています」
なんでさ。
俺は『筋斗雲』を出発させ、おやつ替わりに持ってきていたサンドイッチを取り出して並べる。
「いただきまーす」
「美味しいですね、このサンドイッチ」
「ヨホホ、ミドラスさんもまた腕をあげたデスね」
「それにしても、せっかく俺異世界に来たのに冒険らしい冒険してないな」
「冒険したいのですか、マスター」
言われて少し考えてみるけど、別に冒険したいわけじゃないな……旅行はしたいけど。というかそもそも、冒険しなくちゃいけないことも無いしな……。
「でもそれがお約束みたいなところあるし」
「何がお約束か分からないデスが、完全に根無し草のAGは少ないデスし……」
言われてみれば、AGっていうのはだいたい3~4個の街をローテーションしながら生活している人が多い。これは護衛依頼などが結局儲かるからそうなっているだけであり、ダンジョンアタックを生業にしていたりでもしない限りはある程度定住していると言っても過言ではない。
「だから冒険者じゃないのかな……まあいいか」
「そういえばリューさん、昨日のご飯ちゃんと保存しましたっけ」
「ああ……マリルさんが確か片付けてくれていたと思いますデス」
「俺も家事手伝った方がいいかな」
「ヨホホ、マリルさんとピアさんの手際が良いのでお二人に任せる方が効率的だと思いますデスよ」
「そうですマスター。トーコさんなんてご飯作り以外絶対に手伝いませんからね」
そういえば冬子が家事をしてるところ、見た覚えないな……。あいつ、部屋も汚部屋だったし。我が家はいつの間にか分担が決まっていたけど、冬子は最初から分担されていなかったのか……。
「キアラは分かるとして、俺が分担から外されたのは何故だ……」
「一番の稼ぎ頭デスし……何より」
「マスターは掃除がやや雑ですからね」
はいすみませんでした。
なんて三人で喋っていたら時間が経つのもあっという間で、気づけば俺たちは例の村の近くまでたどり着いていた。
俺は『筋斗雲』を降下させ、地面に近づいたところで解除する。
三人で地面を踏みしめると、少しシュリーがホッと息を吐く。そういえばシュリーは飛ぶ時少し緊張しているね。やや高所恐怖症の気があるのかな。
「それでどっちの方なの?」
「ヨホホ、こっちデス」
そこからはシュリーの案内で道なき道を歩くことになったが……ものの二時間程度で村らしきところの入り口まで来ることが出来た。
村らしき、と言ったのは家などが見当たらないからだ。人や物見やぐらなどがあったために村と判断しただけで。
「マスター、上です」
リャンがそう言って指さすので、上を見上げると……
「……ポ〇モンにこんな村があったなぁ」
「ヨホホ! ここは家を樹上に作っているんデス。子どもなど非戦闘員が多い上に森の中デスからね。それにパッと見て一瞬村にも見えないでしょうデス」
俺も近くに来るまで全く分からなかったから、遠目に見るくらいじゃ村とは気づけない。いい感じのカモフラージュが出来てるね。
俺たちが近づくと、村の警備らしき獣人族の男女が出て来た。皆、かなり鍛えている。
とはいえ全員が純粋な獣人族かと言われるとそういうわけではなさそうだ。耳は獣人族のそれだが尻尾が生えている者や、その逆もいる。
「ヨホホ、皆さん。お久しぶりデス」
シュリーが一歩前に出てそう言うと、近衛らしい人たちが少しホッとした雰囲気になる。突然訪問すればそりゃ警戒もされる。
特に俺への視線が痛い。リャンは獣人だからいいとして、俺はどう見てもただの人間だものね。
ジロジロと不躾な視線にさらされながら、さてどう言ったものか――と思っていると、複数人の少年少女が俺の方へ走ってきた。
「あんとき助けてくれた兄ちゃん!」
「なんかもう全部ぶっ飛ばした兄ちゃん!」
「ピア姉ちゃんを持ってった兄ちゃん!」
最後の奴にだけ拳骨を落とし、俺は苦笑する。
「ん、皆さん初めまして。俺は『魔石狩り』のキョースケ・キヨタ。リャンの……今の上司で、シュリーの弟子で同僚って感じかな」
「……シュリー?」
後から来た少年――どことなくシュリーに似ている少年が、俺の言葉に反応する。雰囲気と目元が似ていて……でも、獣耳は持っていない。歳は十三歳くらいだろうか。
「お姉ちゃん、そうやって呼ばれてるってことは……もしかして、前言ってた好きな人ってもがが」
シュリーはマッハの速度でその少年に近づくと、ガバッと口をふさいだ。そしてその勢いのまま少年を浚うと、樹上の家の中へ入って行ってしまった。
ポカーンとする俺と守衛の方々をしり目に、他の少年たちが俺を取り囲む。
「なぁなぁ、兄ちゃん。なんか話聞かせてくれよ」
「なんであんな強かったんだ?」
「っていうか、その槍かっけー!」
わいわいガヤガヤと殺到してくるので、俺は水の兎を作る。それをぴょこぴょこ跳ねさせると、子どもたちは目をキラキラと輝かせた。
ニッと笑い、その兎を駆けさせる。案の定子どもたちはそれを追いかけて行ったので、ひとまず俺とリャンは解放された。
「ふぅ、やれやれ」
「そうか、あんたが我らの同胞を逃がしてくれた男――キョースケ・キヨタか」
一人、頭一つ抜けた実力を持つ男が話しかけてきた。頭一つ、と言ってもBランクくらいだけど。
俺は活力煙を渡しつつ、ニッと笑みを作る。
「うん。AランクAG、『魔石狩り』のキョースケだよ。別に君らの同胞を逃がすためだったわけじゃないけど、結果的にそうなったかな」
「マスターはリューさんの弟を逃がそうとして、結果全員を逃がすことになったようです」
「いや、それでもありがたい。この村も人が増えた方が何かと便利だしな。リューの仲間ならば、この場所を奴隷商人にリークすることもあるまいし。っと、俺は警備隊長のリキッドリン。リッキーと呼んでくれ」
ムキムキの獣人族、リッキーがそう言って剣を仕舞う。本名と愛称を名乗るのは獣人族のスタンダードなのかな。確か、親しい人以外には親からつけられた愛称で呼ばせるんだっけ。
リッキーは表面上穏やかな雰囲気で俺に接しているが、その実目の奥で値踏みするかのような雰囲気を醸し出している。すぐに油断しないのは警備隊長だからか、それとも他に理由があるのか。
「ま、何にせよ歓迎するよ。村長のところへ案内しよう」
「よ、ヨホホ! ワタシも挨拶に行くデス!」
ぜぇぜぇ言いながらシュリーが戻ってきた。後ろでシュリーの弟がこっちを物珍しそうに見ているが、取り合えずスルーで。
そんなシュリーを交えて俺たちは村長さんの方へ。
「ヨホホ、お久しぶりデス村長さん」
「おお、久しぶりじゃな」
村長さんは……片腕で、片目に疵のある老人だった。枯れ木のような腕や、その風貌から一見ただの老人だけど……身に纏う鋭い雰囲気からして若いころは実力者だったのだろう。
「こちら――」
「良い。わしは人族と喋るつもりはない」
シュリーが紹介しようとしたが、それを制して村長が俺を睨みつける。リャンの腕がピクリと動いたが、俺は彼女の手を握って首を振る。
「別にいいよ、リャン。シュリー、俺は外で待ってるから」
俺がそう言うと、村長の目が見開かれる。確か獣人同士はよほどじゃない限り愛称では呼ばせないんだっけ。でもシュリーから俺、愛称つけてって言われたような……。
(まあいいか)
そもそも、入れて貰えただけでも儲けものと考えるべきだろう。この村の成り立ちを考える限りは。
活力煙に火をつけ、煙を肺の中に吸い込む。木々に火が引火しないように気を付けながら……こっそり中の会話に耳をそばだてた。
『……あの人族が入ることは認めよう。お主らを助け、この村まで逃がし……しかも彼女の境遇を見る限り、獣人族を侮っているわけでも、まして敵意を持っているわけでも無さそうだからな』
『ヨホホ、ありがとうございますデス』
『そこまで分かっているのなら、何故あのような態度をとるのですか?』
『わしはもうすぐ八十。その程度のことしか分からないのであれば、相応の態度しかとれぬよ』
『貴方にも事情があることでしょう。それは分かります、しかしそれとこれとは話は別です。あのような態度はマスターに対して失礼だと――』
『ま、まあまあピアさん。いることを許可してくださったのですから、取り合えず良しとするデスよ。ここはワタシの顔に免じてどうか、デス』
『……分かりました、ここは引きましょう』
ああ、ちょっと面倒なことになりそうだ。
……何か問題でも起きなければいいけど。
京助「のどかなところだね」
リュー「まあ争いごとはそんなに無い場所デスねぇ」
リャン「争いごとが無い割にやや殺伐としている気がしますが」




