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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第九章 王都救援なう
244/396

224話 炎と氷の輪舞なう

前回のあらすじ!


「夢も、愛も……呪いと一緒なんだ」

「そして俺は、その一つをイマイチ理解してなかった」

「……でも。同じように夢を持つ者として、その呪いの業火はよくわかる」

「だから新井。俺が君の呪いを解くよ」

「その呪いを背負う覚悟は、たった今出来た」

 俺たちのいた部屋は当然吹き飛び、俺と新井は空に投げ出される。

 彼女は飛べただろうか――という心配は杞憂に終わる。新井は氷の道を作り出し、スケート靴のようなブーツでそこに着地した。

 背に氷の鬼を従え、氷のドレスにスケートブーツ……フィギアスケートの選手だろうか。


「……『ブレイズ・エンチャント』」


 俺は自身の肉体に業火を纏う。普段は『天駆』で空を駆ける俺だが、今回は炎の翼で空を飛んでいる。『衝翼』なんて名前にしようか。

 氷には炎だ。雨は降ってるけど、その程度じゃ俺の炎は消えやしない。


『カカカッ、キョースケ。ドースンダ?』


「ん……そうだな、ヨハネス。新井の正気を失わせてるものの正体、分かる?」


『直接触れらレレバ余裕ダゼェ』


 つまり触らないと無理、ということだ。

 だから彼女を無力化し、それでいて殺さず、更に真正面からぶつかるためには――


「彼女の魔力をすべて吐き出させる」


『オイオイ、ソンナ危険なコトシタラ死んじマウゼェ?』


「普通にやればそうだろうね。でも今の彼女と長期戦する方が危険だ。そうだろう?」


 ヨハネスに問い返すと、答えは来ない。彼の見解と俺の見解が合致しているということだろう。

 彼女の魔力量が、増大している理由の見解が。


「ちなみに今、何割くらい?」


『正確な数値ジャネエガ、六割ってトコロカァ』


 ――魔力量、というのは厳密には四つに分かれている。

 保有魔力量、魔力回復量、魔力操作量、そして――放出魔力量。一般的に『魔力量』と呼ばれるのは放出魔力量のことだ。

 保有した魔力から、魔力を放出して、放出された魔力を操って魔法を使う。放出魔力量の多さがそのまま魔力への耐性と考えればいい。

 そして基本的に放出魔力量は増えない。『職』が変化した時くらいだろう。

 ……というのが通説だ。


「それがぶっ壊れるのは俺が一番よく知ってるからね」


 そう、俺が終扉開放(ロックオープン)した時は一時的に放出魔力量が増える。マルキム曰くその時の俺はドラゴン並みなのだそうだ。

 そして今の彼女は明らかに放出魔力量が増えている。少しずつ、それは増大していっている。つまり俺のように一気にリミッターを開放するのではなく、少しずつ鍵が壊れているような状態だろう。

 彼女を覆う魔力はやはり二つ分。魔昇華の下から他の魔力が感じられる。魔族からの干渉によって彼女は正気を失い、鍵を壊されている、というところか。


「完全に開放されたら……こっちもそうしないと追いつかない」


 しかも、俺のように体を鍛えているわけじゃないんだ。魔族による暴走も含めてたぶん死ぬ。

 それじゃあ意味が無い。


「だから、一気に使わせるしかない。それでもイチかバチかだけど」


 終扉開放(ロックオープン)の何がマズいって、自分の肉体の限界を超えた魔力を纏い続けることが問題なのだ。肉体は限界を超えて動くし、そもそも魔力中毒のまま動き続けるようなものだ。

 だから、一気に使わせて一気に失わせる。魔力枯渇によるダメージはあるかもしれないが、彼女は本職の魔法師、即死はすまい。それ以上に、過剰魔力によって肉体的ダメージを受け続ければ確実に死ぬ。


「『捨て身の魔力』を使わせる。ヨハネス、付き合え」


『カカカッ、シャアネエナァ。後ヨォ、キョースケ。モット挑発しろ?』


「なんで」


『ソウスリャ、一発でオレ様が引き剥がシテヤルカラナァ!』


「よくわかんないけど、了解」


 楽し気に笑うヨハネスに笑みを返すと――氷のドレスを纏った新井が、トランスしたように目からハイライトを失う。


「行き、ます……清田、君……ッ!!!!」


 キンッ、と空気が凍る音とともに氷の槍が三百六十度、全方位に出現した。俺を串刺しにするつもりだろうか。


「行っ……てっ!!」


 新井の絶叫。同時に氷の槍が高速で俺に降り注いでくる。大概の魔物なら一瞬で細切れだろう。

 しかし――


「ぬるい」


 ――パチン!

 俺は指を鳴らし、肉体に纏う業火を爆裂させる。氷はすべて、俺に近づく前に溶け、蒸発し消し飛ぶ。極大な水蒸気爆発が起きたわけだが、俺はその衝撃すら燃やし尽くすことで防ぐ。


「ぁあっ!」


 その衝撃波で彼女の出していた氷の道が吹き飛ぶ。そのまま落下していくかと思いきや、手を下につくことで氷の柱を生み出し、その上にスーパーヒーロー着地する新井。あの子、殆ど魔法師とは思えない動きだね。


「……清田君ッ!」


「膝に悪いよ、その着地」


 がばっ、と俺を見上げた新井はそのまま氷の柱を伸ばし、その勢いで俺のところまで跳躍してくる。魔昇華してるからか、身体能力にも少し自信があるのだろう。

 でも、甘い。


「はぁっ!」


 氷の鬼が剣を振り下ろしてくる。俺は拳を握り、炎を纏わせ――轟! とその剣を吹き飛ばす。新井の顔が歪むが、即座にベルゲルミルは左手の剣で俺を攻撃してくる。五つある関節を駆使して、まるで鎖鎌のような無茶苦茶な軌道で。

 それを槍で弾くが、腰の部分でベルゲルミルが百八十度回転、関節とか諸々を度外視した動きで斬り付けてくる。

 普通なら面食らうであろうその一撃を、しかし俺は冷静に対処する。炎を纏わせた蹴りでベルゲルミル本体を消し飛ばした。


「う、そ……」


「それ、本命以外の雑魚を散らすための魔法でしょ? そんなもの、本職の槍術師に通用するわけが無い」


 キッと目つきを鋭くする新井。そのままノーモーションで氷の矢を数十発撃ち出してくるが、拳の炎を大きくすることでそれを防ぐ。


「く――行っ……て、『フローズンスネーク』!」


 しゅるり、新井の体の氷のドレスが氷の蛇に変化する。なるほど、戦う前から仕込んでたわけか。

 俺は苦笑して、『衝翼』から炎の刃を飛ばして消し飛ばす。しかし氷の蛇が消し飛んだ勢いを利用して新井はその場から離れていった。氷の道を生み出し、スケートの要領で空高く昇って行く。

 俺を置いていくなんて、つれないな。


「ふっ!」


 炎を纏い、新井を追う。彼女はこちらへ振り向くと、隕石――否、隕氷とでもいうべきか。雨雲を吹き飛ばしながらトラックくらいありそうな氷塊がニ十個ほど降り注いでくる。

 これ、全部地面に落ちたら被害は尋常じゃないね――


「でも、まだまだ。『ブレイズ・レグルス・ロアー』!!!」


 ――轟!!!!

 まるでたてがみのように炎を纏う。そして叫ぶように火炎の衝撃波をその氷塊へ叩きつける。即座に蒸発し、勢い余って周囲の雨雲も吹き飛んでしまった。

 周囲の魔物がもしもいたら、全員ミディアムレアで焼けただろう。人がいないおかげで好き放題出来るのはありがたい。

 ……本当、ありがたい。


「確かに風の魔法を使うことが多いけどさ。……一番得意なのは、やっぱり炎なんだよねぇ」


 目を真ん丸に見開き、唖然とした表情になる新井。俺は涼しい顔のまま、ちょいちょいと手招きする。

 ……さらに魔力量が増えてる。早々に決着させないとヤバい。


「ほら、新井。そんなもん?」


「まだ……ま、だ……です……っ! 『フロスト・アロー』!」


 氷の矢を生み出し、後ろのベルゲルミルに引かせる新井。俺は炎の矢を生み出してそれを相殺。しかしそれはブラフだったらしい。本命はその後。


「『霜の力よ! 氷結者の美沙が命令する! この世の理に背き、敵を圧殺する凄絶なる氷撃を! コキュートス・デッドエンド』!」


 完全詠唱。魔昇華して無詠唱で魔法を使えるようになったのにそれ、ということは彼女の必殺の一つなのだろう。

 氷の鬼が巨大化し、地面から氷の柱が高速で迫ってくる。『衝翼』をはためかせその場を離脱しようとするが、何と空中に氷で磔にされた。


「あら」


「行って……清田君、を……殺し、て! ベルゲルミル!!!!!!」


 巨大化したベルゲルミルの氷の拳。溶かすのは一瞬だが、離脱は流石に間に合わないか。となると――


「『ハイドロ・エンチャント』」


 ――ズガンッッッッッッ!!!

 氷の拳と柱によるサンドイッチ。普通ならこの時点で全身が粉々になってもおかしくはない。現に俺の肉体がきしむ。

 骨にダイレクトに伝わる衝撃。ミシリと骨に衝撃が走り、少しずつ体が押しつぶされていく。

 普通なら、これで死んでる。そう、普通なら(・・・・)

 ズズン……と今まさに俺を圧し潰そうとしていた氷の柱と氷の拳の動きが完全に止まる。つっかえ棒のように水の柱を間に挟んだのだ。

 その水の柱すら肉体に纏わせ、完全に力が拮抗する。


「ッ……これ、も……ッ?」


「さっきのが火力特化、破壊特化だとするならこれはパワー特化ってところかな」


 片手で氷の拳を受け止め、両足で踏ん張った。そして俺は激流を身にまとったまま、氷の柱と拳を押し返していく。


「ぶっ飛べ――『ヒュドラ・エクストリーム』!」


「だ、だったら……それごと、凍らせ、ます!!」


 ピシピシピシ、と俺の生み出した水流が徐々に凍っていくが……それを完全に無視して魔力を込める。

 凍っていた末端を飲み込み、九つの激流は巨大化したベルゲルミルと氷の柱が粉砕された。

 粉々になった氷の破片がキラキラと、天の川のように舞い落ちる。


「なん、で……ッ!」


 新井が歯を食いしばり、氷の刃をいくつも生み出して俺へと撃ちだしてくる。『ブレイズ・エンチャント』に切り替え、『衝翼』から炎の刃を飛ばして防御する。


「さっきも言ったけど、これでもSランクに任命されるんだ。この程度の技で倒れるような無様は晒せない」


 俺はそう言いながら更に炎の刃を撃ちだす。氷の道をぶち壊そうと発射したそれは、彼女の盾によって阻まれる。


「この……程、度……!?」


「そう。この程度。もっとだよ――何度でも言う。君が倒そうとしている男は、頂の景色を見た男だ! 俺を殺さないようにと手加減している一撃で死ぬものか!!」


「……手加減、なん、か……してない……!」


 ひゅう……っ。

 冷気が辺りを包む。炎を纏う俺に対してどんな魔法を撃つつもりなのか。

 俺が炎の結界を生み出し、彼女の攻撃に備えていると……やはり今度も詠唱しだす。


「だっ……た、ら……っ! 『霜の力よ! 氷結者の美沙が命令する! この世の理に背き、敵を確実に撃ち滅ぼす超高速の氷撃を! アブソルート・ゼロ・シュート』!!!」


 キンキンキンキンキンキン!

 空気が凍る。キラキラと煌めく氷の結界のようなものが下方から俺を包み込もうとしていく。それが完成するかどうかというタイミングで、新井から幾千もの氷の礫が超高速で撃ちだされる。


「なるほどね」


「ハチの巣に……する……っ!」


 逃げ場を塞いで超高速の氷弾で相手をしとめる、いい魔法だ。並の動体視力じゃ氷弾を追うことすら出来ないだろう。

 でも――


「『ストーム・エンチャント』」


 ――爆風を身にまとう、文字通りの台風だ。風圧のみで氷の礫を吹き飛ばすことも出来ようが、俺がこの形態になったのはそのためじゃない。

 超加速、それがこのエンチャントの神髄。乱反射する氷の礫を全て躱し、ギリギリ完成しきっていなかった結界の上部から俺はするりと抜けだした。


「でも……予想、通り……!」


 新井の眼が俺を捉える。誘い込まれたかな? とは思ってたけど本当に誘い込まれてたとはね。

 俺は『天駆』を用いて空中で体制を立て直す。新井の魔力がさらに跳ね上がると同時に、彼女のローブにジワリと血が滲んだ。


「『凍える風よ、大海をも飲み込む凍てつく牙よ。我が命に従い、此の世に永遠の氷結を顕現させよ! エターナルフォースブリザード』!!!!!!」


 ――シベリアで氷漬けにされたマンモスはこんな気分だったのだろうか。

 空間そのものが凍り付いていく異様な光景。風で吹き飛ばして防ごうとするが――なんと、その風が全て凍り付いていく。空間ごと永久凍土に閉じ込められるような。

 出せば出すほど、全ての炎が氷へと代わり――


「ふ、ん……『ブレイズ・エンチャント』。『エターナルフォースプロミネンス』!」


 ――永久凍土に沈められた空間が、マグマ以上の火力で吹き飛ばされる。

 炎すら凍てつかせる氷を燃やし尽くす紅蓮。新井は何度目か分からない驚愕の表情を浮かべる。

 今のが彼女の渾身の魔法……なの、だろう。本来ならば。塔で言っていた『必殺魔法』は確かコレだったはずだ。

 でも――


「いやぁ、凄い凄い。スゴイ威力の魔法だ。正直驚いたよ」


 パチパチと手を叩く。書記長叩きで、彼女によく音が届くように。


「凄いね、本当にスゴい。俺を殺すどころか、一ミリたりとも傷をつけられてないけど……ホント、凄い威力の魔法だ。俺以外なら、きっともう死んじゃってるよ」


「……清……田、君……?」


 新井の手がピクリと動く。彼女の持つ杖に魔力が集まる。


「認められたいんだっけ? ……いいよ、認めてあげる。スゴイね、君はきっとこの国一番の魔法師だ! 俺だって君の魔法を迎撃するために全力だったからね!」


「……清田、君……?」


 新井の眼が……徐々に、焦点を結んでいく。それに比例して、彼女の魔力が膨れ上がっていく。顔には疑わし気な表情が浮かんでいるが、俺はそれを無視して続ける。


「本当に凄い。選ばれたい? ああ、いいよ。凄い、是非ともうちのパーティーへ! そうだ、君の魔法は素晴らしい。キアラのような万能性はなくとも、リューのような器用さはなくとも! これだけの魔法が使えればきっと、どんな魔物だってぶっ殺せるよ。俺はそれ以上の魔法が使えるけどね!」


「清田……君!」


 新井の眼がハッキリと俺を見据える。正気を失っている新井が、謎の感情を向けていた新井が――明確に、俺に怒りを向けている。


「そうでしょ? 俺に認められたいから、殺したい。俺に選ばれたいから、殺したい。もう認めたよ、君を選ぼうか。これでいい?」


「清――」


 目が合う。

 その瞬間、新井は開いた口を閉じた。


「いいわけ無いでしょ。俺を舐めるのもいい加減にしてくれない? 何度も言うよ。そんなぬるい攻撃で、殺せる程度の男を目標にしたの? 殺気も無い一撃で(・・・・・・・・)! ……どうやって俺を殺すっていうんだ!!」


 俺は怒りを込めて叫ぶ。

 彼女と向き合う決心をして、彼女を救ける決心をして。

 今までの自分の不誠実さを反省して。

 そのうえで立っているこの場所で――殺す、と何度も言われながら実際は殺気がどこにもないぬるい攻撃ばかり。


「新井! 君は強くなった、きっと自分でも理解できていないほど! そして君は……きっと、人を殺せるようなタイプじゃない! だから俺に対して無意識に手加減するのも分かる! だけど……だけど! 君の目指した俺を信じろ! 君の全力を受け止めて見せる! 来いよ新井! 遠慮なんか捨ててかかってこい!」


 そう。今彼女が纏っている魔力量から繰り出されるはずの魔法は、俺が魔術で生み出しただけの炎や水、風で吹き飛ばされるわけが無いのだ。

 そのことに気づいたか、それとも別の理由か――新井は信じられないものを見るような眼になりながら、髪をかきむしる。

 その仕草はどことなくホップリィに似ているが……。


「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 殺す……殺して、認められる、殺す、ために、殺気、あああ! 殺せ……殺しなさい、殺せ、殺すのよ! 殺さないと、認められない、殺せば、認められる、殺せば、仲間になれる……!? 殺せ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ!!!!」


 新井の咆哮。破綻した思考を垂れ流すと同時に爆発的に魔力が膨れ上がる。 そういえば、俺がヨダーンの首飾りをつけた時も、俺を殺すために俺を無茶させる――なんて破綻した思考に陥ったっけ。


「清田……君、清田君、三叉(トライデント)、清田君、三叉、清田君、清田君、三叉、清田、三叉、三叉、清田君、三叉清田君、三叉三叉清田君清田君清田君三叉清田君清田君三叉清田君三叉三叉三叉清田君清田君清田君三叉清田君清田君三叉清田君三叉清田君清田君三叉三叉清田君清田君清田君三叉清田君清田君三叉清田君三叉三叉三叉清田君清田君清田君三叉清田君清田君三叉清田君三叉清田君清田君!!!!」


 声が二重に聞こえる。一つは新井の声。もう一つはホップリィの声。彼女らの声が重なり、完全に一つとなったところで――魔力が重なる。

 氷が二重。ああ、なるほど。


(カカカッ、今なら――操るタメノ魔道具の魔力もヤツは使うゼェ! ソウスリャ、一発で引き剥がせる!)


「そういうことね。OK」


 槍を構える。向き合う。

 今、俺の出せる全力を……ちゃんと、ぶつけよう。


「死んだ奴がこれ以上でしゃばるなよ。そろそろ、そいつを返せ。俺は正気の彼女に謝って、ちゃんとぶつからないといけないんだから」


 亡霊と戦うなんて初めてだ。

 だから――


清田君(トライデント)!!!! あなた(おまえ)を、選ばれるために(なんとしてでも)、殺す!!!」


「――俺の経験値にさせてもらうよ」


 魔力が膨れ上がる。それはいつかの日、あの塔の中で見た時よりも更なる魔力で。

 彼女の本当の全力。殺意は誰のものなのか。

 さぁ、フィナーレだ。


「『永久凍土に君臨せし魔王。只人の理からはずれし獣王。この地上に顕現し、世に満ちる全てを凍てつく波動をもって食い荒らし、破壊し、永劫の停止の世界へと誘え!』」


 詠唱。それも普通の詠唱じゃない、天川の『終焉』と同じ超長文詠唱。

 来る――捨て身の魔力だ!


「『さぁ大いなる獣の力を解き放ち、まずは我が眼前で御身を邪魔する外道の輩を久遠の彼方へ呑み込み凍結させよ!』」


 彼女が身にまとっていた魔力が全て虚空へと投げ出される。その魔力は空間――否、時空事凍り付かせるような冷気をもって翼を持った白虎の形をとった。


「『バアルシファー・ヘルフロスト』!!!!!!!!!!!」


 その大きさはかるく百メートルはあるんじゃなかろうか。空を喰いながら、圧倒的な冷気の暴力が俺を包まんと向かってくる。

 これが新井の全力。ならば、俺も全力で応えるだけ。


「『エクストリィィィィム――』」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 勇者は剣を止め、魔弾の射手は銃を降ろし、弓兵は眉根にしわを寄せ、騎士団長は指示の手を止めた。

 ありとあらゆる実力者が一つの方向を向いたのだ。

 それに一拍遅れて、他の者も同じ方向を向いた。戦闘員、非戦闘員問わず。

 何故って? そこには――Sランク魔物かと見紛うほどの巨大な魔法が展開されていたから。

 あんなものが着弾すれば王都が無事ではすまない。咄嗟に実力者たちは自身の持ちうる最高級の攻撃を叩きこもうとしたが――空から落ちてくる、一筋の流れ星を見てそれを止めた。

 何事、と思う間もなく。流星は氷の虎に激突し、その全てを破壊し尽くす。

 流星が虎を破壊し――そしてさらに、破壊の余波で吹き飛ぶはずだった氷の塊を悉くその星は潰していったのだ。

 一同は驚愕し、自分たちが今置かれた状況すら忘れて呆然と空を見上げていた。

 ……ただ一人、誰が、何をやったか理解している神を除いて。

キアラ「極限ぢゃのぅ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお、今回は戦闘がてんこ盛りですね。 しかも長い時間をかけて仕込んできたヤンデレの全力。 どうも絡んでるっぽい魔族の影響。 どうなっていくのか、すごく気になる引きです。 [気になる点] >…
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