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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第九章 王都救援なう
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218話 逃げ場無しなう

前回までのあらすじ!

京助「タローがエグイ戦い方で魔族を追い詰めたよ」

冬子「木々……いや森を生み出すのがまずおかしいが、その中で正確無比に射抜くわけだからな……」

リャン「正直、人間業ではありませんね」

リュー「ヨホホ、そんな彼が何かを見つけたようデス」

キアラ「なんであれ、ろくなことにはならんぢゃろうな」

マリル「それでは本編をどうぞー」

 メロリアは魔族としては中堅程度の実力だ。『魔王の血』を飲みある程度強化されているが、それでもブリーダやホップリィ達と比べれば遥かに劣る。先遣隊のリーダーであるルーツィアにも恐らく勝てない。

 とはいえ、彼女の役目は情勢の観察や有望な人族を魔族にすること。その点で言えば目をつけていた二人は順調にいっていたと言えるだろう。

 ミサとかいう方は確実性があるわけではないが、もう一人――ユーヤの方は問題ない。既に『魔王の血・Ⅱ(ヴァージョン・ツー)』は取り込ませているし、このまま慣らせば『魔王の血・Ⅲ(ヴァージョン・スリー)』にも適合するはずだ。

 とはいえ二つ誤算があった。まずはミサ、彼女は暗示に抗った故か明らかに正気を喪いつつある。それ自体は構わないのだが、それに伴って感情が変質しもはや容易に御することが出来ないようになってきた。

 このままではこちらに転がる前に先に精神崩壊してしまう。だからその前に保護したかったのだが問答無用で攻撃されてしまった。幻術で誤魔化せなかったら今頃どうなっていたことやら。

 そして二つ目の誤算はユーヤの方。魔法の実力は高いが脳も能も足りていない暗愚。すぐに調子に乗るため扱いやすい。しかもそれでいて『魔王の血』への適合率も高い。

 人族から引き抜いて使い潰すにはもってこいの逸材だった。

 そう、だった。


「クソが……クソがクソがクソがァァァァ!」


「お、落ち着いて? ユーヤ、あのね。ちょっとそんなに暴れちゃうとお姉さん治療できないんだけど……」


「うるせぇぇ! うるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇ!!!! 清田……清田清田清田清田清田清田清田ァァァァぁァッぁあっぁ!! ふざ、ふざけ、あああああああ!!!」


 目の前で暴れているのは、隻腕となったユーヤ。その眼は血走り、ずっと『キヨタ』という名前を連呼している。

 恐らくはホップリィとブリーダが執着していた『三叉(トライデント)』のことだろう。キョースケ・キヨタ。資料によれば三属性の魔法を操り、『魔王の血・Ⅱ(ヴァージョン・ツー)』を経口摂取しているため半分魔族の身体になっており、更に魔族でも一握りしか会得していない『魔昇華』を行える天才。

 槍も得意なようで、近距離、中距離、遠距離共に隙の無い特筆戦力。当初はあくまで「異世界人」故に特筆戦力の末席に書き加えられていたのみであったが、今や特筆戦力の中でも上位に位置する異様な成長速度。

 兎にも角にもメロリアでは相手にならないし、ましてユーヤでは命があるだけマシなレベルの相手。


「あの野郎……俺が、俺が元クラスメイトだからってちょっと……いやかなり手を抜いてやってたら調子に乗りやがって!!」


 焦点の合わない目で叫び続けるユーヤ。彼の右腕は根元から落とされており、切断面は焼かれて止血されている。今は興奮しており痛みを感じていないのかもしれないが、そのうち激烈な痛みでのたうち回ることになる。

 その前に何とか治療してやりたいのだが……暴れまくるため魔術を唱えることが出来ない。


「清田……清田ァァァ! おい! 俺は最強になったんじゃねえのか!? なんでアイツごときにやられんだよ!」


「その原因を探るためにもちゃんと治しましょう!? ほ、ほら取りあえずあなたの腕拾ってきたから――」


「清田ぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!! もう一回こっちに来い! 逃げるんじゃねぇクソがぁぁぁぁぁぁぁっぁ!!!!!」


 倒れたまま駄々っ子のように――というかまんま駄々っ子なのだが――足を叩きつけるユーヤ。

 この調子に乗りやすく人の話を一切聞かない性格が、中途半端に力を得たせいでこんなことになってしまった。どうすればいいのか。

 メロリアは保母ではない、しかし作戦が破綻した今彼だけでも連れて帰らねばならない。転移の魔道具はあるのだが、一息で飛ぶにはメロリアの魔力が足りない。先ほどミサに接触した際に問答無用で撃たれた魔法を回避するために膨大な魔力が必要だったからだ。

 だからせめて彼の怪我を治し、身を潜めてから魔力の回復を待ちたかったのだが……


「あぁああああ……はぁーっ、はぁーっ……」


 息切れしたのか体力切れか。ユーヤが暴れるのを止める。取りあえずこれで何とか彼の治療に入れる。

 ホッとして魔術を唱えようとしたところで――


「おや?」


 ――そんな、静かな声が二人の耳を通り抜けた。

 あまりにも自然で、戦場には不釣り合いな呼びかけ。まるで自分の家にいるかのような錯覚を覚えるそれにごく自然に動きを止めてしまった。ほんの一秒にも満たない時間だが、確かに動きを止めてしまった。

 その瞬間、ユーヤの腕がメロリアの手から飛ばされ、近くの木に矢で貼り付けにされる。


「なっ……」


「ぁぅ……」


 かなりの衝撃があったので変な声が漏れてしまい、少しだけ恥ずかしくなりながらその矢が飛んできた方向を睨む。――冷静に考えたら恥じらっている暇などないはずなのに。

 頭を戦闘のそれに切り替え、太ももからワンドを抜くと……そこには、黒髪の青年が涼やかな笑みを浮かべて立っていた。


「やぁ、お嬢さん。一つ質問をいいかな?」


 黒い襟付きのシャツと同色のパンツ。その上からやや深緑に近い黒いマントを羽織った男。真っ黒な出で立ちでまるで不審者だが、今ここに限っては自分の方が不審者であるため誰も呼ぶことは出来ない。


(逃げ……)


 る、そう思うや否や男の存在感が急激に増した。彼がそこにいる――それだけでまるで蛇に睨まれた蛙のように動くことが出来ない。

 何故、何が――そう考えるよりも早く、真っ黒な男は弓矢を構えた。


「何故魔族である君が――人族の青年を連れているのかね?」


 ただ男が弓矢を構えた。それだけで悟る、自分は絶対に逃げられない、と。

 それと同時に思い出す。資料にあった、特筆戦力の名を――


(ま、間違い……無い! アレ、『猟鬼(ミリオンレンジ)』だ!)


 よりにもよって、この状況で最も会いたくない特筆戦力。一度狙われればこいつを倒す以外では逃げ切ることが出来ないと言われる男。

 視界外でも射程内と言われる脅威の弓兵。世界広しと言えど、彼以上の射程を持つ生物は魔王様以外いないだろう。

 というか精密狙撃なら魔王様の魔法にすら勝るのではないだろうか。


(逃げれない……ッ)


 コレが『猟鬼(ミリオンレンジ)』以外ならば。それ以外のSランクAGならばユーヤを連れて逃げ果せただろう。

 捕まるわけにはいかない、しかし逃げられるとも一切思えない。


「え、えっとその……」


 チラリとユーヤの方を見る。彼が人族であること、それしかこの場を切り抜ける突破口は無い。ダメ元でユーヤの後ろに隠れて耳打ちしてみる。


「(誤魔化して)」


 ついでにむにゅっ、と胸を当てる。どうせ童貞だからこうすれば鼻の下を伸ばしてほいほい言うことを聞いてくれるだろう。


「(こいつを捕まえたから捕虜として連れて行くところ、とかなんとか言って。いいから、お願い! じゃなきゃ逃げられない!)」


 小声で必死に懇願する。もはやプライドとかどうこう言っている場合ではない。いいからさっさと逃げないと。

 しかしユーヤはギロリとメロリアを睨みつけた。


「あ? 何が誤魔化して、だ。あいつぶっ倒して逃げればいいだけのことだろうがァ! あ!?」


 いきなり意味不明なことを叫ぶユーヤ。そのことに目を丸くしていると、ユーヤは片手のまま魔道具『ギザサイズ』を起動した。


「ちょっ、まさか戦うつもり!?」


「ふむ、少年。君は……人族のようだが、魔族に与するのかね?」


 キョトンとした顔で矢の矛先をずらす『猟鬼(ミリオンレンジ)』。油断、だろうか。


「うるせぇ! 知るか知るか知るかァ! 俺は最っ強になったんだ。さっきの清田の時だって、『ギザサイズ』を使ってりゃ負けなかったんだ! 俺は、俺はぁぁぁぁ!!!」


 何が彼を駆り立てているのかが一切分からない。分からないが、唯一の逃亡の芽が消えた。ユーヤはそのままメロリアの前に出ると、『ギザサイズ』をタローに向けた。


「ぶっ殺してやる……!」


『ギザサイズ』は使用者の命を喰らって魔術の威力を高める魔道具。それだけ聞くとよくあるような魔道具でしかないが、この『ギザサイズ』は一味違う。人族のように虚弱な種族でも扱える程の拡張性があり、登録者以外使えないシステムのおかげで敵の手に渡る心配もない。

 何より魔術の威力の上昇が純粋な火力の増加ではないのだ。魔術の効果範囲が拡大し、発動までの速度、操作性まであらゆる能力が跳ね上げられる。

 つまり魔力さえあれば誰でも『魔昇華』を行っているような状態になる魔道具なのだ。

 難点は、使用者の実力が高ければ高いほど喰らう命も多くなるため、一定以上の強さの魔族は最初から起動できないし、そもそも『魔昇華』が出来れば使う意味も無い。

 このユーヤは起動出来るギリギリくらいの能力を持ち、しかもどんな人間にもある「危機感」が欠如しているためどこまでも命を『ギザサイズ』に喰わせられるという中々いない好条件の人族なのだ。

 ……だが、その「危機感の欠如」がこんなにも最悪の状況で発揮されるとは。


「ぶっ殺す……ぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺すぶっ殺す!!! 俺が本気を出せば、最強なんだ、最強なんだ最強なんだ……!」


 ユーヤの片目が赤く輝く。半魔族の魔力が高まっている証拠だ。緑色のオーラが『ギザサイズ』から現れ、ユーヤの魔力を吸って鎌の部分が赤く怪しく輝きだす。

 赤熱したように輝く『ギザサイズ』を振り上げ、ユーヤは高らかに笑った。


「あははははははははっは!!!! イケる、イケる、イケるぞ! さぁさぁさぁさぁさぁさぁ!!! ぶっ殺してやる、ぶっ殺す!!!」


 そしてユーヤは魔力を練ると、結界を発動し――


「ふむ、流石に怖いな」


 ――『ギザサイズ』が粉々に砕け散った(・・・・・・・・)


「「!?」」


 メロリアも、もちろんユーヤも『猟鬼(ミリオンレンジ)』から一瞬たりとも目を離してはいなかった。彼は確かに矢をこちらに向けていなかった。弓矢を引く動作すらなかった。なのに、何故。


「私にはとても怖くて出来ないな。『今からあなたを殺します』などと丁寧に宣言してから戦うなんて……いやはや、中々どうして大した度胸だ」


 笑みを浮かべる『猟鬼(ミリオンレンジ)』。メロリアがその表情を見て無意識に右足を一歩後ろに下げた瞬間、プツン、と紐が切れるような音がして膝が折れる。


「えっ……」


「私はとてもとても臆病でね。こうして相手に悟られず攻撃することしか出来ないのさ」


 アキレス腱を切られた――それを理解出来た時には、既に左足の腱も切られてしまっていた。

 膝から地面に崩れ、そのまま左肩を撃ち抜かれる。もはや『猟鬼(ミリオンレンジ)』を見ることすらできない。右腕以外動かなくされ……ただ項垂れるしかない。

 ユーヤの方はというと呆然としてメロリアを見ている。違う、こっちじゃない。


「ユーヤ! あいつを倒せ!」


 そう言われてハッと杖を取り出すユーヤ。今度は背後から飛んできた弓矢でその杖を破壊され、メロリアの片耳が飛ばされた。

 意味が分からない、何をされているか分からない。


「う、あ、ど、え」


 何を言いたいのか分からないが、混乱から抜け切れていない様子のユーヤ。そりゃそうだ、こんな化け物どうしようもない。

猟鬼(ミリオンレンジ)』はゆっくりとこちらへ近づくと、ユーヤの肩に手を置いた。


「君には聞くべきことが山ほどあるが、取りあえず一度眠っていたまえ。そして魔族のお嬢さん。残念だが君を生かしておく必要はないんだが……どうするかね?」


 命乞いをするなら、情報源として連れていくと。そういうことだろう。殺したくないとかそういうことではなく、本当にどっちでもいいから訊いているのだろう。隔絶した実力差がそこにはある。

 メロリアは少しだけ考えてから……ユーヤの方を見た。


「その、私は……彼の恋人、なの。この作戦に乗じて……彼をいっそ国に連れて帰ろうと思って。だから、その……私は死んでもいいから、彼だけは生かして……欲しいな」


猟鬼(ミリオンレンジ)』はメロリアをジッと見つめると、弓矢を構える。YESともNoとも言わないその姿はまさに鬼。


「えっと、その……さ、最期に彼と」


 ズパン。

 最後まで言い切ることも出来ず、頭を撃ち抜かれた。冷静で冷徹な一撃によってメロリアの命は花と散ることになった。

 ――本来ならば。


「む?」


「『昨日の悪夢をもう一度(アルタービジョン・コンティニュー)』!」


 ゆらり、メロリアの姿が掻き消え、傷も消え刺さっていた矢も綺麗さっぱり無くなる。

 いくら『猟鬼(ミリオンレンジ)』でも虚を突かれたのか、矢を引く手が見える。右腕でユーヤの頭を抱き、唇に唇を近づけて――


「(あなたの望む本当の力をあげるわ)」


 口内に隠しておいた、彼に飲ませた残りの『魔王の血・Ⅱ(ヴァージョン・ツー)』と、更にもっと劇薬である『魔王の血・Ⅰ(ヴァージョン・ワン)』を同時にユーヤの口内から直接体内に滑り込ませる。

 メロリアの最後の切り札。死んだ自分を“幻影だった”ことにする固有魔法だ。

 ガクッ、と膝をつく。既に今日――ミサから逃げる時に使っているのだ。本来ならば三日に一度が限度の使い勝手の悪い魔法。このまま何もせずとも魔力が枯渇して死ぬだろう。

 でも、この一秒が作れたのなら十分。


(ブリーダ様、ごめんなさい)


 こいつはヤバいから洗脳が完全に終わって人格が消えてからにしろと言われていたが、もうなりふり構っていられない。

 というか、これでも上手くいくか分からないのだが……。


「がっ……」


 当然ながら苦しみだすユーヤ。そしてその異変を『猟鬼(ミリオンレンジ)』が見逃すはずがない。メロリアは頭部以外の全身を背後から撃ち抜かれ、芋虫のように身動きが取れなくなってしまう。


「何をした?」


 問う『猟鬼(ミリオンレンジ)』だが、彼はミスを犯した。ここで警戒すべきはメロリアではない、ユーヤの方だ 。

 このまま適合できず死ねば情報を与えずすむ。だが適合すれば。

 この場から離脱出来る程度の強さにはなれる。


「が、あ、あ……あ、ああ……あ、ああぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」


 喉から直接音を取り出したような、獣の叫び声よりも醜悪な音。『猟鬼(ミリオンレンジ)』は落ち着きを取り戻したのか、ほんの少しだけ眉に皺を寄せると、メロリアに矢を向けた。

 咄嗟に躱そうと体をねじる――と同時に、背後の木に磔にされていた。どう足掻いてもメロリアを逃がすつもりはないようだ。

 でも、でも。


「わ、たしにばっか構ってくれて……ありがとう」


 呟く。もはや声を出す元気すら出ない。

 でも、一秒も自分に構ってくれた。その一秒があれば十分、答えが出る。ユーヤが『魔』に選ばれるかどうかの答えが。

 魔力が膨れ上がる。周囲の木々が衝撃で揺れる。『猟鬼(ミリオンレンジ)』は即座に弓矢を構えた。

 でも、遅い。


「がぁぁぁああああああああああああああああああ……あっがっ……くそ、がぁぁぁぁ!!!」


 ――超えた。

 そう確信を持つと同時に、『猟鬼(ミリオンレンジ)』の矢が全方位からユーヤの心臓部に突き刺さった。その数六本、時が飛んだかと見まごう速度だが――それでも、遅い。


「ふむ?」


 さらに脳天と、眉間に矢が突き刺さる。更に『猟鬼(ミリオンレンジ)』は四人に分身すると、その全てで弓矢を構えて弾幕を張るように矢を撃ち出した。

 ――だが。


「くっ、ぎひっ、ぎはっ、ぎゃはあはははははははははははははははははああああああああああああああああああああははははああっぁぁぁぁぁぁぁああははははっはああああああああああああああああ!!!!!! 強ぇ、強ぇ、強ぇぇえっぇぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!! 俺、TUEEEEEEEEEEEEEEE!!!!!!!!!!!!!!! はぁっはぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!」


 全身に矢を受け、体中から血を流しながら――それでもなお、天に向かって嗤い続けるユーヤ。叫び続けるユーヤ。

 成功した、やった、やった。

 歓喜が心から湧き上がる。あの『猟鬼(ミリオンレンジ)』を出し抜けた。人生のラストとしては最高の締めだ。

 狂気と狂喜で震える中、得心がいったとばかりに頷く『猟鬼(ミリオンレンジ)』。


「……体内に結界か。なかなか狂った発想だ」


「当たり前だろうがぁぁぁぁあああああ!!! ぎはははっはははは!!!! 俺様みてぇな大天才なら余裕で出来るんだよこんなことはぁぁぁぁああああああああ!!! ぎははははははははははははははは!!!!! じゃーな、あばよぉぉぉ!!」


 ユーヤは既に転移の魔道具を起動している。キスした時にメロリアが渡したものだ。それを見て『猟鬼(ミリオンレンジ)』は冷静にメロリアに矢を向けるが――ふっ、と最期の力を振り絞って嗤う。


「行って、ユーヤ」


「当たり前だ! この、役立たず!」


 全身に矢を突き刺したまま、ユーヤの姿が掻き消える。良かった、任務はなんとか達成。

 その喜びに身を任せ――メロリアは意識を手放した。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……まさかあの状況、状態であちらを逃がすとは……」

 

 どう見ても、ユーヤと呼ばれた少年を傀儡としようとしている様子だった。だからずっと魔族の方ばかり警戒していたというのに……死して尚、彼を逃がすとは。

 タローは自分が読みを見誤ったことを少し後悔しつつ、例の魔族を捕縛する。


「体内に結界を張る、など……彼に師はいないのか?」


 全身に殺す気で撃ち込んだ矢。しかしその悉くがユーヤの命を奪うまでは至らなかったのは、彼が体内に結界を張ったからだ。正直、虚を突かれた。まさかそんな命知らずのことをする者がいるなんて考えていなかったからだ。

 そもそも体内に結界を張ることが自殺行為だ。体内に結界を張るということは、自身の許容量以上の魔力が体内でオーバーフローするということであり、大量の魔力を当てられた時以上の症状が現れる。尋常でない痛みが全身を駆け巡るし、寿命も一気に縮む。というか、即死ないし気絶してもおかしくない。

 技量という点では、Fランク魔法師でもやれるだろう。しかし実際に成功させるには技量以上に体内に張る度胸、運、そして寿命を省みない馬鹿さが必要だ。


「ふむ……黒髪、だったところから見てミスター京助たちの仲間だろうか。やれやれ、彼になんと言おうかな」


 ここまでイレギュラーが続くのなら、最初から両方殺しておけばよかった。ため息をついて、歩き出す。

 雨の降る王都へ、魔物を殺すために。

マリル「今回のゲストはアトラ・タロー・ブラックフォレストさんですー」

タロー「ミスマリル、ゲストに呼んでいただき光栄だ。良ければ後でバーにでもどうかね?」

マリル「キョウ君も連れてきていいならー。それじゃあ早速質問ですねー。彼女は作らないんじゃなくて作れないんじゃないですかー?」

タロー「……どうせその質問をしたのはミスター京助だろう。まあいい、本当のことを言うのならやはり作り辛いところはあるな。こう見えてSランクAGとして恨みも買っている。確実に守り切れるだけの用意が出来るまでは結婚など考えも出来ないな」

マリル「予想以上に真面目な答えが返ってきてつまらなかったのでー、彼の過去を知る人を連れてきましたー」

アルリーフ「こいつ、昔女関係で結構失敗しとってなー」

タロー「おっと今日はここまでのようだ! それでは皆さんまた来週!」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 阿部の「当たり前だ、やくたたず!」がもう、すげえなって。 一週回ってそこまでくると正直手の施しようがなくて好きです。 人として完全に終わってる……。 [一言] タロウが虚を突かれて「弓を引…
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