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異世界なう―No freedom,not a human―  作者: 逢神天景
第八章 王都動乱なう
201/396

185話 夥と絶と剣

前回までのあらすじ!

天川「一つ! 不穏な大臣と出会った天川!」

空美「二つ! 志村のところへ行ってパワーアップした難波!」

ティアー「三つ! 突如、謎の結界が!」

ラノール「この感じ、なんなんだ?」

ヘリアラス「あらすじ紹介はしやすそうねぇ、それでは本編よぉ」

「おいおい、天川! アレなんだよ!」


 難波が血相を変えて駆け寄ってくる。しかし天川とて状況をしっかりと把握できているわけではない。


「分からん。だが取りあえず集まろう。……井川は部屋だろうか」


「いや、ここだ」


 ふっ、と。

 唐突に虚空から井川と木原が現れる。相変わらず心臓に悪い現れ方だ。


「見たか?」


 天川の問いに、黙ってうなずく井川。一方の木原は鼻息荒く今にも抜刀しそうな勢いで睨みつけてくる。


「何ぼやぼやしてやがるんだ! 行くぞ!」


「落ち着け木原、まだ阿辺が来てないんだ。難波、阿辺は?」


 難波に問うと、彼は首を振る。今ここにいるのは天川、呼心、桔梗、新井、井川、木原、難波の七人だ。

 阿辺以外の全員が揃ってはいるのだが……まあいなくても問題ないか。


「仕方ない。……まずは結界の確認だな、どういうモノか分かるやつはいるか?」


 天川が周囲に問いかけるが、全員が首を振る。


(結界といえば阿辺だというのに、やはり肝心な時に……いや、やめておくか)


 やむを得ないので、井川に頼んで結界ギリギリまで転移する。

 ヴン、と周囲の空間が一瞬で切り替わる感覚にはいまだに慣れない。


「これは……凄いな」


「うーし、空美。怪我したら頼むわ」


「えっ、ちょっ……あ、分かった」


 呼心が呪文の詠唱に入りつつ、難波がすらりと剣を抜く。その構えは今までのようなやや乱暴というか、杜撰な物とは違い……どちらかというと、日本の剣道のようだ。


「難波、それは」


「あー、アレよ。お前に言ったから隠さなくていいかって」


 難波はそれだけ言うと、鋭い踏み込みと共に一閃する。今までと何か威力が劇的に変わっているとは思えないが、剣に迷いがなくなったように見える。

 さてそんな難波の一撃だが、一切通用せず結界に弾かれてしまった。


「あー、いてぇ。なんだこりゃ」


「回復いる?」


「いや。次木原頼むわ」


「行くぞ」


 難波が木原に言うと、木原は蒼いオーラを身に纏う。『職スキル』だ。


「ッラァ! 『滝斬』!」


 屈んだ状態から伸び上がるように斬りつける木原。音すら置き去りにしそうな速度だが、結界には通じない。バチバチ! と衝撃が走り木原が逆に吹き飛ばされる。


「ガァッ!」


「真奈美! ……空美、すぐに回復を」


「う、うん」


 木原が呼心から回復されているうちに、自分も剣を振り上げる。


「天川、やるのか?」


「一応な。……ぜぁっ!」


 振り下ろすが、やはり弾かれる。硬いものに弾き返されるというよりは、柔らかいゴムのようなものに衝撃を吸収され反射されているような感覚だ。

 攻撃を加えてもビクともしない結界。それが王都全域を覆っている。


「井川、テレポートで外に出られるか?」


「……もうやった。不可能だ」


「転移出来ないのか……マズいな」


 これでは天川たち――だけではなく、王都の人民全員が王都に閉じこめられた形になる。

 王都の中に余剰物資はあるが、こうして出られないというのはストレスの原因になる。どうにかすべきだろう。


「しかし一体誰がこんなことを……」


 結界と言われて真っ先に思い浮かぶのは阿辺だ。しかし阿辺にこれほどの結界を張る能力があるとは思えない。


「言ったとは思うけど……昨日、阿辺が王都の四隅に何か置きに行ってたぜ」


 苦い顔になる難波。天川も報告は受けていたが、まさかこんなことのためにとは思っていなかった。


「……何のために?」


 井川が顎に手を当てて一人ごちる。そんな井川に天川は首を振り、肩に手をおく。


「まだ阿辺がやったと決まったわけじゃない。……無関係とも考えづらいが。ともかく阿辺を探そう」


「そう、だな。まずは阿辺を探すか」


 というわけで阿辺の部屋に皆で行こう――となったのだが、ふと大きな気配を王都の中心部で感じた。

 それは奇しくもこの結界の頂点に当たる付近のようで、偶然と片づけるにはあまりに出来過ぎている。

 皆無言で頷き合い、街の中心を見た。


「井川、転移だ」


「場所は」


「……王都の中心、ミラーリンサークルに」


「了解だ」


 ミラーリンサークルというのは、言わゆる円形広場だ。噴水などがあり、休日は見世物などがわんさか来る、王都名物の一つだ。


「行くぞ」


 井川がそう呟くと同時に、フッとミラーリンサークルのやや上空部に出る。二階くらいの高さだが全員危なげなく着地し、周囲を見ると……その場にいた人々は唐突に現れた天川たちに目もくれず、その更に上を見ている。


「……あれか」


 人々が見ているのは、結界の頂点部のようだった。そこに四つの人影が見える。天川たちがさっき感じた気配の正体だろう。

 羽ばたいて飛んでいるようには見えない。となると魔法的なもので浮かんでいるとみるべきか。

 残念なことに天川たちに空を飛べる能力を持つ者はいない。であればと天川は『職スキル』である『猛禽の瞳』を発動させる。


「ん……これ、は?」


 三人はフードを目深にかぶっているので顔までは見えない。しかし一人だけは分かる。

 尖った耳、紅い目。正気が残っているとは思えない程狂気に満ちた瞳。


「魔族……ッ!」


「「なっ」」


 井川と難波が同時に反応する。そして新井は既に魔力を練り、『詠唱破棄』の『職スキル』を使ったのか一瞬で魔法をくみ上げた。


「『ブリザードアロー』!」


 問答無用の先制攻撃。しかし敵はこちらに最初から気づいていたのか、微塵も動揺すること無く――更にこちらに注意を向けることも無くそれを防いでみせた。

 新井が更に魔法を放とうとしたところで、天川が制す。


「……天川君。なんで、ですか?」


「敵意が無いとは思えないが、目的くらい聞くべきだ」


「……それに俺たちは誰も飛べないからな。下まで降りてきてもらえるならそっちの方がいい」


 井川は風の魔法を駆使して浮かぶことは出来るが、自由自在とはいかない。天川とて対空攻撃手段が無いわけではないが、自在に飛ぶ敵に正確に当てられるかどうかは分からない。

 取りあえず代表して天川が声をかけてみる。


「……魔族! 何が目的だ!」


 そう声をかけられて、ようやっとこちらを向く魔族。フードをかぶっていないその男は、ギザギザ歯と口もとに浮かんだ嘲笑が印象的だ。


「ギッギッギ……んー、こうもことが上手く運べちまうと、ヨダーンは何だったんだって思っちまうなァ。ギッギッギ!」


 変な笑い方だ。

 その魔族は手を広げると、高らかに話し出した。


「ギッギッギ。あー……こほん。聞こえるか人族の諸君!」


 拡声魔法なのか、王都中に響くほどの大声だ。

 流石に民衆も訝しく思ったのか窓から顔を出したり、足を止めたりして上空を見ている。……王都の人間、暢気がすぎないか?

 天川の疑問をよそに、魔族は更に言葉を続ける。


「オレは魔王の血族が一人、ブリーダ! 早速で悪いんだが――人族。勇者を差し出せ、そうすれば滅ぼしはしねぇ。ギギッ、ギギギッ、ギーッギッギッギ!」


 ベロリ、と舌を出して狂ったように笑いだすブリーダ。その姿にゾクっと来たものの……相手はたかが四人と思い直す。


(俺たちを差し出せ、だと? ……舐められたものだ)


 そう、こっちには異世界人が七人。ラノールたちはいないとはいえ、王都の騎士団だっている。AGだってわんさかいる。

 天川は一歩前に出ると、指をさして名乗りを上げた。


「差し出すも何も、この俺が相手になる。俺の名は天川明綺羅。こちらの世界風に言うのであればアキラ・アマカワ! 魔族、覚悟しろ!」


 ザッ、と皆で武器を構える。周囲には続々とAG達が集まってきていた。広場だったこともあり、それなりの人数が待機している。

 時間が経てば更に集まるだろう。負けるわけがない。皆自身に満ちた笑みを浮かべている。

 しかし宙に浮かぶブリーダは更に笑みを深めると、反り返りながら笑い声をあげる。


「ギッギッギ、ギーッギッギッギ! バァァァァァァァァァカ、バァァァァァァァァァァァァァァカ!! ギーッギッギッギ!」


 次の瞬間。


「グラァァァァグアアアアァァガァァァ!!」


「キィィィィィ!」


「シャァッ!」


「ゲオオオオオオオオオン!!!!」


「グヴァアアァッァアッァア!」


「ピリューン!」


「ウルガァァァモォォォ!」


「ディアアアアアアア!」


「ギラァァァァァッァ!」


「パルゥゥゥゥゥ!」


「ゴオオオオオオオオオオオオオオバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」


「レドゥゥゥン!」


「ボルキャーサァァッァァァァァ」


「ドラァァァァァッァァァァァッァァァァァッァッァァグレェェッェェェェェェェ!」


「アブゥゥゥゥゥゥゥゥモォォォォォォォォォォォ!」


「メメタァァァァァァァァァァッァァッァァッァァァァァ!!!!」


「ゲェェェェェェェェェドォォォォォォォ!」


 空を、埋め尽くす。


魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物魔物。


「な……」


 意味が分からない。

 さっきまで何もいなかったはずだ。

 しかし、夥しい数の魔物が――まるでイナゴの軍勢のように王都の上空を漂っている。中には空を飛べそうに無い魔物もいるが、何故浮いているのかに考察を回す余裕すらない。

 その場にいた全員が困惑する。何も無かった空間に出現する魔物はまるで地獄の獄卒のようで。

 先ほどまでは余裕の表情だった人族のAGたちがおろおろと周囲を見渡している。


「ギッギッギ。おーい……勇者様ァ。こいつはオレ様からのプレゼントなんだ。ありがたく受け取ってくれよ」


 にやにやと、嘲るような笑みを浮かべながら両手を広げるブリーダ。それはまるで新しい玩具を自慢する子供のようで。


「プレゼント……だと?」


「おォ。いいだろォ~? この魔物の数々! お前を――特筆戦力をしっかり殺すために用意したんだぜ」


 特筆戦力。初めて聞く単語だが、これまでの話からして天川たちのことであろうことは分かる。


「前に別の特筆戦力を殺そうとしたんだけどよォ……二回とも様子見し過ぎたんだよなァ。だから、今回はしっかりと用意させてもらったぜェ。なんせ七人殺すんだからなァ。ギッギッギ」


 うんうんと頷き、楽しそうに笑うブリーダ。

 これだけの魔物を背に、嗤うブリーダはまさに狂っているとしか言いようがない。

 ブリーダはその笑みのまま、五本の指を立てた。


「ギッギッギ! さ~て、問題です。オレ様は今から何をするでしょォ~か?」


 何のことか分からず――なんてことは無い。こんな状況にした人類の敵が、何をするかなんて考えなくても分かる。


「クソッ、全員逃げろ!」


 周囲のAGに声をかける、しかし皆魔物の群れに呆然として身動き出来ていない。

 マズい――と、焦る。このままでは、間違いなくあの魔族は無差別に攻撃を仕掛けてくる。


「5」


 無慈悲にもカウントが進む。猶予は無い、天川はせめてもと異世界人たちに声をかける。


「皆、避難させるぞ! 井川、転移を!」


「この人数を転移させたら魔力が尽きる!」


 井川が必至の形相でそう叫ぶ。


「そもそも、どこに転移させればいいんだ!」


「――クソッ!」


「4」


「おいやめろ! 俺が相手になる!」


 カウントが進む。ブリーダはニヤニヤと、意図的に遅くカウントしている。

 ようやく周囲が動き出す……が、ダメだ。てんでバラバラの方向に逃げているため、結局皆身動きがとれていない。


「3」


 カウントが進む。何か出来ることは無いか。


「やめろ! 俺たちはここにいる!」


 剣を向ける。せめて自分に注意を引くために。


「2」


 しかし魔物たちは全員好きな方を向いている。まるで天川たちを見ていない。

『職スキル』を発動させ、魔物たちを撃ち落とさんと攻撃する。

 しかし――


「おいおい、無粋なことするんじゃねェよ。1」


 ――ギン、軽い音がして『職スキル』が弾かれた。更に攻撃しようと剣を振り上げるが、ブリーダはそれを無視して最後の指を折る。

 せめて人々の盾にならんと宙に飛びあがるが――


「0。ほーい、時間切れ。正解は……」


 笑みを消し片手をあげるブリーダ。それに呼応するように、一体の魔物が――見た目は完全にドラゴン――首を持ち上げて全体を睥睨した。

 間に合わない。


「や……めろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


「やれ」


 刹那。

 天川の叫びも虚しく、ドラゴンの口に炎が蓄えられる。それも一体や二体ではない。空中に広がるドラゴンやそれに準ずる魔物たちが、一斉に地表に向かって絨毯爆撃を開始した。

 それは一般人はおろか並みのAGすら抵抗すること無く焼かれるような威力で。


「うわぁぁぁぁ!」


「きゃぁぁぁああ!」


「ぐわぁぁぁ!」


 人々の悲鳴がこだまする。

 建物が破壊され、地面がめくりあがり、全てが蹂躙されていく。

 さらにそれだけでは終わらない。空に浮かんでいた魔物たちが続々と地面に降り立ってくる。オーガやオークなどの巨体の魔物から、ゴブリンのような小さい魔物まで。

 さらにワイバーンや……それこそドラゴンすら降り立ち、破壊活動を開始していく。


「あ、あ……」


 人が。

 死ぬ。

 自分たちの、巻き添えで!


「あああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 ……頭の中が真っ白になった天川は全力で跳躍してブリーダに向かって斬りかかる。


「やめ、ろぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!!」


「バァァァカ」


 しかし空中で自在に動ける相手にそんなものが通用するはずがない。躱されただけでなく、周囲の魔物からの一斉射撃を受けてしまう。

 跳躍しようとして気づく、空中には足場が無い。


「明綺羅君!」


「天川ァァァァァ! 井川! 天川ンところに飛ばせ!」


 ふっ、と正面に転移してきた難波が謎の障壁と『剣魂逸敵』で攻撃を逸らし、その隙を突いた井川が地面まで天川を降ろす。

 地面に転移すると同時に睨みつけると、ブリーダは心底楽しそうに笑って肩をすくめた。


「ギッギッギ。さァて、何時間もつかな。ギーッギッギッギ!」


「おおお! 『飛斬撃』!」


 天川の『職スキル』は、あっさりと黒い塊に弾かれる。確か『闇魔術』と言ったか。

 ギリッと奥歯を噛み、剣を振り上げる。


「もう、一度! 『飛斬撃・二連』!」


「ギッギッギ……無駄だっつーの!」


 二発、三発と放つがそのすべてを阻まれる。

 頭に血が上り、さらに攻撃しようとしたところで――呼心に肩を引っ張られた。


「ちょっと! 落ち着いて、明綺羅君!」


「そうだ、天川! ……悔しいが、あの魔族を即座に排除するのは難しい」


 井川にも言われ、グッととどめる。


「あいつらの言う通り、まずは魔族よりも……って、おいおい」


 後ろからいきなり――アックスオークが襲いかかってきた。それを難波が剣で受け止め、木原がその目玉を突き刺す。

 更に井川の風弾がアックスオークを押し返し、最後に新井の氷の剣がアックスオークを粉微塵にしてしまった。


「もうガンガン降りてきてるぞ……マジで魔族より先に数を減らさないとヤベェって天川!」


 難波がそう叫びながら、今後は違う魔物を相手しに行く。井川が転移の魔法を使おうとしているようだが、魔物の群れがあまりに多すぎて隙を作れないようだ。

 呼心や桔梗は前線に出られない。やむなく、井川、木原、新井、難波が周囲の魔物を蹴散らしにかかる。


「ギッギッギ……さァ~……ど、う、す、る?」


 空中で嫌らしい笑みを浮かべるブリーダ。それに斬りかかりたい衝動を死ぬ気で抑え、周囲の魔物を見渡す。

 無理矢理頭を冷やし、これ以上ない程の怒りを地面に撃ち付けて……剣を正眼に構える。


「……神器を使う!」


 細く長く息を吐きだし、地面の足を踏みしめ――


「神器開放――打ち砕け、『ロック・バスター』!」


 轟! と天川の手の中に『力』が集まる。周囲の人々や魔物が一瞬気を取られるほどの『力』。天川をラノールたち超越者たちの次元まで押し上げる最強の武器。

 真っ直ぐ構えた剣が、光り輝き豪奢な剣へと変わっていく。奇跡のごときその威容、見る者全てが畏怖するその『力』。

 そんな尋常ならざる剣を振り上げると同時に、周囲に無数の岩が浮かび上がる。


「天川! 周囲の人間を避難させてねーぞ!」


「そもそも避難も何も、無事な場所があるのか……!?」


「はぁっ!」


「ギッギッギ……こいつが神器か。まともに喰らいたくはねェなァ」


 空中にいた魔族たちはまるで煙のように消えうせる。

 しかしそもそも魔物を屠るために撃ち出された岩弾だ。木っ端な魔物は掠りでもしたら一撃で消し飛ぶ威力。

 尋常じゃない数の岩弾が空中の魔物をどんどん撃ち落としていく。

 しかしそれでも数は減っている様子は無い。地面からただ真っ直ぐ撃つだけでは空中にいる敵に躱されてしまう。

 やむを得ず、周囲の魔物を蹴散らす方へシフトする。とげ付きの鉄球のような岩弾に切り替え、魔物を全て殲滅してしまった。


『ギッギッギ……王都の諸君! 今夜中に勇者の首を差し出せェ、そうすりゃ楽に殺してやるぜ。ギーッギッギッギ!』


 魔族の声がどこからか聞こえてくる。天川は唇を噛みしめ、もう一度空を見る。いまだに魔物が火を吐き、人を殺している。

 ふと、血の味が。いつの間にか唇を噛み切っていたらしい。手は食い込んだ爪で真っ赤だ。

 怒りと焦りと悲しみと――ありとあらゆる負の感情が襲い来る。自棄になって魔物の群れに飛び込みたい衝動を抑え、井川に指示を出す。


「……取りあえず転移の隙は稼げた。井川!」


「ああ。……王城に転移する」


 戦略的撤退。

 天川たち勇者パーティーの、通算二度目の撤退だった。


京助「途中、ゲシュタルト崩壊しそうなんだけど」

冬子「正直、怖かった」

マリル「恐怖の演出ですかねー」

リャン「それ以上に気持ち悪さが勝ちそうですが」

シュリー「ヨホホ! まあでも、大群というのは分かったのではないでしょうかデス」

キアラ「もはやイナゴぢゃな」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 力の意味、力の価値、力を得るとは何なのか。 その問いが全主人公を通じて、色々な形で示されて行くのがこの小説の大きな柱だと思います。 多層構造が良く作られていて大変面白く読ませて戴ていおりま…
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