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家族

「主が後見人になればよろしいのでは?」



 そう言ったカレアの提案に真っ先にダグラスが頷く。



「それがよろしいでしょうね。知識の方は記憶喪失ということにでもしてこれから学んで頂かなければなりませんが、シリエ様が後見人をしていらっしゃれば身分の確認はまずされないでしょう」


「身分証は冒険者にでもなれば問題なくなるしのう」


「主の責任ですし」


「……怒っとるのか?」


「どうでしょう」



 カレアの否定も肯定もしない、暗に肯定しているような態度にシリエは驚いた表情をした後、なぜか口元を緩めて嬉しそうな、穏やかな表情をした。


 それを不思議に思っているとダグラスが確認を取ってくる。



「如何でございましょう」



 よく分からなかったがこのままここにいるのはまずいらしい事は理解した。シリエ達が色々気づかってくれるならそれで構わない。

 でも、それ以前の選択肢が出て来ない事に不安を覚えて、思い切って聞いてみた。



「それより俺が帰った方が早くないですか?」


「それは…」



 言った瞬間、食堂が妙に重い空気に包まれる。


 そして、シリエが口にした言葉に不安が見事に的中していた事を思い知らされた。



「実は召喚者を元の世界へ帰す手段は知らん」


「…帰れないんですか?」



 絶望的な言葉にそれでもまっすぐシリエを見つめて答えを待つ。



「いいや。召喚陣も元々誰かが作ったものじゃ。ないのならば作ればよい。ただ…時間がかかるじゃろうな。何年掛かるかわからぬ」



 時間が掛かる。それでも作れると言ったシリエに安堵の息を吐いた。


 それを見たシリエは訝しげに聞いてくる。



「責めぬのか?いつ帰れるかも分からぬのじゃぞ?」


「でも、帰してくれるんでしょう?なら待ちます」



 シリエを責める気は事情を聴いてからなくなっていた。


 暇だった。退屈だった。それはユキも感じていた事だったから。


 仕方がなかったし、父さん達に二人だけの時間をプレゼントするのも良いと思ったのは本当だったけど、誰もいない家で何もする気が起きなくて、退屈で、少し寂しかった。


 そんな時、召喚された。


 知らない世界。知らない人達。知らない街。不思議な魔法。

 正直に言えば目が覚めてから少し浮かれていた。


 帰れるならやっぱり帰りたい。でも、未知の世界にわくわくする。


 退屈とは無縁そうなこの場所に、目の前の三人に、ユキは興味を持ち始めていた。


 だから、帰れないと聞いて、不安だし、帰りたいけどそう思うのと同じくらい、まだ少しここにいられるんだと胸を躍らせていた。


 そもそも、反省してる人を責める気もない。


 なのでまとめて言えば、できるだけ早く帰る方法を調べて欲しいけどその間、この世界を堪能したい、と思っているわけで。

 責任を感じているのならこの二つを叶えて欲しい。



「…なんとも順応性の高い子供だのう。じゃが、駄々を捏ねられるよりよほど良い。お主の願い、善処するがワシの願いも忘れるでないぞ」



 シリエを楽しませる、というシリエがユキを召喚した元々の目的。ちょっと忘れていたが分かっているというように頷いておいた。


 なんだか交渉の様なやり取りを終えると話は元に戻る。



「それで、俺は冒険者?になればいいの?」



 冒険者という響きに期待しながら聞く。



「いや、まずは常識からじゃな。ギルドで稼いだとしても金の使い方も知らんじゃろ。それらを一通り学んでからじゃ」



 むう。冒険者になるのはお預けのようだ。仕方がない。それに魔法があるならお店とかにも珍しい物が沢山ありそうだ。



「俺、街を見て回りたいです」


「観光か。まあ、自分の住む国を知るには丁度よいかのう。ならば明日は街を案内しよう」


「よろしくお願いします」


「うむ。それと敬語はいらん。ワシはお主の後見人じゃからな。家族のようなものじゃ」



 家族…。


 この人がこの世界での家族。この屋敷が俺の家。


 お屋敷が実家ってなんか違和感があるけど家族と言われたのは嬉しくて自然と頬が緩んだ。



「うん。よろしく、シリエ」


「うむ。よろしくじゃ、ユキ」



 そうして比較的和やかに異世界で新しい家族ができた。

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