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スープ?との格闘

 困惑気味にいまだ傍らに立つ少女に目を向ける。


 少女は微笑みを浮かべたままサイドテーブルに置かれていた皿を渡してきた。



「冷めないうちにお召し上がりください」



 そう言って控える彼女に何かを教えてくれる気は感じられない。


 スプーンを差し出されて反射的に受け取るときゅるるるるるるぅ~という音が部屋に響く。もちろん腹の虫が食べ物を求めている音だ。

 家を出る前にしっかり朝食は食べたはずだが一体どのくらい眠っていたのだろうか。空腹に気づくと喉が渇いているのも分かる。


 まだ混乱は収まっていないが食欲には逆らえない。


 改めてシーツ越しに膝に乗せたスープ皿を凝視する。


 漂う香りはイタリアンレストランによくあるミネストローネに似ている。

 しかし、香りとは裏腹にそれは



 ―――白と黒のマーブル模様を描いていた。



 白い食材だけで作ったり、イカ墨でも使えば白や黒といった色は作れるかもしれないがこれは乳白色とかそんな生易しいレベルではない。完全なる白と黒。軽く混ぜてみるが二つの色が混ざることはない。

 どんな食材を使ってどう調理すればこうなるのか。皆目見当もつかない。そもそも食べられるものなのかもわからない。


 色が混ざらないとはこれ如何に?



 ただ、良い匂いは健在だ。空腹には抗いがたいほどいい匂いではあるのだが視覚情報が強烈過ぎた。

 なんだこれは。拷問か?


 横目で少女を盗み見る。


 変わらず傍らで微笑み、こちらの挙動を見守っていた。そして再びスープに視線を落とす。

 どちらもモノクロだが少女は美しく、こちらは不気味。


 かといってこうしていてもどうにもならないし、どうにかなっても逆に怖い…。


 仕方なく試しに一掬いする。

 すると、底に沈んでいたのか具的な物も掬い取れた。


 赤い斑点の浮いた撓った青い葉物らしきもの。


 青い葉といってもあの瑞々しい緑の葉ではない。青だ。紛れもない群青だ。しかし、地球上に青い葉の植物など存在しない。着色料だろうか?んなばかな。

 しかも赤い斑点が浮いている時点で食用じゃない。明らかに警戒色だ。そもそもこの中に入っている時点で本当に植物なのかさえ疑わしく思えてくる。


 見知らぬ人間に部屋を貸して朝食まで用意してくれたのだからこれは多分普通に好意なのだろう。

 殺されるほど誰かに恨まれる覚えもない。

 なら、これは食べ物だ。……きっと。


 そう思ってもスプーンを持つ手はなかなか動かない。すでに悲壮感すら漂っている。



「これを……食べる、のか………?」



 口端が引き攣り、眉を顰めてしまう。


 突き返す、というのは有り得ない。せっかく用意してくれたものだ。それはあまりにも不作法だろう。


 適当な理由をつけて返す、というのも無理だ。必要のない嘘をつくのは好きではないし、嘘にならない程度に断る話術など持っていない。


 なら最終的に残るのは、潔く食べる、だ。


 逃げ場はなく、白黒のマーブル模様とその中に交ざる青に赤の斑点を凝視する。なんでこんなバツゲームみたいなものを自ら口にしなければならないのだろうか。

 躊躇している間にも反比例して食欲をそそる香りに空腹を刺激されて喉の奥で唸る。


 強烈な刺激臭がするならまだよかった。しかし、目を閉じれば普通にミネストローネだ。なまじ食べられそうなのがツラい。


 深く深呼吸する。

 そして覚悟を決め、当たって砕けろとばかりにモノクロスープを口に含んだ。……せめて死にませんように、と祈りながら。



「―――――ん?」



 強く瞑っていた目を開き、首を傾げる。


 もぐもぐしてからごっくんすると首を捻ってもう一口、二口とスプーンを口に運んでいく。


 よく噛んで飲み込み、瞬く間に減っていくスープを味わう。


 鼻に抜ける香りはやはりトマトだが味はどちらかというとチキンスープだろうか?ただ、どう見ても鳥どころか肉らしき物は入っていない。

 真っ青な葉物?以外にも小指の爪ほどの大きさの濃いピンク色の豆といちょう切りにされた大根っぽい具が入っていたがちょっと警戒した豆は柔らかくて普通に美味しく、大根は口に入れるとニュルリとした細い何かが中から出てきて思わず吐き出すとシュッと目にも止まらぬ速さで引っ込んだので出てくる前に含んだ瞬間急いで噛んで飲み込んだ。



 総合的に言えばまあ、普通においしかったです。






 あっという間に平らげてカラになったスープ皿と冷たい軟水で満たされていたコップを返す。

 それらをトレーに乗せた少女は一礼して扉へ向かい、出ていく前にもう一度綺麗なお辞儀をして扉を閉めた。



「まだまだ未知の食べ物ってのはあるもんだなぁ…」



 衝撃的な朝食で腹を満たし、満腹感に浸る。











 得体の知れない大根の事は胸の内にそっ、としまっておいた。

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